【完結】黒獅子の王は、運命を愛でる【獣人】

Sena

文字の大きさ
8 / 59

第7話 甘い執着と、抗えない誘惑

しおりを挟む

翌日も、宣言通りリクの姿があった。

「こちら、本日のお菓子です。レモンのタルトと蜂蜜のマドレーヌ。どちらも甘さは控えめ、なんですけど……」

カウンター越しにそっと差し出された皿。
けれどリクの視線は、ずっと澪に向けられたまま。

――まっすぐで、逃げ場のない視線。

「……澪が、好きなやつだろ?」

「えっ……どうして、知って……」

驚きが口をついて出るより早く、彼はふっと唇の端を上げた。

「――知ってる」

たったそれだけなのに、胸がきゅっと締めつけられる。
私のことを、全部知っているみたいに。



「……雨、やみましたね」

ぽつりと漏らした言葉に、リクの返事がすぐに帰ってくる。

「澪が雨に濡れて、風邪でも引いたら困るな」

「……私が?」

「当たり前だろ」

グラスを渡すときに指が触れれば、ピクリと耳が動き、尻尾がほんのわずか揺れる。
まるで猫のような、でもどこか獣じみた仕草に、澪の心臓が早鐘を打つ。

声も、仕草も、匂いも。
彼のすべてが、無意識のうちに澪を包み込み、侵食してくる。

「……なにか、顔についてますか?」

動揺をごまかすように尋ねると、リクはほんの一瞬目を細め、すぐに微笑んだ。

「いや。……ただ、見てるだけだ」

その“見る”は、ただの視線ではない。
喉奥で甘く唸りながら、欲しくてたまらないものを見つめるような、そんな目。

「……本当、変な人ですね」

ぽつりとこぼした言葉に、彼はなぜか満足そうに喉を鳴らす。

やがて、グラスを静かに置いて立ち上がる。
その動きに、澪の心がわずかにざわめいた。

「……あの。また……」

呼び止めるつもりなんてなかった。
でも、気づけば言葉が漏れていた。

「……また、来てくださいね」


その瞬間。
ドアノブにかけたリクの手が、ぴたりと止まる。

ゆっくりと振り返った彼の目が、わずかに見開かれている。
そして――確信を得た獣のように、じわじわと熱を帯び、蕩けていく。

「……今、なんて言った?」

喉の奥を震わせるような声。
まるで何かを必死に抑え込んでいるような気配。

「え? いや、だから……また来てくださ――」

「もう一回」

その声には、ただ欲しい。欲しくてたまらない――そんな執着が、抑えきれないほどに溢れていた。

リクが、一歩。
さらに一歩、澪に近づいてくる。

距離が詰まるたび、澪の呼吸は浅くなり、心臓の音が熱を持つ。
その熱は、背筋を這い上がり、澪を震わせる。

「ちょ、近すぎ、です……」

「……嬉しい」

甘くて、熱くて、背骨の奥を震わせるような声。
その一言で、身体がふわりと浮いたように熱を帯びる。

「……リクさん……?」

目の前の男が、喉をかすかに鳴らした。
けれどその奥には、黒獅子の本能が潜んでいた。

「毎日、必ず来る。だから――」

言葉の一つ一つが、重く、胸を打つ。
その息遣いが、澪の耳元を熱く濡らす。

「澪。お前は俺を、選べ」

それは“命令”の皮をかぶった、“求愛”。

澪は、わずかに唇を開きかけた。
けれど、それより先に、リクの手がふわりと頬へ伸びる。

指が髪をすくい、頬をなぞるように滑る。
優しいのに、どこか熱を孕んだ動作。
そのまま、耳の後ろにそっと触れた彼の指先が、微かに震えていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!

藤原ライラ
恋愛
 ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。  ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。  解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。 「君は、おれに、一体何をくれる?」  呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?  強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。   ※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

私から何でも奪い取る妹は、夫でさえも奪い取る ―妹の身代わり嫁の私、離縁させて頂きます―

望月 或
恋愛
「イヤよっ! あたし、大好きな人がいるんだもの。その人と結婚するの。お父様の言う何たらって人と絶対に結婚なんてしないわっ!」 また始まった、妹のワガママ。彼女に届いた縁談なのに。男爵家という貴族の立場なのに。 両親はいつも、昔から可愛がっていた妹の味方だった。 「フィンリー。お前がプリヴィの代わりにルバロ子爵家に嫁ぐんだ。分かったな?」 私には決定権なんてない。家族の中で私だけがずっとそうだった。 「お前みたいな地味で陰気臭い年増なんて全く呼んでないんだよ! ボクの邪魔だけはするなよ? ワガママも口答えも許さない。ボクに従順で大人しくしてろよ」 “初夜”に告げられた、夫となったルバロ子爵の自分勝手な言葉。それにめげず、私は子爵夫人の仕事と子爵代理を務めていった。 すると夫の態度が軟化していき、この場所で上手くやっていけると思った、ある日の夕方。 夫と妹が腕を組んでキスをし、主に密会に使われる宿屋がある路地裏に入っていくのを目撃してしまう。 その日から連日帰りが遅くなる夫。 そしてある衝撃的な場面を目撃してしまい、私は―― ※独自の世界観です。ツッコミはそっと心の中でお願い致します。 ※お読みになって不快に思われた方は、舌打ちしつつそっと引き返しをお願い致します。 ※Rシーンは「*」を、ヒロイン以外のRシーンは「#」をタイトルの後ろに付けています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

人形となった王妃に、王の後悔と懺悔は届かない

望月 或
恋愛
◆第18回恋愛小説大賞で【優秀賞】を戴きました。 ありがとうございました! 「どちらかが“過ち”を犯した場合、相手の伴侶に“人”を損なう程の神の『呪い』が下されよう――」 ファローダ王国の国王と王妃が事故で急逝し、急遽王太子であるリオーシュが王に即位する事となった。 まだ齢二十三の王を支える存在として早急に王妃を決める事となり、リオーシュは同い年のシルヴィス侯爵家の長女、エウロペアを指名する。 彼女はそれを承諾し、二人は若き王と王妃として助け合って支え合い、少しずつ絆を育んでいった。 そんなある日、エウロペアの妹のカトレーダが頻繁にリオーシュに会いに来るようになった。 仲睦まじい二人を遠目に眺め、心を痛めるエウロペア。 そして彼女は、リオーシュがカトレーダの肩を抱いて自分の部屋に入る姿を目撃してしまう。 神の『呪い』が発動し、エウロペアの中から、五感が、感情が、思考が次々と失われていく。 そして彼女は、動かぬ、物言わぬ“人形”となった―― ※視点の切り替わりがあります。タイトルの後ろに◇は、??視点です。 ※Rシーンがあるお話はタイトルの後ろに*を付けています。

第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

処理中です...