【完結】黒獅子の王は、運命を愛でる【獣人】

Sena

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第25話 逃げた先に、愛の証明

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しばしの静寂ののち、澪はためらいがちに口を開く。

「あの……リクさん。黒獅子の“繁殖”のことなんですけど……」

言い終えるか否か、リクがその言葉を遮る。

「――そんなこと、どうでもいいんだ」

リクの手がそっと澪の頬を包み込み、金の瞳が真っ直ぐに彼女を射抜く。
その瞳からは、荒々しい獣性の影は消えていた。
けれど――それ以上に深く、熱い想いが滲んでいた。

「俺は子どもが欲しいんじゃない。澪が、欲しいんだ。……番だから惹かれて当然だと思ってた。でも、違うんだ」

想いをこらえきれないように、彼は言葉を絞り出す。

「本能なんてとっくに超えてる。……俺は、澪を心から愛してる」

その言葉が、澪の心を深く打った。
信じられないような想いで、彼の瞳を見つめ返す。

澪は、ふっと目を伏せて、小さく溢した。

「……初めて、言ってくれましたね」

「え……?」

「“好き”も、“愛してる”も。今まで、一度も言われたことなかったから」

リクは愕然と目を見開いたまま、動けなくなった。 その場にへたり込みそうになり、深く息を吸い込んだ。

「……馬鹿だな、俺は。毎日、毎日、お前を想っていたのに……一番大事な言葉を、言えずにいたなんて。」

風がそっと吹き抜け、二人の間に積もったすれ違いを優しくほどいていく。

「澪、本当にごめん」

「大丈夫です」 

澪は、微かに微笑んで答えた。

「私も、逃げてごめんなさい」

リクの言葉によって、澪の心に積もっていた不安が溶けていく。

「……キス、させてくれ」

その囁きは、低く掠れ、甘く滲んだ熱を含んでいた。

澪は、静かに頷いた。

次の瞬間――

唇が、重なる。

リクの唇は、徐々に澪の感触を慈しむように動いていく。舌先がわずかに触れ、彼女の下唇をそっとなぞる。触れて、離れて、また求めるように。

「……ん、リク、さん……っ」

澪の喉奥からこぼれた甘い吐息が、リクの理性を焦がす。

「……澪の全部が、欲しい」

欲望に満ちた声の裏側に、心からの渇望と、抑えきれなき愛情が濃く滲んでいた。

「……私も、リクさんに全部……あげたいって、思ってる」

その答えに、リクの瞳が揺れた。
それからゆっくりと、澪の頬に唇を落とす。
額、まぶた、鼻先――ひとつひとつ、まるで宝物に触れるように丁寧に、慈しむように。

「……大事にする。何があっても、絶対に守る。だから――」

そして、再び唇を重ねた。

今度は、深く。けれど、どこまでも優しく。澪の身体が、彼の熱にとろけるように傾いていく。シャツの裾をぎゅっと掴んだ指に、全身の感情が込められていた。

愛しさが最高潮に達した、そのとき——

リクの身体が、ぐらりと大きく傾いた。

まるで糸がぷつりと切れたように、その巨躯が崩れ落ちていく。

「リクさん……っ!?」

澪は倒れかかってくる身体を必死で支えた。

けれど、その腕に抱えた彼の体からは、みるみるうちに血の気が引いていく。金色の瞳は焦点を結ばず、うつろなまま宙を彷徨い、肩が小刻みに痙攣していた。

「くっ……あ……ああ……っ」

喉の奥から漏れた声は、まるで獣のうめきのようだった。

息が荒く、尋常じゃない熱が全身から噴き出している。

(そんな……どうして……!?)

さっきまで、あんなに強く自分を包み込んでくれた人が、澪の腕の中でぐったりと力を失っていく。

極限まで研ぎ澄まされていた獣の五感も、力を解放した反動で、一気にその巨躯を蝕んでいた。
それに加えて、張り詰めていた精神の緊張が、愛する人を得たことで一気に解けてしまった。

「リクさん! お願い、目を開けて……っ!」

必死に呼びかけても、反応はない。

頬に触れても、名前を叫んでも、ただ熱い息がかすかに揺れるだけ。

澪は、リクの重たい身体をなんとか抱え、ふらつきながらも必死に祖母の家へと運び込んだ。



布団に横たわるリクの身体は、まるで火がついたように熱い。吹き出す汗は止まらず、手を尽くしても、その熱は一向に引かない。

「こんな……ひどい……っ」

彼の苦悶に歪む顔が、胸に刺さる。

(私のせいだ……)

遠くに逃げたせいで、彼は限界を超えてまで探しに来たのだ。

彼にとって“番”とは、魂の約束――。
その想いが、ひしひしと伝わってきた。

澪は夜通し看病を続けた。
そして、看病を続ける澪の耳に、ふいに。

「……澪……愛してる……」

うわ言の中で、それだけははっきりとした響きだった。

澪の手が、ぴたりと止まる。

「……っ……バカなんだから……」

涙が、堰を切ったようにあふれ出した。
夢の中でも、彼は私を呼んでいる。

「こんなに想ってくれてたのに……。ごめんなさい、リクさん。」

震える指で、彼の額を撫でる。

「もう大丈夫。もう逃げない。ずっと、そばにいるから」

涙の混じった声でそう囁くと、リクの眉がほんのわずかに緩んだ気がした。

夜がようやく、静かに明けてゆく。
まるでふたりの未来を、少しずつ照らすかのように。


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