【完結】黒獅子の王は、運命を愛でる【獣人】

Sena

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第32話 欲情は、甘く香る

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夜風が微かにドアベルを揺らし、カラン……と鈴の音が静かに響く。

澪の目に飛び込んできたのは、普段とはまるで様子が違うリクの姿。

乱れたスーツ、ほどけたネクタイ、額に滲んだ汗——
いつもは隙のない彼からは想像もつかないほど、疲れと焦燥が滲んでいた。

「リクさん……大丈夫?」

反射的に立ち上がり、手早くホットミルクを差し出した。
リクは無言でそれを受け取り、両手でカップを包み込む。

「そんなに無理しなくても……。お仕事が落ち着いてからでも、私は——」

そう声をかけると、リクはかぶりを振る。
焦れたように、けれど必死に。

「何を言ってるんだ……!早く澪と“番”になりたいと、心がずっと、お前を求めているんだ」

抑えきれない想いが、熱として溢れ出している。
それが痛いほどに伝わってきて、澪は胸がきゅっとなった。

「……リクさん」

優しく名を呼びながら、澪はそっと両腕を広げる。

「とりあえず……ハグしましょう。私、リクさん不足でもう限界かも。」

その一言に、リクの瞳が大きく揺れた。
一瞬ためらったかと思えば、糸が切れたように澪の胸にすとんと身を委ねてくる。

「……っ、澪……」

安心するように額を預け、甘い吐息を漏らす。

「ふふ……おかえりなさい、リクさん」

澪は静かに微笑み、彼の髪を優しく撫でた。
厚みのある獣毛のような髪は、しっとりと彼女の指に絡みつく。

すると、リクの喉が低く唸り——

「……ゴロ、ロ……」

「ふふ、喉……鳴ってますよ?」

耳元で囁くと、リクは顔をうずめたまま、ぴくりと尾を揺らした。

パタ、パタ……と、まるで甘えをねだるようなリズムで。

「尻尾もかわいい……」

澪のくすぐるような声に、リクの尻尾がぴくりと跳ねた。

「……可愛いとか、やめろ」

言葉と裏腹に、尾はますます甘えるように動いている。

「嘘。すごく、嬉しそう」

「……勝手に動くんだ、こいつは……」

リクはふいに顔を上げた。
潤んだ双眸がまっすぐ澪を射抜く。

その姿に、澪は思わず息を呑む。
スーツ姿の完璧な男が見せる、無防備な甘え。
そのギャップに、胸が苦しくなるほど愛おしさが込み上げる。

「甘えたいの?」

「……ダメ、か?」

熱っぽく掠れた声で、問われると、その破壊力に、澪は抱き締め返すしかできなかった。

「ダメじゃない。いっぱい甘えて」

そう囁きながら耳に手を伸ばし、そっと撫でると——

「っ……ん、……」

リクがビクリと反応し、喉を鳴らす。
くすぐったそうに眉をひそめながら、頬を澪の首元に寄せてきた。

「澪……もっと、撫でろ……」

「……キスもしようか?」

澪はリクの耳にやわらかく口づける。
その瞬間、リクの尾がぴん、と跳ねる。

「……リクさん、大丈夫。もう、何も我慢しなくていいよ」

囁くような声に促され、リクはゆっくりと重たい頭を澪の胸元へ預けた。張りつめていた彼の全身から、ふっと力が抜けていくのがわかる。

「……澪……」

リクの声は、どこか甘えていて、切なげに響く。
澪の指が頭皮を優しく撫でるたびに、リクは喉の奥から、ごろごろと小さく、甘い音を漏らした。まるで甘えきった獣のように、気持ちよさそうに身を委ねてくる。

「ここ……弱いの?」

「……っ、澪……それは……反則だ」

熱っぽく、濡れたような声。

澪はくすりと笑い、彼の耳を啄むように舌先でなぞる。
途端にリクが身を震わせる。
肩が跳ね、尾が床の上を擦るたび、空気が色づいていく。

「……もう限界なんだよ。澪の匂い、声、肌……全部が、俺を追い詰めてくる」

「リクさんを癒したいの」

その言葉に導かれるように、リクは澪に全身を委ねる。
首筋から耳の裏まで、澪の唇が優しく啄むようにキスを落としていく。

甘噛みに近いキスが繰り返されるたびに、リクは吐息を吐き、目を細めてとろけていく。

「こんな顔……澪にしか見せないからな」

「うん。誰にも見せちゃダメ。……全部、私だけのリクさんでいて」

その言葉に応えるように、リクの尻尾が澪の腰に絡む。
柔らかく、でも強く。まるで”所有”の意思を込めるみたいに。

「……リクさんのこと、早く……受け入れたい」

ぽつりと零した澪の言葉に、リクの瞳が見開かれる。
その奥で、理性と獣性が激しくぶつかり合う。

「……っ、勘弁してくれ……どれだけ我慢してると思ってるんだ……」

苦しげに呟きながらも、リクの腕の力は緩まない。
抱き寄せるその手には、切実な想いと強い執着が込められていた。

パタ、パタ……
背後で揺れる尻尾が、彼の激情を物語っている。

「……大丈夫。私も、ちゃんと……心の準備してますから」

耳元でそっと囁くと、リクの喉が、ごくりと鳴る。
お互いの想いが溶け合い、すべてが一つに重なりはじめていた——
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