【完結】黒獅子の王は、運命を愛でる【獣人】

Sena

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第33話 蕩ける唇と甘い焦燥 ※

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番の儀式を迎えるまでの数日間。

それは、リクにとって永遠にも思える焦燥の日々だった。
愛する番と深く繋がれるその瞬間を夢見て、ひたすらに仕事を片付け、寝る間さえ惜しんだ。

だが、思えば思うほど募っていくのは、どうしようもない渇きだった。
 
そして——ようやく、その日が来た。

二人が訪れたのは、リクが所有する山奥の別荘。
都心から遠く離れた静かな森にぽつんと建つその一軒家は、まるで二人だけの聖域のようだった。
 
外からの視線も、人の気配も一切ない。
聞こえるのは風と木々のざわめき、そして——二人の熱い息遣いだけ。



その夜。

暖炉の火が、広いリビングにやわらかな灯を落としていた。
炎の揺らめきが空間全体に甘くあたたかな空気を広げていく。
 
リクは、澪を暖炉前のラグに座らせ、自分も隣へと膝をついた。
ふと目が合った瞬間、空気が、ぴたりと張りつめる。

「澪……緊張してる?」

リクの声は、いつもよりも低く、濡れたような響きを帯びていた。
その声音に、澪の背筋がぴくりと震える。

「……うん、少しだけ」

けれど、それは恐怖じゃない。
期待と、戸惑いと、そして愛しさ。
胸の奥でとろけるように渦を巻く、甘く熱い感情の奔流だった。

リクはそっと、澪の手を取る。
甲に落とされたキスは、まるで神聖な儀式の始まりのように静かで、熱を帯びていた。

「辛かったらすぐに教えて。……無理はさせない」

「大丈夫。……私も、リクさんと“番いたい”って心から思ってるから」

その言葉に、リクの喉が一瞬、震えたのが見えた。
だがすぐに目を伏せ、真剣な声で問いかける。

「……前に、一週間かけて準備するって言ったの、覚えてるか?」

「……うん」

澪が頷くと、リクの瞳に熱の色が差す。

「今日は、キスだけだ。首から上にしか、触れない」

「——えっ?」

一瞬、言葉の意味が分からず、澪の目がまんまるになる。

「そんなに、残念だったか?」

悪戯に笑い、顔を近づけてくるリクに、息が詰まる。
その吐息すら、甘く、熱い。

「な、なん……っ! 一週間って、そういう意味だったの……!?」

混乱する澪の抗議なんてお構いなしに、リクの唇がそっと額へ落とされる。
頬、まぶた、鼻先……まるで花弁を撫でるような優しいキスが、静かに降りそそぐ。

「んっ……」

耳の付け根に唇が触れた瞬間、澪は小さく身をすくめ、その可愛らしい反応に、リクの喉がごくりと鳴った。

「……可愛い」

次の瞬間、リクの唇が首筋を這い、甘く吸い上げる。

「や……ぁっ……そ、こ……っ」

思わず漏れた声に、リクの目が鋭く光る。
金の瞳の奥に宿るのは、理性と本能が拮抗する飢えた獣の色。

「……キスだけって、言っただろ?そんな可愛い声出されたら困る」

低く、喉を震わせながら囁くその声に、澪の心臓が跳ねる。
けれど返事をする間もなく、唇が塞がれた。

最初はやわらかく。
けれどすぐに、強く、貪欲に——

「ん……んっ、ふ、ぁ……んん……」

舌と舌が深く絡み合い、熱を交換するたびに、澪の喉から甘い声が零れ落ちていく。
 
リクの手は、頬に添えられたまま。
首から下には、決して触れない。
その事実が、かえって切なさと疼きを濃厚に煽った。

「んっ……あ、リク、さ……ん……」

耐えきれず、澪の身体が無意識にリクへすり寄る。
ぴたりと下腹が触れ合った瞬間、リクの喉が、びくりと揺れた。

「……たまんねぇ……」

低く、苦しげに息を絞り出すような声。
欲を押し殺し、理性で必死に自分を抑えている限界の獣の吐息。

「お前が……そんに可愛い顔をするから……」

そう言いながらも、リクのキスはさらに深く、熱くなる。
唇が吸いつく音、舌が絡みつく濡れた音、そして震える吐息。
濃密な熱が、二人を包み込んでいく。

「ん……ふぁ……んっ……や、ぁ……リクさん……っ」

キスだけなのに、腰の奥がじんじんと疼いて、呼吸すらままならない。
心が、「もっと」と甘く鳴いている。

——キスだけ、なんて。
こんなの、ひどい。

渇きを埋めるように、澪の唇は再びリクを求めた。

その頬は、暖炉の炎に照らされて、艶かしく真っ赤に染まっている。
唇が触れ合うたび、澪の体がびくりと震えた。
熱くて、甘くて、胸の奥がじんわりと疼いてくる。

だけど——足りない。

たったこれだけの口づけでは、乾きは埋められない。

「……リクさん……」

澪は、リクの首にそっと腕を回した。
距離をゼロにするように、甘えるように体をぴたりと寄せる。

「首から上しか触れられないんでしょ……?だったら、もっとたくさんキスしてくれなきゃ……足りないよ……」

澪の甘く湿った声に、リクの喉がびくりと動く。
すぐ耳元で、澪の吐息がふわりと甘くくすぐった。

「それに……首から上だったら、これは良いってことだよね?」

澪はリクの耳をカプリ、と甘噛みする。

「……澪……っ」

理性の縁を、ひっかくような、獣の咆哮にも似た声。
それだけで、リクの中の“獣”が、飢えた牙を覗かせる。

「可愛い声で……そんな風に甘えて……俺の理性、全部焼き尽くすつもりか……」

耐えるようにぎゅっと目を閉じ、息を噛み殺すリク。
その胸は、激しい心臓の鼓動を刻み、大きく上下していた。
溢れる熱をこらえるように、唇がかすかに震えている。

それでも、リクの手は──決して澪の身体に触れようとはしない。
愛する番との儀式を、丁寧に迎えるために。
今すぐにでも貪り尽くしたくなる衝動を、ただ必死に耐えていた。

(……すごい……)

澪の胸に、じわりと熱い波が押し寄せた。
自分を欲しながら触れてこない彼の自制心に、愛おしさと疼きが同時に募る。

澪は意を決したように、リクから唇を離した。
ちゅ……という官能的な音が残り、二人の間には細い銀の糸が引かれる。
部屋に響くのは、二人の荒い息だけ。

熱で濡れた澪の瞳は、夢見るようにとろけ、危険な色香を放っていた。

「リクさん……」

愛おしさに抗えず、澪はそっとリクの胸を押し、彼を柔らかいラグの上へと倒し込んだ。
次の瞬間には、彼の熱い身体の上へ馬乗りになり、その視線を絡め取って、再び唇を重ねた。

ちゅっ、……ちゅ……っ……
小さな水音が、何度も、何度も、途切れなく降り注ぐ。

澪の吐息混じりのキスは、リクの理性をさらに深く、削っていく。

「……澪……やめろ……本当に……その顔は……ダメだ……」

低く、喉を鳴らす声は、ほとんど喘ぎに近い。
すがるような目で、リクは澪を見上げる。
もはや抗う術はない。ただ全身で、その熱を受け止めていた。

そして、リクの中の“獣”は、澪の発情の気配をいち早く察知し、喉の奥から唸るような熱を持ち上げてくる。

耳がぴくりと動き、牙がほんのわずかに尖って見えた。
背中の筋肉がぴくりと揺れ、首筋の奥で脈打つ血管が激しく跳ねている。

(……ダメだ、本当に限界だ……っ)

リクは自分の奥で暴れ狂う本能を、
必死で抑え込みながら、唇を強く噛み締める。

澪が可愛くて、愛おしすぎて──
このまま喰い尽くしたくなるほど、欲しくて、たまらない。

「……澪……もう、ダメだ。これ以上やったら……本当に……我慢できなくなる」

その言葉は、もはや獣のうなり。
澪の返事を待つことなく、堪えきれない衝動が、彼の体を突き動かした。

澪の首筋へ顔を埋めたかと思うと、低いうなり声と共に、その白い肌を甘く噛み砕くように貪りつく。

ガブ……と、本能が牙を立てようとするたび、リクはそれを寸前でねじ伏せた。牙の先端が肌に触れるか触れないかの距離で、優しくも執拗な甘噛みが繰り返される。

「ひゃ……っ、あ……っ」

耳元で荒く息を吸い込む音と、生々しい水音が響き、澪は背筋を貫く快感に、耐えきれない喘ぎを漏らす。

その熱に溺れながら、澪は力なくリクの頬に手を添えた。 唇の端に優しくキスを落とし、熱に蕩けた声で告げる。

「リクさん……大好きだよ……」

その言葉に、リクの瞳が静かに揺れた。

二人の想いが溶け合い、すべてが許された。
甘く切ない、濃密な夜の、始まりだった。

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