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第56話 運命の始まり
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番の印が刻まれてからも、二人の日常は変わらない。
昼はそれぞれ仕事へ向かい、夜になれば当たり前のように互いのもとへ帰り、甘く静かな時間を分け合う。
その夜、リクは珍しく自宅に仕事を持ち帰り、リビングのテーブルいっぱいに書類を広げていた。
澪は彼の隣で、お気に入りのエッセイ本を読みながら、かすかな紙の音とリクのペンが走る音を心地良く聞いている。
ときどき顔を上げて横顔を眺めると、リクは必ず気づいて目を合わせ、仕事の手を止めて彼女の指先に口づけた。
「……仕事、終わらないの?」
少し寂しげに洩れた声に、リクは柔らかく微笑む。
「澪の隣でやると、集中できないな。……触れたくなるから」
「ちょ、仕事中でしょ……?」
途端に頬が熱くなる澪に、リクはくすりと笑い、彼女の背中に触れた。
そこには二人を結ぶ証――静かに光を宿す番の印がある。
「早く終わらせる。澪と過ごす時間が、一番大切だ」
そう言って、彼は澪の背中に残された印の位置を、そっと撫でた。印はもう、ただ愛しい絆の証として、そこに静かに佇んでいる。
その言葉だけで胸が温かくなる。
かつて、激しい本能に翻弄され、彼が黙って姿を消してしまったあの夜。
あの痛みは、今ではもう遠い過去の影だ。
今はただ、番として互いを深く慈しみ、当たり前の未来を信じ合える。
澪は思う。
――この日常が、ずっと続くのだと。
*
数日後の夜。
食卓に温かい湯気が立ち上る中、リクが箸を置き、静かに切り出した。
「――澪。二日だけ、家を空けることになった」
その声は柔らかなのに、どこか申し訳なさが滲んでいた。
胸がきゅっと波打つ。
ほんの二日なのに、離れると考えただけで心がざわめく自分に驚き、澪は慌てて笑顔を作る。
「だ、大丈夫だよ。……お仕事なんだから」
けれど、強がりはすぐに見透かされた。
リクは目を細め、澪の手を優しく包み込む。
「不安か。心配はいらない。予定が終わったら、すぐ戻る。……もう二度と、お前を一人にはしないと言っただろう?」
「ふふ……もう大丈夫なのに。リクさんって本当に心配性」
その夜、リクは別れを惜しむように、そして二日間の不在を埋めるように、澪のすべてを求めた。
「二日も離れるんだ。……今夜は、澪をたっぷり感じさせてくれ」
低く甘い囁きは、熱と独占欲で満ちていて。
触れるたび、印が静かに脈を打ち、二人の奥深くで共鳴する。
番として結ばれてからのリクの愛は、激しさに“慈しみ”と“絶対の所有欲”が加わった。
澪の小さな声も、震える指先も、すべて拾い上げて抱きしめるような深さだった。
「好きだ。……離さない」
何度も、息を重ねながら囁く。
澪もそのたびに、胸の奥でとろりと心がほどけていった。
*
翌朝。
柔らかな光がカーテン越しに差し込む。
澪は深い眠りに沈み、わずかに眉を緩めている。
リクは静かにシャツの襟を整えながら、ベッドの縁に腰かけた。
昨夜残した自分の痕が、白い肌に淡く咲く。
「……可愛い。俺の番」
指先でそっとなぞると、澪が小さく寝返り、唇がきゅっとすぼまる。
そんな些細な仕草すら胸が締めつけられるほど愛おしい。
(二日も離れるなんて……俺の方が耐えられそうにないな)
けれど仕事は待ってくれない。
リクは身をかがめ、まだ夢の中にいる唇へ深くキスを落とした。
澪は無意識に首を傾け、ほんの少し触れ返す。
「……行ってくる。すぐ戻るから」
名残惜しさを押し殺し、リクはそっと部屋を後にした。
静かなドアの音。
澪はベッドでゆっくりと目を開ける。
「……行っちゃったんだ」
リクのいない空間はやけに広く、冷たく感じた。
身体に残る余韻が逆に寂しさを際立たせる。
シーツに顔を埋めると、微かに残った彼の匂いが胸を締めつけた。
(たった二日なのに……もう会いたいなんて)
自分でも驚くほど純粋な感情に、澪はぎゅっと布団を握る。
――このあと、二人の「未来」を決定づける出来事が訪れることを、まだ知らずに。
昼はそれぞれ仕事へ向かい、夜になれば当たり前のように互いのもとへ帰り、甘く静かな時間を分け合う。
その夜、リクは珍しく自宅に仕事を持ち帰り、リビングのテーブルいっぱいに書類を広げていた。
澪は彼の隣で、お気に入りのエッセイ本を読みながら、かすかな紙の音とリクのペンが走る音を心地良く聞いている。
ときどき顔を上げて横顔を眺めると、リクは必ず気づいて目を合わせ、仕事の手を止めて彼女の指先に口づけた。
「……仕事、終わらないの?」
少し寂しげに洩れた声に、リクは柔らかく微笑む。
「澪の隣でやると、集中できないな。……触れたくなるから」
「ちょ、仕事中でしょ……?」
途端に頬が熱くなる澪に、リクはくすりと笑い、彼女の背中に触れた。
そこには二人を結ぶ証――静かに光を宿す番の印がある。
「早く終わらせる。澪と過ごす時間が、一番大切だ」
そう言って、彼は澪の背中に残された印の位置を、そっと撫でた。印はもう、ただ愛しい絆の証として、そこに静かに佇んでいる。
その言葉だけで胸が温かくなる。
かつて、激しい本能に翻弄され、彼が黙って姿を消してしまったあの夜。
あの痛みは、今ではもう遠い過去の影だ。
今はただ、番として互いを深く慈しみ、当たり前の未来を信じ合える。
澪は思う。
――この日常が、ずっと続くのだと。
*
数日後の夜。
食卓に温かい湯気が立ち上る中、リクが箸を置き、静かに切り出した。
「――澪。二日だけ、家を空けることになった」
その声は柔らかなのに、どこか申し訳なさが滲んでいた。
胸がきゅっと波打つ。
ほんの二日なのに、離れると考えただけで心がざわめく自分に驚き、澪は慌てて笑顔を作る。
「だ、大丈夫だよ。……お仕事なんだから」
けれど、強がりはすぐに見透かされた。
リクは目を細め、澪の手を優しく包み込む。
「不安か。心配はいらない。予定が終わったら、すぐ戻る。……もう二度と、お前を一人にはしないと言っただろう?」
「ふふ……もう大丈夫なのに。リクさんって本当に心配性」
その夜、リクは別れを惜しむように、そして二日間の不在を埋めるように、澪のすべてを求めた。
「二日も離れるんだ。……今夜は、澪をたっぷり感じさせてくれ」
低く甘い囁きは、熱と独占欲で満ちていて。
触れるたび、印が静かに脈を打ち、二人の奥深くで共鳴する。
番として結ばれてからのリクの愛は、激しさに“慈しみ”と“絶対の所有欲”が加わった。
澪の小さな声も、震える指先も、すべて拾い上げて抱きしめるような深さだった。
「好きだ。……離さない」
何度も、息を重ねながら囁く。
澪もそのたびに、胸の奥でとろりと心がほどけていった。
*
翌朝。
柔らかな光がカーテン越しに差し込む。
澪は深い眠りに沈み、わずかに眉を緩めている。
リクは静かにシャツの襟を整えながら、ベッドの縁に腰かけた。
昨夜残した自分の痕が、白い肌に淡く咲く。
「……可愛い。俺の番」
指先でそっとなぞると、澪が小さく寝返り、唇がきゅっとすぼまる。
そんな些細な仕草すら胸が締めつけられるほど愛おしい。
(二日も離れるなんて……俺の方が耐えられそうにないな)
けれど仕事は待ってくれない。
リクは身をかがめ、まだ夢の中にいる唇へ深くキスを落とした。
澪は無意識に首を傾け、ほんの少し触れ返す。
「……行ってくる。すぐ戻るから」
名残惜しさを押し殺し、リクはそっと部屋を後にした。
静かなドアの音。
澪はベッドでゆっくりと目を開ける。
「……行っちゃったんだ」
リクのいない空間はやけに広く、冷たく感じた。
身体に残る余韻が逆に寂しさを際立たせる。
シーツに顔を埋めると、微かに残った彼の匂いが胸を締めつけた。
(たった二日なのに……もう会いたいなんて)
自分でも驚くほど純粋な感情に、澪はぎゅっと布団を握る。
――このあと、二人の「未来」を決定づける出来事が訪れることを、まだ知らずに。
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