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3 知らない天井
しおりを挟む全身の気怠さに目を開くのも億劫で、それでもどうにか辺りを確認した。
映画でしか見た事ないような豪華絢爛な洋室。
「⋯⋯知らない天井」
人生でこの台詞を言う時が来るとは。
知らない天井だった所の騒ぎじゃない。知らない国かよ。
「もしかして、ドッキリだったりする?」
「ああ、目が覚めましたか」
ノックもせずに部屋に鷲鼻の男が入ってきた。
目が青い!
明らか外国人だけど言葉通じる。
「あの、ここは日本ですよね?!」
東京ですよね?!もしかしたら外国人の為の病院に搬送されたのか?
「ニホンかどうかは分かりませんが、此処はアルストロメリア王国王都、サンダーソニア邸の一室ですよ」
「⋯⋯どこだよ」
聞いた事すらねぇぞ。
項垂れた視界に白髪が映り込んで、パッと振り向いたけどすぐに消えた。
⋯⋯そういえば、俺の手ってこんなんじゃないよな。
自慢じゃないが「楽器を演奏するのに向いている手だね」と何度か言われた事がある位に俺の指は長かったんだ。
それが何だこのスラリと細い小さな手は。
「⋯⋯⋯」
首にまとわりつく自分の髪を掴んでみる。
いや、俺の髪はこんなに長くない。⋯さっき見たのと同じ髪色。
あんま気にしてなかったけど、俺の声もこんなんじゃないよな?
「⋯⋯っ??」
造形を確かめる為に顔にも触れてみたけどよく分からん。
「鏡⋯鏡はありますか⋯?!」
鷲鼻の男は訝しげに
「姿見でしたらこちらに」
と、彫刻が施された鏡を手で示した。
精神的なものなのか、力の入らない体に何とか鞭打ち、壁に掛かる鏡を覗き込んだ。
「ッ⋯⋯⋯!」
異様に色素の薄い髪色。
驚愕に満ちた紫色の瞳は呆然とこちらを見つめていた。
「誰だよこれ⋯」
「マチュさんですね」
俺の独り言を拾って、鷲鼻の男は知らん名前を答えた。
名前を呼ばれてもピンとこない。そもそも俺の名前は梅澤奏多だ。
ここが日本じゃなくて、俺が奏多じゃないとするなら、きっとこの記憶は前世の記憶なんだろう。
俺はあの時死んだんだ。
本調子じゃないと戻されたベッドから懲りずに降り、少し癖のある造りの窓を開けた。
鷲鼻の男は何も言わない。
部屋に流れ込んでくる風が心地いい。
景色は勿論、空の高さも空気も日本と全然違う。
「あの⋯つかぬ事をお聞きしますが」
「なんでしょう」
「俺の髪が白いのは、何かストレスが原因だったりするのでしょうか?」
「⋯アッシュブロンドですよ」
呆れた声で男は言った。
前世の記憶でも異世界転生でもどっちでもいいんだけど、肝心の この世界で生きてきた今までの記憶が一切ない。
言葉は通じるものの、幼少期の記憶もこの国の名前も一般常識も何もわからない。
異世界転生って、そんなハードなもんだっけ?いっそ前の体で転生されてくれれば良かったのに!
こんなん上手く誤魔化し続ける自信がない俺は早々に自分の身の上を晒した。
「えぇと、つまり、あなたは此処、アルストロメリア王国ではない、別の国から来た、と?」
確かめるように言葉を区切りながら鷲鼻の男、メディシスさんが尋ねてくる。
「別の国どころか多分別の世界からです」
「⋯⋯分かりました。ですがどんな事情であれ、あなたを解放する事は出来ません」
「信じてくれるんですか?」
「些細な事なので」
「⋯?」
「例え記憶喪失のふりや頭がおかしくなったふりをしようが解放はされないでしょうねぇ」
頭に疑問符を浮かべる俺に哀れんだ顔を向ける。
「まぁ、すぐに分かりますよ」
どういう事か質問をしようとしたタイミングでドアが開いて男が入ってきた。
また新キャラだ。
すごい偉そう。メディシスさんは黙って立ち上がり、敬礼の形を取った。
お⋯俺もやった方がいいのかな?
「そいつの具合はどうだ?」
男はメディシスさんに声をかけた。「そいつ」とは俺の事だよな。
メディシスさんは頭を抱えながら何やら説明している。
俺が異世界から来ちゃった系って事だろうけど。
男は全然驚いていない。
メディシスさんが男の紹介をしてくれた。曰く、メディシスさんの主人にあたる人。多分上司って事だろう。
そんでメディシスさんは俺を買ったのだという。
「買われた!?え、俺売られたんですか?!」
誰に!?
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