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死んだ恋心 前編※
しおりを挟む恋人が死んだ。
その日はいつも通り啓二とは駅で別れて、バスに乗り込もうとした時に駅が騒がしいのに気付いた。
乗車中、何台もの緊急車両とすれ違い、胸騒ぎを覚えた春斗は啓二に、「駅で人身事故っぽいな?帰れそう?」とメッセージを送ったが既読も付かず、夜になってから啓二が特急列車に撥ねられて亡くなったと聞かされた。
そこからの事はよく覚えていない。
損傷が激しいからと、啓二の遺体は自宅に戻る事はなかったらしい。
遺体の身元確認で啓二の父親が対面したのみ。あまりの惨状にすぐに火葬の日取りが決められた。
納体袋ごと棺に納められた遺体と対面する事も叶わず、実感のないまま火葬されてしまう。
何故、啓二の遺影が飾られているのか分からない。
分からないが、棺が炉に納められた瞬間に限界を越えて、啓二の母親と共に倒れてしまった。
意識はあるのに立ち上がれない。
自分の母親が運転する車の中で春斗は過呼吸になりかける程泣きじゃくった。
「俺も一緒にいけばよかった」
と口にしてしまい、葬式には参列させてもらえなかった。
外出も禁じられたが、出掛ける気力もなく、大人しく従う。
一人ベッドに座り、啓二にメッセージを送ったが既読はつかない。
もしかしたら返信がくるんじゃないか。
もしかしたら電話がかかってきて「本当は生きてるよ」って言ってくれるんじゃないかと思うと、いつ電話がかかってきてもいいように眠れなかった。
悲しかった
愛していた
離れたくなかった
悩みがあるなら話して欲しかった
一緒に、連れて行ってほしかった⋯。
嗚咽を漏らし膝を抱え、鳴らないスマホを握りしめた。
初七日が過ぎた頃、ようやく気絶するように意識を失った。
夢の中で誰かが自分に手を振っている。ぼんやりとしているが、自分より背が高い。
「⋯啓二?」
名を呼んだら次第に輪郭がはっきりしてきて愛しい人の姿に変わった。
「啓二⋯!啓二、啓二⋯っ」
「良かった、全然眠ってくれないから会うのが遅くなっちゃった」
抱きしめてくれる手が温かい。この腕に抱かれたかった。自分の居場所が帰ってきた悦びに、他の言葉を忘れてしまったかのように名前を呼び続けた。
「待たせてごめんね。これからはずっとそばにいるよ」
「けいじ⋯っ、啓二、」
優しい口付けをしながら背中をまさぐる手の感触を確かめた。
「もう置いてくな。どこにも行かないって言って、俺をお前の物にしてよ⋯」
受験が終わるまではと清い交際を続けてきたが、こんな事になるなら体などいくらでも差し出せば良かった。
頬を両手で挟まれ唇が重なり合う。
(ああ、啓二の熱だ)
唇を求め合いながらベッドに押し倒された。
性急に前をはだけられ素肌を啓二の眼前に晒される。
「んっん、けいじ⋯」
啓二が興奮気味に脇腹に触れたかと思うと、春斗の胸の小さな飾りを口に含んだ。
まるで空腹の赤子のように吸いながらもう一つの飾りも寂しくないよう押し潰したり引っ掻いたりするから堪らない。
「抓らない で、⋯ッあぁっ!」
弱々しく抵抗すると、叱るように歯が立てられて為す術がない。
既に限界まで勃起していた肉棒が、熱を持て余した春斗の秘部に宛てがわれ貫かれた。
「ひんっ、あっ、あっ、」
「可愛い⋯やっと春斗を俺の物に出来た」
夢とは都合のいい物で、何度精を放たれようと快楽しか拾わない。
翌朝、目覚めると気分がやけに高揚していた。
制服に袖を通し、リビングにやって来た春斗を両親は涙ぐみながら迎えてくれた。
授業の遅れを取り戻さなければならない。
約束したのだ。大学生になったら家を出て二人で暮らそうと。
猛勉強の甲斐あって、隣県の大学に進学する事ができた。
傍から見れば一人暮らしだが、春斗は啓二との同棲に心踊らせている。
早く夢の中で啓二に会いたくて友達の誘いも断り、宵の口には就寝する毎日。
「春斗、おかえり」
今日も啓二は優しく迎えてくれる。その頃の春斗はこちらが現実かとすら錯覚する程、夢の中で淫蕩に耽る日々を送っていた。
「春、お前眠れてる?」
高校のクラスメイトで、同じ大学に進学した佐藤が心配そうに話しかけてきた。
「めちゃくちゃ寝てるよ」
「そんな訳ないだろ。お前やべえよ、目の下真っ黒」
親公認の仲だった春斗と啓二の関係は、クラスメイトも認知していた。春斗が憔悴しきっていたのも、立ち直って進学したのも佐藤はすぐ傍で見守っていたのだ。
「少し元気になったかと思ったけど、そんな簡単に吹っ切れねえよな」
確かに食事量は以前より減ったかもしれないが、気にする程でもない。それに、以前より格段に睡眠時間は増えている。心も充実して、体調は良い筈だ。
「大袈裟じゃね?全然不調とかないんだけど」
「いやいや春斗、お前本当マズイって。顔色やべえよ」
少しお節介だなと眉をひそめた春斗を見、佐藤が慌てて手を合わせた。
「ちょっとさ、会ってほしい奴がいるんだけど」
そう言うと佐藤は何処かに手早く連絡した。
「は⋯?何?」
「すぐだから!今来るからちょっと待って」
次が空きコマだと佐藤も分かっているこのタイミング。断ってまた呼ばれるのも面倒だと諦め、腕を組んで無言で待つ。
数分後に現れた男は春斗を見るなり「うわー⋯、また強烈な」と顔をしかめた。
いきなり失礼な態度を取られて春斗もムッとする。
帰ろうと踵を返した所を男にベルトを掴まれ捕獲された。
「ちょっと!離せよ!」
「ここじゃなんだし、二人きりでゆ~っくりお話しましょうか?」
「はぁ?!俺は話す事なんかねえよ」
「いいから、お前の人生に関わる。佐藤、いいな?」
佐藤は「任せた!」と力強く頷き春斗を売った。ベルトを掴む力が強くて振りほどけない。グイグイ押されながらカフェテリアの端席に座らされた。
自販機で購入したコーヒーが目の前に置かれる。
「春斗君だっけ?お前、凄いの憑けてるね」
どうやら視えるタイプの人間らしい。祓う力はあるのだろうか。だとしたら厄介だ。
内田と名乗った男は春斗の背後、何も無い空間をジッと凝視している。
「後ろのコレ、お前にすげえ執着してる。本体は⋯、昼間は近付けねえのか。とは言え、思念だけでこれかよ⋯おい、このままだとお前死ぬよ」
啓二になら呪い殺されても構わなかった。
「⋯恋人だから別にいい」
「恋人?この男がか?」
別に男同士だって構わないだろう。あぁ、でもそうか。一応友人には配慮してくれていたのか。
「俺がコイツと付き合っているの佐藤も知ってるから。気ぃ使ってくれてありがとな。でも俺がどうなろうと気にしないで」
「いや、こんなやべえの放っておけねえよ。ちょっと待て、これ、俺の連絡先だ。危険を感じたらすぐ連絡しろ。俺なら祓う事が出来る」
「ご親切にどうも」とおざなりな礼を言い、コーヒー代を置いて席を立つ。
内田の気配でも残っていたのか、その夜は少し乱暴に抱かれたが、啓二の執着を感じられて嬉しいだけだった。
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