9 / 27
第一章
第八話 葬送官
しおりを挟む「じゃあまずはルールだね」
テレサは机の上に広げられた書類に目を落とす。
「さっきの女も言ってたように、葬送官ってのは悪魔と戦う存在であると同時に、神の威を振るう代理人ってやつでもある。で、その牙が人類に向かうことは許されない。だからジーク。お前が半魔であることは関係なく、葬送官が犯罪を起こした場合はかなり重罪となる。最悪一生囚われの身になることもあるからね。あんたならそんなことはしないだろうが……難癖をつける奴には気をつけな」
「はい。分かりました」
「うん。で、次に葬送官になる条件って奴だ。これは二つある。一つは推薦人、もしくは神殿が認可した人物であること。これはアタシがいるから問題ないね。次に、神の加護を得る、もしくは持っているだ。これも問題ない。あんた、神の加護を得ておいてよかったね」
「え? あ、まぁ、ははは」
無理やり押し付けられたとは言えないジークである。
テレサは続けた。
「あとは制約と誓約だ。まず制約だけど……葬送官は異端討滅機構に絶対服従の誓いを立てないといけない。死地へ赴けと言われれば行き、戦えと言われれば戦う。例えば、基本的に葬送官は仕官した街で赴任することになるんだけど、異動命令が出れば異動だ。例え街に家族がいようと、意見することは許されないよ」
ジークは頷く。
異端討滅機構は終末戦争後に悪魔と戦っている国際機関だ。
実質的に人類を支配しているといっても過言ではなく、彼らに逆らえば人類社会で生きる場所を失う。ジークの場合、現状、人類と悪魔の双方に追われているから、葬送官になろうとなるまいと変わらない。
「じゃあ後は誓約だね。己の信じる神に誓いを立て、どのように生きるか誓うんだ。これは旧世界でも神々の間で行われていた神聖な儀式で、運命に強く作用すると言われている。だから軽々しく決めちゃあいけないよ。猶予期間は一年あるからね。じっくり考えな」
「そんなにあるんですか?」
「それぐらい大事なんだよ。一生を左右するからね」
「……ちなみになんですけど、テレサさんはどんな誓いを?」
「アタシは……」
テレサは何かを言いかけて、やはり首を横に振る。
「聞かなくていい。守れなかった誓いなんて、何の意味もないんだから」
「……?」
「ほら、くだらないこと聞いてないでさっさとサインしな」
「あ、はい」
言われるまま、ジークは書類にサインをする。
「……へぇ。意外と綺麗な字だね」
「母さんに教わりました」
テレサの言葉に、ジークは自分の中に母が生きているような気がして微笑む。
魔導工学で作られた紙らしく、血判を押すと契約書は燃え上がり、受付の奥に石板に吸い込まれた。
「これであんたも立派な葬送官だ。ひとまずおめでとうと言っておこうか」
「あ、ありがとうございます」
全く実感はないが、どうやら葬送官になれたらしい。
というか、とジークは思う。
「葬送官ってこんな簡単になれるもんなんですか? なんというかこう、もっと色々あるかと思いました」
「あんたは特別だよ。普通の奴が葬送官になろうと思えば、まず三年間養成学校に通って、次に自分の後ろ盾になってくれる師匠か神殿を見つけたり、加護を授かるために儀式を受けないといけない。より強力な加護を求めるなら試練をこなさないといけないし……まぁ、軽く四年はかかるだろうね」
「……それって僕、大丈夫なんですか?」
「あんたはアタシが推した奴だからねぇ。叡智の女神の加護も持っているし、数えきれないくらい修羅場もくぐってる。だから普通の葬送官に必要な試験や手続きの大部分が省略されるんだよ。ぶっちゃけ、葬送官は常に人手不足だからね。即戦力になれるならすぐにでも欲しいくらいなのさ」
「な、なるほど……?」
分かったような分かっていないようなジークにテレサは「さて」と立ち上がる。
受付に行った彼女は書類と金色の塊を受け取って戻ってきた。
「晴れて葬送官になったあんたには、聖杖機が与えられる」
「聖杖機……ってあれですよね」
「あぁ。所有者の資質によってさまざまな形に変える、対悪魔武器だ。アタシの場合は……」
テレサは懐から取り出した聖杖機を見せてくる。
十字架の先端に丸い輪がついた、不思議な形をしていた。
テレサが力を籠めると、聖杖機はぐにゃりと形を変え、指輪に姿を変える。
「これだ。アタシの場合、直接的な攻撃力はないが、加護を扱うための陽力が跳ね上がる仕掛けになってる」
「へぇー……」
「早速やってみな」
テレサが金属の塊を渡してくる。
ずしりと重い感触だ。冷たい金属の塊が、ジークの手の中でぶるりと震える。
するとーー
「わ!?」
びよん、と聖杖機が伸びた。
肘くらいまでの長さの長剣だ。黒光りする刃がジークの心を惹きつける。
「かっこいい」
「剣か。ちょうどいいね。近接戦向きのあんたにはちょうど……」
その時だった。
ぱきッ、と音を立てて、剣が割れた。
「え、えぇぇぇぇ!? おおお、折れた!? ど、どうしようテレサさん!?」
「ちょっとは落ち着きな。多分これは折れたわけじゃない」
テレサは冷静にジークの持つ剣を観察する。
二つに割れた剣をみて、納得したように頷いた。
「あぁやっぱり……これは、双剣だね。ほら、割れた方にも柄がある」
「あ、ほんとだ」
「双剣の使い手は珍しいよ。超攻撃特化型の聖杖機だ」
「へぇ……」
他の聖杖機を知らないジークはよく分からず、とりあえず頷いた。
黒い剣から分かれた剣は蒼白く、少し短めだ。
軽く振ってみたところ、かなりしっくりきた。
「うん。気に入ったかもです。これで頑張ってみます」
「良かったね。なかなか肌に馴染まなくて苦労する人も多いんだよ」
「そうなんですね」
「あぁ。じゃあ次は……」
それからテレサはいくつか説明を続けた。
葬送官は当番制の哨戒任務にあたる義務があること、
外回りと街回りがあって、おそらくジークは外に回されるだろうこと、
また、葬送官となった者は出来るだけ早くバディを見つけなければならないこと。
「バディって、ペアのことですよね?」
「そうだよ。任務で同じ行動をする運命共同体のことだ」
「…………それ、絶対に見つけなきゃだめですか?」
ジークは遠慮がちに聞いてみた。
いまだ周りに迫害されているジークだ。
バディを組んでくれる人がいるとも思えないし、ジーク自身が相手を信用出来ない。
期待するたびに裏切られてきた経験が、誰かと深く関わることを怯ませるのだ。
切実なジークの言葉に、しかしテレサは「ダメだ」ときっぱり言った。
「ジーク。葬送官として最も大切なことは何だと思う」
「え? うーん……悪魔と戦って、人類を守ること、ですか?」
「違う」
テレサは一拍の間を置き、
「仲間を殺すことだ」
「……!」
「正確には……悪魔となった仲間を、だけどね」
告げられた内容の重さに、ジークは目を見開いた。
「葬送官の役目は人類を守るために悪魔を葬魂すること。そして、悪魔を増やさないことだ。万が一、戦いの最中に葬送官が死亡し、悪魔となり、そしてエルダーとなった場合は味方の情報を持っている敵ができることになる。敵に情報が流出する。それを防ぐために、葬送官はまず、仲間を殺すことを教えられる」
「……仲間を」
「あぁ。とはいっても肉体を燃やしたり、ちゃんと祈祷をすれば悪魔化を防げるからね。戦わずに済むならそれがいいが……それが出来ない状況ってのもあるから」
大事なのは躊躇わないことだ。とテレサは話を締めくくる。
ジークは考える。
(仲間か……今は居ないけど、居たら、僕はどうするんだろう)
もしも人間の友達ができたとして、その人が悪魔になったら。
しかも母と同じようにエルダーとなり、記憶を保ち、同じ言葉を話せたら。
半魔である自分に、友を殺す権利があるのだろうか?
「……ま、説明はこんなもんかね」
テレサは「ごほッ」と咳をしてから出口へ向く。
「バディが出来るまでは当面一人行動だ。哨戒任務は出来ないから、とりあえず葬送官として訓練を……」
「ーーそれは認められない」
「え?」
テレサの後に続こうとしたジークは息を止める。
見れば、いつの間にか首元にレイピアの切っ先が突きつけられていた。
「話は聞いた。半魔を葬送官にするだと? 例え支部長が許しても、私は認めんぞ」
美しい金髪の美女がそこにいた。
顔に似合わない剣呑さで、親の仇を見るかのようにジークを睨んでいる。
テレサは頭痛を堪えるように額を抑えた。
「オリヴィア・ブリュンゲル。あんた、任務に出ていたんじゃなかったのかい」
「たった今帰投した。半魔の話を聞いたらウチの弟子が飛び出してきたんでな。少々急いだ」
「弟子ぃ……?」
テレサが眉を顰めると、オリヴィアと呼ばれた女性の後ろから少女が歩いてくる。
ジークは目を見開いた。
「え」
それは十年前、初めて人里に入った時に出会った女の子。
ボーイッシュな髪を長くし、可愛らしく育ってはいるが、面影は残っている。
「久しぶりね、ジーク。私の、仇」
「…………アンナ?」
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした
たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。
死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。
最弱弓術士、全距離支配で最強へ
Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」
剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。
若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。
リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。
風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。
弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。
そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。
「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」
孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。
しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。
最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!
王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~
しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。
それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること!
8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。
どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ!
「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」
かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。
しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。
「今度こそ、私が世界を救って見せる!」
失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!
剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。
イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。
小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる