ゴッド・スレイヤー

山夜みい

文字の大きさ
10 / 27
第一章

第九話 予期せぬ再会

しおりを挟む
 
「なんで、君がここに……」
「それはこっちのセリフなのだけどね。まさか生きているとは思わなかったし」

 敵意を向けられ、ジークはごくりと息を呑む。
 十年前、アンナたちと出会ったのは隣国のヴェイルゼム帝国にある山村だ。
 ここからは三百キロ以上離れているし、ここで出会うなんて思わなかったのに。

「呑気な顔ね。こっちは今すぐあなたを殺したいくらいなのだけど」
「……」
「ジーク、知り合いかい?」
「……はい。十年前に、会ったことがあります」

 テレサは「ふぅん」とアンナとオリヴィアを見た。

「で、オリヴィア。いつまで葬送官そうさかん支部で武器を抜いてるんだい? 葬送官同士での戦闘はご法度だよ」
「それは葬送官同士の話だろう。悪魔が中に入り込んでいる状態は特務規約が適用される」
「この子は既に葬送官だよ。立場上、支部長より下のあんたが、支部長が認めた奴を認めないって? 偉くなったもんだねぇ」
「己の立場は理解しているさ。だからこそ引けない。異端討滅機構ユニオン対悪魔特約に関する項目第十二項により、序列百番台である私には法律を超越した権限が与えられている」
「……ッチ。めんどくさい奴だ」

 テレサは舌打ちした。

「で、あんたらはどうしたいってんだい」
「そいつの抹殺を要請します」

 答えたのはアンナだ。
 凍えるような声音で言い放った彼女は今にも飛び掛かりそうな形相をしている。

「そいつはわたしのお母さんを殺した仇です。そいつのせいでわたしがどれだけ苦労してきたか……!」
「あれは……僕じゃない。君のお母さんを殺したのは、君の……」
「黙れッ! 悪魔が知ったような口聞いてんじゃないわよ! 何も知らないくせにッ!」
「……」

 アンナの母を殺したのは恐らく彼の父親だ。
 アンナの母と別れた彼がなぜ元妻を殺そうとしたのかは分からない。
 だが、ジークが無関係なのは事実である。

「……言いがかりだよ。どうせ僕の言うことなんて信じないだろうけど」
「そうね、信じないわ。だって……」

 アンナは首を振り、テレサを見る。

「テレサ様。どうか再考を」
「断る。なんであんたらみたいな餓鬼の言うこと聞かなきゃいけないんだい」
「ですが、そいつは……!」
「この子は神が認めた葬送官だよ。叡智の女神アステシア様が認めた、ね」
『……っ!?』

 オリヴィアとアンナの顔色が変わった。

「アステシア様の……それは本当か?」
「嘘をつく理由があるのかい?」

 アンナはくしゃりと顔を歪めた。

「……嫌よ。私は認めないわ。だって、あたしは……」
「……?」

 途切れ途切れにひとりごちるアンナにジークは首を傾げた。
 ついさっきまで怒り狂っていた彼女の表情が、どこか歪んで見える……。

「神の加護を得ているなら一考の価値はあるだろうが。半魔を抱きかかえるリスクも考えなければならない」

 オリヴィアは冷静に告げる。

「まだ貴様の、半魔の特性も何も分かっていないのが現状だ。アステシア様の加護まで得ているなら、一度研究所に引き渡すのが筋だと思うが」
「実験体として切り刻まれろってのかい」
「……そうならないように努力するのが筋だと言っている」
「そんな寝覚めが悪くなる真似はごめんだ」
「…………ハァ」

 強情なテレサにオリヴィアは諦めにも似た吐息をつく。
 ジークはどちらに転ぶか分からず、はらはらしながら両者を見守る。
 その間にもアンナの刺すような視線に射抜かれていて、居心地が悪いことこの上ない。

「ーーでは、こうしよう」

 オリヴィアは指を一本立てた。

「要はその子が葬送官として有用であると証明できればいい。条件を付けさせてもらう」
「条件?」
「来る戦いにおいて、特級悪魔を倒せ。それが私が認める条件だ」
「ちょ、師匠!?」
「アンナ。時に立場と私情は弁えねばならん。私情はどうあれ、特級を倒せるような力があるなら認めざるおえないだろう」

 周りを見渡すと、他の葬送官たちも彼女に賛同するように頷いていた。
 どうやらテレサの強引さに不満を抱いていたのは彼女らだけではないらしい。
 けれど、ジークは全く安心できなかった。

(ーーかわいそうに、あいつ、死んだな)
(特級なんて倒せるわけないでしょ。あんな子供が)

 そんな声が聞こえて身震いするジークをよそに、テレサは問う。

「もしも条件をクリアできなかったら?」
「軟禁状態の上、本部にいる大姫様に引き渡す。しかるのち、順当な処分を下してもらう」
「しょ、処分……あ、あの、特級悪魔って強いんですか?」

 ジークがこそこそと聞くと、テレサはうなずいた。

「あぁ。強い。あんたが遭遇したコキュートスより上だ」
「あ、あれより!?」

 ジークは目を見開いた。

(そ、そんなの倒せるわけがないよ! テレサさん、早く断ってーー)

「いいだろう。私がみっちり鍛え上げて、特級だろうが何だろうが倒せるようにしてやるさ! 倒せなきゃ裸で街一周してやろうじゃないか!」

(うぉぉおおおい!? 何言ってんのこの人!? 何言っちゃってんの!?)

 あわあわとジークが訂正しようとするも、時すでに遅く。

「テレサ様の裸なんて誰も見たくはないと思いますけど。その言葉、忘れないでくださいね」

 吐き捨てるように言って、アンナはオリヴィアと共に去ろうする。
 ジークは慌てて引き止めようとした。

「ま、待ってください! 僕はやるなんて一言もーー」

 その瞬間、世界が反転した。

「へ?」

 いつの間にかジークは天井を仰いでいた。
 目の前にはアンナが持っていた聖杖機アンクを突きつけられている。

「ひっ」
(な、なにをされたのか、まったく見えなかった……!)

 ぎりり、と首を絞めつけられ、ジークはうめいた。

「う、ぁ」
「この程度の実力しか持たないコイツに、特級なんて倒せるわけないじゃない。せいぜい生きて逃げる事ね。その時こそ、わたしがあんたを殺してやる」

 女神の加護が発動する暇もない速さ。
 あの時、母の死に動揺して泣き叫んでいた少女はどこにもいなかった。
 復讐相手を追い求める羅刹のような女が、ジークを睨んでいる。

「フン」
「げほ、げほ……っ」

 ジークを突き飛ばし、今度こそアンナは支部の奥へ去っていく。
 喉をさすっていると、テレサが不安そうにつぶやいた。

「……まずい。特級はさすがに言い過ぎたか」
「えぇ……」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...