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第一章
第九話 予期せぬ再会
しおりを挟む「なんで、君がここに……」
「それはこっちのセリフなのだけどね。まさか生きているとは思わなかったし」
敵意を向けられ、ジークはごくりと息を呑む。
十年前、アンナたちと出会ったのは隣国のヴェイルゼム帝国にある山村だ。
ここからは三百キロ以上離れているし、ここで出会うなんて思わなかったのに。
「呑気な顔ね。こっちは今すぐあなたを殺したいくらいなのだけど」
「……」
「ジーク、知り合いかい?」
「……はい。十年前に、会ったことがあります」
テレサは「ふぅん」とアンナとオリヴィアを見た。
「で、オリヴィア。いつまで葬送官支部で武器を抜いてるんだい? 葬送官同士での戦闘はご法度だよ」
「それは葬送官同士の話だろう。悪魔が中に入り込んでいる状態は特務規約が適用される」
「この子は既に葬送官だよ。立場上、支部長より下のあんたが、支部長が認めた奴を認めないって? 偉くなったもんだねぇ」
「己の立場は理解しているさ。だからこそ引けない。異端討滅機構対悪魔特約に関する項目第十二項により、序列百番台である私には法律を超越した権限が与えられている」
「……ッチ。めんどくさい奴だ」
テレサは舌打ちした。
「で、あんたらはどうしたいってんだい」
「そいつの抹殺を要請します」
答えたのはアンナだ。
凍えるような声音で言い放った彼女は今にも飛び掛かりそうな形相をしている。
「そいつはわたしのお母さんを殺した仇です。そいつのせいでわたしがどれだけ苦労してきたか……!」
「あれは……僕じゃない。君のお母さんを殺したのは、君の……」
「黙れッ! 悪魔が知ったような口聞いてんじゃないわよ! 何も知らないくせにッ!」
「……」
アンナの母を殺したのは恐らく彼の父親だ。
アンナの母と別れた彼がなぜ元妻を殺そうとしたのかは分からない。
だが、ジークが無関係なのは事実である。
「……言いがかりだよ。どうせ僕の言うことなんて信じないだろうけど」
「そうね、信じないわ。だって……」
アンナは首を振り、テレサを見る。
「テレサ様。どうか再考を」
「断る。なんであんたらみたいな餓鬼の言うこと聞かなきゃいけないんだい」
「ですが、そいつは……!」
「この子は神が認めた葬送官だよ。叡智の女神アステシア様が認めた、ね」
『……っ!?』
オリヴィアとアンナの顔色が変わった。
「アステシア様の……それは本当か?」
「嘘をつく理由があるのかい?」
アンナはくしゃりと顔を歪めた。
「……嫌よ。私は認めないわ。だって、あたしは……」
「……?」
途切れ途切れにひとりごちるアンナにジークは首を傾げた。
ついさっきまで怒り狂っていた彼女の表情が、どこか歪んで見える……。
「神の加護を得ているなら一考の価値はあるだろうが。半魔を抱きかかえるリスクも考えなければならない」
オリヴィアは冷静に告げる。
「まだ貴様の、半魔の特性も何も分かっていないのが現状だ。アステシア様の加護まで得ているなら、一度研究所に引き渡すのが筋だと思うが」
「実験体として切り刻まれろってのかい」
「……そうならないように努力するのが筋だと言っている」
「そんな寝覚めが悪くなる真似はごめんだ」
「…………ハァ」
強情なテレサにオリヴィアは諦めにも似た吐息をつく。
ジークはどちらに転ぶか分からず、はらはらしながら両者を見守る。
その間にもアンナの刺すような視線に射抜かれていて、居心地が悪いことこの上ない。
「ーーでは、こうしよう」
オリヴィアは指を一本立てた。
「要はその子が葬送官として有用であると証明できればいい。条件を付けさせてもらう」
「条件?」
「来る戦いにおいて、特級悪魔を倒せ。それが私が認める条件だ」
「ちょ、師匠!?」
「アンナ。時に立場と私情は弁えねばならん。私情はどうあれ、特級を倒せるような力があるなら認めざるおえないだろう」
周りを見渡すと、他の葬送官たちも彼女に賛同するように頷いていた。
どうやらテレサの強引さに不満を抱いていたのは彼女らだけではないらしい。
けれど、ジークは全く安心できなかった。
(ーーかわいそうに、あいつ、死んだな)
(特級なんて倒せるわけないでしょ。あんな子供が)
そんな声が聞こえて身震いするジークをよそに、テレサは問う。
「もしも条件をクリアできなかったら?」
「軟禁状態の上、本部にいる大姫様に引き渡す。しかるのち、順当な処分を下してもらう」
「しょ、処分……あ、あの、特級悪魔って強いんですか?」
ジークがこそこそと聞くと、テレサはうなずいた。
「あぁ。強い。あんたが遭遇したコキュートスより上だ」
「あ、あれより!?」
ジークは目を見開いた。
(そ、そんなの倒せるわけがないよ! テレサさん、早く断ってーー)
「いいだろう。私がみっちり鍛え上げて、特級だろうが何だろうが倒せるようにしてやるさ! 倒せなきゃ裸で街一周してやろうじゃないか!」
(うぉぉおおおい!? 何言ってんのこの人!? 何言っちゃってんの!?)
あわあわとジークが訂正しようとするも、時すでに遅く。
「テレサ様の裸なんて誰も見たくはないと思いますけど。その言葉、忘れないでくださいね」
吐き捨てるように言って、アンナはオリヴィアと共に去ろうする。
ジークは慌てて引き止めようとした。
「ま、待ってください! 僕はやるなんて一言もーー」
その瞬間、世界が反転した。
「へ?」
いつの間にかジークは天井を仰いでいた。
目の前にはアンナが持っていた聖杖機を突きつけられている。
「ひっ」
(な、なにをされたのか、まったく見えなかった……!)
ぎりり、と首を絞めつけられ、ジークはうめいた。
「う、ぁ」
「この程度の実力しか持たないコイツに、特級なんて倒せるわけないじゃない。せいぜい生きて逃げる事ね。その時こそ、わたしがあんたを殺してやる」
女神の加護が発動する暇もない速さ。
あの時、母の死に動揺して泣き叫んでいた少女はどこにもいなかった。
復讐相手を追い求める羅刹のような女が、ジークを睨んでいる。
「フン」
「げほ、げほ……っ」
ジークを突き飛ばし、今度こそアンナは支部の奥へ去っていく。
喉をさすっていると、テレサが不安そうにつぶやいた。
「……まずい。特級はさすがに言い過ぎたか」
「えぇ……」
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