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第十五話 溺れるのはあいつか。それとも……。
しおりを挟む「というか」
スィリーンがフォークを置いてにこりと笑った。
「シェラちゃん、めちゃくちゃ喋るわね」
「……!!」
「やっぱり好きなことになると喋りやすいのかしら? うふふ」
「そっちのが自然」
「ねー。いつもこんな感じでいいのに」
「だ、誰がッ」
顔が熱くなってどうしようもないシェラだった。
別に意識していたわけではないが、アナトリアの巫女補佐として三歳の頃から料理に触れてきたシェラにとって、食材や料理の話題は尽きることがない。むしろそれしか話題がないから他に何を話したらいいのか分からないくらいだ。
(今度から気を付けないと……お姉ちゃんならもっと美味しくできたかもしれないし)
そういえば昼間にリーネが言っていた『アリシアは天才じゃない』というのはどういう意味だったのだろう。話の流れでつい聞き逃してしまったが、明日会った時にでも聞いてみようか。国家間交流で出会ったという話だが……。
「アナトリアの女はみんなこんなに料理が出来るのか」
「……まぁ。アナトリアの女ならこれくらい出来て当然」
リヒムは「そうか」と笑い、シェラの頭を撫でてきた。
「なら、君に会えた俺は幸運だな」
「……っ、ま、またそういう……!」
「なんだ。事実を言っているだけだが」
「うるさい馬鹿!」
「馬鹿はいいが、君も食べろ。冷めるだろうが」
「あ、ちょ」
リヒムは強引にシェラの手を引き、隣に座らせる。
そしてナイフで切り取った羊肉を無理やり口に突っ込んできた。
「んむ!?」
サク、と心地よい食感。口内で弾ける脂がシェラを黙らせる。
チーズの程よい塩気がじんわりと舌を喜ばせ、香草が羊肉のうまみを引き出してた。
(……美味しい)
「どうだ、美味いか」
「私が作ったもの。美味しいに決まってる」
「つまり君は自分が卑下するような存在じゃないということだ」
「……!」
蒼い瞳はまるでシェラの心を見透かすかのようだ。
子供を相手にしているように頭を撫でてくるのにその手を振りほどけない。
「誰かと比べる必要はないぞ、シェラ。見ろ」
顎をしゃくられ、視線を追ったシェラはテーブルを見る。
「ソースも美味しいー! ねぇこれ持って帰っちゃダメ? もうないの?」
「一人一つ。当然の摂理」
「まぁ! ナディヤ、わたしのローストカツを取ったわね?」
「はんのほと?」
「五角羊肉をここまで美味しくできるなら他のものも期待できるわね」
「ラドワも年でしたからね。重労働になる料理は出来ませんでしたし」
「ふん。しょうがないから認めてあげるわよ」
シェラを敵視していたサキーナは言った。
「明日からもせいぜい頑張りなさい、シェラ」
「……ぁ」
急に目頭が熱くなり、シェラは俯いた。
ぽろぽろと、涙がこぼれてくる。
(……名前)
両親にも呼んでもらえなかったのに、ここではみんなが名前を呼んでくれる。
自分が一生懸命作ったものを美味しいと認めて、大切にしてくれる。
「全部、君自身の力だ」
「……」
復讐相手のくせに、リヒムは優しい眼差しで告げる。
「家族を楽しませてくれてありがとう。シェラ」
温かさで心が溶けそうになって、シェラはきつく目を閉じた。
瞼を閉じると、姉の最後の笑みが浮かび上がってくる。
焔の中で死んでしまった、大好きな姉。
大嫌いだったけど、死んでほしくはなかった両親。
一人生き残ってしまった自分に、こんな気持ちになる資格があるのだろうか。
心がすぅと冷めていくような気がした。
(そうよ……これは復讐なんだから)
満足してもらえたなら復讐の第一歩だ。
これから将軍の胃袋を掴んでずぶずぶに溺れさせてやる。
「ところで、君はその服しか持っていないのか」
「は?」
「ルゥルゥ」
「替えの仕事着は用意してあります。ただ私服のほうは……」
「ふむ」
リヒムは顎に手を当てて、にやりと笑った。
シェラは嫌な予感がして後退る。後ろが壁で逃げられなかった。
(なに……なにされるの!?)
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