宮廷料理官は溺れるほど愛される~落ちこぼれ料理令嬢は敵国に売られて大嫌いな公爵に引き取られました~

山夜みい

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第十八話 シェラ争奪戦

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「随分探したぜぇ。脱走したお前がどこに行ったのか伝手を辿ってさぁ」
「……クゥエル」
「知り合いか」

 ガルファンの言葉にシェラは頷いた。

「火の宮に居た時の……私の上司」
「なるほど」

 それだけで月の宮の者達はすべてを察したようだった。
 道端に落ちるゴミを見るような見下した視線がクゥエルに向けられる。

「おいおいおい、ここは天下の月の宮だぜ!?」

 リーネが前に進み出た。

「リヒム・クルアーン閣下のお膝元で! 何を偉そうにほざいてんだ、あぁ!?」
「黙れよ女。俺らは雑用係を取り戻しに来ただけだ」

 クゥエルはシェラを指差す。

「そこにいるシェラは俺らの所有物にも関わらず脱走した。おかげで火の宮は大騒ぎだ!」
「そうだそうだ!」
「そいつのせいで俺がどんだけ損害を被ったか分かるか!?」
「分かったらさっさとそいつを引き渡せ!」

 口々に罵倒する火の宮の料理官たちに──

「ぶッ……がっはははははは!」

 突然、腹を抱えて笑い出したのはガルファンだ。
 堪えきれないと言った様子で身体をくの字に折る彼は月の宮の同僚に振り返る。

「き、聞いたかよお前らッ、こいつら、女子おなご一人居ねぇとまともに仕事も出来ねぇとよ!」

 月の宮の者達は笑いを堪えるように口元を押さえている。

「ぶふッ……ちょ、ガル爺、笑わせないでよ。せっかく僕ら黙ってたのに」
「え、偉そうにふんぞり返ってるんだから喋らせてあげようよ。ぶふッ」
「あっははははは! あぁもうだめ、おかしい。ダサすぎて……!」

 一人、また一人とシェラの前に進み出る月の宮の者達。
 呆然と彼らを見るシェラの頭をリーネが雑に撫でて、

「心配すんな。シェラ。あたいらが何とかしてやる」
「何とかって」

 シェラを庇うように前に立つ先輩料理官は言い放つ。

「大事な後輩に手を出す奴は、ぼっこぼこにしてやんよ」
「……っ」

 迷いなく言い放つ後ろ姿に、シェラの胸は突かれた。
 じん、と目の奥が熱くなるシェラは俯いて、瞼の縁を袖で拭う。

「それによ、あたい、ちょーっとこいつらに言いたいことがあったんだよね」
「私も私も! だから気にしなくていいよ、シェラちゃん」
「こいつら無断侵入だろ? 他の宮に許可なく入るのは重罪だったはずだ」
「シェラちゃん、悪いけど裏口から出て将軍に知らせてくんね?」
「行けよシェラ。ここは儂らに任せとけ」

 ガルファンがシェラの背中を押し出す、
 月の宮の連中に頷かれて、シェラはぐっと拳を握った。

「け、怪我……しないでくださいね」
「「「おう!」」」

 シェラは走り出した。


 ◆



「おいクゥエル、あいつ逃げたぞ!」
「追え! 絶対に逃がすな!」
「おぉっと、ここを通すわけにはいかねぇなあ」

 ガルファンは裏口への道を遮るように立つ。
 腕を組んで立つ彼は見る者を怯ませる威圧感を纏っていた。

「儂ぁお前さんらに言わねばならんことがあったんだ」
「な、なんだよ」

 ガルファンは月の宮に入った新人の手を思い出す。
 肌が荒れに荒れて、豆も治療できなかった小さな手を。
 イシュタリア人と距離を取り、心の壁を作った悲しい顔を思い出す。

「テメェらが、あの子にあんな顔をさせたんだろ……!?」

 ガルファンだけではない。
 月の宮にいる誰もがシェラの境遇に怒りを覚えていた。

 一体どれだけ──どれだけコキ使われればあんな顔になるのだろう。
 素直になれないけど根はまじめで、心優しいはずの彼女から笑顔を奪い去ったこいつらを、許してやれるだろうか。

 否だ。断じて否だ!

「て、テメェら……やる気か!?」
「料理官の手は食材を扱うためにある。だがな」
「後輩を守るために使うなら火の神さまも許してくれるさ」

 拳の骨を鳴らすガルファンは叫んだ。

「野郎共っ! あの子に指一本触れさせんじゃねぇぞ!」
「「「おう!」」」
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