23 / 34
第二十三話 想い、わずらう
しおりを挟む「……全然眠れなかった」
火の宮と月の宮のいざこざがあった翌日。
一日休みを告げられたシェラは身だしなみを整えて自室を後にした。
日が登ったあとに目覚める朝は新鮮だが、少し落ち着かない。
(怪我したわけでもないのに……)
リヒムや月の宮の者達が休んでいいとうるさかったのだ。
元はと言えばシェラを中心として起こった出来事なのだし、仕事に遅れが出たら申し訳ないと思ったのだが、ガルファンが「一人減ったくらいで潰れるなら潰れたほうがいい」というので、お言葉に甘えた次第である。正直なところ、シェラとしても有難かった。
(仕事行っても、集中できなかったかもだし)
昨日の出来事を思い出す。
あやうくクゥエル穢されそうになった時に現れた背中を。
力強く抱き寄せられ『大切な人』だと、彼はそう言って──。
「~~~~~~っ」
両手で口元を抑え、その場にうずくまってしまうシェラ。
昨日の夜から同じことを繰り返していて、寝つきが悪かった。
「ば、馬鹿じゃないの。あんなやつ。元はといえばあいつが」
(あいつが強引に助けてくれなかったら、今もあの地獄に)
シェラは思いっきり首を振った。
心と言動が不一致だ。これはまずい。なんとかしなければ。
深呼吸し、息を整える。
食堂の扉を開こうとしたシェラは、ふと思いとどまり、近くの花瓶に顔を寄せた。花瓶に映る自分の目はハッキリしている。髪型も、跳ねているところはなさそうだ。
「……よし」
(って何が『よし』なの!?)
自分の行動に自分で突っ込みながら、シェラは咳払い。
意を決して扉を開けると、
「おはようございます」
「シェラちゃん、おはよー!」
「ん。おはよ」
「あ、おはよう……」
食堂に居たのはルゥルゥやスィリィーンたちだ。
シェラが挨拶を返すと、彼女らはぽかんとした様子で固まる。
「……? なに」
「シェラちゃんが、おはようって言った……!?」
「は?」
「珍しい。いつも頷くだけだったのに」
「昨日、頭をぶつけたのでは。医者を呼びます?」
「だ、誰がッ、挨拶くらい返すし!」
言い返しながら、そんな態度だったかなとシェラは思い返す。
(………………そうだったかも)
元々、諸々のことが落ち着いたらここを出ていくつもりだった。
イシュタリア人なんて信用していなかったし、仲良くなるつもりもなかった。
姉の死を足蹴に生きている者達がどいつもこいつも憎くてたまらなかったから。
(……でも、こいつらは。あの人たちは)
こんな意地っ張りで口が悪い自分を守ってくれた。
料理だって普通だし、相変わらず口は良くないし、背は低いし。
誰も名前を呼んでくれなかったけれど、彼らだけは呼んでくれた。
(信じても……いいかも)
そう思えるくらい、温かかったのだ。
だから自然と返せた挨拶も、つまりそういうことで。
「……あの」
シェラは食堂を見渡す。
「リヒムは、どこに?」
「閣下ならもう仕事に向かいましたよ」
あと呼び方。と注意する侍従長。
「貴女が目覚めたら好きにさせていいと言われています。休日ですしね」
「好きに……」
「告白するなら時と場所を厳選して雰囲気を作ったほうがいいと思いますが」
「だ、誰がっ! そういう好きにじゃない!」
「冗談です」
「だから、あんたの冗談は笑えないんだってばっ!!」
どっと、その場に笑いが起こった。
釈然としないシェラに、スィリーンが微笑ましそうに言った。
「昨日のお礼を言いたいなら会いに行けば? 今日は会議だし、将軍府にいると思うわよ」
「将軍府」
内心が見透かされたようで面白くはないが、居場所が分かったのは僥倖だ。
シェラが口の中で目的地を転がしていると、スィリーンがお姉さん風をふかしてくる。
「一人で行ける? お姉ちゃんが付いていってあげようか」
「子ども扱いしないで。一人で行ける」
ぴしゃりと跳ねのけるシェラ。
凛と背筋を伸ばして食堂の扉に手をかけ、彼女はぴたりと立ち止まる。
それから肩を落として、振り返り、消え入りそうな顔で言った。
「……ごめん。やっぱり案内欲しい」
スィリーンはルゥルゥと顔を見合わせ、
「──もちろん!」
ぱっと、輝くような笑顔で頷いた。
2
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。
暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。
リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。
その翌日、二人の婚約は解消されることになった。
急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!
香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。
ある日、父親から
「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」
と告げられる。
伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。
その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、
伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。
親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。
ライアンは、冷酷と噂されている。
さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。
決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!?
そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる