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第二十四話 急報
しおりを挟む意外にも将軍府は月の宮の近くにあった。
そもそも月の宮自体がリヒムの管轄にあるのだから当然かもしれないが、これなら道を教えてもらえれば一人で行けたのにとシェラは思う。
「シェラちゃん、顔色が良くなってきたわね」
「元々こんな顔だけど」
「もう。そういう意味じゃないわよ。分かってるくせに」
「……」
「あ、そういえば明日にはシェラちゃんの服が仕立て終わるらしいわよ。楽しみね?」
「……そうね」
そういえばそういうこともあったな、と苦笑する。
つい数日前の出来事なのに、色々ありすぎて遠い日の出来事に思える。
「……あの服、どう着たらいいか分かんないけど」
「うふふ。もちろん。お姉ちゃんたちがご教授しますとも」
満面の笑みからシェラは顔を逸らす。
「…………ありがと。助かる」
ぼそりと呟くと、スィリーンは感極まったように抱き着いて来た。
「も~~~っ、シェラちゃんほんと可愛いわね! リヒム様が気に入るわけだわ」
「は? べ、別に。あんな奴……」
「リヒム様とのデートにも着て行きましょうね」
「で……!?」
顔が真っ赤になったシェラの頭を撫でまわして、スィリーンは背中を押した。
「ここよ」いつの間にか目的地に着いていたようだ。
将軍府の門前には物々しい兵士たちが立っていた。
顔なじみなのか、スィリーンが事情を話すと快く通してくれる。
「じゃあまだ仕事があるから、わたしは行くわね。帰りは大丈夫?」
「道は覚えたわ」
「いい子。気を付けて帰ってきてね」
「……ん」
頷くと、兵士が敬礼して言った。
「では自分が案内します。離れないように」
将軍府の中は冬眠した森を思わせる静けさに満ちていた。
調度品は少なく、品の良い大理石の床が広がっている。
左右には扉が並んでいて、宦官たちが忙しなく行き交っていた。
「おい、聞いたか。まさかあの方が……」
「こんなことがあるなんてな。閣下は相当お怒りだぞ」
「けど、まだ噂の段階だ。通達があるまでいつも通りにしないとな」
「……?」
囁くような声でやり取りする宦官たちにシェラは首をかしげる。
彼らがいう閣下がリヒムだとするなら、彼が怒っているということだろうか。
(火の宮の件かな)
自分のために動いてくれていると思うと、胸がむずむずする。
リヒムは姉の仇のはずなのに、どうしてこんな風に思ってしまうんだろう。
(……聞かなきゃ)
シェラが将軍府を訪れた理由がそれだった。
もちろん昨日助けてくれた礼も言わなければならないのだが、シェラとしてはお礼を言ったつもりなので、優先度は低い。それよりもリヒムが姉を殺した理由を聞いて、胸の中のもやもやを片付けてしまいたい。もしまた『戦争』だからみたいな理由ではぐらかすなら、今度こそあの家を出て行こう。シェラはそう決めていた。
「リヒム将軍。お客人をお連れしました」
案内役の兵士が扉をノックするが、返事はない。
再び呼びかけた彼は怪訝に思ったのか、首を傾げながらドアノブに手をかけた。
がちゃりと扉が開く。
「失礼します。リヒム閣下。月の宮の料理官が……あれ?」
執務室には誰もいなかった。
「おかしいですね。会議の連絡は受けていませんが」
「……留守なら結構です。出直します」
「すいません。そうしてもらえますか」
シェラは頷いた。元より火急の用というわけでもない。
自分の都合であることは重々承知しているので、夕食の時でも構わなかった。
「あれ? こんなところで何してるの?」
「ラーク補佐官!」
兵士が姿勢を正して敬礼する。
シェラも軽く頭を下げると、彼は「楽にして」と気さくに言った。
「なに、どうしたの? もしかして俺に会いに来た?」
「そんなわけないでしょ」
「おい、口の利き方──」
「あはは! いいよいいよ。君はそうでなくっちゃ」
ラークはほがらかに笑い。
「でもちょうどよかった。君を探していたんだよ」
不意に真剣な目になって言った。
「お姉さんの遺体が見つかった。一緒に来て欲しい」
「………………え?」
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