宮廷料理官は溺れるほど愛される~落ちこぼれ料理令嬢は敵国に売られて大嫌いな公爵に引き取られました~

山夜みい

文字の大きさ
24 / 34

第二十四話 急報

しおりを挟む
 
 意外にも将軍府は月の宮の近くにあった。
 そもそも月の宮自体がリヒムの管轄にあるのだから当然かもしれないが、これなら道を教えてもらえれば一人で行けたのにとシェラは思う。

「シェラちゃん、顔色が良くなってきたわね」
「元々こんな顔だけど」
「もう。そういう意味じゃないわよ。分かってるくせに」
「……」
「あ、そういえば明日にはシェラちゃんの服が仕立て終わるらしいわよ。楽しみね?」
「……そうね」

 そういえばそういうこともあったな、と苦笑する。
 つい数日前の出来事なのに、色々ありすぎて遠い日の出来事に思える。

「……あの服、どう着たらいいか分かんないけど」
「うふふ。もちろん。お姉ちゃんたちがご教授しますとも」

 満面の笑みからシェラは顔を逸らす。

「…………ありがと。助かる」

 ぼそりと呟くと、スィリーンは感極まったように抱き着いて来た。

「も~~~っ、シェラちゃんほんと可愛いわね! リヒム様が気に入るわけだわ」
「は? べ、別に。あんな奴……」
「リヒム様とのデートにも着て行きましょうね」
「で……!?」

 顔が真っ赤になったシェラの頭を撫でまわして、スィリーンは背中を押した。
「ここよ」いつの間にか目的地に着いていたようだ。
 将軍府の門前には物々しい兵士たちが立っていた。
 顔なじみなのか、スィリーンが事情を話すと快く通してくれる。

「じゃあまだ仕事があるから、わたしは行くわね。帰りは大丈夫?」
「道は覚えたわ」
「いい子。気を付けて帰ってきてね」
「……ん」

 頷くと、兵士が敬礼して言った。

「では自分が案内します。離れないように」

 将軍府の中は冬眠した森を思わせる静けさに満ちていた。
 調度品は少なく、品の良い大理石の床が広がっている。
 左右には扉が並んでいて、宦官ホアンたちが忙しなく行き交っていた。

「おい、聞いたか。まさかあの方が……」
「こんなことがあるなんてな。閣下は相当お怒りだぞ」
「けど、まだ噂の段階だ。通達があるまでいつも通りにしないとな」
「……?」

 囁くような声でやり取りする宦官たちにシェラは首をかしげる。
 彼らがいう閣下がリヒムだとするなら、彼が怒っているということだろうか。

(火の宮の件かな)

 自分のために動いてくれていると思うと、胸がむずむずする。
 リヒムは姉の仇のはずなのに、どうしてこんな風に思ってしまうんだろう。

(……聞かなきゃ)

 シェラが将軍府を訪れた理由がそれだった。
 もちろん昨日助けてくれた礼も言わなければならないのだが、シェラとしてはお礼を言ったつもりなので、優先度は低い。それよりもリヒムが姉を殺した理由を聞いて、胸の中のもやもやを片付けてしまいたい。もしまた『戦争』だからみたいな理由ではぐらかすなら、今度こそあの家を出て行こう。シェラはそう決めていた。

「リヒム将軍。お客人をお連れしました」

 案内役の兵士が扉をノックするが、返事はない。
 再び呼びかけた彼は怪訝に思ったのか、首を傾げながらドアノブに手をかけた。
 がちゃりと扉が開く。

「失礼します。リヒム閣下。月の宮の料理官が……あれ?」

 執務室には誰もいなかった。

「おかしいですね。会議の連絡は受けていませんが」
「……留守なら結構です。出直します」
「すいません。そうしてもらえますか」

 シェラは頷いた。元より火急の用というわけでもない。
 自分の都合であることは重々承知しているので、夕食の時でも構わなかった。

「あれ? こんなところで何してるの?」
「ラーク補佐官!」

 兵士が姿勢を正して敬礼する。
 シェラも軽く頭を下げると、彼は「楽にして」と気さくに言った。

「なに、どうしたの? もしかして俺に会いに来た?」
「そんなわけないでしょ」
「おい、口の利き方──」
「あはは! いいよいいよ。君はそうでなくっちゃ」

 ラークはほがらかに笑い。

「でもちょうどよかった。君を探していたんだよ」

 不意に真剣な目になって言った。

「お姉さんの遺体が見つかった。一緒に来て欲しい」
「………………え?」
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。

暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。 リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。 その翌日、二人の婚約は解消されることになった。 急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

処理中です...