24 / 34
第二十四話 急報
しおりを挟む意外にも将軍府は月の宮の近くにあった。
そもそも月の宮自体がリヒムの管轄にあるのだから当然かもしれないが、これなら道を教えてもらえれば一人で行けたのにとシェラは思う。
「シェラちゃん、顔色が良くなってきたわね」
「元々こんな顔だけど」
「もう。そういう意味じゃないわよ。分かってるくせに」
「……」
「あ、そういえば明日にはシェラちゃんの服が仕立て終わるらしいわよ。楽しみね?」
「……そうね」
そういえばそういうこともあったな、と苦笑する。
つい数日前の出来事なのに、色々ありすぎて遠い日の出来事に思える。
「……あの服、どう着たらいいか分かんないけど」
「うふふ。もちろん。お姉ちゃんたちがご教授しますとも」
満面の笑みからシェラは顔を逸らす。
「…………ありがと。助かる」
ぼそりと呟くと、スィリーンは感極まったように抱き着いて来た。
「も~~~っ、シェラちゃんほんと可愛いわね! リヒム様が気に入るわけだわ」
「は? べ、別に。あんな奴……」
「リヒム様とのデートにも着て行きましょうね」
「で……!?」
顔が真っ赤になったシェラの頭を撫でまわして、スィリーンは背中を押した。
「ここよ」いつの間にか目的地に着いていたようだ。
将軍府の門前には物々しい兵士たちが立っていた。
顔なじみなのか、スィリーンが事情を話すと快く通してくれる。
「じゃあまだ仕事があるから、わたしは行くわね。帰りは大丈夫?」
「道は覚えたわ」
「いい子。気を付けて帰ってきてね」
「……ん」
頷くと、兵士が敬礼して言った。
「では自分が案内します。離れないように」
将軍府の中は冬眠した森を思わせる静けさに満ちていた。
調度品は少なく、品の良い大理石の床が広がっている。
左右には扉が並んでいて、宦官たちが忙しなく行き交っていた。
「おい、聞いたか。まさかあの方が……」
「こんなことがあるなんてな。閣下は相当お怒りだぞ」
「けど、まだ噂の段階だ。通達があるまでいつも通りにしないとな」
「……?」
囁くような声でやり取りする宦官たちにシェラは首をかしげる。
彼らがいう閣下がリヒムだとするなら、彼が怒っているということだろうか。
(火の宮の件かな)
自分のために動いてくれていると思うと、胸がむずむずする。
リヒムは姉の仇のはずなのに、どうしてこんな風に思ってしまうんだろう。
(……聞かなきゃ)
シェラが将軍府を訪れた理由がそれだった。
もちろん昨日助けてくれた礼も言わなければならないのだが、シェラとしてはお礼を言ったつもりなので、優先度は低い。それよりもリヒムが姉を殺した理由を聞いて、胸の中のもやもやを片付けてしまいたい。もしまた『戦争』だからみたいな理由ではぐらかすなら、今度こそあの家を出て行こう。シェラはそう決めていた。
「リヒム将軍。お客人をお連れしました」
案内役の兵士が扉をノックするが、返事はない。
再び呼びかけた彼は怪訝に思ったのか、首を傾げながらドアノブに手をかけた。
がちゃりと扉が開く。
「失礼します。リヒム閣下。月の宮の料理官が……あれ?」
執務室には誰もいなかった。
「おかしいですね。会議の連絡は受けていませんが」
「……留守なら結構です。出直します」
「すいません。そうしてもらえますか」
シェラは頷いた。元より火急の用というわけでもない。
自分の都合であることは重々承知しているので、夕食の時でも構わなかった。
「あれ? こんなところで何してるの?」
「ラーク補佐官!」
兵士が姿勢を正して敬礼する。
シェラも軽く頭を下げると、彼は「楽にして」と気さくに言った。
「なに、どうしたの? もしかして俺に会いに来た?」
「そんなわけないでしょ」
「おい、口の利き方──」
「あはは! いいよいいよ。君はそうでなくっちゃ」
ラークはほがらかに笑い。
「でもちょうどよかった。君を探していたんだよ」
不意に真剣な目になって言った。
「お姉さんの遺体が見つかった。一緒に来て欲しい」
「………………え?」
1
あなたにおすすめの小説
【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新 完結済
コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。
みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。
死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。
母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。
無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。
王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え?
「ファビアン様に死期が迫ってる!」
王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ?
慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。
不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。
幸せな結末を、ぜひご確認ください!!
(※本編はヒロイン視点、全5話完結)
(※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします)
※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる