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第二章 死者蘇生 ―レイズデッド―
トレーニング
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§ § §
御影学園の学生寮は敷地内のいたる所にあります。
学園の規模が規模だけに学生の在籍数も恐らく世界一、そんな生徒達が住む場所も色々とあります。
一般的なアパート、マンション、シェアハウスタイプから、昭和初期に好事家が建設した洋館から旅館のような学生寮まで、バリエーションに事欠きません。
そんな御影学園でメクルが住むマンションは人里離れた山間にありました。
マンションへと続く道も整備されたアスファルトの私道が一本だけです。
虫と動物の鳴き声と木々のざわめきしか聞こえないような山の中にぽつんと建てられた8階建てマンション。
マンションとしては奇妙な事にベランダや廊下のようなものが外見からは見受けられず、のっぺりとした黒い鏡で覆われ、端から端まで50メートル程の直方体、デザイナーズマンションと呼ぶよりも、何かの研究施設だと言われた方がしっくり外観でした。
30世帯ほどが住めそうなマンション、そこに住むのはメクル、ただ一人。
このマンションに見える全てがメクルの所有物、マンションに見えるその実は一戸建てです。
そんなメクルはとくれば現在マンションの最上階フロア、7階と8階をぶち抜いて作ったトレーニングエリアにいました。
黒いスモークガラスで覆われた広いトレーニングエリアです。
ありとあらゆるトレーニング器具が並び、ルームランナーはなぜか5台も設置されています。パイプや歩み板、吊り橋や一本橋、ネットやロープで組み上げたアスレチックエリアはパルクールの練習のために作りました。流行のスポーツ鬼ごっこもできる完成度です。
そんな中、メクルは鉄棒を組み合わせた懸垂マシンにぶら下がっていました。
「……58」
呟きと共に両腕と腹筋に力を込めて身体を持ち上げる、懸垂運動です。
顔には酸素濃度を低くする特殊な黒いマスクを付け、身体にぴったりとフィットした黒い上下の半袖スポーツウェア姿にはすでに汗染みができていました。
「……59」
メクルは日課であるトレーニングを現実世界にいる間は欠かした事がありません。
自らのイメージする動き、それらを常に100%体現するためにも、これは欠かせない肉体への負荷テストでした。自らの体重を引き上げられない両腕では壁の一つ超えられません。
最高のパフォーマンスを発揮するためにも、そして今よりさらにできることを広げるため、メクルは今一度両腕に力を込めます。細く締まった腕から肩へ、肩から背中へ、無駄な力がかからないように腹筋も締め上げます。
「ろ、60っ!」
最後の懸垂運動が終えるとメクルはパッと手を離して着地します。
ドシンっ! と、明らかに細身の乙女が着地したとは思えない大きな音がしました。
「……きっつぅ」
メクルは着地と同時に尻餅をつき、肩で息を切らしながら腰に手を回して重りのベルトを外します。スキューバーダイビングに用いられる重りで25キロあります。
ようやく軽くなったと立ち上がると、近くにかけてあったタオルをつかみ取り、マスクを外して汗まみれになった顔や頭を拭きました。
そのままタオルを首にかけると、これもまた近くに置いてあった水のボトルに手をつけます。ペットボトルを傾けると冷たい水が暑くなった身体へと流れるのが分かります。
焼けた鉄に水をかけたような気持ちになります。メクルの身体からは白い湯気が立ち上がりました。
500㎜ℓを一気に飲み終わると近くにあったゴミ箱に投げ入れ、そして、
「スピナー、モニター、オン、朝のニュースからピックアップ、ワードは『事件』」
『畏まりました』
そうメクルが呟くと、近くのスマートスピーカーからAIの合成音がします。
生活を『回す物』メクルが名付けたAIの名前です。
主の命令はすぐさま実行され、スモークガラスだと思われていた壁の一面に映像がでます。ジムエリアのスモークガラスは全てモニターにする事ができます、やろうと思えば壁全面をモニターにして巨大シアターにもできる高級設備です。
軽いストレッチをしながらメクルは今朝のニュースを眺めます。
学生同士の喧嘩、繁華街での小火、あとは小さな窃盗事件が何件とニュースがAIによってピックアップされて流れます。そのどれもがメクルの求める情報ではありませんでした。
「お土産屋の木刀と旗が盗まれたって、変な泥棒……スピナー、モニターオフ」
あれから2日が経ちました。
現れた帰還者を探し出して2日、学園が予め異世界転生の可能性を占い部により予知していた最初の8人は全員が白だった時点で、事件が長丁場になるのは回避できなくなりました。
つまり完全にイレギュラーで現れた9人目の候補者の所在は不明。
厳戒態勢となった御影学園生徒会は学園街の人間を全てチェックします。
それだけ帰還者の存在が見つからないという現状は、危機的でした。
誰もがチート能力者を欲しがります。
各国のエージェントはこんな時を逃しません、できる事なら自国へと連れ帰りたいと御影学園内にて息を潜めています。
両者とも血眼になり能力者を探す争奪戦になっていました。
生徒手帳に備えられたICチップを用いて突然消えた生徒がいないか、不登校になった生徒はいないかと目を光らせていますが、未だ見つかっていませんでした。
確かなのは、生徒会と天文部と占い部の協力捜査の元、帰還者は未だこの学園内に留まっているという事だけです。
最初に帰還者の存在を察知した天文部、星埜キラリはこう言います。
『私の能力だけだと正確な座標とかが分かるとかじゃないんだにゃー、私はどっちかと言うと現在、今の御影学園を見張ってる担当で、その見張ってた水面に一滴の泥粒が落ちたのを察知したって感じかなぁ、だからすぐに水に溶けて見えなくなったんだけど、でも濁りは消えないから、まだ学園内にはいるって分かるくらい』
チートとはいえ全ての事象における万能という人物は今のところ存在しません。
一長一短、個性はそれぞれです。
そんな個人の限界を超えるため、または制御するために自分たちはチームとなりました。
それでもまだ学園に紛れ込んだ人間一人を見つけるに至っていません。
メクルは力足らずの自分に悔しさを感じながら、次のトレーニングへと移りました。
§ § §
筋力トレーニングの日課を終え、汗まみれのウェアを着替えてから長袖のパーカーを羽織ったメクルは地下二階へとエレベーターでやってきました。
地下二階、そこは屋内射撃場に改造した防音エリアです。
扉を開けるとAIがメクルを探知して射撃所に明かりを灯します。
コンクリート張りの壁にはメクルが得意とする銃器の数々が立てかけられています。
メンテナンスは自分でも行っていますが、懇意にしている手芸部の友達がちょくちょく訪れては清掃とメンテナンスと、時に魔改造を施しては帰って行きます。
今回はそんな並んだ黒光りする縦列から今日は2丁を選び、カウンターへと並べます。
まずは大きなアサルトライフルを手に取りました。
『TPD-AXR』はオーストリアの大手銃器メーカーが制作したSFちっくな名銃ステアーAUGをアメリカのメーカーが改良しオリジナルブランドに仕上げた一品です。
トリガーの後ろに銃の機関部を設置する事により銃そのものを短く、取り回しが容易になるようにとコンパクトに仕上げた独自のブルパップ方式、かつアタッチメント交換の自由度も高く、状況によって使い分ける事ができる応用性と携帯性を併せ持つので、メクルはそこが気に入っています、とてもお気に入りです。
次に小さな銃、ハンドガンを手に取ります。
ハンドガンは『M9』よくイタリアの名作中の名作、ベレッタシリーズのベレッタM92と勘違いされますが、メクルが使用しているのは、これもオーストリアの銃器メーカーが制作した一品で、正式名称を『ステアーM9-A1』、その中から9x19mmパラベラム弾を使用するタイプの物を『M9』と呼称します。
強化プラスチックのグリップとフレーム、スライドはスチールと軽量、さらに弾薬数を増やすためのダブルカラム方式マガジン、ダブルアクションオンリーのデザインで、グリップよりも少し後ろにお尻がでてくる可愛い銃です。これもお気に入りです、超お気に入りです。
AXRを手にしたメクルは手早く装備の状況を点検、ニュートラルセットとして装着してあるアタッチメントをチェックすると、タクティカルスコープを覗き込み調整します。最後に弾薬を装填し、防音のヘッドホンを着けてから、
「スピナー、中距離想定で的を出して」
『畏まりました』
AIの返事と共に射撃レーンの奥でハンガーに吊された的が現れます。
ストックを右肩へと当て、右目でスコープを覗き込みます。
距離は15メートル。
セーフティーを外し、無駄な身体の力を抜き、息を吸い、吐き、まずは3発。
タタタンと小気味の良い音が反響します。
肩にかかる圧を感じながらさらに3発。
衝撃を腕で殺そうとすれば自ずと力み、例え僅かな力みでも弾は思った場所へと飛びません。
脱力、手首の力を抜き、肘を落とし、脇を締める。これで銃と上半が一体化します。
「連続でランダム」
『畏まりました』
メクルがそう呟くと、AIが新しい的を次々にレールを走らせレーンへと持ってきます。
現れる的を再び3発、3発、3発、と弾倉が空になるまで続けて撃ちます。
「スピナー、三枚をスライドさせて、速度15キロ」
マガジンを交換しながら、気になった部分を調整します。
『畏まりました、三枚をスライド、速度は15キロです』
今度は的が一定の速度でスライドし続けます。
動き続ける的にその場で留まって当てる練習です。
新しく装填したAXRを構え、息を整えます。
動き続ける的に向けて、先ほどと同じように3発、3発、3発と、メクルは撃ち続けます。速度を変え、時には動きをランダムにして、あらゆる可能性に合わせて練習を行います。
「新しいのを、それと的の数を二枚増やして」
メクルの射撃の師匠は良くこう言いました、
『狙って撃つなら誰でもできる、お前は撃ちながら狙え、流れるように次へ、撃ちながら次へ、撃ちながら次の先を読め、お前のその能力と俺様の射撃技術が合わされば世界中の人間を殺せる』と。
『畏まりました』
メクルは再装填を済ませると今度は射撃カウンターを飛び越えて中へと入りました。
一般的な射撃場ではまずマナー違反ではありますが、もちろん怒る人はいません。
動き出した的に向かってAXRを構えた状態でメクルは歩き出します。
そして歩みを止めること無く撃ちました。
両手に抱えたコップの水を溢さないように歩くイメージで、歩きながら撃つを繰り返します。反動を肩に吸収させ、タタンタタンタタンとリズムよく歩きながら的を撃ち抜きます。
ここまでをワンセットにして、これをハンドガンも同様に練習を繰り返しました。
「スピナー、訓練終了、スコアは?」
射撃場が硝煙の香りで満ちたところでメクルが訪ねると、AIはすぐに打ち抜かれた的をカメラで撮影し、カウンターのモニターへと映し出し、命中率を計算して表示しました。
『発射弾薬数335発、命中率89%、クリティカル72%、前回よりスコアが落ちましたね』
「それは三ヶ月も向こうにいたからで……いえ、言い訳です、ごめんなさい」
『特別コーチにレッスンの依頼を送りますか? ニコラウス様なら現在日本におられます』
「師匠が日本に? あー、いいよ……ニコラウスさん、また息子の嫁になれとか言い出しそうだし」
『畏まりました』
メクルはもう一度スコアの表示を見て、ため息をつきます。
そのスコアはベテランの軍人が見てもまずまずのスコアです。ましてや女子高生のメクルの筋力でここまで制御するのは充分に至難の業でした。
しかしメクルは、
「……やっぱり鈍ったかな」
納得できないと、肩をすくめました。
もう一度練習すべきかを悩んだ所で、メクルのスマホが鳴りました。
画面を一度眺めてから銃を置きます。
「スピナー、来客が来たから掃除しといて」
『畏まりました、本日使用した弾丸の発注を行いますか』
「オフコース」
そう言い残して、射撃場を後にしました。
メクルが扉を閉めると、部屋の角から円形のお掃除ロボットが稼働し、カコン、コロンと空薬莢を吸い込み始めました。
御影学園の学生寮は敷地内のいたる所にあります。
学園の規模が規模だけに学生の在籍数も恐らく世界一、そんな生徒達が住む場所も色々とあります。
一般的なアパート、マンション、シェアハウスタイプから、昭和初期に好事家が建設した洋館から旅館のような学生寮まで、バリエーションに事欠きません。
そんな御影学園でメクルが住むマンションは人里離れた山間にありました。
マンションへと続く道も整備されたアスファルトの私道が一本だけです。
虫と動物の鳴き声と木々のざわめきしか聞こえないような山の中にぽつんと建てられた8階建てマンション。
マンションとしては奇妙な事にベランダや廊下のようなものが外見からは見受けられず、のっぺりとした黒い鏡で覆われ、端から端まで50メートル程の直方体、デザイナーズマンションと呼ぶよりも、何かの研究施設だと言われた方がしっくり外観でした。
30世帯ほどが住めそうなマンション、そこに住むのはメクル、ただ一人。
このマンションに見える全てがメクルの所有物、マンションに見えるその実は一戸建てです。
そんなメクルはとくれば現在マンションの最上階フロア、7階と8階をぶち抜いて作ったトレーニングエリアにいました。
黒いスモークガラスで覆われた広いトレーニングエリアです。
ありとあらゆるトレーニング器具が並び、ルームランナーはなぜか5台も設置されています。パイプや歩み板、吊り橋や一本橋、ネットやロープで組み上げたアスレチックエリアはパルクールの練習のために作りました。流行のスポーツ鬼ごっこもできる完成度です。
そんな中、メクルは鉄棒を組み合わせた懸垂マシンにぶら下がっていました。
「……58」
呟きと共に両腕と腹筋に力を込めて身体を持ち上げる、懸垂運動です。
顔には酸素濃度を低くする特殊な黒いマスクを付け、身体にぴったりとフィットした黒い上下の半袖スポーツウェア姿にはすでに汗染みができていました。
「……59」
メクルは日課であるトレーニングを現実世界にいる間は欠かした事がありません。
自らのイメージする動き、それらを常に100%体現するためにも、これは欠かせない肉体への負荷テストでした。自らの体重を引き上げられない両腕では壁の一つ超えられません。
最高のパフォーマンスを発揮するためにも、そして今よりさらにできることを広げるため、メクルは今一度両腕に力を込めます。細く締まった腕から肩へ、肩から背中へ、無駄な力がかからないように腹筋も締め上げます。
「ろ、60っ!」
最後の懸垂運動が終えるとメクルはパッと手を離して着地します。
ドシンっ! と、明らかに細身の乙女が着地したとは思えない大きな音がしました。
「……きっつぅ」
メクルは着地と同時に尻餅をつき、肩で息を切らしながら腰に手を回して重りのベルトを外します。スキューバーダイビングに用いられる重りで25キロあります。
ようやく軽くなったと立ち上がると、近くにかけてあったタオルをつかみ取り、マスクを外して汗まみれになった顔や頭を拭きました。
そのままタオルを首にかけると、これもまた近くに置いてあった水のボトルに手をつけます。ペットボトルを傾けると冷たい水が暑くなった身体へと流れるのが分かります。
焼けた鉄に水をかけたような気持ちになります。メクルの身体からは白い湯気が立ち上がりました。
500㎜ℓを一気に飲み終わると近くにあったゴミ箱に投げ入れ、そして、
「スピナー、モニター、オン、朝のニュースからピックアップ、ワードは『事件』」
『畏まりました』
そうメクルが呟くと、近くのスマートスピーカーからAIの合成音がします。
生活を『回す物』メクルが名付けたAIの名前です。
主の命令はすぐさま実行され、スモークガラスだと思われていた壁の一面に映像がでます。ジムエリアのスモークガラスは全てモニターにする事ができます、やろうと思えば壁全面をモニターにして巨大シアターにもできる高級設備です。
軽いストレッチをしながらメクルは今朝のニュースを眺めます。
学生同士の喧嘩、繁華街での小火、あとは小さな窃盗事件が何件とニュースがAIによってピックアップされて流れます。そのどれもがメクルの求める情報ではありませんでした。
「お土産屋の木刀と旗が盗まれたって、変な泥棒……スピナー、モニターオフ」
あれから2日が経ちました。
現れた帰還者を探し出して2日、学園が予め異世界転生の可能性を占い部により予知していた最初の8人は全員が白だった時点で、事件が長丁場になるのは回避できなくなりました。
つまり完全にイレギュラーで現れた9人目の候補者の所在は不明。
厳戒態勢となった御影学園生徒会は学園街の人間を全てチェックします。
それだけ帰還者の存在が見つからないという現状は、危機的でした。
誰もがチート能力者を欲しがります。
各国のエージェントはこんな時を逃しません、できる事なら自国へと連れ帰りたいと御影学園内にて息を潜めています。
両者とも血眼になり能力者を探す争奪戦になっていました。
生徒手帳に備えられたICチップを用いて突然消えた生徒がいないか、不登校になった生徒はいないかと目を光らせていますが、未だ見つかっていませんでした。
確かなのは、生徒会と天文部と占い部の協力捜査の元、帰還者は未だこの学園内に留まっているという事だけです。
最初に帰還者の存在を察知した天文部、星埜キラリはこう言います。
『私の能力だけだと正確な座標とかが分かるとかじゃないんだにゃー、私はどっちかと言うと現在、今の御影学園を見張ってる担当で、その見張ってた水面に一滴の泥粒が落ちたのを察知したって感じかなぁ、だからすぐに水に溶けて見えなくなったんだけど、でも濁りは消えないから、まだ学園内にはいるって分かるくらい』
チートとはいえ全ての事象における万能という人物は今のところ存在しません。
一長一短、個性はそれぞれです。
そんな個人の限界を超えるため、または制御するために自分たちはチームとなりました。
それでもまだ学園に紛れ込んだ人間一人を見つけるに至っていません。
メクルは力足らずの自分に悔しさを感じながら、次のトレーニングへと移りました。
§ § §
筋力トレーニングの日課を終え、汗まみれのウェアを着替えてから長袖のパーカーを羽織ったメクルは地下二階へとエレベーターでやってきました。
地下二階、そこは屋内射撃場に改造した防音エリアです。
扉を開けるとAIがメクルを探知して射撃所に明かりを灯します。
コンクリート張りの壁にはメクルが得意とする銃器の数々が立てかけられています。
メンテナンスは自分でも行っていますが、懇意にしている手芸部の友達がちょくちょく訪れては清掃とメンテナンスと、時に魔改造を施しては帰って行きます。
今回はそんな並んだ黒光りする縦列から今日は2丁を選び、カウンターへと並べます。
まずは大きなアサルトライフルを手に取りました。
『TPD-AXR』はオーストリアの大手銃器メーカーが制作したSFちっくな名銃ステアーAUGをアメリカのメーカーが改良しオリジナルブランドに仕上げた一品です。
トリガーの後ろに銃の機関部を設置する事により銃そのものを短く、取り回しが容易になるようにとコンパクトに仕上げた独自のブルパップ方式、かつアタッチメント交換の自由度も高く、状況によって使い分ける事ができる応用性と携帯性を併せ持つので、メクルはそこが気に入っています、とてもお気に入りです。
次に小さな銃、ハンドガンを手に取ります。
ハンドガンは『M9』よくイタリアの名作中の名作、ベレッタシリーズのベレッタM92と勘違いされますが、メクルが使用しているのは、これもオーストリアの銃器メーカーが制作した一品で、正式名称を『ステアーM9-A1』、その中から9x19mmパラベラム弾を使用するタイプの物を『M9』と呼称します。
強化プラスチックのグリップとフレーム、スライドはスチールと軽量、さらに弾薬数を増やすためのダブルカラム方式マガジン、ダブルアクションオンリーのデザインで、グリップよりも少し後ろにお尻がでてくる可愛い銃です。これもお気に入りです、超お気に入りです。
AXRを手にしたメクルは手早く装備の状況を点検、ニュートラルセットとして装着してあるアタッチメントをチェックすると、タクティカルスコープを覗き込み調整します。最後に弾薬を装填し、防音のヘッドホンを着けてから、
「スピナー、中距離想定で的を出して」
『畏まりました』
AIの返事と共に射撃レーンの奥でハンガーに吊された的が現れます。
ストックを右肩へと当て、右目でスコープを覗き込みます。
距離は15メートル。
セーフティーを外し、無駄な身体の力を抜き、息を吸い、吐き、まずは3発。
タタタンと小気味の良い音が反響します。
肩にかかる圧を感じながらさらに3発。
衝撃を腕で殺そうとすれば自ずと力み、例え僅かな力みでも弾は思った場所へと飛びません。
脱力、手首の力を抜き、肘を落とし、脇を締める。これで銃と上半が一体化します。
「連続でランダム」
『畏まりました』
メクルがそう呟くと、AIが新しい的を次々にレールを走らせレーンへと持ってきます。
現れる的を再び3発、3発、3発、と弾倉が空になるまで続けて撃ちます。
「スピナー、三枚をスライドさせて、速度15キロ」
マガジンを交換しながら、気になった部分を調整します。
『畏まりました、三枚をスライド、速度は15キロです』
今度は的が一定の速度でスライドし続けます。
動き続ける的にその場で留まって当てる練習です。
新しく装填したAXRを構え、息を整えます。
動き続ける的に向けて、先ほどと同じように3発、3発、3発と、メクルは撃ち続けます。速度を変え、時には動きをランダムにして、あらゆる可能性に合わせて練習を行います。
「新しいのを、それと的の数を二枚増やして」
メクルの射撃の師匠は良くこう言いました、
『狙って撃つなら誰でもできる、お前は撃ちながら狙え、流れるように次へ、撃ちながら次へ、撃ちながら次の先を読め、お前のその能力と俺様の射撃技術が合わされば世界中の人間を殺せる』と。
『畏まりました』
メクルは再装填を済ませると今度は射撃カウンターを飛び越えて中へと入りました。
一般的な射撃場ではまずマナー違反ではありますが、もちろん怒る人はいません。
動き出した的に向かってAXRを構えた状態でメクルは歩き出します。
そして歩みを止めること無く撃ちました。
両手に抱えたコップの水を溢さないように歩くイメージで、歩きながら撃つを繰り返します。反動を肩に吸収させ、タタンタタンタタンとリズムよく歩きながら的を撃ち抜きます。
ここまでをワンセットにして、これをハンドガンも同様に練習を繰り返しました。
「スピナー、訓練終了、スコアは?」
射撃場が硝煙の香りで満ちたところでメクルが訪ねると、AIはすぐに打ち抜かれた的をカメラで撮影し、カウンターのモニターへと映し出し、命中率を計算して表示しました。
『発射弾薬数335発、命中率89%、クリティカル72%、前回よりスコアが落ちましたね』
「それは三ヶ月も向こうにいたからで……いえ、言い訳です、ごめんなさい」
『特別コーチにレッスンの依頼を送りますか? ニコラウス様なら現在日本におられます』
「師匠が日本に? あー、いいよ……ニコラウスさん、また息子の嫁になれとか言い出しそうだし」
『畏まりました』
メクルはもう一度スコアの表示を見て、ため息をつきます。
そのスコアはベテランの軍人が見てもまずまずのスコアです。ましてや女子高生のメクルの筋力でここまで制御するのは充分に至難の業でした。
しかしメクルは、
「……やっぱり鈍ったかな」
納得できないと、肩をすくめました。
もう一度練習すべきかを悩んだ所で、メクルのスマホが鳴りました。
画面を一度眺めてから銃を置きます。
「スピナー、来客が来たから掃除しといて」
『畏まりました、本日使用した弾丸の発注を行いますか』
「オフコース」
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メクルが扉を閉めると、部屋の角から円形のお掃除ロボットが稼働し、カコン、コロンと空薬莢を吸い込み始めました。
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