あなたの隣で愛を囁く

ハゼミ

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気管切開

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 カズくんは、しばらく危険な状態が続いた。
 医師からも病状説明をされるが、どうなるかは分からないとの説明で、私は心細い日々を送っていた。
 救いだったのは、この頃から小沢さんと言う家族ぐるみでお付き合いのある方のお宅に身を寄せ、一人ではなかったと言うことだった。
 それは、とてもありがたいことだった。
 なぜなら、それは無償であったから。
 日中は仕事をして、夕方はカズくんの病院へ行く私は、食事も取れず。夜は一人で家で泣いていた。
 これからどうなっていくのか分からない、途方もない孤独。
 それを小沢さんのご家族が、ご飯の面倒を見てくださり、私に話しかけてくれた。
 私は、本当にこの時ほど人との付き合いは大切だと思ったことはない。
 
 
 さて、そんなこんなで、私は、毎日仕事が終わると、カズくんのところへとやってきては、薬で眠らされている夫に声をかける。
 人工呼吸器につかがれて、呼吸に合わせて機械がシューッ、シューッと絶え間なくなり続ける。
 私は思い当たる楽しい話を微動だにしないカズくんに話しかける。
 無機質で、永遠にそれが続くんじゃないのかと思わされる時間・・・
 そして、時間になると、カズくんの頬にキスをして小沢さんの家へと帰っていった。
 
 
 そんな事を2週間が、当たり前のような日々になりつつある頃。
 医師より話があると声をかけられた。
 ナースステーションのパソコンの前に連れていかれると、主治医はこう切り出してきた。
「そろそろ、人工呼吸器も長くなってきましたので、口からの管をやめて、喉に穴を開けて人工呼吸器をつけようと思います」
 私は、ノロノロと主治医に質問をした。
「人工呼吸器はまだ外せないんでしょうか?」
主治医は、
「少しずつですが、肺の方は良くなってきていますが、まだあれ人工呼吸器を外すのは早すぎます。ですので、気管切開をして行きたいのです。」
 私は少々戸惑ったが、結局主治医の話に同意せざる追えなかった。
 何せ、人工呼吸器をし、毎日透析をし、点滴も薬も山のように投薬されていて、それで、のだから・・・
 私は同意書を書き、それを主治医に渡した。

 
 気管切開は、同意書を書いた二日後に行われた。
 思ったよりも作ったのは早かった様で。
 私が仕事を終えて病院に来ると、今まで顔にあった人工呼吸器の管は消え去り、代わりに喉に管が付いていた。
 カズくんの表情は、どことなく穏やかに見え、私は少しホッとした。
 左頬に絆創膏がしてあったので、看護師さんに聞くと、
「管を止めるのに顔にテープで固定するんですが、それのせいで潰瘍ができてしまって。それでお薬を塗って絆創膏ご貼ってあります」
とのことだった。
 私はカズくんの少し浮腫んだ手を握り、その手を開いたり閉じたりさせながら、
「カズくん、頑張ったね。顔が見える様になってね。よかったね・・・」
と、喜んで見せた。
 無表情に見えるカズくんの顔が、どこか安らいている様に私には見えた。
 
 
 
 
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