鹿翅島‐しかばねじま‐

犬河内ねむ(旧:寝る犬)

文字の大きさ
3 / 42
鬼頭 彩萌(きとう あやめ)の場合(◇ホラー◇アクション)

鬼頭 彩萌(きとう あやめ)の場合(2/3)

しおりを挟む
 ジャンプして何匹かまとめて蹴り倒し、両手に持った合金製の日本刀で頭を貫く。
 ここまでに何十匹かゾンビを倒した経験上、おでこの中心を深く突き刺せば、ゾンビが動かなくなることは分かっていた。

――ぱぱぱぱぱっ
――ぱぱぱぱぱっ

 左右から寄ってくるゾンビの頭を打ち抜いて『すくみ』を発生させ、時間を作ってから各個撃破。

 あたしは周囲のゾンビ数十匹を殲滅したことを確認して、災害用ライフラインベンダー機能付きの自動販売機にあるオレンジ色のカバーを破って、中から取り出したスポーツドリンクをごくごくと飲んだ。
 ペットボトルの水でゴーグルの血糊を洗い流して荒い息を吐く。
 結構疲れたけど、ゆーちゃんの家までもう少しだ。

 あたしはなんだかとっても楽しくなってしまって、深呼吸とストレッチで体をほぐした。

 FPSより全然リアルで楽しいし、ここまでにゾンビから助けた人も数十人になる。
 これが夢でなければ、あたし、表彰とかされちゃうかも。

 途中、4WDの車でゾンビを轢き殺しまくってる人とか、笑いながら防犯ブザーでゾンビを集めて灯油をかけ、「ファイヤー!」と燃やしている人も見かけた。
 たぶん楽しんでるのはあたしだけじゃない。

「……あははっ! ははっ! たのしー! なにこれっ!」

 思わず叫んで走り出したあたしに、ゾンビがずるずると押し寄せる。
 群がって来た何匹かのゾンビの首を日本刀で斬って落とし、BB弾を叩きこんだ。
 それでも噛みつこうとする顎を体を沈めて躱す。
 たたらを踏んだゾンビの顔面に、下から突き上げるような後ろ回し蹴りを叩きこんで、あたしはひるがえるスカートを押さえた。

 日本刀の使い方も分かってきた。

 刀身が首に触れた瞬間、手前に引くようにスライドさせて斬る。
 突く場合は、刀身の反りに合わせて少し上方へと向けて突く。
 こうして両サイドのゾンビをなで斬りにしながら、あたしは流れる汗を制服のリボンで拭いて、ゆーちゃんの家へと走った。

 到着したゆーちゃんの家は、すごく静かだ。
 外の状況が無ければここがゾンビに襲われているだなんて思えない。
 あたしはちょっと戸惑って、一応呼び鈴ピンポンを鳴らした。

 返事は無いだろうと思っていたけど、意外にも返事はあった。
 でもそれは、いつもの元気なゆーちゃんのママの「はーい」と言う声じゃなく、「ヴぁアァァぁァ……」と言う唸り声。
 家の中でピンポーンと鳴るスピーカーに向かって、ゾンビが向かってゆく音だった。

 居る。
 やっぱりゾンビは居る。
 門を抜けて玄関へ向かう。鍵のかかっていない玄関ドアを開け、あたしはそっとゆーちゃんの家に忍び込んだ。
 玄関は案外薄暗い。体を低くしてゆっくり移動すしていると、キッチンの方から例のうなり声が聞こえてきた。

 いくらゾンビだとは言え、あの明るいゆーちゃんのママを殺すのは忍びないと思って、そっと音をたてないようにダイニングキッチンの前を通り抜ける。
 まだ聞こえてくる唸り声の方向を見ないようにしながら、あたしは2階のゆーちゃんの部屋へと向かった。

 階段を上る。こう言うのって「勝手知ったる他人の家」って言うんだっけ?
 何度も遊びに来ているから良く知っている家の中をあたしは迷わずに進んで、ゆーちゃんの部屋の前にたどり着いた。
 そーっとドアノブを握って部屋のドアを開けようとしたけど、何か重いもので塞がれているようでドアはなかなか開かない。
 それでも思いっきり押したら、ドアはそこに置いてあった学習机と一緒に「ぎぎっ」と軋んでゆっくりと開いた。

「……ゆーちゃーん。助けに来たよー」

 下のゆーちゃんママに聞こえないようにそっと、あたしは声をかける。
 でもゆーちゃんの返事は無かった。
 さっきの怯えようだと、その辺に隠れてるんだろう。この部屋に隠れられそうな場所なんか1か所しかない。
 あたしは「ゆーちゃーん」と声を掛けながら、クローゼットの扉を開いた。

――ざくっ

 クローゼットが開くと同時に閃いたカッターナイフの刃が、あたしの太腿をえぐる。
 1センチくらい突き刺さったその刃は、途中でパキンと折れて、床に落ちた。

「いっっっ!! ……っったぁいっ!!」

「え?」

 両手で美術の時間に使うカッターを握りしめたゆーちゃんが、あたしの足元に転がる。あたしもそのまま押され、どんっと尻餅をついて、血の流れる太腿を押さえた。

「いぃぃ……いたぁい! なにすんのよ!」

「え? あ? あれ? あやめちゃん?」

「あやめちゃん? じゃないわよ!」

「ご……ごめん」

「ごめんじゃ……あぁ、まぁいいや。あたしもごめん」

「え?」

 不思議そうにあたしを見上げるゆーちゃんを見たまま、背中に背負ったM-16の引き金を引く。
 そこから発射された数十発のBB弾は、音も無くあたしの背後に迫っていた、恐ろしい顔のゆーちゃんママを打ち抜いた。
 白い歯が剥き出しになった顎先を喉元から貫通して口の中へ。
 そのゾンビは、どす黒い血を噴出しながら、仰向けに転がった。

 太腿の傷が痛くて立ち上がれないあたしは、刃のない日本刀じゃなく、本当に刃のついているM-9でゾンビの頭を床に打ち付ける。
 びくんと体を震わせたゾンビは、それきり動かなくなった。

「ゆーちゃん、ゆーちゃんママ……ごめんね」

 銃剣を引き抜く。
 とぷんとあふれる血。
 ゆーちゃんは後ろからあたしに縋り付き、背中に顔を押し付けて震えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

まばたき怪談

坂本 光陽
ホラー
まばたきをしないうちに読み終えられるかも。そんな短すぎるホラー小説をまとめました。ラスト一行の恐怖。ラスト一行の地獄。ラスト一行で明かされる凄惨な事実。一話140字なので、別名「X(旧ツイッター)・ホラー」。ショートショートよりも短い「まばたき怪談」を公開します。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

百々五十六の小問集合

百々 五十六
ライト文芸
不定期に短編を上げるよ ランキング頑張りたい!!! 作品内で、章分けが必要ないような作品は全て、ここに入れていきます。 毎日投稿頑張るのでぜひぜひ、いいね、しおり、お気に入り登録、よろしくお願いします。

処理中です...