3 / 57
一章
討伐です
しおりを挟む
グァァオオオオオォォァァォォォ
足でボーンベアを踏みつけ、口に付けた肉片をロゼの方に撒き散らしながら、ファイアードラゴンは雄叫びを響かせる。
その音量たるや凄まじく、耳を塞ぐ暇もなかったロゼは思わず呻いた。
「ファイアードラゴンだ!ファイアードラゴンが出たぞ!!」
「ボーンベアを食っていたのか…!しかし何故ここに」
ファイアードラゴンの強さは中程度。森の魔物は強ければ強いほど人里から離れるため、この魔物も普段は森の奥深くに生息している。
「普通ここまで来るものなのですか!?」
「いや、こんなに人里の方に出て来ることはそうそうないはず……!!何故よりによって新人隊しかいない時に!」
ロゼは思わず隣にいた火使いの同僚、ハンスに尋ねた。ハンスは焦りを顕にし、ふるふると震えている。顔は真っ青だ。
「焦るな!加勢の隊が早馬で森入口に到着したと今連絡が入った。隊が到着するまで持ちこたえろ!」
騒然とする空気の中、リデナスが場の空気を変えるかのように一喝する。その一声にはっとした隊員たちは、急いで戦いの構えを始める。しかし、やはり動きは硬く、まるで戦えそうにはない。
ファイアードラゴンは、名前の通り火属性の魔物だ。口から炎を吐く遠距離型の攻撃は、風使いの自分とはいい意味で相性が悪い。遠距離からの攻撃ならこちらが危険に晒される危険性も減る。恐怖と焦りで震える中、頭のどこか冷静なところでそう判断したロゼは、ファイアードラゴンが口を大きく開いた瞬間、両手をかざし風を起こした。
しかし震える手から出された風はなんとも頼りなく、小さい。
迫り来る炎に、両手をかざしたままぎゅっと目を瞑る。
「目を瞑るな!前を見ろ!!」
はっと目を開けると、視界一面には水の壁。そして、自分を背に庇うリデナスの姿があった。
「ただ突っ立っている木偶の坊に給金をやるほど師団の気前は良くない!お前ら、死ぬ気じゃない、生き抜くために戦え!!」
生き抜くため。その言葉に、隊員の動きが変わる。錆び付いた機械人形から、闘志を持つ戦士に。新人で死を近くに感じたことがないとはいえ、彼らは長い時間を掛けて厳しい訓練で自らを鍛え上げ、耐え抜いた者たちだ。本人次第でもあるが、切っ掛けがあれば全てが変わることもある。
「ロゼ!援護頼む」
「わ、分かりました!!」
先程まで真っ青だったハンスが今はしゃんと前を見て構え、ファイアードラゴンを睨みつけながら言う。
ハンスが炎の細槍を上空に複数、出現させる。その槍はロゼの体長程あり、緩やかな曲線を描く先端は眩しいほどに光り、熱い。
半円を描くようにして展開された槍の先端は、ひたとファイアードラゴンを見据えている。
「炎槍!!」
「風壁!」
ハンスが頭上高く手をあげると同時に、槍がファイアードラゴン目掛けて発射される。
ロゼはドラゴンが避けることのないよう、上昇気流をドラゴンの体に密着するように展開させ、外側から圧をかけるように押しとどめる。これはロゼなりに考えた、檻のように風圧を用いるやり方だ。
ファイアードラゴン目掛けて軌道を描いた槍はしかし、口を開けたドラゴンの炎によって跡形もなく燃え尽くされた。
「なっ」
渾身の一撃が呆気なく果てる様を見て、ランスの顔に愕然と絶望が広がる。
このままではまずい。ロゼの"檻”も、そう長くは持たない。リデナスや他の隊員は新たに出現した魔物に手こずっているようで、加勢は期待できそうにない。
同じ事を思ったのだろう、焦った様子のランスは、また同じことを繰り返そうとする。この炎槍(ファイアランス)は、ランスが1番得意とするやり方だ。だから破られた時の衝撃は大きかった。が、しかし、同じことをしても繰り返しになるだけだ。
ロゼは咄嗟に、ランスの槍の威力を強めようと槍に自身の風を纏わせる。
付け焼き刃の加勢は、しかし、結果として逆に作用してしまった。
ハンスが炎槍を発射した直後、それは先細り、そして消えてしまったのだ。
「っ!!ロゼ!」
「す、すみません!!」
なぜ、どうしてと考えている暇は無い。
しかしどうすれば……!
そう考えていた時だった。
「――――第二新人隊、発見!各小隊に場所を通達!」
戦場に慣れた、力強い声が響く。
と同時に、十数人の隊員がこちらに加勢に来る。
「た、助かった……」
思わずこぼしたようなハンスの独り言に、ロゼは心の中で同意した。
足でボーンベアを踏みつけ、口に付けた肉片をロゼの方に撒き散らしながら、ファイアードラゴンは雄叫びを響かせる。
その音量たるや凄まじく、耳を塞ぐ暇もなかったロゼは思わず呻いた。
「ファイアードラゴンだ!ファイアードラゴンが出たぞ!!」
「ボーンベアを食っていたのか…!しかし何故ここに」
ファイアードラゴンの強さは中程度。森の魔物は強ければ強いほど人里から離れるため、この魔物も普段は森の奥深くに生息している。
「普通ここまで来るものなのですか!?」
「いや、こんなに人里の方に出て来ることはそうそうないはず……!!何故よりによって新人隊しかいない時に!」
ロゼは思わず隣にいた火使いの同僚、ハンスに尋ねた。ハンスは焦りを顕にし、ふるふると震えている。顔は真っ青だ。
「焦るな!加勢の隊が早馬で森入口に到着したと今連絡が入った。隊が到着するまで持ちこたえろ!」
騒然とする空気の中、リデナスが場の空気を変えるかのように一喝する。その一声にはっとした隊員たちは、急いで戦いの構えを始める。しかし、やはり動きは硬く、まるで戦えそうにはない。
ファイアードラゴンは、名前の通り火属性の魔物だ。口から炎を吐く遠距離型の攻撃は、風使いの自分とはいい意味で相性が悪い。遠距離からの攻撃ならこちらが危険に晒される危険性も減る。恐怖と焦りで震える中、頭のどこか冷静なところでそう判断したロゼは、ファイアードラゴンが口を大きく開いた瞬間、両手をかざし風を起こした。
しかし震える手から出された風はなんとも頼りなく、小さい。
迫り来る炎に、両手をかざしたままぎゅっと目を瞑る。
「目を瞑るな!前を見ろ!!」
はっと目を開けると、視界一面には水の壁。そして、自分を背に庇うリデナスの姿があった。
「ただ突っ立っている木偶の坊に給金をやるほど師団の気前は良くない!お前ら、死ぬ気じゃない、生き抜くために戦え!!」
生き抜くため。その言葉に、隊員の動きが変わる。錆び付いた機械人形から、闘志を持つ戦士に。新人で死を近くに感じたことがないとはいえ、彼らは長い時間を掛けて厳しい訓練で自らを鍛え上げ、耐え抜いた者たちだ。本人次第でもあるが、切っ掛けがあれば全てが変わることもある。
「ロゼ!援護頼む」
「わ、分かりました!!」
先程まで真っ青だったハンスが今はしゃんと前を見て構え、ファイアードラゴンを睨みつけながら言う。
ハンスが炎の細槍を上空に複数、出現させる。その槍はロゼの体長程あり、緩やかな曲線を描く先端は眩しいほどに光り、熱い。
半円を描くようにして展開された槍の先端は、ひたとファイアードラゴンを見据えている。
「炎槍!!」
「風壁!」
ハンスが頭上高く手をあげると同時に、槍がファイアードラゴン目掛けて発射される。
ロゼはドラゴンが避けることのないよう、上昇気流をドラゴンの体に密着するように展開させ、外側から圧をかけるように押しとどめる。これはロゼなりに考えた、檻のように風圧を用いるやり方だ。
ファイアードラゴン目掛けて軌道を描いた槍はしかし、口を開けたドラゴンの炎によって跡形もなく燃え尽くされた。
「なっ」
渾身の一撃が呆気なく果てる様を見て、ランスの顔に愕然と絶望が広がる。
このままではまずい。ロゼの"檻”も、そう長くは持たない。リデナスや他の隊員は新たに出現した魔物に手こずっているようで、加勢は期待できそうにない。
同じ事を思ったのだろう、焦った様子のランスは、また同じことを繰り返そうとする。この炎槍(ファイアランス)は、ランスが1番得意とするやり方だ。だから破られた時の衝撃は大きかった。が、しかし、同じことをしても繰り返しになるだけだ。
ロゼは咄嗟に、ランスの槍の威力を強めようと槍に自身の風を纏わせる。
付け焼き刃の加勢は、しかし、結果として逆に作用してしまった。
ハンスが炎槍を発射した直後、それは先細り、そして消えてしまったのだ。
「っ!!ロゼ!」
「す、すみません!!」
なぜ、どうしてと考えている暇は無い。
しかしどうすれば……!
そう考えていた時だった。
「――――第二新人隊、発見!各小隊に場所を通達!」
戦場に慣れた、力強い声が響く。
と同時に、十数人の隊員がこちらに加勢に来る。
「た、助かった……」
思わずこぼしたようなハンスの独り言に、ロゼは心の中で同意した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる