強面さまの溺愛様

こんこん

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一章

危機?です

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「…………ロードさん」

影の差す、吹き抜けの回廊の柱に身体を預けるようにして立っているゼルドが、まっすぐにロゼの目を見ていた。

「……見ていたんですか」
「ああ」

ゼルドはロゼの試験の審査員ではなかったし、その時天幕の近くにもいなかった。
恐らく此処でロゼの選抜試験を見ていたのだろう――それも最初から。

「あは、は。いやぁ、私にしては上手くいったとは、思うんですけど。…………折角ロードさんに色々、教えてもらったのに。………選抜おちちゃったら、ごめんなさい」

俯きながら乾いた笑いを零す。

失敗した時に自虐して、落ち込んでを繰り返すのはロゼの元々の悪い癖だ。

――――でも今のは、…………上手く言えないけど……違う気がする。


「――――ロゼ」


先程よりも近くで囁かれた声は、普段とは違う、子供に諭すような柔らかさをもっていた。
驚いて、思わず顔をあげる。

ゼルドはしゃがんで、ロゼの顔を覗き込んでいた。柱の間から漏れる、冬の陽光が彼の焦げ茶色の髪を金に縁どっている。
ロゼはいつかの、初めてゼルドと会った時を思い出していた。あの時もこうやって屈んでくれたのだ。

――――それで私は、優しい人だと思った

その時と同じように、今もそのヘーゼルはロゼを真っ直ぐに捉えている。

「――――多分、違くて」

気が付くと、口から言葉が漏れていた。
上手く説明出来ないのに、その瞳を見ると何故だか口が止まらず感情を零すように話してしまう。

「だから私はダメなんだとか、ほらまた失敗したとか……そういう気持ちじゃなくて」

急に何の話を、と自分でも思う。自分でも分からないのに。
目の前の男が相槌を打つことは無い。ただじっと此方を、まるで促すように見ている。

「まだ出せる技があったはずなのにとか、もっとやれたのにって…………そう、思ってて」

――――そっか。悔しいだけなのか。

すとんと心の中に答えが落ちてきた気がした。
悔しくてもどかしい。泣きたいほどに。
それは自虐とは異なる、前に進むための感情だ。

そう思うと何だかすっきりしたような気分になる。前に進むために頑張っているのだと、そう自分に胸を張れるのだ。
吹っ切れたような顔のロゼに、ゼルドは三白眼を細め、口を開いた。

「……お前はお前が思っているよりもずっと強い。小さくてすぐ壊れそうだが――時間をかけてでも立ち直り、誰かの為であろうとする」

すっと伸ばされた手がロゼの頬を覆う。熱い掌から体温がじんわりと伝わり、乾いた風に吹かれて冷えたロゼの頬をゆっくりと温めてゆく。
そして顔をこねこねし始めたゼルドに、ロゼはふと思ったことを尋ねた。

「――なでなでは、今日はしないんですか?」


ゼルドの手がピタッと動きを止める。

「?あの、」
「――――撫でて欲しいのか?」
「…………えっ、あ、いやっ!」

――――ちょちょちょちょっっと!なんっって恥ずかしいこと言ってるんですか自分!!だいたい「なでなで」って!子供か!…………………………いやまあ、確かにあのなでなでは中毒性がある!けども!

「撫でて、欲しいのか?」
「………………………………………………は、はい」

ずいっと顔を近づけられて再度尋ねられ、ロゼはつい頷いてしまう。

「いや、あの、無理にとは言わないですけど……………………で、できればして欲しい、かなー…………なんて」

ちょっと反応が怖くなって上目遣いになってしまうロゼ。目尻を赤くしながらも、上目遣いで撫でて欲しいと強請るその姿の破壊力たるや凄まじかった。


ゼルドの大きな褐色の手が、ロゼの頭にまわる。髪と地肌の間に差し込むようにして、ごつごつとした指がロゼの髪を掻き分ける。

――――何だかいつもと、少し違う……?

ロゼがそう思っている間にも、指は這うようにして頭を撫で、髪を掻き分けることで顕になった耳に狙いを定めた。

「っ」

ロゼの小さな耳が気に入ったのか、耳輪をつつと辿るように撫でながら、指の腹で耳の後ろを擦るごつごつとした大きな手。時折耳孔じこうを擽るようにして指が掠めていくたび、ロゼはぴくんと反応してしまっていた。
ロゼはもう羞恥で爆発する寸前だ。

「っあ、あのっ!いったい何を」
「撫でているだけだ」
「そそそそそれはそうかもしれませんが!」
「俺に触られるのは嫌ではないと言っただろう」

――――言った!確かにそんな感じのことは言いましたけど!

心做しか息遣いが荒いのに加え、巨悪面で目をぎらぎらとさせながら己の腕の中にいるロゼ獲物を凝視するその様子は、絶対に人には見せられないような何かが溢れでている。

その手が更に顕になったロゼの首筋を辿った時、もう無理!と限界を感じたロゼは、至近距離にあるゼルドの顔をがっと正面から掴んだ。小さな両手でぐぐぐと押し退け、何とか距離を取ろうと試みるのだが…………。

ぺろっ

「っぅぇ!?ひぇ、い、今っなめっ……、舐めてっ」
「……邪魔するからだ」

視線をロゼに固定しながらも己の口辺りに置かれた手を舐めた男は、悪びれもなくそう答える。
ロゼはいつの間にか地面に座り込んでいたらしい。その上から、ゼルドが覆い被さるようにロゼを囲いこんでいる。
その様はまさに、捕食者と非捕食者。

ロゼの両手首を掴んだ手とは反対側の腕がまたロゼの首筋に伸び、確かめるようにすりすりと往復する。ロゼの華奢な首筋、頬、鎖骨――肩までもを覆う大きな手。力を込められたら、簡単にぐしゃりと潰されてしまいそうである。

ふと首筋を擦るのをやめたかと思うと、大きな薄い唇を開き――――ロゼの首に顔を寄せてきた。

――――ひっ、たたたたべられちゃう!

相手が理性のある人間だと分かっていても、肉を食いちぎられる自分を想像して真っ赤な顔から真っ青な顔に変わるロゼ。涙で目を潤ませながら懇願する。

「美味しくないです!美味しくないから食べないでっ」
「食べるわけがないだろう。―――――ああ、だがしかし」


お前は美味そうだ。


そう告げたゼルドが、ロゼには歯をちらつかせて自分を食べようとする猛獣に見えた。





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