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一章
結果発表です
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選抜試験期間から数日が経った頃。
新人隊員に与えられた部屋のある棟、その中心部に各部屋を繋ぐようにしてあるロビーで、ロゼは微動だにせずソファーに座っていた。
ロゼだけでは無い。ロビーは壁を見つめながら精神統一したり、そわそわと歩き回ったりする者で溢れていた。
「…………んだ……絶対死んだ……。ま、まあ別に?受からなきゃこの世の終わりって訳じゃないし………………べつに……」
ぶつぶつと何やら呟いているのは、ロゼの横に座るリリーだ。
落ち着いてください、といつものロゼなら言うだろう。だが今のロゼにそんな余裕はなく、目の前にある飴色の机の年輪を一本……二本………と何処ぞのホラー映画のように数えていた。
―――あ、ここの年輪他より太いです…………太いといっぱい成長した年なんでしたっけ…………あれどうだっけ……………ははははは
今日は選抜試験の結果が出る日、つまり配属の隊が発表される日だった。
「届いたぞ!」
その声と共に、正面の扉から隊員が入って来る。
その声がした途端、ロビーに居た全員がどっと押し寄せ、入口近くはあっという間に過密状態になってしまった。
比較的扉の近くに居たロゼは後ろからギュウギュウと押され、前のめりになりながらもなんとか耐えている状態だ。戦闘職種の中でも特に小さい体は、当然人の中に埋もれてしまう。
「ふべっ、つ、潰れる」
「っと。危ない」
足が浮いたような状態で窒息しそうになっていたロゼを、ふと何者かが両脇に手を差し込んで助け出す。
「ハンス!ありがとうございます」
「どういたしまして」
ロゼを助けてくれたのはハンスだった。新人隊員の中でも比較的背が高いこの男は、難なくロゼを抱え上げている。
「しかし……軽すぎないか?ちょっと不安になるくらいだ」
「女性に体重の事を言ってはいけないのですよ!こ、これでも少しは肉が付いたんです」
「…………普通は逆な気がするけど……まあいいや。それよりほら、結果を見るんだろう?」
選抜試験の結果及び配属先の発表は、貼り出しでは無く個人への通知で行われる。そちらの方がプライバシーが守られることは間違いないが、通知書を取りに新人隊員が殺到してしまうのが見直すべき点であろう。現にロゼはこうやって潰されかけたのだ。
「ちょっと悪いけど、俺の通知書も取ってくれる?ロゼを下ろそうにも下ろす場所がないし」
「……分かりました」
吊り下げられたような体勢が若干嫌ではあったが、ベタベタと触られているわけでは無いし、助けられた手前文句は言えない。
両手が塞がっているハンスの分もと、新人隊第二隊の隊員の通知書が纏められている場所へと手を伸ばす。
「イグニス……イ……イ、グ……これか。と、シュワルツェ、……………………あった」
―――この中に、結果が。
緊張、不安、そして期待で心臓がばくばくと鳴り響いているのが分かる。
早速中身を見るために下ろしてもらおうと、ロゼは首を後ろに回してハンスに話しかけようとした。
そこでふと、後方に居た、見覚えのある男と目が合った。
ロゼは思い出す。間違いでなければ、その男はロゼが選抜試験で対戦した審査員の筈だ。
恐らく業務で新人隊員に通知書を届けに来たのだろう、その手には通知書が握られ、それを新人隊員に差し出すかたちのままピタッと動きを止めていた。
穴が空くのではないかという程に此方を凝視した後、青ざめながら辺りをキョロキョロと見回す挙動不審なその男を見て、ロゼは首を傾げる。
「ロゼ、取れた?」
「っあ、はい。取れました。下ろして貰ってもいいですか」
ハンスに下ろして貰い、礼を述べた後にハンス宛ての通知書を渡す。
―――それよりも今は、この通知書。
心臓が喧しいくらいに高鳴っている。
封筒の封をペーパーナイフで切る時間も惜しく感じ、中の通知書が破れないように細心の注意を払いながらペリペリと封の上部分を破り始める。
中から出てきた3つ折りの紙を、震える手で開いた。
―――通知、……汝……………先日の試験において、…………………………………………合格。
合格。
ごうかく、と声にならない声で呟く。今自分の見間違いでなければ、選抜には合格したと、そう通知書には書いてあったのだ。
『――よって配属を、第一聖師団第一隊とし、汝を上記の隊の隊員とする』
「や、やっっったぁぁぁぁ!!」
ロゼは嬉しさのあまり、ぴょんぴょんとその場でジャンプをした。
普通なら目立つだろうが、何せ周りにも似たような者は沢山いる。誰もロゼを気にする事はないだろう。
「っふ、ふふふふふ!第一聖師団、第一隊!ふふふふん」
もう嬉しくてにやけが止まらない。頬は緩みっぱなしだ。
―――ロードさんに、早く知らせないと!あ、でも審査員の一人だから当然知ってますよね。………………でも何か、すごく会って感謝を伝えたい気分です……
小躍りをして一通りの気が済んだところで、はたとロゼは目の合った男の事を思い出した。
―――そうだ!あの人は審査員だったんだから、当然第一隊の御使い、つまり私の先輩になる人!こ、これは挨拶をしておかなければなりません!
辺りをキョロキョロと見回すと、先程いたのと変わらない場所にその男はいた。
あらかた通知書は配り終わったようで、今は通知書を入れていた箱をまとめて片付けているようだ。帰ってしまう前にと、ロゼは急いでその男に近づく。
「あ、あの、すみま」
「っっうわあァァ近づかないでくれ!」
―――え?
あまりの奇声に1度ぴたっと動きを止めたロゼは、1拍置いてからもう一歩足を踏み出す。
「あの」
「っぼ!僕は何も見てないぞ!」
「ぇ、え?」
「うわああ来るなぁ!」
―――ど、どゆこと?
先程のように青ざめた顔の男が、ロゼから距離を取ろうと後ずさる。
「ご、ごめんなさい。私が何かしてしまいましたか?」
「っあ、いや、違うんだ!君がというか……」
そこまで言って口ごもってしまった男は、キョロキョロと辺りを確認してからすすすっとロゼに近付いてくる。
まるで誰かに見られることを恐れているかのようだ。
「し、失礼な態度を取ってしまって、すまなかった。第一聖師団第一隊隊員の、ディノ=ラコッタだ。ええと、そうだ。まずは合格おめでとう」
「あ、ありがとうございます。後輩、になる予定のロゼ=シュワルツェです。それでその、先程のことは……?」
「っえーーと、その…………………………………………………………ぼ、僕が君の、ええとシュワルツェ君の選抜試験の相手だったのは、覚えているかい?」
「は、はい。覚えています」
―――何か、選抜試験の時と雰囲気が違う?試験の時はこう、強気で強そうな感じでしたけど……今は姿勢が低くてなんかこう……………………こ、子犬っぽい感じがします。
二重人格さん?などと考えながらも、男――ディノ=ラコッタ――の話に耳を傾ける。
「その対人戦の時、君………結構大きな怪我をしただろう?」
「え、いえ、まあ確かにしましたが。でもそんなの選抜試験では当たり前、ですよね?私はまだ軽いほうだと思いますけど」
選抜試験における対人戦の試合終了条件は、どちらかが降参すること、若しくは戦闘不能だと判断される事であった。その条件を考えると怪我を負うのは致し方なく、背中の打撲と諸々の傷しか負わなかったロゼはまだ軽い方なのだ。
「そ、それに、私達のように神力が強い者は再生が早く、訓練過程に神力操作ももちろんあったので、早く回復することが出来ます。だから私の場合は翌日には痣が薄くなっていたし、大怪我と呼べるほどのものではありませんでした」
ロゼでも知っているような回復のことを、この男が知らない訳が無い。そう思いながらもロゼは言った。
「う、うん。怪我を負わせた僕が言うのもなんだけど、重さでいうのであれば君の場合は軽傷だったと言えるんだ。だけどその、………………君の怪我を、とても気にかけている人がいてね。別に、その人に僕の力加減についてとかを、その、言い咎められた訳じゃないんだけど…………」
「…………だけど、何ですか?」
「………………………………………………………………こ、こわいんだ」
「こわい」
思っていたのと違う理由すぎて、思わずそのまま呟いてしまうロゼ。
「………………見てくるんだ。じっと此方を、鬼のような形相で」
「…………」
「何かを話しかけてくる訳じゃないんだ。でも大きな体で、顔をこちらに向けながら、ただじっと」
「す、すみません。……もしかしてそれ、ロードさんのことですか?」
「な、何で分かったんだい?」
―――いや、特徴一致するの1人しか思い浮かばないですよそんなの。
「た、多分ロードは、君が怪我したことを凄く気にしていて……でも選抜試験での大怪我は、その、よくある事だし、余程酷い戦い方をしない限り、怪我をさせた者が厳罰や注意を与えられることは無いんだ。だから僕に何も言わない。ただ、君を傷つけた僕を睨ん………見つめてくるだけで」
「……その目線を怖く感じて、話の元凶である私にはこれ以上近寄らない方がいいと……、そう思ったということですか?」
「う、うん。まあ、思ったというかほぼ条件反射だったというか…………し、失礼だったよね、本当にごめん」
ロゼは内心とても驚いていた。
確かに選抜試験後、ロゼとシュデル、そしてゼルドの三人で話していた時、ロゼの傷の具合をゼルドが何度か聞いてきたのは覚えている。
しかしそこまでロゼの怪我を気にしていたとは。
―――でも、訓練でも討伐でも怪我なんてしょっちゅうするし、その度に心配されるというのも…………。心配してくれるのは嬉しいんですけど、体調管理だって回復だってちゃんと自分でできるのに……子供扱いされているんでしょうか。
「――そんなに、心配しなくてもいいのに」
「………………心配、というか……まあ、うん。……っあ、そ、そうだ!」
ロゼがぽつりと零した言葉に対して何か言いたげなディノではあったが、なにか別のことを思い出したらしい。
「ごめん、ひとつ聞きたいんだけど」
「?はい」
「あの、さっき君を抱えていた同期の子とは、どういった仲なんだい?…………ま、まさか恋人とか」
「っえ?いやまさか、友人ですよ」
「そ、そっか。いや、ならいいんだ」
ロゼの答えに対してあからさまに安堵のため息をつくディノ。
「……?それが、何かと関係があるという事ですか?」
「っい、いや……………………僕の推測でしかないから、分からないし…………いや、でも一応忠告しておいた方が」
ディノは何やらブツブツと呟いた後、意を決したようにロゼの方を真っ直ぐに見つめる。
「一応言っておくんだけど、ロードの前で……その、他の男との接触は避けた方がいいよ」
「――?それは、どういう意味ですか?」
「いや、ううううんと、まあ忠告というか。っあ、ぼ、僕もう行かないと!じゃあまたねっ」
「っえ、あの」
意味不明のことを言い残し、ディノはあっという間に去ってしまう。その廊下へと消えた背中を見ながら、ロゼは呆然とするしかなかった。
新人隊員に与えられた部屋のある棟、その中心部に各部屋を繋ぐようにしてあるロビーで、ロゼは微動だにせずソファーに座っていた。
ロゼだけでは無い。ロビーは壁を見つめながら精神統一したり、そわそわと歩き回ったりする者で溢れていた。
「…………んだ……絶対死んだ……。ま、まあ別に?受からなきゃこの世の終わりって訳じゃないし………………べつに……」
ぶつぶつと何やら呟いているのは、ロゼの横に座るリリーだ。
落ち着いてください、といつものロゼなら言うだろう。だが今のロゼにそんな余裕はなく、目の前にある飴色の机の年輪を一本……二本………と何処ぞのホラー映画のように数えていた。
―――あ、ここの年輪他より太いです…………太いといっぱい成長した年なんでしたっけ…………あれどうだっけ……………ははははは
今日は選抜試験の結果が出る日、つまり配属の隊が発表される日だった。
「届いたぞ!」
その声と共に、正面の扉から隊員が入って来る。
その声がした途端、ロビーに居た全員がどっと押し寄せ、入口近くはあっという間に過密状態になってしまった。
比較的扉の近くに居たロゼは後ろからギュウギュウと押され、前のめりになりながらもなんとか耐えている状態だ。戦闘職種の中でも特に小さい体は、当然人の中に埋もれてしまう。
「ふべっ、つ、潰れる」
「っと。危ない」
足が浮いたような状態で窒息しそうになっていたロゼを、ふと何者かが両脇に手を差し込んで助け出す。
「ハンス!ありがとうございます」
「どういたしまして」
ロゼを助けてくれたのはハンスだった。新人隊員の中でも比較的背が高いこの男は、難なくロゼを抱え上げている。
「しかし……軽すぎないか?ちょっと不安になるくらいだ」
「女性に体重の事を言ってはいけないのですよ!こ、これでも少しは肉が付いたんです」
「…………普通は逆な気がするけど……まあいいや。それよりほら、結果を見るんだろう?」
選抜試験の結果及び配属先の発表は、貼り出しでは無く個人への通知で行われる。そちらの方がプライバシーが守られることは間違いないが、通知書を取りに新人隊員が殺到してしまうのが見直すべき点であろう。現にロゼはこうやって潰されかけたのだ。
「ちょっと悪いけど、俺の通知書も取ってくれる?ロゼを下ろそうにも下ろす場所がないし」
「……分かりました」
吊り下げられたような体勢が若干嫌ではあったが、ベタベタと触られているわけでは無いし、助けられた手前文句は言えない。
両手が塞がっているハンスの分もと、新人隊第二隊の隊員の通知書が纏められている場所へと手を伸ばす。
「イグニス……イ……イ、グ……これか。と、シュワルツェ、……………………あった」
―――この中に、結果が。
緊張、不安、そして期待で心臓がばくばくと鳴り響いているのが分かる。
早速中身を見るために下ろしてもらおうと、ロゼは首を後ろに回してハンスに話しかけようとした。
そこでふと、後方に居た、見覚えのある男と目が合った。
ロゼは思い出す。間違いでなければ、その男はロゼが選抜試験で対戦した審査員の筈だ。
恐らく業務で新人隊員に通知書を届けに来たのだろう、その手には通知書が握られ、それを新人隊員に差し出すかたちのままピタッと動きを止めていた。
穴が空くのではないかという程に此方を凝視した後、青ざめながら辺りをキョロキョロと見回す挙動不審なその男を見て、ロゼは首を傾げる。
「ロゼ、取れた?」
「っあ、はい。取れました。下ろして貰ってもいいですか」
ハンスに下ろして貰い、礼を述べた後にハンス宛ての通知書を渡す。
―――それよりも今は、この通知書。
心臓が喧しいくらいに高鳴っている。
封筒の封をペーパーナイフで切る時間も惜しく感じ、中の通知書が破れないように細心の注意を払いながらペリペリと封の上部分を破り始める。
中から出てきた3つ折りの紙を、震える手で開いた。
―――通知、……汝……………先日の試験において、…………………………………………合格。
合格。
ごうかく、と声にならない声で呟く。今自分の見間違いでなければ、選抜には合格したと、そう通知書には書いてあったのだ。
『――よって配属を、第一聖師団第一隊とし、汝を上記の隊の隊員とする』
「や、やっっったぁぁぁぁ!!」
ロゼは嬉しさのあまり、ぴょんぴょんとその場でジャンプをした。
普通なら目立つだろうが、何せ周りにも似たような者は沢山いる。誰もロゼを気にする事はないだろう。
「っふ、ふふふふふ!第一聖師団、第一隊!ふふふふん」
もう嬉しくてにやけが止まらない。頬は緩みっぱなしだ。
―――ロードさんに、早く知らせないと!あ、でも審査員の一人だから当然知ってますよね。………………でも何か、すごく会って感謝を伝えたい気分です……
小躍りをして一通りの気が済んだところで、はたとロゼは目の合った男の事を思い出した。
―――そうだ!あの人は審査員だったんだから、当然第一隊の御使い、つまり私の先輩になる人!こ、これは挨拶をしておかなければなりません!
辺りをキョロキョロと見回すと、先程いたのと変わらない場所にその男はいた。
あらかた通知書は配り終わったようで、今は通知書を入れていた箱をまとめて片付けているようだ。帰ってしまう前にと、ロゼは急いでその男に近づく。
「あ、あの、すみま」
「っっうわあァァ近づかないでくれ!」
―――え?
あまりの奇声に1度ぴたっと動きを止めたロゼは、1拍置いてからもう一歩足を踏み出す。
「あの」
「っぼ!僕は何も見てないぞ!」
「ぇ、え?」
「うわああ来るなぁ!」
―――ど、どゆこと?
先程のように青ざめた顔の男が、ロゼから距離を取ろうと後ずさる。
「ご、ごめんなさい。私が何かしてしまいましたか?」
「っあ、いや、違うんだ!君がというか……」
そこまで言って口ごもってしまった男は、キョロキョロと辺りを確認してからすすすっとロゼに近付いてくる。
まるで誰かに見られることを恐れているかのようだ。
「し、失礼な態度を取ってしまって、すまなかった。第一聖師団第一隊隊員の、ディノ=ラコッタだ。ええと、そうだ。まずは合格おめでとう」
「あ、ありがとうございます。後輩、になる予定のロゼ=シュワルツェです。それでその、先程のことは……?」
「っえーーと、その…………………………………………………………ぼ、僕が君の、ええとシュワルツェ君の選抜試験の相手だったのは、覚えているかい?」
「は、はい。覚えています」
―――何か、選抜試験の時と雰囲気が違う?試験の時はこう、強気で強そうな感じでしたけど……今は姿勢が低くてなんかこう……………………こ、子犬っぽい感じがします。
二重人格さん?などと考えながらも、男――ディノ=ラコッタ――の話に耳を傾ける。
「その対人戦の時、君………結構大きな怪我をしただろう?」
「え、いえ、まあ確かにしましたが。でもそんなの選抜試験では当たり前、ですよね?私はまだ軽いほうだと思いますけど」
選抜試験における対人戦の試合終了条件は、どちらかが降参すること、若しくは戦闘不能だと判断される事であった。その条件を考えると怪我を負うのは致し方なく、背中の打撲と諸々の傷しか負わなかったロゼはまだ軽い方なのだ。
「そ、それに、私達のように神力が強い者は再生が早く、訓練過程に神力操作ももちろんあったので、早く回復することが出来ます。だから私の場合は翌日には痣が薄くなっていたし、大怪我と呼べるほどのものではありませんでした」
ロゼでも知っているような回復のことを、この男が知らない訳が無い。そう思いながらもロゼは言った。
「う、うん。怪我を負わせた僕が言うのもなんだけど、重さでいうのであれば君の場合は軽傷だったと言えるんだ。だけどその、………………君の怪我を、とても気にかけている人がいてね。別に、その人に僕の力加減についてとかを、その、言い咎められた訳じゃないんだけど…………」
「…………だけど、何ですか?」
「………………………………………………………………こ、こわいんだ」
「こわい」
思っていたのと違う理由すぎて、思わずそのまま呟いてしまうロゼ。
「………………見てくるんだ。じっと此方を、鬼のような形相で」
「…………」
「何かを話しかけてくる訳じゃないんだ。でも大きな体で、顔をこちらに向けながら、ただじっと」
「す、すみません。……もしかしてそれ、ロードさんのことですか?」
「な、何で分かったんだい?」
―――いや、特徴一致するの1人しか思い浮かばないですよそんなの。
「た、多分ロードは、君が怪我したことを凄く気にしていて……でも選抜試験での大怪我は、その、よくある事だし、余程酷い戦い方をしない限り、怪我をさせた者が厳罰や注意を与えられることは無いんだ。だから僕に何も言わない。ただ、君を傷つけた僕を睨ん………見つめてくるだけで」
「……その目線を怖く感じて、話の元凶である私にはこれ以上近寄らない方がいいと……、そう思ったということですか?」
「う、うん。まあ、思ったというかほぼ条件反射だったというか…………し、失礼だったよね、本当にごめん」
ロゼは内心とても驚いていた。
確かに選抜試験後、ロゼとシュデル、そしてゼルドの三人で話していた時、ロゼの傷の具合をゼルドが何度か聞いてきたのは覚えている。
しかしそこまでロゼの怪我を気にしていたとは。
―――でも、訓練でも討伐でも怪我なんてしょっちゅうするし、その度に心配されるというのも…………。心配してくれるのは嬉しいんですけど、体調管理だって回復だってちゃんと自分でできるのに……子供扱いされているんでしょうか。
「――そんなに、心配しなくてもいいのに」
「………………心配、というか……まあ、うん。……っあ、そ、そうだ!」
ロゼがぽつりと零した言葉に対して何か言いたげなディノではあったが、なにか別のことを思い出したらしい。
「ごめん、ひとつ聞きたいんだけど」
「?はい」
「あの、さっき君を抱えていた同期の子とは、どういった仲なんだい?…………ま、まさか恋人とか」
「っえ?いやまさか、友人ですよ」
「そ、そっか。いや、ならいいんだ」
ロゼの答えに対してあからさまに安堵のため息をつくディノ。
「……?それが、何かと関係があるという事ですか?」
「っい、いや……………………僕の推測でしかないから、分からないし…………いや、でも一応忠告しておいた方が」
ディノは何やらブツブツと呟いた後、意を決したようにロゼの方を真っ直ぐに見つめる。
「一応言っておくんだけど、ロードの前で……その、他の男との接触は避けた方がいいよ」
「――?それは、どういう意味ですか?」
「いや、ううううんと、まあ忠告というか。っあ、ぼ、僕もう行かないと!じゃあまたねっ」
「っえ、あの」
意味不明のことを言い残し、ディノはあっという間に去ってしまう。その廊下へと消えた背中を見ながら、ロゼは呆然とするしかなかった。
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