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一章
〈活火山と断層〉(7)
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身体強化魔法を風魔法でアシストしながら、衝撃が集中し過ぎない様にドラゴンを蹴り上げる。
身体に傷を付けない様にという私なりの配慮だったのだが、その心配はなかった様だ。
私のキックは、見事ドラゴンの身体に当たったが、ドラゴンの体は思ったより重く、ピクリともその位置を移動させなかった。
「ぐっ!」
反動の無さとは裏腹に、ある程度ダメージ様だ。
(思ったより重い。そして……硬いっ!!)
足が痺れる。
足が反動でかなり痛い。
おそらく、ドラゴンに与えたダメージよりも私が受け取ったダメージの方が大きい。
物凄く痛い。
しかし、そこは私。
何食わぬ顔をして足を元の位置に戻す。
(うぉぉぉ! 悟られてなるものか!!)
真性のアホである。
もう末期かもしれない。
「何のつもりだ人の子よ……」
大きな目がギョロッと開いて、こちらを睨む。
牙を覗かせながら、低く、唸る様な声で私を威嚇する。
足の痛みから意識を外す。
笑顔をやめ、堂々とドラゴンの目を見て、はりのある声で堂々と話す。
「この巨体を起こすのに、私の声では小さ過ぎる。揺すったとて気付くまい」
ドラゴンが目を見開く、少し嬉しそうに口角を上げる。
地鳴りの様に低い声が響く。
「ほぅ……で、我を起こしてなんとする」
「交渉しないか」
ドラゴンが僅かに顔を顰める。
「ほぅ……」
「今後もう人を襲わないと約束するなら、その体の傷を治そう」
ドラゴンの表情がこわばり、ぴたっと止まる。
「……それで?」
「……?」
「それだけか?」
「それだけだ」
ドラゴンは若干顔を顰め、間を置いてから言った。
「……いいだろう」
ゴゴゴゴゴという音が鳴り、ドラゴンの首が羽の方に丸まる。
「好きにしろ」
そう言うと、ドラゴンは首を羽の方に丸めたまま動かなくなった。
私はホッとため息を吐く。
(なんだか、ちょっと拍子抜けだったな……)
正直、交渉内容をストレートに話しただけなので、こんなにあっさり終わるとは思っていなかった。
(もっとごねるかなぁと。まあ、それよりも……)
巨体を見上げる。
(魔力の反応が薄くなったお陰で体内の血流の流れとか、神経の位置とかがはっきり見える。レントゲン画像でも見ているかのようだな。)
戦う前は魔力が多過ぎた為、細かい魔力の流れが覗けなかった。
しかし、ドラゴンの残りの魔力が少ない今、はっきりと体内が覗ける。
そのお陰で体の中にあるしこりがはっきりと見える。
私は漁師時代に遭遇した密漁船からひっそりと確保した、樽いっぱいの液体を取り出す。
(枝を抱く形で葉がつき、世界で初めて純粋な分子の結晶として単離された化合物。
多くの中毒者を作るが医療現場では度々麻酔として重篤な癌患者などに用いられる……ケシ、阿片……モルヒネだ。)
私は目の前の巨体に目を向ける。
目の前の巨体の体内には大きなしこりがあちこちにに散らばっている。
(恐らく、このドラゴンはステージⅣの癌だ。種類は……ちょっと上から全体を見て見ないと分からないがかなりまずい状態、人間なら即入院レベル……)
色々なところに癌が転移し過ぎていて、放って置けば余命半年かそれ以下と言ったところだろう。
これを切り取って取り除いて、回復魔法で傷を塞ぐ。
その際、痛みがない様にモルヒネを麻酔の代用として使う。
(この、非常に疲れている時にこれだけの量の癌を切除するのか……)
正直とてつもなく大変だろう。
だが一方でとてつもなく……
(やってみたい……)
と、少し思う。
(はぁー麻酔医が居ない今モルヒネを安易に使いたくなかったんだけどなぁー、気絶して、あれだけ蹴っても気付かないとかだったら遠慮なくやれたんだけどなぁーもう……はぁ)
意識がある今、麻酔をしないで手術をする訳にはいかない。
神経の量が多過ぎるため、雷魔法で全部麻痺させながら癌を切除するのは難しい。
ドラゴンの治療をするには、まずこの液体を何処かの血管から少しづつ流し込み、感覚か意識がなくなるのを確認してからでなくてはならない。
(そして! その前に、第一の関門としてこのドラゴンの皮膚に切れ目を入れなくてはならない。それはつまり、表側の鱗を切るか剥がさなくてはならないのだが!)
根元が明るい茶色、先端に行くにつれ明るい空色のグラデーションとなっているドラゴンの鱗には、透明感のある淡い金色の光沢がある。
鱗の大きさは、A4用紙一枚より少しだけ大きい。
鱗を、ドアをノックするときの要領で叩く。
(この鱗……何で出来ているんだ? ケラチンか? その辺の鉄より硬いんじゃないか? というか、皮膚がぁぁぁ厚い!! これ、本当に切れるのか?)
この厚い皮膚をメスでちまちま切っていたら日が暮れてしまう。
まずは大きな刃物で切り込みを入れなくてはならない。
(んー……そういえばガルムに、「男なら剣の位一本持っとけ!」とか言われて、買わされた剣があったな。
「普通のより良いやつだから」って言われて二割り増し位の値段で買ったやつが。)
ただ少し思い出して思う。
(だがどう見ても普通の剣で、何処が違うのかわからなかったんだよなぁ……)
少し考える。
もしかしたらと思う。
(「絶対おまえにぴったりの剣!」って言ってくれた物だから、何かあるのかもしれない……よし、使ってみるか!)
私は異次元から剣を取り出し、鱗と鱗の間に垂直に突き立てた。
しかし……
(先端が、刺さりすらしない? ……力の問題か? なら勢いをつけて、身体強化魔法を使えば…)
身体強化魔法を使い、体と剣を強化する。
風魔法で更に体の動きを補助し、思い切り剣を振り下げる。
しかし……
『カーーーン』
剣は真ん中で綺麗に割れ、後ろへ飛んでいってしまった。
ポカーンと口を開けてその場で唖然とする。
『カランカランカランカラン……』
(ガルム……)
私は折れた上半分の剣を拾い、異次元にしまう。
(……)
切り替えろよ、私。
(……ハッ! さて……どうするかこれ。どうにかして切開したい……どうすれば……。チェーンソーとか持ってないし、よく切れる大きな剣は町に行けば売ってると思う。ただここから離れるのはちょっと……。最も手取り早いのは、魔法単体でなんとかなることなんだが、氷魔法で剣を作って、身体強化魔法で強化するとか……ん?)
私は思い出した。
この硬い皮膚が切断出来そうな魔法を…
(あるじゃないか! 石の切り出し、人命の救助、城からの脱出のとき位には役に立つかなぁと思っていた魔法が! 医師の私には、殆ど役に立たないと思っていた魔法が!)
当初、一撃で島を吹き飛ばし、私にもう使うまいと一度は思わせた魔法。
試行錯誤の末、なんとか細長く10m先の物体に穴があく程度には利用出来る様になった魔法。
(究極魔法があるじゃないか!)
身体に傷を付けない様にという私なりの配慮だったのだが、その心配はなかった様だ。
私のキックは、見事ドラゴンの身体に当たったが、ドラゴンの体は思ったより重く、ピクリともその位置を移動させなかった。
「ぐっ!」
反動の無さとは裏腹に、ある程度ダメージ様だ。
(思ったより重い。そして……硬いっ!!)
足が痺れる。
足が反動でかなり痛い。
おそらく、ドラゴンに与えたダメージよりも私が受け取ったダメージの方が大きい。
物凄く痛い。
しかし、そこは私。
何食わぬ顔をして足を元の位置に戻す。
(うぉぉぉ! 悟られてなるものか!!)
真性のアホである。
もう末期かもしれない。
「何のつもりだ人の子よ……」
大きな目がギョロッと開いて、こちらを睨む。
牙を覗かせながら、低く、唸る様な声で私を威嚇する。
足の痛みから意識を外す。
笑顔をやめ、堂々とドラゴンの目を見て、はりのある声で堂々と話す。
「この巨体を起こすのに、私の声では小さ過ぎる。揺すったとて気付くまい」
ドラゴンが目を見開く、少し嬉しそうに口角を上げる。
地鳴りの様に低い声が響く。
「ほぅ……で、我を起こしてなんとする」
「交渉しないか」
ドラゴンが僅かに顔を顰める。
「ほぅ……」
「今後もう人を襲わないと約束するなら、その体の傷を治そう」
ドラゴンの表情がこわばり、ぴたっと止まる。
「……それで?」
「……?」
「それだけか?」
「それだけだ」
ドラゴンは若干顔を顰め、間を置いてから言った。
「……いいだろう」
ゴゴゴゴゴという音が鳴り、ドラゴンの首が羽の方に丸まる。
「好きにしろ」
そう言うと、ドラゴンは首を羽の方に丸めたまま動かなくなった。
私はホッとため息を吐く。
(なんだか、ちょっと拍子抜けだったな……)
正直、交渉内容をストレートに話しただけなので、こんなにあっさり終わるとは思っていなかった。
(もっとごねるかなぁと。まあ、それよりも……)
巨体を見上げる。
(魔力の反応が薄くなったお陰で体内の血流の流れとか、神経の位置とかがはっきり見える。レントゲン画像でも見ているかのようだな。)
戦う前は魔力が多過ぎた為、細かい魔力の流れが覗けなかった。
しかし、ドラゴンの残りの魔力が少ない今、はっきりと体内が覗ける。
そのお陰で体の中にあるしこりがはっきりと見える。
私は漁師時代に遭遇した密漁船からひっそりと確保した、樽いっぱいの液体を取り出す。
(枝を抱く形で葉がつき、世界で初めて純粋な分子の結晶として単離された化合物。
多くの中毒者を作るが医療現場では度々麻酔として重篤な癌患者などに用いられる……ケシ、阿片……モルヒネだ。)
私は目の前の巨体に目を向ける。
目の前の巨体の体内には大きなしこりがあちこちにに散らばっている。
(恐らく、このドラゴンはステージⅣの癌だ。種類は……ちょっと上から全体を見て見ないと分からないがかなりまずい状態、人間なら即入院レベル……)
色々なところに癌が転移し過ぎていて、放って置けば余命半年かそれ以下と言ったところだろう。
これを切り取って取り除いて、回復魔法で傷を塞ぐ。
その際、痛みがない様にモルヒネを麻酔の代用として使う。
(この、非常に疲れている時にこれだけの量の癌を切除するのか……)
正直とてつもなく大変だろう。
だが一方でとてつもなく……
(やってみたい……)
と、少し思う。
(はぁー麻酔医が居ない今モルヒネを安易に使いたくなかったんだけどなぁー、気絶して、あれだけ蹴っても気付かないとかだったら遠慮なくやれたんだけどなぁーもう……はぁ)
意識がある今、麻酔をしないで手術をする訳にはいかない。
神経の量が多過ぎるため、雷魔法で全部麻痺させながら癌を切除するのは難しい。
ドラゴンの治療をするには、まずこの液体を何処かの血管から少しづつ流し込み、感覚か意識がなくなるのを確認してからでなくてはならない。
(そして! その前に、第一の関門としてこのドラゴンの皮膚に切れ目を入れなくてはならない。それはつまり、表側の鱗を切るか剥がさなくてはならないのだが!)
根元が明るい茶色、先端に行くにつれ明るい空色のグラデーションとなっているドラゴンの鱗には、透明感のある淡い金色の光沢がある。
鱗の大きさは、A4用紙一枚より少しだけ大きい。
鱗を、ドアをノックするときの要領で叩く。
(この鱗……何で出来ているんだ? ケラチンか? その辺の鉄より硬いんじゃないか? というか、皮膚がぁぁぁ厚い!! これ、本当に切れるのか?)
この厚い皮膚をメスでちまちま切っていたら日が暮れてしまう。
まずは大きな刃物で切り込みを入れなくてはならない。
(んー……そういえばガルムに、「男なら剣の位一本持っとけ!」とか言われて、買わされた剣があったな。
「普通のより良いやつだから」って言われて二割り増し位の値段で買ったやつが。)
ただ少し思い出して思う。
(だがどう見ても普通の剣で、何処が違うのかわからなかったんだよなぁ……)
少し考える。
もしかしたらと思う。
(「絶対おまえにぴったりの剣!」って言ってくれた物だから、何かあるのかもしれない……よし、使ってみるか!)
私は異次元から剣を取り出し、鱗と鱗の間に垂直に突き立てた。
しかし……
(先端が、刺さりすらしない? ……力の問題か? なら勢いをつけて、身体強化魔法を使えば…)
身体強化魔法を使い、体と剣を強化する。
風魔法で更に体の動きを補助し、思い切り剣を振り下げる。
しかし……
『カーーーン』
剣は真ん中で綺麗に割れ、後ろへ飛んでいってしまった。
ポカーンと口を開けてその場で唖然とする。
『カランカランカランカラン……』
(ガルム……)
私は折れた上半分の剣を拾い、異次元にしまう。
(……)
切り替えろよ、私。
(……ハッ! さて……どうするかこれ。どうにかして切開したい……どうすれば……。チェーンソーとか持ってないし、よく切れる大きな剣は町に行けば売ってると思う。ただここから離れるのはちょっと……。最も手取り早いのは、魔法単体でなんとかなることなんだが、氷魔法で剣を作って、身体強化魔法で強化するとか……ん?)
私は思い出した。
この硬い皮膚が切断出来そうな魔法を…
(あるじゃないか! 石の切り出し、人命の救助、城からの脱出のとき位には役に立つかなぁと思っていた魔法が! 医師の私には、殆ど役に立たないと思っていた魔法が!)
当初、一撃で島を吹き飛ばし、私にもう使うまいと一度は思わせた魔法。
試行錯誤の末、なんとか細長く10m先の物体に穴があく程度には利用出来る様になった魔法。
(究極魔法があるじゃないか!)
応援ありがとうございます!
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