天涯孤独になった少年は、元軍人の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)

文字の大きさ
5 / 151
第一章:セルテと母親

3 僕と母さんだけの寂しい葬儀

しおりを挟む
 神父さんが祈りの言葉を唱えながら先頭を歩き、続いて四人の修道士さんが父さんが入った棺を担いで、その後ろに黒い帽子を被ってマントをつけた僕と母さんが並び、ゆっくりと教会へと向かう。


 以前、町中で同じような光景をみたことがある。
 その時は昼間だったということもあり、沢山の通行人が一行に温かい言葉をかけていた。
 今住んでいるのは小さな町なので、良くも悪くも皆、知り合いみたいなところがあるからだろう。

 しかし今はまだ薄暗い時間帯ということもあって、辺りには人気はなく、ひっそりとしている。
 巡回中の兵士さんが僕たちに気付いて頭を下げてくれたくらいで、他の人には知られないまま教会に着いて、葬儀が行われるんだろうな。





 教会に着いた僕たちは正面にある大聖堂ではなく、横の方にある小さな部屋へと進んだ。
 小さな聖像の前にある台に棺が置かれ、修道士さんたちが葬儀の準備を始める。


 父さんと母さんは、訳あって実家とは疎遠になっているので、葬儀に来てくれるような親戚はいない。
 だから葬儀に参加するのは僕と母さんだけだ。

 父さんは国に五つしかない高等学校のうちの一つ、トルヴァス学院に勤める歴史学者だった。
 真面目で温和な人柄で、沢山の同僚や部下、友人から慕われていたのに。
 そんな素晴らしい人の最期がこんな寂しいものだなんて、あんまりじゃないか。

 葬儀が終わったら、分かる範囲で父さんが亡くなったことについての連絡を入れよう。
 そう思いつつ、僕は母さんと二人並び、無言で葬儀が始まるのを待った。





 光が差し込む小さな部屋で、聖像の方を向いた神父さんが頭を下げ、祈りの言葉を長々と唱えている。


 時々、父さんに連れられて教会の礼拝に行ったことはあるけれど、祈りの言葉は自分の知らない言語の意味不明なもので、毎回退屈だなと思っていた。

 そして今も、非日常的な状況で、よく分からない祈りの言葉を聞いているうちに、妙に冷静になってしまった。
 視線だけを動かして、棺が置かれている台の両側に飾られている花の数を数えてみたり、目の前にいる神父さんの服の模様を視線でなぞってみたり。
 頭を下げたままで何もできない退屈さを、誤魔化そうとしていた。
 


「……人生の旅路を終えたカーレム・ラファレトが、安らかな眠りにつき、いつの日か……」

 父さんの名前が聞こえた瞬間、現実に引き戻された。
 今まで知らない言語で話していた神父さんが、急に僕が知っている言語で話しだしたんだ。


 病気の苦しみから解放された父さんが死後の世界で幸せであるように願う言葉に、目の奥が熱くなって、また涙が零れてしまう。


 隣で母さんが溜息をつく音が聞こえた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに愛されます

ひと息
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。 睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。 驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった! そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・ フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...