天涯孤独になった少年は、元軍人の優しいオジサンと幸せに生きる

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第六章:病室で休む二人

71 僕は身体の傷が気になる

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 イズリーさんによると、今日は世界魔術士協会本部から来る予定の医療魔術士が用事で来れなくなったので、夕方までエイシア様が診察をしてくれることになったらしい。
 エイシア様も医療魔術士の資格を持っていて、精密物体操作魔法で内臓の動きに干渉することができる程の高度な技術を持っているので安心してほしい、とも言ったんだ。


 あの愛想の悪さから、「医療従事者」という感じは全くしないけれど、そうだったのか。
 そういえば、昨日の訓練の前にスタイズさんを吹っ飛ばしてから回復魔法をかけていたっけ。

 愛想が良いけど腕は悪い医者と、愛想は悪いけど腕が良い医者なら、後者の方が良いような気がする。
 もっと言えば、愛想が良くて腕も良ければ最高なのに、何でエイシア様はいつもムスっとしているんだろう。

 そんなことを考えながらエイシア様の姿を思い浮かべているうちに、あることに気が付いた。


 「でもエイシア様って、額と左頬に大きな傷があるじゃないですか。それだけ凄いなら、自分で治せそうな気がするんですけど……」

 僕が指で自分の額と頬をなぞりながら質問すると、イズリーさんが笑顔で答えてくれた。

 「えっと、それはですね。『顔に傷があったら只者ではない感じがして良いだろう』ということで、ご自身で付けられたものだそうですよ」


 ええええ??? 何だそれ???
 エイシア様は女性なのに、そんな理由で自分の顔に傷を付けるなんて、どうかしている。

 小説に登場する「歴戦の戦士」には傷が付いていることが多くて、それは格好良いと思う。
 ただ、そう見える様にわざわざ自分で顔に傷を付けたと言われると、その根性には感心するけれど、正直言って格好良いとは思えない。
 魔法を使えば痛みを感じずに傷を付けられるのかもしれないけれど、僕はそんなことをするくらいなら只者と思われていいと思ってしまうな。


 傷といえば、スタイズさんは兵士だった時は悪者や害獣と戦ったりしていたらしいけど、見える範囲には大きな傷は無いようだ。
 彼の顔をじっと見ていると、僕の視線に気が付いたのか、スタイズさんが笑顔で僕の頭を撫でてくれた。

 「セルテ君、どうした? 私の顔に何か付いているかい?」

 「いえ、あの、スタイズさんは傷とか無いなって……」


 すると彼は病衣の袖を捲って、腕を見せてくれた。
 ゴツゴツとした大きな手、そしてがっちりとした太い腕……よく見ると、小さな傷や痣がいくつか付いている。

 「そうだな。あまり目立つようなものは無いかもな。運が良かったのだろう」

 スタイズさんはしみじみとした様子で自分の腕を見た後、袖を戻した。

 うーん、こんな些細な動作なのに、凄く格好良い。
 彼が兵士だった時は、どんな感じだったのだろう?
 写真があるなら今度見せて貰いたいな。





 エイシア様が待っていることもあり、僕とスタイズさんは急いで朝食を食べて、談話室を後にした。


 診察室の前に行くと、ライナートさんが僕たちを迎えてくれた。
 彼の表情は硬く、辺りは空気がひんやりとしていて、重苦しい雰囲気が漂っている。
 本当に、この中にエイシア様がいるんだ……

 ライナートさんに小声でエイシア様の様子を聞いてみたのだけど、彼は眉間に皺を寄せて目を閉じて、「いつも通りです」と言っただけだった。
 つまり、いつも通り怖い、ってことなのか。


 診察室の出入口のドアは閉まっていて、中の状況は分からない。
 緊張で全身が強張ってしまう。


 ……大丈夫、診察を受けるだけだ。
 自覚する範囲では体調は悪くないし、きっとすぐに終わるだろう。
 おとなしくしていれば、怒られることはないはず。


 気持ちを落ち着かせる為に何度か深呼吸をして、「よし、行くぞ!!」と心の中で気合を入れる。
 そしてドアをノックしようと手を上げたその時……

 「セルテ!! 何をグズグズしている!! さっさと入ってこい!!!」

 エイシア様の怒鳴り声が聞こえてきて、僕の身体は震え上がってしまったんだ。

 僕の姿を見たわけでもないのに、何で僕が診察室の前にいることが分かるんだ?
 ……というか、いちいち怒鳴らなくてもいいじゃないか。


 すると僕の後ろにいたスタイズさんが手を伸ばしてドアをノックして、「失礼します」と言いながらドアを開けた。
 そして僕の背中をグイグイと押して、一緒に診察室の中へと入っていくことになってしまったんだ。


 「セルテ様、私もお供いたしますので、ご安心下さい」

 小さくライナートさんの声が聞こえてきたので、彼も後ろにいるようだ。
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