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第六章:病室で休む二人
72 僕とスタイズさんはエイシア様の診察を受ける
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診察室の中央には、大人が余裕で横になれるくらいの大きさの診察台があり、その隣にエイシア様が立っている。
険しい表情で腕組みをしていて、確かに「いつも通り」だ。
僕はスタイズさんと並んで立って、朝の挨拶をする。
するとエイシア様は小さく頷いたあと、診察台の方を指差した。
「まずはセルテだ。服は着たままでいいから、さっさと台の上に仰向けになれ」
言われるまま、僕は診察台の上で仰向けになったのだけど、エイシア様は無言で僕を睨みつけるだけだ。
これが診察なのか?
僕は目を合わせるのが怖くて目を閉じた。
視覚情報が無くなり、診察室は静寂に包まれている。
そのせいか、エイシア様の恐ろしい気配を余計に感じてしまうような気がする。
しばらくして、スタイズさんが「ヘアックションッ!!」と盛大にクシャミをして、その直後にエイシア様が舌打ちするのが聞こえてきた。
ああ、どうしてこんな時に……
思わず閉じている目に力が入ってしまう。
「ははっ、すみません。急に鼻がムズムズし……」
スタイズさんの声が不自然に途切れた。
気になって目を開けると、診察台の隣に立っているはずの彼が白目をむいて倒れかけていて、ライナートさんがスタイズさんの後ろから両脇に腕を差し込んで支えている状態だった。
この一瞬で何があったんだ!?
心配になって起き上がろうとしたのだけど、
「じっとしてろクソガキが!! まだ診察中だ!!」
エイシア様の怒号が響き渡り、僕の身体はまた震え上がってしまった。
「す、すみませんでした!!」
僕はスタイズさんの無事を祈りながら、目をギュッと閉じる。
やっぱり医療従事者なら、優しい声掛けをするべきじゃないのか?
エイシア様が「そういう人」じゃないのは分かっているけれど。
これでは健康な人も、具合が悪くなってしまうって。
ひたすら、早く終われ、早く終われ……と念じていると、エイシア様から診察が終わったので台から降りるように、と言われた。
目を開けて体を起こすと、少し離れたところでスタイズさんがライナートさんに支えられながら、ぐったりとした様子で床に座り込んでいるのが見えた。
僕は診察台から降りて、彼の元へと向かう。
「スタイズさん、大丈夫ですか!?」
彼の隣に両膝をついて声をかけてみたけれど、彼は目を閉じたままだ。
頬を軽く叩きながら彼の名前を呼んでも、何の反応もない。
エイシア様が溜息をついた。
「先程は透視の魔法で、お前の体内の様子を視ていた。筋肉、血管、神経、各種臓器、その他のものを視るのには、かなりの集中力を必要とする。くだらないやり取りで邪魔をされたくなかったので、魔法で強制的にスタイズの意識を落としたのだ。」
するとスタイズさんの身体がフワフワと浮き上がって、診察台の上に横たわらせられた。
そしてエイシア様がじっと睨みつける。
魔術士特有の青緑の瞳が赤く光っているので、これが透視の魔法なのだろう。
エイシア様の邪魔をしないように、そして怒られないように、僕は離れたところでライナートさんと一緒に息を潜める。
しばらくすると呻き声が聞こえてきて、スタイズさんがゆっくりと目を開けた。
「あれ、私は……んんっ!? いつの間に診察台の上に!?」
くしゃみをしたと思ったら、次の瞬間には診察台の上で横になっているんだから、そりゃ混乱するよね……
エイシア様は腕を組んで僕たちの方を向いた。
「診察は終わりだ。二人とも問題は無いから、自宅に戻って構わない。この後のことは、ライナートに聞くと良い」
そうして部屋の隅にある机と椅子の方へと歩いて行き、静かに椅子に座って本を読みだした。
スタイズさんは起き上がって診察台から降りようとしたのだけど、ふらついて姿勢を維持することができないようだ。
ライナートさんが彼の横から抱きつくようにして身体を支える。
「意識を強制的に落とすのは私もされたことがあるのですが、目覚めてから十分ほどは眩暈やふらつき、嘔吐感が残ります。とりあえず病室に戻って、休みましょう。支えがあれば歩けそうですか?」
「ああ、何とか。肩を貸してもらえれば……」
スタイズさんはライナートさんの肩に腕を回して、並んで歩き出した。
だけどライナートさんにとって、一回り大きなスタイズさんを支えるのは大変なようで、スタイズさんがふらつく度にライナートさんも引っ張られるように大きくふらついてしまっている。
僕も肩を貸そうと思い、ライナートさんの反対側に回った。
けれど僕とスタイズさんでは身長差があり過ぎて、僕の肩に彼の腕を回せそうにない。
少しでも支えになれるようにと、思い切って彼に抱きついた。
「診察室の外に出ましたら、車椅子を用意します。あと少しですので、頑張って一刻も早く部屋を出ましょう」
ライナートさんが真剣な表情で僕たちの方を見る。
診察が終わったのにいつまでもここに残っていたら、またエイシア様に怒鳴られるかもしれない。
エイシア様の方をチラリと見ると、僕たちの様子には関心のない様子で本を読んでいる。
魔法で病室まで魔法で運んでくれてもいいのに。
……本当に優しくない人だな。
険しい表情で腕組みをしていて、確かに「いつも通り」だ。
僕はスタイズさんと並んで立って、朝の挨拶をする。
するとエイシア様は小さく頷いたあと、診察台の方を指差した。
「まずはセルテだ。服は着たままでいいから、さっさと台の上に仰向けになれ」
言われるまま、僕は診察台の上で仰向けになったのだけど、エイシア様は無言で僕を睨みつけるだけだ。
これが診察なのか?
僕は目を合わせるのが怖くて目を閉じた。
視覚情報が無くなり、診察室は静寂に包まれている。
そのせいか、エイシア様の恐ろしい気配を余計に感じてしまうような気がする。
しばらくして、スタイズさんが「ヘアックションッ!!」と盛大にクシャミをして、その直後にエイシア様が舌打ちするのが聞こえてきた。
ああ、どうしてこんな時に……
思わず閉じている目に力が入ってしまう。
「ははっ、すみません。急に鼻がムズムズし……」
スタイズさんの声が不自然に途切れた。
気になって目を開けると、診察台の隣に立っているはずの彼が白目をむいて倒れかけていて、ライナートさんがスタイズさんの後ろから両脇に腕を差し込んで支えている状態だった。
この一瞬で何があったんだ!?
心配になって起き上がろうとしたのだけど、
「じっとしてろクソガキが!! まだ診察中だ!!」
エイシア様の怒号が響き渡り、僕の身体はまた震え上がってしまった。
「す、すみませんでした!!」
僕はスタイズさんの無事を祈りながら、目をギュッと閉じる。
やっぱり医療従事者なら、優しい声掛けをするべきじゃないのか?
エイシア様が「そういう人」じゃないのは分かっているけれど。
これでは健康な人も、具合が悪くなってしまうって。
ひたすら、早く終われ、早く終われ……と念じていると、エイシア様から診察が終わったので台から降りるように、と言われた。
目を開けて体を起こすと、少し離れたところでスタイズさんがライナートさんに支えられながら、ぐったりとした様子で床に座り込んでいるのが見えた。
僕は診察台から降りて、彼の元へと向かう。
「スタイズさん、大丈夫ですか!?」
彼の隣に両膝をついて声をかけてみたけれど、彼は目を閉じたままだ。
頬を軽く叩きながら彼の名前を呼んでも、何の反応もない。
エイシア様が溜息をついた。
「先程は透視の魔法で、お前の体内の様子を視ていた。筋肉、血管、神経、各種臓器、その他のものを視るのには、かなりの集中力を必要とする。くだらないやり取りで邪魔をされたくなかったので、魔法で強制的にスタイズの意識を落としたのだ。」
するとスタイズさんの身体がフワフワと浮き上がって、診察台の上に横たわらせられた。
そしてエイシア様がじっと睨みつける。
魔術士特有の青緑の瞳が赤く光っているので、これが透視の魔法なのだろう。
エイシア様の邪魔をしないように、そして怒られないように、僕は離れたところでライナートさんと一緒に息を潜める。
しばらくすると呻き声が聞こえてきて、スタイズさんがゆっくりと目を開けた。
「あれ、私は……んんっ!? いつの間に診察台の上に!?」
くしゃみをしたと思ったら、次の瞬間には診察台の上で横になっているんだから、そりゃ混乱するよね……
エイシア様は腕を組んで僕たちの方を向いた。
「診察は終わりだ。二人とも問題は無いから、自宅に戻って構わない。この後のことは、ライナートに聞くと良い」
そうして部屋の隅にある机と椅子の方へと歩いて行き、静かに椅子に座って本を読みだした。
スタイズさんは起き上がって診察台から降りようとしたのだけど、ふらついて姿勢を維持することができないようだ。
ライナートさんが彼の横から抱きつくようにして身体を支える。
「意識を強制的に落とすのは私もされたことがあるのですが、目覚めてから十分ほどは眩暈やふらつき、嘔吐感が残ります。とりあえず病室に戻って、休みましょう。支えがあれば歩けそうですか?」
「ああ、何とか。肩を貸してもらえれば……」
スタイズさんはライナートさんの肩に腕を回して、並んで歩き出した。
だけどライナートさんにとって、一回り大きなスタイズさんを支えるのは大変なようで、スタイズさんがふらつく度にライナートさんも引っ張られるように大きくふらついてしまっている。
僕も肩を貸そうと思い、ライナートさんの反対側に回った。
けれど僕とスタイズさんでは身長差があり過ぎて、僕の肩に彼の腕を回せそうにない。
少しでも支えになれるようにと、思い切って彼に抱きついた。
「診察室の外に出ましたら、車椅子を用意します。あと少しですので、頑張って一刻も早く部屋を出ましょう」
ライナートさんが真剣な表情で僕たちの方を見る。
診察が終わったのにいつまでもここに残っていたら、またエイシア様に怒鳴られるかもしれない。
エイシア様の方をチラリと見ると、僕たちの様子には関心のない様子で本を読んでいる。
魔法で病室まで魔法で運んでくれてもいいのに。
……本当に優しくない人だな。
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