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第六章:病室で休む二人
73 僕は不安でお腹が痛くなる
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僕とライナートさんの二人で、ふらつくスタイズさんを両側から支えつつ、何とか診察室を出た。
そしてスタイズさんを車椅子に載せて、病室へと戻ったんだ。
ベッドの上でスタイズさんが横になり、僕は同じベッドの端に腰を掛け、ライナートさんは床に片膝をついて僕たちの方を見ている。
「スタイズ様、お辛いと思いましたら、ご遠慮なくお申し付け下さいね」
ライナートさんの言葉に、スタイズさんは片手を上げて応えた。
「大丈夫、少し頭がフラフラするくらいだ。エイシア様の診察の邪魔をした私が悪いのだから、仕方がないさ」
ライナートさんによると、今日の夕方の六時から大宴会場で、僕とスタイズさんの歓迎会が行われるそうだ。
それで準備の為に、二時間ほど前に会場に行く必要があるけれど、それまでは研究所の敷地中で自由に過ごして良いらしい。
思い返すと、僕のパートナーを選ぶ面談の時に、歓迎会がどうとか言っていた人がいたような気がする。
パートナーとなったスタイズさんが二日前に魔術研究所に来たから、ようやく開催することができるのか。
夕方からということは、夕食を食べながらなんだろうけれど、どれくらいの規模になるんだろう?
ライナートさんに聞いてみると、彼はしばらくの間目を閉じた後、笑顔で答えてくれた。
「セルテ様以外の魔術士様とそのパートナーだけでも五十八人いらっしゃいますし、それに上層部の方々と一般職員の大半が参加する予定で、職員の子供を含めると三百人は超えるのではないでしょうか。もちろん私も参加いたしますよ」
凄い人数だなぁと思っていると、ライナートさんが心配そうな表情を向けてきた。
「あの……いつもと同じ流れでしたら、セルテ様は歓迎会が始まって割とすぐに、舞台の上で自己紹介をすることになっていまして……」
「えっ!?」
「セルテ様はどちらかというと、そういう場面は苦手な方ではありませんか?」
僕は固まってしまった。
舞台の上で、三百人の前で僕が喋る????
学校に通っていた時、二十人くらいのクラスの皆の前で発表をする時ですら緊張して上手く話せなくなっていたのに、三百人の前で自己紹介をするって???
そんなのは「どちらかというと苦手な方」じゃなくて、「とてつもなく苦手」だよ!!
考えるだけでも憂鬱になってきて、少しお腹が痛くなってきたような。
でも僕の歓迎会だし、参加しないわけにもいかない。
ライナートさんが穏やかな表情で、僕の方に手を差し伸ばしてきた。
「セルテ様、気持ちを落ち着かせる薬を用意しましょうか? 歓迎会の三十分程前に飲まれますと、丁度いい頃に緊張が和らぐかもしれません」
そういえば、昨日は気持ちを落ち着かせる薬を飲まずに済んだけれど、スタイズさんとの触れ合いの方が勝るのなら、そんなに強くないのだろうか?
でも皆の前で挨拶をする時に、スタイズさんと触れ合うわけにはいかないし、自分だけでどうにかしないと。
「は、はい、是非!! 思いっきり強めの薬でお願いします!!」
だけどライナートさんは、目を閉じて首を横に振った。
「いえいえ。薬が強すぎると頭がぼうっとなって、動けなくなってしまいますので駄目です。セルテ様の体型から計算して、標準的な量をお出しすることしかできません」
……そうなのか。
動けなくなるのは困るけど、標準的な量でどれくらいの効き目になるのか、ちょっと不安になる。
溜息をつくと、ベッドについていた僕の手がギュッと握られた。
温かく大きな手……スタイズさんの手だ。
「おそらく私も、一緒に舞台に上がることになるのだろう。君は一人じゃない。大丈夫だ。それに夕方までには時間があるから、他に対策できることがないかを一緒に考えよう」
「はい……」
優しい瞳で見つめられながら手を力強く握られているうちに、本当に大丈夫かもしれないという思いが少しわいてきた。
するとライナートさんが両手をポンと叩いて、名案を思いついたと言ったんだ。
「いっそのこと、お二人で手を繋いだまま舞台に上がるのはどうでしょうか? セルテ様の不安が軽減すると同時に、お二方の温かい関係を皆に知らしめることができますよ!」
えええっ?????
それはちょっと子供っぽくないだろうか?
スタイズさんに聞いてみると、「堂々としていれば、意外と『そういうものか』と思われるだけで済むかもしれないし、良いかもな」と返ってきた。
うーん、そういうものなのか……?
そしてスタイズさんを車椅子に載せて、病室へと戻ったんだ。
ベッドの上でスタイズさんが横になり、僕は同じベッドの端に腰を掛け、ライナートさんは床に片膝をついて僕たちの方を見ている。
「スタイズ様、お辛いと思いましたら、ご遠慮なくお申し付け下さいね」
ライナートさんの言葉に、スタイズさんは片手を上げて応えた。
「大丈夫、少し頭がフラフラするくらいだ。エイシア様の診察の邪魔をした私が悪いのだから、仕方がないさ」
ライナートさんによると、今日の夕方の六時から大宴会場で、僕とスタイズさんの歓迎会が行われるそうだ。
それで準備の為に、二時間ほど前に会場に行く必要があるけれど、それまでは研究所の敷地中で自由に過ごして良いらしい。
思い返すと、僕のパートナーを選ぶ面談の時に、歓迎会がどうとか言っていた人がいたような気がする。
パートナーとなったスタイズさんが二日前に魔術研究所に来たから、ようやく開催することができるのか。
夕方からということは、夕食を食べながらなんだろうけれど、どれくらいの規模になるんだろう?
ライナートさんに聞いてみると、彼はしばらくの間目を閉じた後、笑顔で答えてくれた。
「セルテ様以外の魔術士様とそのパートナーだけでも五十八人いらっしゃいますし、それに上層部の方々と一般職員の大半が参加する予定で、職員の子供を含めると三百人は超えるのではないでしょうか。もちろん私も参加いたしますよ」
凄い人数だなぁと思っていると、ライナートさんが心配そうな表情を向けてきた。
「あの……いつもと同じ流れでしたら、セルテ様は歓迎会が始まって割とすぐに、舞台の上で自己紹介をすることになっていまして……」
「えっ!?」
「セルテ様はどちらかというと、そういう場面は苦手な方ではありませんか?」
僕は固まってしまった。
舞台の上で、三百人の前で僕が喋る????
学校に通っていた時、二十人くらいのクラスの皆の前で発表をする時ですら緊張して上手く話せなくなっていたのに、三百人の前で自己紹介をするって???
そんなのは「どちらかというと苦手な方」じゃなくて、「とてつもなく苦手」だよ!!
考えるだけでも憂鬱になってきて、少しお腹が痛くなってきたような。
でも僕の歓迎会だし、参加しないわけにもいかない。
ライナートさんが穏やかな表情で、僕の方に手を差し伸ばしてきた。
「セルテ様、気持ちを落ち着かせる薬を用意しましょうか? 歓迎会の三十分程前に飲まれますと、丁度いい頃に緊張が和らぐかもしれません」
そういえば、昨日は気持ちを落ち着かせる薬を飲まずに済んだけれど、スタイズさんとの触れ合いの方が勝るのなら、そんなに強くないのだろうか?
でも皆の前で挨拶をする時に、スタイズさんと触れ合うわけにはいかないし、自分だけでどうにかしないと。
「は、はい、是非!! 思いっきり強めの薬でお願いします!!」
だけどライナートさんは、目を閉じて首を横に振った。
「いえいえ。薬が強すぎると頭がぼうっとなって、動けなくなってしまいますので駄目です。セルテ様の体型から計算して、標準的な量をお出しすることしかできません」
……そうなのか。
動けなくなるのは困るけど、標準的な量でどれくらいの効き目になるのか、ちょっと不安になる。
溜息をつくと、ベッドについていた僕の手がギュッと握られた。
温かく大きな手……スタイズさんの手だ。
「おそらく私も、一緒に舞台に上がることになるのだろう。君は一人じゃない。大丈夫だ。それに夕方までには時間があるから、他に対策できることがないかを一緒に考えよう」
「はい……」
優しい瞳で見つめられながら手を力強く握られているうちに、本当に大丈夫かもしれないという思いが少しわいてきた。
するとライナートさんが両手をポンと叩いて、名案を思いついたと言ったんだ。
「いっそのこと、お二人で手を繋いだまま舞台に上がるのはどうでしょうか? セルテ様の不安が軽減すると同時に、お二方の温かい関係を皆に知らしめることができますよ!」
えええっ?????
それはちょっと子供っぽくないだろうか?
スタイズさんに聞いてみると、「堂々としていれば、意外と『そういうものか』と思われるだけで済むかもしれないし、良いかもな」と返ってきた。
うーん、そういうものなのか……?
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