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第六章:病室で休む二人
74 僕は皆が親切にしてくれることが嬉しい
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スタイズさんは少し休んだことで具合が良くなったようで、身体を起こしてベッドの上で胡座をかいた。
「ライナートさん。過去の歓迎会の様子が動画で残っているのなら、見せてもらうことはできないだろうか? 何も知らないよりは少しでも雰囲気が分かった方が、セルテ様も心構えができるんじゃないかな」
……確かに、スタイズさんの言うとおりかもしれない。
それに歓迎会では自己紹介の他にも、僕がしないといけないことがあるかもしれない。
直前に説明を受けて本番に挑むよりは、あらかじめ頭の中で「こういう時はこうしよう」と考えておいた方が、安心できるだろう。
ライナートさんの方を見ると、何度か頷いたあと、爽やかな笑顔を見せてくれた。
「そうですね。大抵の催しでは、催事企画部の人が撮影機を持って写真や動画を撮っています。彼らに頼んでそれらを見せて貰うのは、良い案ですね。今すぐ催事企画部の方に通信機で連絡しますので、その間にお二方はお着替えをお済ませいただけますでしょうか」
彼はそう言うと立ち上がり、病室を飛び出していった。
制服に着替えて病室を出ると、ライナートさんとイズリーさんが僕たちの方へと駆け寄ってきた。
そしてライナートさんは、行方不明だった僕のハンカチを差し出して、頭を深く下げたんだ。
「セルテ様、洗濯の際に紛失してしまっていたハンカチが見つかりました。大変申し訳ございませんでした」
僕はハンカチを受け取って、それをスタイズさんに渡す。
「とりあえず今日はこれを使ってください。新しいものは今度渡しますので」
「ありがとう、セルテ君」
彼は笑顔でそう言うと、上着のポケットの中にハンカチを入れた。
ライナートさん曰く、催事企画部の方に連絡を入れたところ、過去の記録をすぐに見ることができる様に用意しておくので、いつでも来ていいと言っていたそうだ。
「セルテ様、気持ちを落ち着かせるお薬ですが、服用に適したお時間に、私が大宴会場の控室にお持ちいたします。今お渡しして、万が一どこかで紛失されてしまうと大変ですので」
「はい。よろしくお願いします」
僕がお辞儀をすると、ライナートさんとイズリーさんが、にっこりと微笑みかけてくれた。
皆、僕のことを気遣ってくれて、僕の為に動いてくれている。
良い人ばかりで本当にありがたい……そう思っているうちに胸が苦しくなってきて、涙が溢れてきた。
うぅ、やばい、こんな時に涙が出るなんて。
見られないように下を向くと、スタイズさんが慌てた様子で僕の両肩を掴んで、僕の顔を覗き込んできた。
そして大きな手で優しく涙を拭われる。
「大丈夫か? セルテ君、やっぱり不安でたまらないのか?」
そういうわけではない、皆が親切にしてくれるのが嬉しいからだと言うと、彼は僕の両手を握って笑顔を向けてくれたんだ。
「皆、君のことを大切に思って、心配しているんだよ」
スタイズさんの優しい声に続いて聞こえてきたのは、イズリーさんの「そうですよ!」という力強い声。
それに続いて、ライナートさんの穏やかな様子の声が聞こえてきた。
「セルテ様が魔術研究所に来られてすぐの頃は、悲しそうにされていることが多く、医務室の職員一同で心配しておりました。でもスタイズ様と出会われてからは、素敵な笑顔を見せてくださることが増えまして……本当に良かったです」
一緒にいた時間でいえば、スタイズさんよりもライナートさんの方が長い。
何かにつけて仰々しい言い方をする人だけど、ずっと僕のことを気にかけてくれていたのは事実だ。
彼の言葉がまた嬉しくて、更に涙が止まらなくなってしまう。
スタイズさんはそんな僕の背中を、静かに擦り続けてくれたんだ。
しばらくして涙が収まったので、僕は顔を上げる。
するとライナートさんが、スタイズさんの名前を呼んだ。
「スタイズ様、私がこんなことを言うのは烏滸がましいとは思いますが……セルテ様のことをよろしくお願いいたします」
その言葉に、スタイズさんが頷きで返した。
そしてその直後、バシっと背中を叩かれる。
「よし、セルテ君! 催事企画部に行こう!!」
「は、はいっ!」
医務室の皆にお世話になったことへのお礼の言葉を告げて、皆に見送られながら僕とスタイズさんは医療棟を出た。
すると、黒い物体……楕円形の胴体に長い首と丸い頭と長い尻尾が付いていて、胴体の下から二本の脚が生えている、「移動用の魔道生物」が近寄ってきた。
僕たちはそれに乗って、催事企画部のある建物を目指して進むのだった。
スタイズさんが握った手綱を上下に揺らすと、魔道生物の速度がどんどん上がっていく。
けれど、不思議なことにあまり揺れは感じない。
それに僕の後ろからスタイズさんがしっかり支えてくれているから、怖いという気持ちはなく、むしろ広大な平原を爆走しているうちに清々しい気持ちになってきたんだ。
「セルテ君、大丈夫だ! 君は歓迎会では立派に振る舞い、会は大成功で終わるはずだ!!」
スタイズさんの力強い言葉を聞くと、本当にそうなるような気がしてくる。
彼は優しいだけじゃなくて、すぐにへこたれてしまう僕を引っ張り上げてくれる、力強くて素敵な人。
僕も彼の様な男になりたいと思うんだ。
「ライナートさん。過去の歓迎会の様子が動画で残っているのなら、見せてもらうことはできないだろうか? 何も知らないよりは少しでも雰囲気が分かった方が、セルテ様も心構えができるんじゃないかな」
……確かに、スタイズさんの言うとおりかもしれない。
それに歓迎会では自己紹介の他にも、僕がしないといけないことがあるかもしれない。
直前に説明を受けて本番に挑むよりは、あらかじめ頭の中で「こういう時はこうしよう」と考えておいた方が、安心できるだろう。
ライナートさんの方を見ると、何度か頷いたあと、爽やかな笑顔を見せてくれた。
「そうですね。大抵の催しでは、催事企画部の人が撮影機を持って写真や動画を撮っています。彼らに頼んでそれらを見せて貰うのは、良い案ですね。今すぐ催事企画部の方に通信機で連絡しますので、その間にお二方はお着替えをお済ませいただけますでしょうか」
彼はそう言うと立ち上がり、病室を飛び出していった。
制服に着替えて病室を出ると、ライナートさんとイズリーさんが僕たちの方へと駆け寄ってきた。
そしてライナートさんは、行方不明だった僕のハンカチを差し出して、頭を深く下げたんだ。
「セルテ様、洗濯の際に紛失してしまっていたハンカチが見つかりました。大変申し訳ございませんでした」
僕はハンカチを受け取って、それをスタイズさんに渡す。
「とりあえず今日はこれを使ってください。新しいものは今度渡しますので」
「ありがとう、セルテ君」
彼は笑顔でそう言うと、上着のポケットの中にハンカチを入れた。
ライナートさん曰く、催事企画部の方に連絡を入れたところ、過去の記録をすぐに見ることができる様に用意しておくので、いつでも来ていいと言っていたそうだ。
「セルテ様、気持ちを落ち着かせるお薬ですが、服用に適したお時間に、私が大宴会場の控室にお持ちいたします。今お渡しして、万が一どこかで紛失されてしまうと大変ですので」
「はい。よろしくお願いします」
僕がお辞儀をすると、ライナートさんとイズリーさんが、にっこりと微笑みかけてくれた。
皆、僕のことを気遣ってくれて、僕の為に動いてくれている。
良い人ばかりで本当にありがたい……そう思っているうちに胸が苦しくなってきて、涙が溢れてきた。
うぅ、やばい、こんな時に涙が出るなんて。
見られないように下を向くと、スタイズさんが慌てた様子で僕の両肩を掴んで、僕の顔を覗き込んできた。
そして大きな手で優しく涙を拭われる。
「大丈夫か? セルテ君、やっぱり不安でたまらないのか?」
そういうわけではない、皆が親切にしてくれるのが嬉しいからだと言うと、彼は僕の両手を握って笑顔を向けてくれたんだ。
「皆、君のことを大切に思って、心配しているんだよ」
スタイズさんの優しい声に続いて聞こえてきたのは、イズリーさんの「そうですよ!」という力強い声。
それに続いて、ライナートさんの穏やかな様子の声が聞こえてきた。
「セルテ様が魔術研究所に来られてすぐの頃は、悲しそうにされていることが多く、医務室の職員一同で心配しておりました。でもスタイズ様と出会われてからは、素敵な笑顔を見せてくださることが増えまして……本当に良かったです」
一緒にいた時間でいえば、スタイズさんよりもライナートさんの方が長い。
何かにつけて仰々しい言い方をする人だけど、ずっと僕のことを気にかけてくれていたのは事実だ。
彼の言葉がまた嬉しくて、更に涙が止まらなくなってしまう。
スタイズさんはそんな僕の背中を、静かに擦り続けてくれたんだ。
しばらくして涙が収まったので、僕は顔を上げる。
するとライナートさんが、スタイズさんの名前を呼んだ。
「スタイズ様、私がこんなことを言うのは烏滸がましいとは思いますが……セルテ様のことをよろしくお願いいたします」
その言葉に、スタイズさんが頷きで返した。
そしてその直後、バシっと背中を叩かれる。
「よし、セルテ君! 催事企画部に行こう!!」
「は、はいっ!」
医務室の皆にお世話になったことへのお礼の言葉を告げて、皆に見送られながら僕とスタイズさんは医療棟を出た。
すると、黒い物体……楕円形の胴体に長い首と丸い頭と長い尻尾が付いていて、胴体の下から二本の脚が生えている、「移動用の魔道生物」が近寄ってきた。
僕たちはそれに乗って、催事企画部のある建物を目指して進むのだった。
スタイズさんが握った手綱を上下に揺らすと、魔道生物の速度がどんどん上がっていく。
けれど、不思議なことにあまり揺れは感じない。
それに僕の後ろからスタイズさんがしっかり支えてくれているから、怖いという気持ちはなく、むしろ広大な平原を爆走しているうちに清々しい気持ちになってきたんだ。
「セルテ君、大丈夫だ! 君は歓迎会では立派に振る舞い、会は大成功で終わるはずだ!!」
スタイズさんの力強い言葉を聞くと、本当にそうなるような気がしてくる。
彼は優しいだけじゃなくて、すぐにへこたれてしまう僕を引っ張り上げてくれる、力強くて素敵な人。
僕も彼の様な男になりたいと思うんだ。
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