天涯孤独になった少年は、元軍人の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)

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第七章:新しい魔術士とそのパートナーの歓迎会

82 僕は出発の時間までそわそわして過ごす

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 鐘が鳴る音が聞こえてきたので顔を上げると、スタイズさんが柔らかな笑顔を向けてくれた。
 その顔には涙の跡がうっすらと残っていたので、僕は少しでも消えるようにと思って、右手を伸ばして彼の頬をゴシゴシと拭いてみる。
 彼は目を閉じて、僕にされるがままだ。


 しばらくしてスタイズさんは、僕の手に自分の手を重ねてギュっと握ってくれた。

 「セルテ君、ありがとう。指輪は戻って来たし、泣いたことでスッキリできたよ。顔は後で洗面所で洗うことにするさ」

 そうして僕の身体から離れて、僕の頭をポンポンと撫でてくれた。
 過去の話をしている時とは違って、穏やかな表情を見せる彼。
 少しは悲しい気分が薄れたのかな?

 

 スタイズさんが部屋の壁に飾られた時計を見る。

 「もう昼の一時か。大宴会場に行くまで、後三時間しかないな。昼食をとって、歓迎会に備えなければ」

 「そうですね。下に降りましょう」



 一階に降りると、テーブルの上には昼食が並んでいて、すぐにでも食べられるようになっていた。
 テーブルの横にティムさんが立って僕たちを待っていたのだけど、彼女はスタイズさんの顔を見て驚いた様子で両手を口に当てたんだ。

 「スタイズ様! そのお顔……どうなされましたか?」

 「いや~、前に研究所に来た時に、とても大切な指輪を無くしたんだけど、この子が保管してくれていたようで、感激して泣いてしまったんだよ」

 「まあ……それは良かったですね……」



 スタイズさんは先に食べ始めるようにと言って、洗面所の方へと向かった。
 僕はソファーに座り、神様に祈りを捧げる。

 ……そうだ、お祈りついでに神様にお願いしておこう。

 ――スタイズさんの過去は悲しいものだったけれど、これからは幸せなことが沢山ありますように。神様、よろしくお願いします――


 祈り終わってナイフとフォークを手に取ったところで、スタイズさんが速足で戻ってきて僕の隣に座った。
 彼は目を閉じて手を組んだと思ったらすぐに目を開けて、僕と同じようにナイフとフォークを手に取ったんだ。

 「は、早いですね」

 「ああ、今日は大切な用事があるからな。呑気に祈っている場合じゃないだろう」


 ……えっ、そんなものでいいの?


 「子供の頃から事あるごとに、真面目に神に祈りを捧げていたのに、結局ロクでもない目に遭ったんだ。神は人間のことなんて、大して見ていない。たまに祈りが適当になったところで、気付かないだろうさ」

 スタイズさんが言うと説得力があるような……
 確かに神様に祈ったことで皆が救われるのなら、父さんは病気で死んだりしなかったはずだし、そもそもこの世に不幸な人なんていないはずなんだ。


 「じゃあ、神様に祈る必要って無いのかな……」

 「いや、一般的には祈るべきとなっている。私の前でならいいけれど、他の人の前でそんなことを言ったら、非常識な奴だと思われてしまうぞ」


 「そうですよね」

 「いざという時にボロが出てしまわないよう、普段から形だけでもしておいた方が良いだろう」





 昼食を済ませた僕たちは、軽く湯浴みをした後、ティムさんに紙とペンを用意してもらって挨拶の文章を考えることにした。
 催事企画部で見た動画のように、ずっと記録として残ってしまうのなら、出来る限り格好良い姿で残したい。

 僕がうんうんと唸りながら文章を考えている横で、スタイズさんはスラスラとペンを走らせている。
 チラっと見てみたけれど、凄く整った文字だ。
 貴族の生まれだし、教師を目指していたことがあるらしいから、その辺のことはしっかりしているのだろう。

 元軍人で剣術も得意だろうし、いわゆる文武両道ってやつ?
 うーん、スタイズさんは格好良いな。





 スタイズさんに意見を貰いながら、何とか挨拶の文章を完成させた。

 地図を見る限り大宴会場までは、移動用の魔道生物に乗って転送機を使うことで、十五分程で行けそうな感じだ。
 午後四時に着けばいいらしいけれど、初めて行く場所だから余裕をもって三時に自宅を出ることにした。



 家を出るまでの間、僕は気持ちが落ち着かなくて部屋の中をウロウロと歩き回っていた。
 スタイズさんは僕とは対照的に、両腕を組んで目を閉じて静かにソファーに座っている。

 ティムさんが緊張している僕を気遣ってか、お茶を用意してくれた。
 折角なので口にしたのだけれど、変なタイミングでトイレに行きたくなったらどうしようと、それはそれで不安になってしまう。



 無駄に歩き回ったり、窓の外を眺めたり、紙に書いた挨拶文を小声で読み上げたりしているうちに、家を出る時間になったようで。
 ソファーに座っていたスタイズさんが、自分の両膝をバシっと叩いてから立ち上がった。

 「よし! セルテ君、そろそろ大宴会場に向かおう!!」

 「はいっ!」

 午後三時過ぎ。
 僕たちは自宅を出て、玄関ドアの前で待機していた移動用の魔道生物に跨って、大宴会場を目指すのだった。
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