天涯孤独になった少年は、元軍人の優しいオジサンと幸せに生きる

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第九章:図書館での殺人未遂事件

114 僕は「ざまぁ」の内容を知らない方が良いらしい

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 スタイズさんが怪我をした当日と翌日は、彼が高熱を出して心配だったので、自分が食事とトイレと湯浴みをする時以外は、ずっと彼のそばで見守っていた。


 二日後の朝になると、彼の体温が少し下がったものの、まだ安静にしている必要があるとのことで、スタイズさんはベッドで横になっていた。
 僕は彼のことが心配だったけれど、看護士のライナートさんに「スタイズ様のことは我々に任せて、セルテ様は普段の生活にお戻りください」と言われてしまったので、学習塾に行くことになった。
 先生や他の魔術士たちは事件のことを知っているようで、心配と励ましの言葉を沢山貰ってしまった。



 そんなこんなで、四日後の朝になった。
 スタイズさんの体温は平熱まで下がって、病室の中を一人で動き回ることができるようになっていた。

 けれど、医療魔術士の診察を受けてからでないと、病室を出ることができないそうだ。
 医療魔術士が出勤してくる朝の十時まで、病室で待つしかなかった。


 病室のベッドには物体操作の魔法が組み込まれていて、作動させると少しだけ浮くようになっている。
 そして浮いた後は軽く押すだけで、動かすことができる。
 二つのベッドを部屋の片側に寄せるように移動させると、それなりの広さの空間ができたので、僕とスタイズさんは向かい合って簡単な体操を始めた。

 スタイズさんは両腕を前方に伸ばして、大きくグルグルと回しだした。
 僕も彼の動きを真似ると、肩と背中の筋肉が動いて気持ちが良い。
 魔術士の制服はしっかりとした作りで重いので、長時間着ていると肩が凝ってしまうんだ。


 「ん~、寝てばかりだったから、身体が凝っているな~」

 「そうですよね」

 スタイズさんは、どっしりと立ち、力強い笑顔を見せる。
 数日前に複数の骨にひびが入って高熱で寝込んでいたとは思えない、元気な姿だ。
 本当に良かった……そう思うと、目が熱くなってくる。


 続いて彼は、両膝に手を当てて、ゆっくりと腰を下ろしては上げるのを繰り返した。

 「足の骨もやられたからな~。回復魔法が無ければ、数か月もの間、不自由な状態で生活をしないといけなかっただろう。数日、高熱を我慢するだけで良いというのは、とてもありがたいことだな!」

 「えっ……」

 彼の言葉に、僕は賛同することができなかった。
 そもそも骨にひびが入らなければ、高熱を我慢する必要は無かったのだから。
 僕としては、回復魔法への感謝の気持ちよりも、犯人へ怒りの方が強い。

 結局、犯人はどうなったんだろうか?
 そう思っていると、ライナートさんがやってきて、その辺のことを教えてくれたんだ。



 昨晩、エイシア様から魔術研究所の職員――魔術士とパートナーと医療関係者以外の全員――に対して、通達があったそうだ。
 スタイズさんに危害を加えたことで、世界魔術士協会本部にある魔術実験場に送られることになった、犯人の末路について。

 犯人は「開発中の魔道具の試験」に参加したそうなのだけど、試験内容と結果は凄惨なものらしく、通達を確認したことで精神的に不調になった職員が続出しているらしい。
 現在、医務室の外来診察受付には、精神安定剤の処方を希望する人が多く来ているそうだ。

 ライナートさん曰く、僕もエイシア様に頼めば通達の中身を知ることができるだろう、とのこと。
 だけど通達の中に、犯人が苦しみながら死ぬ瞬間の動画があるそうで、確実に僕の具合が悪くなるだろうから見ない方が良い、と言われてしまった。
 た、確かに、それは見たくないかな……

 スタイズさんは被害者だけど、どうなんだろう?
 気になったので聞いてみると、彼は腕を組んで首を傾げたんだ。

 「うーむ。ライナートさんの言う通りの内容なら、知りたいとは思わないな……」

 ……とにかく、犯人は「ざまぁ」されたってことか。
 

 そして、エイシア様からの通達の少し後に、魔術研究所の上層部からも通達があったそうだ。

 魔術士の体内にある魔石は、世界魔術士協会から借りているもの。
 世界魔術士協会の魔術士であるエイシア様の機嫌を損なうことで、魔石とそれに付随する魔術士がこの国から引き上げられてしまうということは、あってはならないことだ。
 エイシア様のご意向には絶対に従うこと、魔術士とそのパートナーに対して敬愛の心で接するように、と……

 今回の事件を起こした職員を輩出した家に対しても、厳しい処分が下されることが決定したらしい。
 研究所の所長は王族だし、貴族の家に対して強く出ることができるのかな?



 ライナートさんは柔らかな笑みを浮かべて、控えめに頭を下げた。

 「通達については以上です。また、保安部の方から、各所の警備を強化するとの連絡が入っております。その点も含めて、ご安心いただければと思います」

 上層部からの通達について知ることができて、僕はほっと胸を撫で下ろした。
 魔術研究所の職員は、貴族の生まれの人ばかりだ。
 自分が処罰を受けるだけでなく、生家にまで迷惑がかかるとなれば、同じような事件を起こそうと考える奴はさすがに出てこないだろう。

 僕はそう思ったのだけど、スタイズさんは違うようで。
 彼は眉間に皺を寄せて、腕を組み、溜息をつきながら目を閉じた。

 「職員の多くが温かい気持ちで私に接してくれていることは、重々承知しているし、心から感謝している。だが、全員がそうだとは限らない。
 誰かが衝動に駆られて罪を犯す時、その者は罰の重さを考えることもなければ、大切な家族の顔を思い浮かべることもないのだろう。万が一のことで、セルテ様を悲しませるわけにはいかない。今後は緊張感を持って行動するつもりだよ」

 ……確かに、皆が理性的だったら、世の中に犯罪者なんて生まれないのかもしれない。
 スタイズさんは王国軍の兵士として、多くの悪者を見てきただろうから、警戒してしまうんだろうな。


 ライナートさんは、唇を固く引き結び、姿勢を正して、僕とスタイズさんに向き直った。
 そして、これからも僕たちの支えになれるよう全力を尽くすと、力強い口調で言ったんだ。
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