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留学帰国後 〜王宮編〜
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しおりを挟む音楽が終わり、フロア中央のシリス王子とエリーが互いに一礼。
すると周りから拍手が起きた。2人とも顔を見合わせると、見惚れるような笑顔を向け、周囲にも一礼。
シリス王子はそのままエリーの手を取ったまま、大階段の下まで戻った。そこへ、国王陛下の声が響く。
「皆の者、よく集まってくれた。
今宵はここにいるシリスの王太子就任並びに、ローザリア公爵令嬢を王太子妃候補として迎えた事を報告させてもらう」
決まっていた事だろうけど、その瞬間フロアがざわりとどよめいた。内々に決まっていた事でも、やはり国王陛下から宣言されるのとは違うものね。
集まっていた貴族達は皆、口々に祝いを述べていた。
シリス王子とエリーは寄り添い、微笑みながらそれを受けている。
「ん~、絵になりますなぁ」
「コーニーったら、妬けたりしません?」
「え?何で」
「・・・シリス王子も報われませんねえ、あれだけ大々的な好意をアピールしていたというのに」
「コーニーはこういう方ですよ、ターニャ」
いつの間にか側に来ていたライラが静かに言う。
どこから来たんだろ、壁を背にして立っていたのに視界にいなかったんですけど…?
ざっと周りを見る限り、不平不満を抱いている人は私目線では見えない。カーク王子も笑顔で拍手を送っている。…エリーへの想いはLoveでなくlikeだったということなのかしら?
「それよりもコーニー、あちらを」
「え?なに…グホッ」
ライラに促され、目線を向けた先。
たくさんの貴族達の合間に、カイナスさんの姿が!
「ぐ、・・・あれは・・・卑怯・・・!」
「コーニー、しっかりしてくださいよぉ」
「お気を確かに、コーニー」
貴い!あれ貴すぎる!メイド姿じゃなかったら奇声上げて蹲ってしまいたいくらい眩い!!!
くっそ!騎士団の制服ですら眩かったのに何よあれ!
シリス王子もカーク王子も正装したらヨダレ出るレベルのイケメンだったけど、カイナスさんの暴力的なカッコ良さったらない!
多分かなりの贔屓目入ってるけど!!!
でもそう思っているのは私だけではなくて、そこらのお嬢様達ならぬ、マダムやレディ達がかなり目を奪われています!
そうだよね!だってカイナスさんたら独身なんだもの!それに爵位持ってる騎士様でしょ!?
「まずいわー、いやこれいいもん見せてもらってるわー」
「わかりますコーニー、だってメイドの間でもカイナス様はかなりいい線行ってますよ」
「やっぱり?いやー目の付け所違うわ」
「ええもう襲っても返り討ちに合いそうだと」
「・・・なんだろう、何か目の付け所違う気がする」
こそこそと話している間に、皆それぞれ招待客達は談笑したり、ダンスを始めたり。
最初はシリス王子とエリーだけのダンスだったけれど、ファーストダンスさえ終われば後は皆様が思い思いに踊り出す。
こういう所でロマンス生まれたりするのよね。そう思っていると、カーク王子とアリシアさん、そして続いてドランとアリシアさんが踊っていた。その後エドワードとも踊っていた所を見ると、仲良くしていると見える。…誰かと恋が生まれていたりはしないのだろうか?
カイナスさんはカイナスさんで、引く手あまたのよう。女性からの誘いがひっきりなしのようだ。
数人、断りきれずに踊っていたりもする。うーん、絵になるー。
そんな中でも、私はメイドとしてこそこそお仕事しつつ周りを観察しています。流石はセバスさん仕込みの変装。誰にもバレていないのでは?
コーネリア・タロットワークとして名乗り始めてしまってからというもの、流石に今までのようにはいかない。
蓬琳では皇城に篭っていたからあんまり貴族としての付き合いは求められなかったけれど、こちらに戻ってからはやはりそうもいかない。
お茶会とかなんとかは避けていられるけどね。大きなパーティーなんかにはこれからは出ないとならないのだろう。
今回も出ないとならないレベルの集まりではあったのだけど、王太子任命とエリーとの婚約発表があったから遠慮させてもらった。
『タロットワーク』の名前は私が思うよりも大きく、その気がなくとも『コーネリア・タロットワーク』という『年頃の姫君』が出る事で話題を攫ってしまうことを避けたかった。
その為、私は未だエリー達にも帰国したことを知らせてはいない。薄々は知っているかもしれないけれど、私からは連絡をしてはいないのだ。
もう少ししてからきちんと国王陛下の所に『コーネリア・タロットワーク』としてご挨拶に行く予定。それまではひっそり隠れていないとね。
しかし私はこの婚約発表を見たかった。だってシリス王子とエリーが並んだら絶対見映えすると思って…
それと、あともうひとつ。
「・・・おい、あれは」
「珍しい、姫将軍のお出ましとは」
「まあ、素敵でいらっしゃること」
「いつまでたっても輝きは変わりませんわねえ」
広間の入口。そこから1組の夫婦が入場してきた。
1人は大柄な体躯を仕立ての良い礼服で決めた壮年の男性。
そして、その傍らに立つのは、同じくらいの背の高さ。スラリとしたシルエットでありながら、女性としての曲線を隠さない真紅のドレス姿。プラチナブロンドを結い上げ、その瞳は鋭くも涼やかな光を放っている美女。
そう、王国騎士団団長、フリードリヒ・クレメンスと、その奥方のアナスタシア・タロットワークである。
「うーん、美人っ」
「あのドレスにした甲斐がありましたねえ」
「あれを着こなせるのはアナスタシア様くらいでしょう」
確かに。ガッツリ体のラインが出るマーメイドドレス。
お胸のボリューム、鍛えてるが故の引き締まったウエストからヒップにかけての見事な曲線美。
他のご婦人方には真似出来まい…キリッとしてるけどフレンさんの鼻の下伸びてるもん。大丈夫なのかアレで。
フレンさんとアナスタシアさんの夫婦は、人の間を縫って国王陛下達の元へ挨拶に行き、シリス王子達とも談笑している。
うーん、ホントに女神様降臨って感じだー、カリスマよね…
********************
「綺麗だ、アナスタシア」
「ふっ、当たり前だろう?ここまでするのに何時間かけていると思っているのだ?
全く、ここまでやる事はないというのに、メイド達にも困ったものだ」
「いやー、俺としては毎日それでもいいくらいだがな。目の保養すぎて幸せだ」
「何を言っているのか全く。お前にはキャロルという可愛い女もいるだろう?それに女の体など見飽きるほど見ているだろうが」
「・・・そういうことじゃなくてだなアナスタシア」
「ふっ、冗談に決まっている。ここまで着飾ったのだ、満足だろう?」
どうだ?とばかりに微笑む姿は本当に地上に降りた女神かと思うくらい美人で困る。しかも今は別々に住んでいるだけあって、たまに会うアナスタシアはこれまでよりもさらに魅力的だ。…お嬢はこれを分かっていて「別居して」と言ったのか?
「しかし、アナスタシアが自分から着飾ってくれるとはな」
「我儘を聞いてくれている旦那様の為にたまにはいいだろうと思ってな」
「・・・俺の為、だってのか?」
「『今は』そういうことにしておいてもらおう」
「また何か隠してるな?アナスタシア」
「またとは何だ、人聞きの悪い旦那様だな?」
つい、と淑やかに歩いていくアナスタシア。
フロアの一角に置いてあるドリンクコーナーへ。そこに控えていた眼鏡姿のメイドからシャンパンを受け取る。
一言、二言とメイドと言葉を交わし、グラスを2つ受け取って俺に渡してきた。
「では乾杯といこうか」
「何にだ?」
「そうだな・・・今宵のドレスアップに乾杯か?」
「なんだよそりゃ。まあ確かに久しぶりのドレス姿で嬉しいが」
「だろう?」
カチン、とグラスを鳴らし、飲み干す。
俺とアナスタシアには軽いアルコール。この程度で酔いはしないのだが。
そのまま、アナスタシアはグラスを近くのウェイターに預けて俺の手を引く。体を預け、ダンスと洒落こもうってのか?珍しい。だが愛しい妻のお強請りだ。叶えるのが旦那の役目というもんだ。
アナスタシアはダンスも上手い。さすがは元王族というだけあって、マナーもダンスも一流だ。…剣の腕も、というのが彼女らしいのだが。
「アナスタシアからダンスに誘ってくれるのは珍しいな。今日はご機嫌と見える」
「ああ、そうだな。私の『姫』たっての願いだからな」
「おい、それ・・・」
「『ドレスアップした私とお前の姿が見たい、ダンスも見れたら最高!』だそうだ。
姫自らの願いとあっては叶えない訳にはいくまい?このドレスも姫の見立てだからな?どうだ?」
驚きで言葉にならない。ここに来たのが、ドレスアップが姫…お嬢の願いだって?
しかも…俺とのダンス姿が見たい?ドレスを選んだのもお嬢?…ということはつまり…
「・・・戻ってきてるのか?」
「流石は我が夫だな?騒がない所は尊敬に値する」
「当たり前だろう!・・・ったく、道理でここの所アナスタシアの機嫌が良かったわけだ」
「そんなにわかりやすかったか?」
「今思えば、というところだ。成程な、普段は嫌がる夜会への出席も、ドレスアップも、お嬢の為かよ」
「半分は、な。もちろん愛する夫の為でもあるさ。たまにはいいものだろう?」
茶目っ気のある瞳の光。他の奴らには分からないかもしれないが、アナスタシアはたまにこうして俺を楽しませてくれる。
くそ、惚れた弱みだな。お嬢の願いとはいえ、こうして着飾ってくれたのは半分は俺の為だと言われれば嬉しく思う。
戻ってきたお嬢がどこからこれを見ているのかわからんが、今はこの時間を楽しませてもらうとするか。
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