異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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留学帰国後 〜王宮編〜

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「見てたぞ見てたぞ、シオ~ン?」

「団長ですか。・・・これ食べますか?」

「馬鹿野郎、お前が受け取ったんだからお前が責任を持って『処理』しとけ」

「そうですよカイナスさん。他の人にあげるのは失礼です」

「姫まで・・・見てたんですか!」

「おもしろかったので」
「右に同じく」



カイナスさんがとぼとぼと歩いてきたので、さっそくその姿に声を掛けるフレンさん。
フレンさんもカイナスさんの恋模様、思いっきり興味あるんじゃないのまったく。

しかしカイナスさんはアントン子爵令嬢からいただいたバスケットの中身を見ることも無くフレンさんへ渡そうとする始末。
ダメですよそういう処理の仕方!せめて中は確認してあげて!

フレンさんはなにやら言おうとしていたが、ちょうど他の騎士さんに呼ばれて行ってしまうようだ。
どうやら後片付けや、今後の打ち合わせなどの報告を受ける様子。



「シオン、先に行ってる。お前は姫のお相手をしていろ。
アナスタシアが戻ってくるまで離れるな、他の奴等を近付けるなよ」

「はっ、この身に代えましても」

「コーネリア姫、御前を失礼します。近くにまたお招きさせて頂ければと」

「はい、お待ちしております。お気をつけて」



他の騎士さんがいるからか、フレンさんも『団長モード』。
なので私も姫君らしく答えた方がいいのだろうと思い、できるだけ淑やかに見えるように振舞った。
合格だったのか、フレンさんがパチリとウインク。
早足で移動するフレンさんを、呼びに来た騎士さんが小走りで追いかける始末だ。



「団長らしいというか、なんといいますか」

「ふふ、だから好きなんですよねフレンさん。愛嬌があるというか、包容力があるっていうか。大人の男性ってこういう所がある方が魅力的です」

「・・・なるほど?それが姫のお好みでしたか。
だとすると俺は姫のお眼鏡には叶っているのでしょうか?」

「カイナスさんも素敵だなって思ってますよ?」

「それは、本気で言ってくださっていますか?」

「え?」



いつものカイナスさんなら『困らせないでくださいよ、姫』と返ってくるとばかり。けれど、目の前のカイナスさんから返ってきた言葉は意外な程に真剣な声音で私も驚いた。

見上げたカイナスさんの表情は、からかったり、いつもの苦笑している顔ではなく、とても真摯に私を見ている。



「あの、カイナスさん」

「───コーネリア姫、約束を覚えていますか?」

「あ、はい?約束?」

「俺が勝ったら、夏至祭のエスコートを受けてくださる、という話です」

「はい、もちろん。私でいいんですか?」

「ええ。をエスコートしたいんです。俺の優勝のご褒美ですし、叶えてください」

「では、喜んで」

「よかった。では、近日中にタロットワーク邸へ御挨拶に上がります。夏至祭もすぐ来てしまいますしね、打ち合わせも必要かと思いますから」

「打ち合わせ、ですか?」

「当日、俺がエスコートする事をゼクスレン様に先に御了承頂かないといけませんし」



そうか、私、ファーストダンスはゼクスさんと踊るしね。
それに庭園に出てあの蛍を離すのも見たいし。
エスコート、というのがどこからどこまでになるかよくわからないし、その辺りは帰ったらセバスさんに聞いてみよう。

カイナスさんは副官としての仕事を調整し、近い内にタロットワーク邸へ来る事を約束した。



「ちなみにカイナスさん?そのバスケットの中は見ました?」

「あ、いや、まだですよ。アントン子爵令嬢は『食べてください』と言っていたので菓子ではないかと。前にもクッキーを頂いていて」

「ちゃんとお返ししました?」

「いえ、その気もないのにお返しをするのは失礼にあたりますから」

「・・・少しは気にして差し上げても。こういう場で渡すのって物凄く勇気がいりますよ?」

「嫉妬してくれるんですか?姫?だとしたら嬉しいのですが」

「カイナスさん意地悪です」



いつも私がからかっているのに、今日はなんだか反対。
なにこの態度。1年離れている間になんというタラシの才能を開花させたのか。

ふと、カイナスさんはバスケットをパカッと開けて中を見ていた。
ほら、とばかりに私にも見せる。



「スコーン、ですかね」

「あら美味しそう。お料理が得意なんですかね?」

「どうでしょうね?前のクッキーはいささか斬新な味がしましたから」

「・・・斬新?クッキーですよね?」

「ええ、クッキーでしたよ?



って言った?
まさか、アントン子爵令嬢…恋愛マンガでありがちの、メシマズさん!?砂糖と塩を間違えたとか!?

近くに置いていた休憩用のベンチにバスケットを置いたカイナスさんは、隣にフワッと持っていた騎士服の上衣をかける。



「どうぞ、姫」

「あ、すみません」



私が腰掛けると、カイナスさんは隣に座る。
膝にバスケットを置き、中に入っていたおしぼり代わりのタオルで手を拭いて、スコーンを1つ手に取った。



「・・・プレーン、ですかね」

「プレーン?」

「あ、えっと、特に何か混ざってないものというか」

「なるほど、俺は詳しくないですが、こういうのをプレーンというのですか」



なんだこっちじゃプレーンって言わないのか?
それともカイナスさんがそういうのに疎いだけ?
私はどっちか分からなかったので、曖昧に頷いておいた。

食べるのかな?と思って見ていれば、カイナスさんもスコーンをじっと見ている。



「食べないんですか?」

「いや、どうしようかなと」

「お腹空いてないんですか?」

「あー、まあ、それなりに、でしょうか」

「・・・口の中水分取られるかもですけど、お味見してみては」

「そういえば、バスケットにお茶もありましたね」

「用意がいい方ですね」

「・・・とはいえ、飲み物は不用意に飲むのは怖いんですよね。彼女が何か入れるような人物ヒトではないとは思いますが」

「そんな事言ったらそのスコーンも気になるじゃないですか」

「そうなんですけどね」



と言いつつも、カイナスさんは口をつけるのを躊躇っている様子。うーん…ここはどうしてあげればいいのやら?

と、思っているとカイナスさんは悪戯っぽく笑って、私の口元にスコーンを持ってきた。



「どうぞ、召し上がれ?姫」

「・・・毒味させようと思ってません?」

「いえそんなことは」

「アントン子爵令嬢が手作りしたものを、私が口にする訳にはいきませんよ。カイナスさん食べてください」

「そうですよね・・・いやクッキーを思い出すとなかなか」

「・・・しょっぱかったりしました?」

「よくわかりましたね、姫」



や、やはりメシマズ…!でも砂糖と塩を間違えるくらいならばテンプレといえるのか!?

カイナスさんは思い切ったように、ひと口スコーンをかじる。
………と、かじった所で止まった。

どうしたのかな、しょっぱいのかな?と思うと、顎に力が入り、ザクッ!といい音がした。…じゃ○りこみたいな音したけど?



「か、カイナスさん?なんか素敵な音がしましたけど」

「・・・(無言)」

「カイナスさぁん?」

「・・・・・・っ、固い」

「でしょうね!」

「・・・・・・・・・味は、しません」

「え」

「何か・・・・・・・・・粉の味というか、素材の味というか」

「・・・・・・。お茶、飲みます?」



俯きがちにポソポソと呟くカイナスさん。
私はバスケットから水筒のようなものを取り出し、差し出した。
カイナスさんはごくごく、とそれを飲み干したかと思うと、私と逆の方を向き、ゲホゲホと咳き込み始めた。



「えっ!?カイナスさん!?大丈夫ですか!?」

「だ、だいじょ、っ、ゲホッ」

「全然大丈夫じゃない!それ何味なんですか!」

「ちょ、姫、ダメです、やめ」



私はカイナスさんが持っていた水筒を強奪。
飲みはしないが、恐る恐るクンクン匂いを嗅ぐ。令嬢らしからぬ行為だろうが、気にしてはいけない。

少しツンとする刺激臭。
ん?なんだろ、これ嗅いだことあるけど…?結構酸味が強い感じ…?

私はちょっと水筒からお茶を飲んでみた。
すると、それは懐かしの味がするもので…



「・・・ローズヒップ?」

「っ、けほ、大丈夫ですか姫?」

「あ、はい。大丈夫ですよ、毒とかじゃないです」

「いやあの、そうではなくて、ですね」

「さすがにこれを男性に勧めるのはなかなかの・・・」



これ一気に飲んだら喉に来るわね。気管にでも入ったのかも。
しかしローズヒップティーをチョイスするとは…これってかなり酸味があるし、好き嫌いあるじゃない?私好きだけどさ。

ついついもう一口飲む私。ビタミン補給か…?

そんな私を見て、カイナスさんは少し頬が赤い。
口元を押さえ、困ったような顔をしている。



「どうしました?カイナスさん」

「姫、あの。・・・なんとも、ないんですか?」

「あっ、このお茶ですか?」

「そうではなく。その。・・・水筒に、口付けて」

「え、カップありまし・・・たっ・・・け・・・」



え、あ、もしかして。
間接キス、とか気にしてらっしゃるのでは…?

うおぁぉぉぁぁぁぉ!!!
私あんまりそういうの気にしませんけど!!!
でもカイナスさん、頬赤くしてるから気にしてますよね!?

やだー!!!さっきまで私の手とかにキスしてたけどそんな顔赤らめてたりとかしてなかったじゃない!!!
私的にはそっちの方が恥ずかしいんですけど!!!



「えーと、あの」

「いえ、姫が嫌でないのであれば、俺は、別に」

「あ、はい」



き、気まずい!なんか気まずいよ!
さっきのスコーンの固さとか、味がないとか気になる所はあるけど、ちょっと今とてもそういう感じじゃなくなってる!

アナスタシアが迎えに来るまで、私はなんだかそわそわした時間を過ごしたのでした。

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