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留学帰国後 〜王宮編〜
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しおりを挟む近衛騎士団詰所で行われた順位戦から、2週間経った。
順位戦が終わってから、数日後にカイナスさんがタロットワーク別邸へ夏至祭の打ち合わせに来た。
先にカイナスさんはゼクスさんとお話をし、その後私と少しお茶をしてから帰って行った。
近衛騎士団詰所から帰ってきた後、セバスさんにはカイナスさんが夏至祭のエスコートをしたいと言ってきたこと、順位戦の勝者のご褒美として私も了承したこと、近日中にこちらへ御挨拶に来たいと言っていたことを話した。
「・・・ふむ、わかりました。コーネリア様がカイナス伯爵のエスコートを了承しておいでなのでしたら、私共から何も言うことはございませんね。
旦那様はまだお戻りではありませんので、私から伝えておきましょう」
「ありがとうございます、セバスさん」
「コーネリア様」
「・・・ありがとう、セバス」
「勿体ないことでございます」
セバスさんは徐々にこうやって、私がさん付けして呼んだり、敬語を使うと直させる。
私としてはこれまで通りセバスさんに接していたいのだけれど、コーネリア・タロットワークとなった今、それではダメなようで。
このお屋敷の中だけなら…と言ったのだけど、ふとした時に出ますので直していきましょう、と言われている。
確かにね、ポロッと出ちゃうものね、わかるんだけど。
他人にかしずかれて生活することのない一般庶民の私としては、なかなか身につかないもので。だからこそ普段の生活からきちんとした言葉遣い、態度をさせるセバスさんの教育は堂にいったものだ。
頭ではわかっている、のだけどね。アナスタシアみたいにはできないわよね。
アナスタシアはこの屋敷に戻ってきても、なんなく過ごしている。元々そういう生活をしていたのだろうけど、ひとつひとつの動作にも品があり、所作が美しい。
幼い頃からの教育の賜物だよ、とアナスタシアは言うけれどね。
カイナスさんは、ゼクスさんとお話を終えた後、結構長くセバスさんとお話していたようだった。何を相談していたのかしら。
「ではコーネリア姫、夏至祭には迎えに来ますから」
「はい、楽しみにしています」
「俺も、楽しみです」
にこ、と柔らかく微笑むカイナスさん。
イケメンに微笑まれる…美味しすぎる…
そういえば、あのバスケットに入っていたスコーン、全部食べたのかしら?色々とベリー入ったものとかあったみたいだけど。
「そういえば、カイナスさん」
「シオン」
「・・・はい?」
「姫、俺の名前をご存知ですか?」
「? シオン・カイナス、ですよね?」
「そうですね。姫はいつまで俺の事を家名で呼ぶんです?」
「えっ?でも名前を呼ぶのって」
「シオン、と呼んでもらえませんか?」
「いや、だから名前を呼ぶのって」
「団長の事は呼んでますよね?フレン、と。フリードリヒ、でもなく」
「いやあれはフレンさん本人がそう呼んでほしいって」
「俺も、シオンと呼んでいただきたいのですが。これまでずっと姫は俺の事を家名で呼んでいるでしょう?いつになったら変わるのかと思っていましたが」
「シオンさん、ですか?」
「さん付けはいりませんよ・・・とはいえ、姫は呼んでくださいませんよね」
「ええと、年上の殿方を敬称なしに呼ぶのは、ちょっと」
「でしたら、構いませんよ。せっかく夏至祭のエスコートをさせていただくのに、カイナスのままでは少し寂しいですからね」
うーん、確かに格好つかないかしら?
でもなんか『カイナスさん』で呼ぶことに慣れてしまっているからうっかり呼びそうだなあ。
「コーネリア姫?」
「ああいえ、なんでもありません。
そういえば、シオンさん。あのバスケットの中身って」
「・・・聞きますか?」
「えーと・・・やっぱりいいです」
「そうですね、どれもアントン子爵令嬢らしいというか、普通には食べられない味がしたとだけ言っておきます」
聞いた途端、笑顔が凍りました。
オブラートに包んでくれてはいるけれど、美味しくなかったんだろうな…スコーンが固めのスナック菓子の音がしてたものね。
貴族のお嬢様、はあまりお料理をしないのでしょう。そういう事にしておきましょう。
私は静かに紅茶を飲んだ。ふと思えば、この出てるお菓子って昨日私がマートンに教えながら作ったやつ?
お茶を出してくれたターニャを見ると、にこやかに笑っていた。
なぜ…あえてこれを出したのか…スコーンだぜ…?
なんとなく怖々とスコーンを口にしたシオンさんが呟く。
「・・・固く、ないですね」
「まあ、そうですね」
「すみません、そういうものですよね。俺はあまり外に食べに出たりする事がなくて、行くとしても同僚や部下と呑みに行くくらいなので疎いんです」
「そうなんですか?呑みに行くのって、居酒屋さんみたいなとこですか?」
「大衆食堂、ですかね。冒険者や旅の人もたくさんいますよ。
部下を労うために呑みに行くには、形式張ったバーよりも、大衆食堂でビールの方が喜ばれるので。
あ、でも、このスコーンは美味しいですね。紅茶の味がします」
「オレンジピールも入ってますよ?」
「オレンジピール・・・オレンジの皮ですね?少し爽やかな柑橘味はそれでしたか。姫は詳しいですね?」
「うふふ、それはコーネリア様がお作りになったんですよお」
「え、姫が、ですか?」
「あ、ターニャ、しーっ!」
「いいじゃないですか、コーネリア様。
カイナス伯爵、コーネリア様は結構お料理好きなんですよ?セバスさんもコーネリア様が作るものは楽しみにしているんです」
「姫、料理もするんですか!?」
「あー、あの、あんまり凝ったものはできないんですけど。
でもスコーンなんてそんなに難しくないですし、焼いたのマートンですから、私は計って混ぜてただけで」
シオンさんはパチパチ、と瞬き。
ついでまたも、もぐ、とスコーンを口にする。
「美味しいですよ。・・・スコーンってこういう味なんですね」
「お店できちんとしたものの方がもっと美味しいですよ!」
「そうですか?私はコーネリア様が作るこのアールグレイとオレンジのスコーン大好きですよ?この間のイチジクのケーキも美味しかったですけど」
「ケーキも焼くんですか?」
「はい!コーネリア様は色んなレシピをご存知なんですよ~
マートンも張り切ってます。あ、マートンというのはですね、ウチの料理長なんですけど・・・」
ターニャ…もうお口チャックしといて…
これ以上変な奴だと思われたくない…ていうか自分からキッチン入って料理する令嬢なんていないでしょうが…
すると、ライラが入ってきて、シオンさんに一礼。
「失礼致します、カイナス伯爵。先程ご依頼いただいた内容をお持ち致しました」
「ありがとうございます」
「何か不備がありましたら、また当家にご連絡くださいませ」
「助かります、こちらで一通り用意はさせてもらいますが、何せこういったことをするのは初めてなので」
「私共も良いものが出来ますよう、尽力させて頂ければと思っておりますので、遠慮なくお申し付けください」
ライラがシオンさんに渡したのは一通の封書。
何かセバスさん達に秘密の事を聞いたのかしら。情報を得たいなら、確かに彼等を頼るのが一番だと思うけれどね。
それを懐に入れ、私をちらりと見る。
「気になりますか?」
「ええと、お仕事の事でしょうから、聞きませんよ」
「そういう訳でもないのですが。でも秘密です」
「シオンさん?そういう言い方は気になっちゃいますからやめてください」
「すみません、姫の反応がとても可愛らしいので、つい」
どうやらシオンさんはこの情報を待っていたようで、その後はそそくさと帰って行った。
なにやらターニャがニマニマと笑っているのが気になる…
「何、どうしたのターニャ?」
「いーえ?カイナス伯爵、コーネリア様の作ったスコーン、お気に召したんですねえ?少しお包みしてお持ち帰りになりましたよ」
「はあ?いつの間に?」
「先程お話した時ですよ?少し持っていってもいいですか?って。
見かけによらず、甘党なんですね、カイナス伯爵!」
え、そうだったの?甘党…?じゃない気がするけど…
まあ、あれはフレーバーとしては王道なやつだし、美味しくできてたからまあいいか。
しかし、思うけれどこちらのお菓子は単一的でフレーバーが少ない。なのでついつい向こう産のフレーバーを求めてしまうのよね。
大半は私は言うだけで、作ってるのセバスさんとマートンなんだけど…レシピ本がきっちりできてて驚いたわ。タロットワーク秘伝の書とかって書いてあったけどね…
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