異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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真実の扉 ~歴史の裏側~

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ミートパイをいただき、ティータイム。
ターニャが大きなポットを用意してくれて、ぺこりと一礼。
お茶菓子はマートン作のクッキーやパウンドケーキなど。

シオンさんはクッキーを摘んでしげしげと眺める。



「もしかしてこれも作ってます?」

「いえいえそれはマートンですよ?」

「・・・そう、ですか?タロットワークのお邸にはアイデア溢れるシェフがいるんですね」

「アイデア、ですか?」

「ええ、見たことないクッキーだなと」



私はクッキーを見る。バタークッキー。あの絞り袋でキュッとするやつ。ココアの生地を市松模様にするクッキー。私この市松模様のやつ、好きなのよね。

普通…だと思うんだけど?違うの?

私が首を捻っていると、シオンさんは市松模様のクッキーをかじって笑う。



「こういう模様のクッキーは初めて見ましたよ。クッキーは割と差し入れなどでいただくのですが、こういったチョコレート味?のものが混じったのは珍しくて」

「あっ!そういう事ですか!」



確かに!出されてたクッキーってバタークッキーが多かったかも!グラニュー糖が端にまぶされたやつとか!
基本的に味をつけたクッキーが珍しいとかなんとかマートンにも言われた気がする!かなり前のことだから忘れてたけど!

私は自分が好きだから、この市松模様のとか、紅茶味や珈琲味、ドライフルーツ混ぜたりとかやってたけど!



「・・・これ、姫が考えましたか?」

「えっ、ええ?なんでわかったんです!?」

「顔に書いてありましたよ」



ふふふ、と笑うシオンさん。私考えてること顔に出やすい、ってセバスにも言われたな…そーんなにわかりやすいの?

ちらり、とシオンさんを見ると済ました顔で紅茶を飲んでいた。じっと見つめるとふいにこちらを見て、ウインク。



「どうしました?」

「いえ・・・」

「気になってしまいますね。夜会で団長と踊っている時も何を話していたんです?こちらを見ていましたよね」

「あ、えーと、あれは」

「アントン子爵令嬢が俺といたのが気になりましたか?」



サクッと本題を出てきたシオンさん。
もう煙に巻く、とか一切ないのね…助かるといえば助かるのだけど。なんて返事しようかなと思っていると、シオンさんから話し始めてくれた。



「彼女が俺に話しかけるようになったのは・・・そうですね、1年ほど前でしょうか。ちょうど姫が蓬琳へ留学に行った頃ですね。
姫も言っていたでしょう?『夜会に出たんですよね』と。あの頃ちょうど父からも『身を固めろ』と言われ出していたので、夜会にでも出れば少しは言われなくなるだろうと思っていて」

「あ・・・春、でしたっけ」



確か、エリーが夜会で見かけたよ、と話をしてくれたっけ。シオンさんは独身でも伯爵位を持つし、勿論その家を繋いでいく義務がある。
『カイナス侯爵家』はシオンさんのお兄さんが当主として守っていくのだろうけど、『カイナス伯爵家』はその分家として本家である侯爵家を補佐していくのだろう。他の貴族もそうやって本家を守り、盛り立てていくのだと前にセバスに教わった。



「その頃からですね、彼女が騎士団の練習にも顔を出すようになったのは。彼女のご友人が近衛騎士団の団員と恋仲なのですよ。確か幼馴染だと言っていましたね」

「それはアントン子爵令嬢から聞いたんですか?」

「いえ、ウチの団員からですよ。そいつの周りにいる他の奴等が『俺達にも女性を紹介してくれ』と群がっていましたので」

「近衛騎士団、って結構モテそうですけど?そんなに独身の方が多いんですか」

「半々、でしょうか。王国騎士団は所属団員も多く、平民出の騎士もかなり多いですが、近衛騎士団は半々程度です。
貴族の子息はだいたい婚約者がいて、まだ結婚していないのもいますね。あまり長く待たせると破談にもなりかねないのですが」

「破談、ですか?」

「ええ。女性から痺れを切らしてしまうのと、後は俺のように他の男に取られてしまったり」

「あっ、ごめんなさい」

「ん?いや、昔のことですから気にしないで。・・・あれは俺にもかなり原因があるので」



シオンさんは昔の婚約者についても話してくれた。
自分が至らないせいで寂しい想いをさせてしまった、追いかければよかったのに、自分には追いかけようとする気持ちもなかった、と。



「本当に彼女を想っているならば、追いかけるべきだったんです。でもあの時の俺はそうしなかった。相手の男といる方が幸せだろうと諦めてしまったんです」

「何故、諦めたんですか?」

「何故、か。愛していなかったんでしょうね。他にも理由はあるでしょうが、それが1番なんでしょう」

「恋愛関係、だったんですか?」

「いえ、家同士が決めた事ですからね。婚約者だと紹介されて、1年ほどだったかと。恋愛感情を持てるほど俺は彼女に興味が持てずにいました。騎士として成長する方を優先させていまして。・・・男として最低ですね。だから奪い取られるのも仕方ないです」



割とあっさりと話すシオンさん。もう自分の中では昇華しきっている事なんだろうな。私も過去の恋愛の話するとこうなるものね。

その事もあり、ずっと恋人は作らずに過ごしてきたとシオンさんは話す。女性関係がなかったとは言わないが、とも。

だが、1年前からアントン子爵令嬢がシオンさんに接近してきた。年齢差もあり、ずっと距離を取って接していたらしい。しかし彼女はずっとシオンさんを追いかけて来た。
『私を知ってから判断してください』『年の差があると言うだけで避けないでください』…彼女の言い分は的を得ていたので、彼女を避けるのは止めて話をするようになったのだと。



「・・・言われたんですよ、『私は貴方を1人にしません』と」

「それ、は」

「昔、俺が婚約者に去られた事からではないかな、と。
気持ちは嬉しい、と思いました。けれど、あれは俺が手を離してしまったことで、追いかけなかったのは俺の判断なんです」

「シオンさんは、追いかけない事を、選んだんですね」

「相手の男に言われた事が、俺の本音を言い当ててました。
『残された方の気持ちはどうなる?』とね。俺が騎士である以上、任務で還らない事もある。その時彼女はどうなるんだ、自分ならそんな寂しい思いはさせない、と。
俺は何も言い返せなかった。それでも彼女が俺を選んでくれると言えなかった。だから手を離した」



辛く苦しい思いを吐き出した、とは違った。
シオンさんはただ、過去を話しただけに見えた。

シオンさんが私を見る瞳は、澄んでいて、そこには後悔とか憐憫とか、そういった気持ちは見えなかった。
彼の中ではもう、ケリがついていて、今の彼には別の想いがあるんだなと感じた。

『残された方の気持ちはどうなる?』

それは今の私にも刺さる言葉だ。
もし、この世界で誰かを愛し、寄り添ったとしても…いつか帰ることを希望する私には、その手を取ることを躊躇するだろう。かつてのシオンさんのように。

私を見ていたシオンさんは、ふっと笑った。



「・・・やっぱり、姫は違いますね。この事を話したアントン子爵令嬢は言いましたよ、『私は貴方を1人にしません』と」

「そうですか。彼女はそれだけシオンさんを想っているんですね」

「そうかもしれませんね。でも、俺が望んでいるのはそういう『同情』ではないんですよ。だから俺は彼女を選ぶ事はないだろうと思いました」

「え・・・?」

「俺はこの先貴方が貴方を選びます、コーネリア姫」



驚いた。どうして、私?



「この話を聞いて、貴方の瞳を見て気付きました。貴方には俺にもまだ話せない『秘密』がありますね。それがあるから貴方は素直に俺の手を取ってくれない」

「シオンさん、あの」

「しー。まだ俺の番ですよ。
愛しています、コーネリア姫。こんなオジサンが姫のような若い女性に熱を上げる、なんて烏滸がましいかもしれませんが。俺は貴方が好きです。貴方が何に迷っているのか俺にはわかりません。でも、待ちます。貴方が俺の元に来てくれるまで、口説き続けます」

「く、口説き続けるって」

「だって姫も俺の事を『好き』と言ってくれましたよね?だったら素直に落ちてくれる迄どれだけだって言いますよ、愛していると。気長に待つ気はありますからね」

「~~~っ!」

「早く落ちた方が楽になると思いますよ?姫?」



にっこり、と不敵に笑うシオンさん。
笑っているけどその目は男の瞳だった。
何度か見たことがある、男性が真剣になる時の瞳の色。

あっ、これ負けたかも…?
押されると弱い所に気が付かれている…?
いや待て自分、頑張れ!

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