154 / 158
真実の扉 ~歴史の裏側~
177
しおりを挟むミートパイをいただき、ティータイム。
ターニャが大きなポットを用意してくれて、ぺこりと一礼。
お茶菓子はマートン作のクッキーやパウンドケーキなど。
シオンさんはクッキーを摘んでしげしげと眺める。
「もしかしてこれも作ってます?」
「いえいえそれはマートンですよ?」
「・・・そう、ですか?タロットワークのお邸にはアイデア溢れるシェフがいるんですね」
「アイデア、ですか?」
「ええ、見たことないクッキーだなと」
私はクッキーを見る。バタークッキー。あの絞り袋でキュッとするやつ。ココアの生地を市松模様にするクッキー。私この市松模様のやつ、好きなのよね。
普通…だと思うんだけど?違うの?
私が首を捻っていると、シオンさんは市松模様のクッキーをかじって笑う。
「こういう模様のクッキーは初めて見ましたよ。クッキーは割と差し入れなどでいただくのですが、こういったチョコレート味?のものが混じったのは珍しくて」
「あっ!そういう事ですか!」
確かに!出されてたクッキーってバタークッキーが多かったかも!グラニュー糖が端にまぶされたやつとか!
基本的に味をつけたクッキーが珍しいとかなんとかマートンにも言われた気がする!かなり前のことだから忘れてたけど!
私は自分が好きだから、この市松模様のとか、紅茶味や珈琲味、ドライフルーツ混ぜたりとかやってたけど!
「・・・これ、姫が考えましたか?」
「えっ、ええ?なんでわかったんです!?」
「顔に書いてありましたよ」
ふふふ、と笑うシオンさん。私考えてること顔に出やすい、ってセバスにも言われたな…そーんなにわかりやすいの?
ちらり、とシオンさんを見ると済ました顔で紅茶を飲んでいた。じっと見つめるとふいにこちらを見て、ウインク。
「どうしました?」
「いえ・・・」
「気になってしまいますね。夜会で団長と踊っている時も何を話していたんです?こちらを見ていましたよね」
「あ、えーと、あれは」
「アントン子爵令嬢が俺といたのが気になりましたか?」
サクッと本題を出てきたシオンさん。
もう煙に巻く、とか一切ないのね…助かるといえば助かるのだけど。なんて返事しようかなと思っていると、シオンさんから話し始めてくれた。
「彼女が俺に話しかけるようになったのは・・・そうですね、1年ほど前でしょうか。ちょうど姫が蓬琳へ留学に行った頃ですね。
姫も言っていたでしょう?『夜会に出たんですよね』と。あの頃ちょうど父からも『身を固めろ』と言われ出していたので、夜会にでも出れば少しは言われなくなるだろうと思っていて」
「あ・・・春、でしたっけ」
確か、エリーが夜会で見かけたよ、と話をしてくれたっけ。シオンさんは独身でも伯爵位を持つし、勿論その家を繋いでいく義務がある。
『カイナス侯爵家』はシオンさんのお兄さんが当主として守っていくのだろうけど、『カイナス伯爵家』はその分家として本家である侯爵家を補佐していくのだろう。他の貴族もそうやって本家を守り、盛り立てていくのだと前にセバスに教わった。
「その頃からですね、彼女が騎士団の練習にも顔を出すようになったのは。彼女のご友人が近衛騎士団の団員と恋仲なのですよ。確か幼馴染だと言っていましたね」
「それはアントン子爵令嬢から聞いたんですか?」
「いえ、ウチの団員からですよ。そいつの周りにいる他の奴等が『俺達にも女性を紹介してくれ』と群がっていましたので」
「近衛騎士団、って結構モテそうですけど?そんなに独身の方が多いんですか」
「半々、でしょうか。王国騎士団は所属団員も多く、平民出の騎士もかなり多いですが、近衛騎士団は半々程度です。
貴族の子息はだいたい婚約者がいて、まだ結婚していないのもいますね。あまり長く待たせると破談にもなりかねないのですが」
「破談、ですか?」
「ええ。女性から痺れを切らしてしまうのと、後は俺のように他の男に取られてしまったり」
「あっ、ごめんなさい」
「ん?いや、昔のことですから気にしないで。・・・あれは俺にもかなり原因があるので」
シオンさんは昔の婚約者についても話してくれた。
自分が至らないせいで寂しい想いをさせてしまった、追いかければよかったのに、自分には追いかけようとする気持ちもなかった、と。
「本当に彼女を想っているならば、追いかけるべきだったんです。でもあの時の俺はそうしなかった。相手の男といる方が幸せだろうと諦めてしまったんです」
「何故、諦めたんですか?」
「何故、か。愛していなかったんでしょうね。他にも理由はあるでしょうが、それが1番なんでしょう」
「恋愛関係、だったんですか?」
「いえ、家同士が決めた事ですからね。婚約者だと紹介されて、1年ほどだったかと。恋愛感情を持てるほど俺は彼女に興味が持てずにいました。騎士として成長する方を優先させていまして。・・・男として最低ですね。だから奪い取られるのも仕方ないです」
割とあっさりと話すシオンさん。もう自分の中では昇華しきっている事なんだろうな。私も過去の恋愛の話するとこうなるものね。
その事もあり、ずっと恋人は作らずに過ごしてきたとシオンさんは話す。女性関係がなかったとは言わないが、とも。
だが、1年前からアントン子爵令嬢がシオンさんに接近してきた。年齢差もあり、ずっと距離を取って接していたらしい。しかし彼女はずっとシオンさんを追いかけて来た。
『私を知ってから判断してください』『年の差があると言うだけで避けないでください』…彼女の言い分は的を得ていたので、彼女を避けるのは止めて話をするようになったのだと。
「・・・言われたんですよ、『私は貴方を1人にしません』と」
「それ、は」
「昔、俺が婚約者に去られた事からではないかな、と。
気持ちは嬉しい、と思いました。けれど、あれは俺が手を離してしまったことで、追いかけなかったのは俺の判断なんです」
「シオンさんは、追いかけない事を、選んだんですね」
「相手の男に言われた事が、俺の本音を言い当ててました。
『残された方の気持ちはどうなる?』とね。俺が騎士である以上、任務で還らない事もある。その時彼女はどうなるんだ、自分ならそんな寂しい思いはさせない、と。
俺は何も言い返せなかった。それでも彼女が俺を選んでくれると言えなかった。だから手を離した」
辛く苦しい思いを吐き出した、とは違った。
シオンさんはただ、過去を話しただけに見えた。
シオンさんが私を見る瞳は、澄んでいて、そこには後悔とか憐憫とか、そういった気持ちは見えなかった。
彼の中ではもう、ケリがついていて、今の彼には別の想いがあるんだなと感じた。
『残された方の気持ちはどうなる?』
それは今の私にも刺さる言葉だ。
もし、この世界で誰かを愛し、寄り添ったとしても…いつか帰ることを希望する私には、その手を取ることを躊躇するだろう。かつてのシオンさんのように。
私を見ていたシオンさんは、ふっと笑った。
「・・・やっぱり、姫は違いますね。この事を話したアントン子爵令嬢は言いましたよ、『私は貴方を1人にしません』と」
「そうですか。彼女はそれだけシオンさんを想っているんですね」
「そうかもしれませんね。でも、俺が望んでいるのはそういう『同情』ではないんですよ。だから俺は彼女を選ぶ事はないだろうと思いました」
「え・・・?」
「俺はこの先貴方がどんな選択をしようとも貴方を選びます、コーネリア姫」
驚いた。どうして、私?
「この話を聞いて、貴方の瞳を見て気付きました。貴方には俺にもまだ話せない『秘密』がありますね。それがあるから貴方は素直に俺の手を取ってくれない」
「シオンさん、あの」
「しー。まだ俺の番ですよ。
愛しています、コーネリア姫。こんなオジサンが姫のような若い女性に熱を上げる、なんて烏滸がましいかもしれませんが。俺は貴方が好きです。貴方が何に迷っているのか俺にはわかりません。でも、待ちます。貴方が俺の元に来てくれるまで、口説き続けます」
「く、口説き続けるって」
「だって姫も俺の事を『好き』と言ってくれましたよね?だったら素直に落ちてくれる迄どれだけだって言いますよ、愛していると。気長に待つ気はありますからね」
「~~~っ!」
「早く落ちた方が楽になると思いますよ?姫?」
にっこり、と不敵に笑うシオンさん。
笑っているけどその目は男の瞳だった。
何度か見たことがある、男性が真剣になる時の瞳の色。
あっ、これ負けたかも…?
押されると弱い所に気が付かれている…?
いや待て自分、頑張れ!
484
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。
imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。
今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。
あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。
「—っ⁉︎」
私の体は、眩い光に包まれた。
次に目覚めた時、そこは、
「どこ…、ここ……。」
何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる