異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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この世界での私の立場

8

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冷めてしまった紅茶を飲む。
アイスティーと思えばいい。
さっき下で出してもらったやつより美味しい。
もしかして茶葉でも差を付けてました?地味に傷つく。

お茶が冷めている事に気づいたエオリア様は、チリン、と机に置いてあったベルを鳴らしてメイドさんを呼んだ。
すぐにお茶が入れ替えられる。お茶請けスイーツまで。



「どうぞ遠慮なくなく召し上がって」

「いただきます」



うむ、美味しいね。フィナンシェかぁ。私としては好みはマドレーヌなんですけどね!そこは言わないよ!大人だからね!

ひと息ついて、エオリア様は私に向かって再度頭を下げた。



「大変失礼いたしました、コズエ様。
夫はどうあれ、私は全面的にコズエ様の味方をいたしますわ」

「え、エオリア!?」

「ごめんなさいコズエ様。私、娘が欲しかったんですの。
子供は2人授かりましたが、両方男。娘が欲しかったのでもう1人産みたかったのですけれど、夫は全く協力してくれなくて」

「ちょちょちょエオリア、それについては今」
「黙っていてくださいましあなた。これは女同士の話なのですわ!」



キッ!とゲオルグ様を睨みつけるエオリア様。
あれ?この家庭のパワーバランス見えてきた?



「今回、お義父様が年頃の娘さんをお引き取りになった、と聞いて私お会いしてしたくて仕方がなかったんですの。
どうにか機会がないかと思っていた所に、夫が『こちらに引き取る事にする』と言い出しまして。
私、娘ができるかもしれない、と舞い上がってしまったのですわ」

「はー、なるほど」

「わかってくださいます!?私の気持ち!」



はしっ!と手を握られました。
ええわかります、子供産んだことないですが、私の友達にも『どうしても娘が欲しい!!!』と情熱を燃やしていたのがいたから気持ちはわかります。

なんかこう、かわいい服着せたりとか、ショッピング行きたかったりとか、お茶会とかしたかったんでしょうね…
男の子ってある程度の年齢までは母親べったりでも、サクッと離れていく時あるから寂しいのよねえ。

完全にこちらの味方(ママ友?)になったエオリアさん。
これはこちらに風が吹いてきた模様。



「あの、エオリアさん」

「様は取っていただけましたのね、嬉しいですわ!」

「娘にはなれませんけどお友達ならOKです」

「ありがとうございますわ!
この先色んな相談にも乗りますから安心してくださいまし。
社交界には私、様々な伝手もございますのよ?」



ウフフ、と笑うエオリアさん。きらり、と目が光った気がするが気のせいだと思おう。
まぁその方面の強い味方ができるのはありがたい。
女性同士のネットワークとは侮れないものなのです。



「で、ですね。さっきのゲオルグ様の演説から疑問があるんですけど」

「え、演説・・・」
「あなた黙っていらして、邪魔ですわ」



一言で撃沈。エオリアさん、見向きもせず言ったよ?
落ち込んだゲオルグ様の肩をポン、と叩くゼクスさん。
そのまま静かに私達を見守る姿勢に切り替えたらしい。



「何でもお聞きくださいな、私のわかることであれば何でもお教えしますわ。知らない所は夫に説明させますから」

「じゃあ、早速なんですけど。
タロットワーク家が『爵位ないけど貴族』って何でですか?」

「それはですわね。タロットワーク家というのは、数代前まで王家だったのですわ」

「・・・・・・・・・・はい?」

「詳しく申し上げれば、お義父様・・・
ゼクスレン・タロットワークは本来ならば国王となるべきお方でしたの。ですが、お義父様のお父様。つまり先々代の国王陛下が王位を従兄弟であるアルゼイド公爵家の御当主にお譲りしたのです」

「えっ、・・・それは、マジの話です?」

「マジですわ」



ポロッと出た言葉も至極正確に受け取り、エオリアさんは頷いた。
えー、嘘でしょ?ゼクスさん世が世なら王様だった…ってこと?

そうか、だから『貴族』なのか。元王家の血筋なんだもんな。
でも爵位がない、ってのは?公爵位でも授かればいいのでは?

私の疑問に答えたのは、当の本人のゼクスさんだった。



「儂の父上はの、王位を継ぐ前は今の儂と同様に魔術を学ぶ学徒だったのじゃよ」



一言そう言うと、目の前に置かれていた紅茶を一口。
そしてどこか遠くを眺めるような顔をした。

なにかを、思い出すかのように。



「父上に限らず『タロットワーク』の血を引く者は、変人が多くての。かく言う儂もその1人である事は言うに及ばず。
地位や名誉よりも、未知の知識を追い求める事を優先するような気質の持ち主じゃ。そんな人間が国を導く資質があろうか」

「ありかなしか、で言うとないかもしれませんけど。
周りの人間がそれを支えるのであれば可能では?」

「こ、コズエ様?」
「フォッフォッフォ、見てみい、ゲオルグ。
お主などよりずっと物事の本質を知っておるじゃろうが。
そのコズエ殿に対し、お前が何を教えられるのだ?」

「あなた、私達が間違いでしたわ」
「エオリア・・・」

「いや私もそこまでできた人間じゃありませんから」



なんかすごい持ち上げられてるけど、そんな理屈は至極当たり前の事だと思うのよ。人が1人でできることなんて限りがあるんだから、全部できちゃうスーパーマンはいません。
…稀にいるかもしれませんけどね?



「だが、学術の徒であった父上も、為政者としての才覚を持っておった。タロットワークの人間はどうもその方面の才能がある者が多いようでの。今でも文官として働いておる者は多い。ゲオルグもその1人じゃな。
しかし、父上には耐えられんかったのじゃろうな。
王位を従兄弟であったアルゼイド公爵家の当主へと移譲し、退位することを決めた。儂も同意した。次期王位継承権を持つ1人として、異論はなかった。儂も研究や学問に身を捧げたいと思っておったしの。
アルゼイド公爵家には、タロットワークから何人も過去嫁入りしておったから血筋としても、王家に続いて継承権を持つ子供も多く存在していた。為政者としての素質もあった。後は儂等タロットワーク一族が文官として国を支える手助けをすればええとな」

「それを、当時のアルゼイド公爵家は了承したんですね」

「した、っちゅうか『させた』んじゃな。
かなり渋っておったが、最後には根負けしておったよ」

「それが現国王陛下の父君ですか」

「そうなりますな」

「え、でもなんで爵位付かないんです?」

「そりゃそんなものあると面倒じゃないですか」

「ええ~~~」

「そういうしがらみを捨てたくて王族じゃなくなったんですからの」

「あああああ」



なんかすごくいい話っぽかったけど、最後の当たりはもう開き直ったかのようにキッパリと言い切りました。

これはもしかしたら貴族のお付き合い面倒じゃね?研究にのめり込みたいし、面倒な付き合いしなくてもいいように爵位なんぞポーイ!と丸めてゴミ箱に突っ込んだに違いない。

それでも最低限文官として国を支えるという気概は捨ててない。
ゼクスさんのお父さん、ゼクスさん、一族の人達はちゃんとこの国に対する愛情は持っているんだ。
だからこそ、現王家のアルゼイド王家はタロットワーク一族に無理に爵位を持たせていないんだろう。
爵位なんてなくても『タロットワーク』という名前が既に1種のブランドなんだ。準王家、って扱いになるのかな。



「ですがのう、ゲオルグのように目に見える『爵位』を望む者も少数ながらおるのですわ」

「ちっ、父上!」

「なんじゃうるさい。お前の考えなんぞお見通しじゃ。
ここでコズエ殿を取り込み、王家に恩を売り、爵位を得ようとでも思ったか?」

「え、そうなんですかゲオルグ様」

「・・・私は『様』なんですねコズエ様」

「まだ信用してないんですみません」

「・・・ですが、悔しいではありませんか父上!
私達は国を支える事を誇りに思っております!なぜ爵位を頂かなかったのですか?」



あれ、ゲオルグ様は『爵位がないのに貴族扱い』が恥ずかしいと思っているのかな?王宮で他の貴族と並ぶとやっぱり見劣りするとか思っているのだろうか。
確かに、現代でも『学歴ブランド』って言葉もあるように肩書きってのはあるに越したことはないのだろうけど。こういう王宮勤めなら特に。

でも、これまでの話からすると…タロットワーク家って黙っていても『特別』扱いをされていると思うのだけど?違うの?

私は思い切ってゲオルグ様に直接聞いてみる。
こういうのは考え方ひとつかもしれないけど、ね。



「ゲオルグ様?私これまでのお話を聞いてると『タロットワーク家』って準王家扱いなんじゃないかと思うんですが、違うんですか?」

「何を・・・?」

「いえ、私王宮にいた事ありませんし、貴族同士の集まりを見た事があるわけではないので、周りからどういう扱いされてるかとかわかりませんけど。
ナントカ公爵家、ナニナニ伯爵家、とかって爵位で判断されるよりも『タロットワーク』ってだけで既に全国民認知の特別ブランドっぽいんですけど違うんですか」

「ほお」
「!?」

「え、違います?」

「そういう事じゃな」
「ですわね」



返事できないゲオルグ様。
でもゼクスさんとエオリアさんは頷いた。



「コズエ様の言う通りですわ、あなた。
私達タロットワーク家はその名前そのものが爵位と言ってもいいというくらいの認知度だとは思いません?」

「それは、確かにそうなのだが・・・」

「ではこれ以上何を望みますの?
私、お茶会に出席しても王妃様の次にお茶を供していただきますのよ?馬車だって止められた事などございませんわ?タロットワークの家紋は国の象徴とほぼ同じ。貴族から平民、他国の人間すらも知っておりましてよ?」

「え、家紋と国の象徴同じ?」

「国の象徴にひと手間加えておるのがタロットワークの家紋ですな。アルゼイドも王家になってからは同じように国の象徴にひと手間加えた紋章を使っておりますから」



じゃあもう王家みたいなものじゃん…
顔パス状態じゃないの…?
でもやっぱりゲオルグ様には思うところがあるのかなぁ?
それは自分で解決して貰わないといけないね。

なんか考え込んだゲオルグ様。
男には男にしかわからない葛藤とかあるのかもしれない。
『公爵様』とかって爵位で呼ばれたいのかね。
現代で言うと『部長』とか『課長』とかって呼ばれるのと同じ?一種のステータスかしら。



「えーと、とりあえず爵位ないけど貴族扱いについては納得しました。後、国王陛下からの認識なんですけど」

「それも儂から言っておこうかの。コズエ殿、そなたには珍しい加護があるという話は覚えておいでか?」



あー、なんだっけ?『八百万の神の加護』だっけか。
なんか精霊さんに好かれやすくなるかも、みたいな感じだったよね?



「その加護には、精霊の恩恵を受けやすくなるという話をしましたな。その加護の範囲が何やら王都周辺に広がっておるようで」

「え?」

「コズエ殿が来てから、ほんの僅かだが、この辺りにおける精霊の加護の恩恵が強まっておるようなのです。所構わず、というよりは全体的にほんのり上昇傾向程度ですがな」

「それって何か問題があったりするんですか?」

「そうですな、コズエ殿が王都にいるだけで天候が安定したり、作物の収穫に良い方向に作用しておるようですな」

「え?本当に?」

「・・・という傾向が見られるのです。とはいえまだ2ヶ月程のデータですからな、まだまだ研究の余地があるというもの。
国王陛下としても、いて下さるだけで恩恵を受けているのだから失礼のないようにと念を押されておりますよ」



そうか道理でいい待遇だと思ったらそういう事か。

確かに、国王陛下にしてみても自分の治世にプラスになるなら保護しなきゃ!協力してもらおう!みたいな考えになるよなぁ。
でも何かしなきゃいけない訳じゃないし、お世話になりっぱなしでなく対価を支払えているのであれば気後れせずに済む。



「という訳じゃ。ゲオルグ、エオリアよ。
コズエ殿はこれまで通り、儂の元にいてもらうという事でよいな?」

「はいお義父様。異論ありませんわ。
コズエ様、よろしければこちらにも遊びに来てくださいまし。
私とお話いたしましょう!」

「はい、そういう事であれば是非」

「あなたもそれでよろしいわね?」

「あ、ああ。・・・申し訳なかったコズエ様。非礼をお詫びする」



そうして頭を下げたゲオルグ様の目は、最初に私を見ていたものと全然違った。格下の人間を見る目ではなく、立場が同じ人間に対する者を見る目。
自分の中で何かケリをつけてくれたのだろう。
ゼクスさんの息子さんだもの、優秀なんだよね。

そのうちゲオルグ『さん』て呼べることもあるかな。

なんだかんだと揉めはしたものの、私はこれまで通りゼクスさんのお屋敷でお世話になることが決まった。
貴族のお嬢様として生活していくのなら、確かに本邸でエオリアさんに色々教育してもらう事が必要になると思うけど、私は貴族のお嬢様として生活しようとは思っていない。

むしろ平民に近い環境で暮らす方が安心だ。
それにはゼクスさんとの生活の方が私にとってはありがたい。

そう言うと『もうタロットワークの一族のセリフですな』と言われた。タロットワーク一族の中でも、やっぱりゼクスさんのように貴族のしがらみから開放されて生きたい、という人間も多いらしい。
そういう人は本当に平民として生きたり、僻地での任官を希望して行く人もいるのだとか。
ただそういう人のおかげで、王都から離れている領地もしっかり手綱を取られているらしい。

それを思うと、タロットワーク一族が王族でなくなったことによってこの国は善政が保たれているのかもしれないと思う。

帰り、執事のジノンさんがひどく憔悴していた。
とても丁重な見送りをされたのが気になる。



「さすがはセバスじゃのう」

「え?何かあったんですか?」

「コズエ殿達が2階に来るまでにな、儂が魔法で事の次第をセバスに伝えておいたのですがの。
おそらく儂等が2階にいる間に、ジノンに指導でもしたんじゃろうて」

「いつの間に・・・っていうか魔法で話したんですか?」



生活魔法の中に、通信コール魔法というのがあるらしい。
自分の話した音声をそのまま、魔法で鳥などにして相手に飛ばせるという便利な代物。

何それ!是非とも使えるようになりたい!



「えっ、それ使えるようになりたいんですけど」

「いいですぞ、しかしコズエ殿は先に魔法の基礎から習ってもらわないといけませんのう。
この世界に来た時と比べると魔力量も増えてきておるようですし、そろそろ魔法の勉強もしてみますかな?」

「するする!します!」

「よいお返事ですな、文字については読むのに支障はないですし、基礎から勉強を始めましょう」



えー!やった!
ついに私も魔法使いですよ!



********************



ウキウキ気分でお邸に帰ると、玄関先にはセバスさんとターニャが揃って出迎えてくれていた。
はぁ、やっぱりこっちいいわぁ、落ち着くね。



「おかえりなさいませ、旦那様、コズエ様」

「疲れたわい」
「疲れましたねー」

「旦那様、ご連絡ありがとうございました。
私の管理不行き届きのせいで失礼がありまして申し訳ございません」

「ジノンもまだまだかのう」
「いやセバスさんのせいじゃないですよ」



なんせ帰りに見た執事さんは、ものの見事に憔悴してましたしね。
魔法でのお手紙を飛ばしたのかもしれないけど、いったい何を書いたのでしょう。いや、知らない方がいい事は世の中にたくさんある。



「セバス、コズエ殿が魔法を習いたいそうじゃからの、お主基礎だけでも教えてやれんか」

「おや、とうとう魔法の勉強を始められるのですね。
かしこまりました、私如きでよろしければ、指南いたしましょう」

「よろしくお願いします!」

「ですが旦那様。私明日は1日お暇をいただきたく」

「なんじゃ、珍しい」

「この度の不始末の処理をしてこようかと思っております。
聞けばジノンだけでなく、メイドにも問題がある模様。
それに若様のお話もお聞きしたいところでありますね、1日で足りるかどうかわかりませんが」

「わかった、好きにせい」

「ありがとうございます」



そういえば、セバスさんはゲオルグ様の事は『若様』なんだなぁ。
向こうの使用人さんは皆ゼクスさんを『大旦那様』、ゲオルグ様を『旦那様』って言ってたような。…セバスさんもしかしてゲオルグ様の事認めてなかったりして。

そう思ってセバスさんを見ると、何かを考えている様子。
私の隣にそっとターニャが並び、こそっと耳打ち。



「あの顔のセバスチャンさんはヤバい事考えてますよ~
明日本邸の使用人全員心折られますね、多分」

「え。」
「ターニャ、何か言いましたか?」

「い、いいええなにもぉぉぉ」



次の日、朝早くからセバスさんは本邸へ。
夜遅くに帰ってきたらしい。

その次の日、朝ご飯の時に見たセバスさんは『ひと仕事終えた』とばかりのとてもいい笑顔をしていました。
…何をしてきたのかは知らない方が幸せですね。

セバスさんによる魔法の授業は、ちょっぴり自分から言い出したのを撤回したくなるくらいのスパルタ加減だった。
も、もう少し…優しく…お願いシマス…


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