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学園生活、1年目 ~前期~

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私が女子生徒達を見たのは、薬草採取の場所に向かう途中。そう言うと、さっき同様ドロシーが先頭に。殿をディーナ。

サクサクと遊歩道を歩きながら、私は周りをキョロキョロと見渡す。えーと、どの辺りだったかな?



「どこら辺で見たのよ」

「うーん、ホントにさっきの広場と、薬草を取りに行った場所との中間くらいだったんだよね」

「よく見てたわね、あんた」

「さっき途中でメグが『あそこにあるあの花キレイ』みたいな話してたじゃない?それで他にもないかな~と思って周りを見てたら目に付いたのよ」

「それでしたら、もう少し先でしたわね」



そんな話をしながら5人で歩いていると、前からアリシアさんと王子様達がやって来るのを発見した。他に女生徒がいないところを見ると、発見に至らなかった様子。

私達が向かいから進んでくるのを見て、王子様は顔をしかめたのが見えた。
自分達が行くから大事にしないでくれ、って言ったのにとか思ってるのかな、めんどくさいことにならなきゃいいなと思う。



「君達はここで何をしているんだ?」


お互いすれ違うまで残り数メートル、という地点で声がかかりました。
はい、フラグが立ちました。面倒くさいフラグが…

よく通る低い声。こんな時でなければ『イケボ!』とか思うところなんでしょうね。ところがどっこい、現在はそんな事を吟味している暇はない。
私達の手前まで来ると、王子様は偉そうに腕組みしてそう質問をしてきた。
…余談だけど、人を前にして腕組みをする、って相手との間に無意識に壁を作る動作って言うけど本当なのかしらね。

ドロシーがちょっと気後れしつつ、返答する。



「私達は先生に頼まれ・・・」
「その必要はない。戻っているといい」



王子様は最後まで聞かず、ドロシーの声を遮った。
何この俺様王子様。いったい何様?(王子様ですね!)

ドロシーだけでなく、キャズがムッとした顔をする。
メグはあらあらと笑っているが目が笑っていません。1番おこってます?
ディーナは『やれやれ』と言うように小さなため息を。
王子様の隣でアリシアさんはこちらと王子様を見比べつつ不安そうな顔をし、ドランについては無表情で背後に立ったまま。赤毛の彼はやれやれと肩を竦めてはいるが言葉は出さなかった。何故誰も止めないんだか。止めない時点で自分達も同じ意見です、って言うつもりなのかしら。

そんな事を脳内で展開している中、私はさっきから発動させていた探索魔法サーチに反応があった事に気づいた。
私の頭が視線と共にすいっと横にズレた事に、王子様の後ろに控えていたドランと、ディーナが反応した。



「何かあったのか?」
「どうしたコズエ、何か見つけたのか?」



私はそれに答えない。…というか、答えるよりも先に『本当に分かっちゃうものなんだな』と変な第三者目線でいた。
どうやら私の探索魔法サーチはホントに性能いいのかもしれない。
セバスさんの特訓のおかげかな?あの時は宝物探ししているような感覚だったから、あまり危機感とかはなかったけれど。

けれど今自分の魔法が知らせてくる結果は、あまり悠長にしている時間はないかもしれない、という現実だった。



「『通信魔法コール』」

「なっ!?」
通信魔法コール、だと?」
「待てよ、通信魔法コールって詠唱いるだろ?」

「ヤダわもうこの展開」
「すごいなコズエ、そんな事もできるのか」
「でもできると便利よね」
「後で教えてもらいましょう」



魔法固有名称力ある言葉と共に出現する魔法で作られた鳥。
それを目の前にした全員…いや、王子様がたが息を飲んだ。
後でなにやら苦情も来そうだが、それを相手にしている暇はない。



「ネスティ先生、見つけました。ここまで来られますか?治癒魔法がいると思います、あと他に先生を3人連れてきてください。背負わないといけないかもしれません」



私が必要な事を言い終わると、魔法で生み出した鳥がひときわ燐光を放って飛び去る。

飛び去った魔法の鳥を見て、立ちすくんでいる王子様達の横をすり抜ける。
私は貴族生徒の子達が進んでいったであろう小道へと歩き始めた。
後ろからディーナ、キャズが続く。ドロシーとメグは先生達が来るのを待ってくれるようだ。ありがたい。



「コズエ、見つけたの?」

「多分、この小道の奥が小さな崖になってるみたい。
そこに足を滑らせたのかも。怪我は大したことないみたいだけど、上がって来られないみたい」

「凄いなコズエ、さっきの魔法といい・・・」

「あっ、あれ使えると便利よ」

「後で教えなさいよ?もう」
「私にもな、コズエ」



他の人の『探索魔法サーチ』がどのように見えているのかまでは分からないが、私にはゲームなんかによくあるミニマップのように見えている。

これまでは宝物探し…つまり人ではないものが標的ターゲットの事が多かった。その為そのミニマップに表示されるアイコンは星型マークだったり、菱形だったり様々。
これはきっとこれまでの私の経験上、認識しやすいような表示の仕方なのだと思う。

人物が標的ターゲットであった場合、丸型のマークで示されることが大半。…ちなみに自分自身は反対型の三角錐の上に丸型マーク。そして三角錐はクルクル回ります。

はい、察しのよい方はお分かりですね?
とあるRPGの2D表示がこれでした。満月だったらめっちゃ高速回転すんのかしら。敵が出たらマークで表示されるのかな…ものすごい気になる。

…と、ズレてしまったが、人物は丸型マーク。
そして表示される色は『緑色』だった。そして今恐らく行方不明になっているだろう彼女達…3つの交点は1つが『緑色』で、2つが『黄色』になっていた。

なんで色が違うのかな?と最初見つけた時に疑問に感じたのだが、『もしかするとステータス異常ですか?』と思ってしまったのだ。
ほら、ゲームだとよくHPが20%以下になると黄色になって、10%以下だと赤色になるじゃない。瀕死手前のやつ。

となると?
もしかして怪我でもしている?
だから動けない?

と、脳内でそんな事を思いつつ、キャズ達とズカズカ先へ進んでいると、王子様達が後ろから追い付いてきた。
ちらっと確認をしてみると、どうやらアリシアさんはいなかった。さっきの場所でドロシー達と待機してくれているんだろうか。



「おい、待て!」

「待ちません」

「危ないだろう!」

探索魔法サーチかけてますからご心配なく、大丈夫です」

「はっ!?探索魔法サーチ!?」

「・・・彼女は通信魔法コールだけでなく、探索魔法サーチも使えるのか?」
「そうみたいですね」



驚いたように声を上げる王子様。
その後に続くドランの声に答えるのは、半ば呆れたようなキャズだ。

と、進んだ先で私はピタッと足を止めて立ち止まる。
すると追い抜くように王子様は私の前に出て、これ以上は行かせないとでも言うように私の前に立った。あ、そこ危ないんだけどな。



「まったく、1人で進むなんて何を考えているんだ。危ないことをするものじゃない」

「いえ、どちらかというと危ないのはそちらです」

「お前はいったい何を言って・・・っ、うわ!」

「カーク!」
「殿下!?」
「えっ!?ウソ!」
「なっ!?」



私の前にいた王子様。私の発言に呆れたとでもいうようにちょっと数歩下がった…と思ったら声を上げて消えました。
うん、そこ斜めになってて、小さな崖になってんだよね。…藪で気づかなかったと思うんだけど。
多分お嬢様達も同じように落ちたと思われる。

私は探索魔法サーチかけながら歩いていたからあとどのくらいで斜めになってるかわかっていたけど、王子様には見えてないもんね、仕方ない。



「大丈夫・・・ですよね?」

「あのなあ!わかってるんなら先に言えよ!」

「だから危ないのはそちらです、って言いましたよね?」

「わかりやすく言えってんだよ!」



あら、怒ってるせいかだいぶ言葉が崩れている。
私は皆に『ここ、段差になってるみたいだから足元に気をつけてね』と言って、目の前の藪を少し掻き分けて覗き込んだ。

草が茂ってはいるが、崖の高さは3メートルほどだろうか。
さすがにロープもなしで、上がっては来られないかも。
貴族生徒のお嬢様も目視で確認しても近くにはいないから、ここを上がることを諦めて移動したんだと思う。

私と同じように、ドランが覗き込み、崖を見下ろした。



「大丈夫か、カーク」

「ああ、酷い目にあった」

「自業自得じゃない・・・?」
「コズエ、それ聞かれるとうるさいわよ多分」
「そうだな、気を付けた方がいい」

「そこのお嬢様方?しっかりと聞こえているが何か?」

「自業自得ですね」

「聞こえてるっつってんだよ!言い直すな!何なんだお前は!」



せっかくなので私がそう言い直すと、後ろにいた赤毛の彼はこらえ切れないとばかりに爆笑した。大事なことだからね、2回言わないとね。
次いで、はぁ、とドランのため息が聞こえる。
ドランは私を見ると、真剣に聞いてきた。



「っ、ははは!最高だな!」

「笑うなエドワード!」

「悪い悪い、怒るなよカーク」

「それくらいにしておけ、エドワード。・・・すまない、ここは何なんだ?」

「さぁ?まあ、見た通りの小さな崖ですよ。この藪で見えなかったと思いますが。
でも私がさっき貴族生徒のお嬢様達を見たのは、ここへ続く道の最初の辺りなんで、多分その子達もここから落ちてしまったんじゃないかなと思うんですよね」

「・・・その可能性は、あるな」

「でもこの辺りにはいないようですし、多分自分達で上がれる所を探す為に移動したのかなと思うんですけど、どう思います?」



そう言うと、考え込んでいたドランは王子様に声をかける。



「カーク、そこから誰か・・・いや、何か気になるものが見えないか?」

「ここから、か?周りには特に気になるものはないと思うが・・・」



キョロキョロする王子様。
下はわりと背の高い草も多く、少し見渡しにくい。
改めて探索魔法サーチをかけ直せば、遠くに見える木の辺りに反応がある。



「すみません、崖から落ちた王子様、あっちの木の下に誰かいそうなんですけど」

「落ちたって言うな!てめぇ覚えてろよ!」

「いえ忘れます」

「間髪入れずに答えるな!」



そんな事を言い合っていると、ザザっと崖の斜面を滑り降りる音がする。
見ると、ドランと赤毛の彼は危なげなく下に降りていた。さすがは騎士様だな。この程度の高低差は苦でもないんですね。『跳躍』のスキルでもあるのかしら。それとも『登攀』かしら?

王子様も2人が降りて来た事で頭が冷えたのか、二、三言話し合うと3人でそちらへ向かってくれると言ってくれた。



「あちらの・・・木の辺りだな?」

「多分、いると思います」

「そうか」
「・・・となると、迎えに行かないわけにもいかねえよな?男としてはよ」

「わかった、俺達は探しに向かう。悪いが・・・」

「私達は先生達を待ちます」

「そうしてくれ」



ドランが私に確認を取ると、赤毛の彼も『放っておけねえよな』と同意。
王子様も『探しに向かう』と言ってくれたので、私達は待機。
だって、この崖を怪我なく降りられるかというと…ねえ?

それからすぐにネスティ先生達が来たので、私達5人は王子様達が向かった方向を教えて帰ることにした。
先生達と一緒にドロシーやメグ、アリシアさんも来たが、アリシアさんは王子様達を待つから、と先生達と一緒にその場に残った。



「いやー、大変だったわねー」

「ホントよねー、どこかでお茶して帰りましょ」

「さんせーい」
「そうだな、私も疲れてしまった」
「そうね、甘い物食べたいわ」
「でしたら、カフェに寄っていきませんこと?」



    ◇◇  ◇◇  ◇◇


「ったく、何だったんだあの女は」


つい罵倒が口から溢れる。
ここは王宮でも学園でもないという気安さのせいか?

本来なら小言を言ってくるだろうナルも何も言わない。
もしかしたら今日のハプニングで少しナルも疲れが出ているんだろうか?

俺の零した言葉に、隣を歩いていたアリシアが申し訳なさそうに反応した。



「すみませんカーク様、飛び出したのは私なのに、何もできずに」

「いや、アリシアのせいじゃないし、俺の言ったのはアリシアに向けてなんかじゃないから、気にしないでくれ」

「はい、わかりました」

「・・・しかし、一時は危なかった。無事に彼女達が見つかってよかった」
「そうだな、大した怪我もしてなくて良かったぜ。あそこから落ちてあの程度のかすり傷で済んだのは運が良かった。痕になったりしたら可哀想だからな」

「オリヴァー様も、エドワード様もお疲れ様でした。
あの、私、友達が待っているのでここで失礼します」



そう言うと、一緒に帰ってきたアリシアは、学園手前で頭を下げて走っていった。
門前に2人の生徒が待っていたので、あれが友達なんだろうと思う。

平民出の生徒だと言うのに、貴族生徒がいなくなったと心配して探しに行く。俺はその態度に少なからず驚いた。
同じ貴族生徒も心配してはいたが、自分から探しに出るような者はいなかったというのに。

そう考えると、少しだけ胸が暖かくなるような気がした。

平民の女子生徒。珍しい『聖』属性持ち。
父上や周りからそう聞かされていたこともあり、どんな奴だろうと少し興味はあった。

声を掛けてみれば、素直で、平民にしては礼儀正しい少女。
自分の周りにいる貴族の淑女とは仕草等比べるべくもないが、近くにいてもそこまで目に付くという拒否感はない。
また機会があれば話をしてみたい、と思うくらいには。

しかし、さっき出会った女は別だ。
何なんだあの女。容姿も十人並でパッとしない女だった。今思い返しても顔が思い出せないくらいには。

けれど、彼女が使っていた魔法については見事としか言わざるを得ない。
俺も通信魔法コールは使えるが、あんなにスムーズに使えるかと言われると、少し戸惑う。しかも詠唱をしていなかったように思う。できるものなのか?タダの平民が?

同じ学年の生徒だ、平民とはいえまた学園で顔を合わせる事もあるかもしれないが・・・しかし顔が思い出せない。

まあいいだろう、その時はその時だ。

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