異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、1年目 ~夏季休暇~

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【side  カーク・トウ・アルゼイド】


今日は庭園で母上が個人的な茶会を開いているらしい。
おそらく相手はいつものタロットワーク夫人だろう。
以前からとても仲が良く、前王家のタロットワーク家の当主夫人ならば貴族間の付き合いにも支障が出ることはない。

城から庭園を見ると、東屋には母上と当主夫人の他にもう一人いるようだ。どこの姫君だろうか。

学園の課題をやり、一息付くと庭園の東屋に兄上がいるのが見えた。珍しい事もあるものだ、と思っているとどこぞの姫君を誘って庭園を散歩する姿。
…今年の春に、婚約者であった隣国の王女との婚約破棄をした兄上はかなり憔悴していた。
『しばらく一人でいたい』と父上に奏上し、それもいいだろうと許可した父上の気持ちは痛いほどわかる気がした。あんなに落ち込んだ兄上を見たのは、いつ以来だったろうか。

その日の夕食、兄上と席を同じくした。
久しぶりに上機嫌な兄上に、俺は驚いた。
そんな俺に兄上は苦笑しながら聞いてくる。


「カーク、そんなに見つめられると照れてしまうよ」

「いや兄上、何かいい事があったんですか?」

「わかるかい?・・・そうだね、久しぶりに気持ちが軽い気分だね」


ふふ、と笑う兄上の顔は、弟である俺から見ても…いや同じ男である俺から見ても魅力的なものだった。
見ろ、周りのメイドが目を離せなくなってるじゃないか。


「今日、母上のお茶会に来ていた姫君と話をする機会があってね。それでだよ」

「そうだったんですか、そんなに素敵な女性だったのですか?」


兄上がここまで機嫌がいいなんて、余程の美人だったのに違いない。それなら俺も一目見てみたかった。
兄上の婚約者だったアレシエル王女は俺から見ても女らしく、可憐で優しそうな姫君だったのだから。

しかし、兄上の答えは俺の予想の遥か上を行っていた。


「美しさで言えば、他にももっと見た目が綺麗な姫君はいるだろうね。ただ・・・あれほど聡明で賢い姫君はそうはいないだろうな。話していて全く飽きない」

「そんな姫、だったのですか?」


なるほど、兄上くらいになると美しさだけでなく、頭のいい女性がいいのか。俺は素直で聞き分けのいい女の方が魅力的だと思うんだが。


「ああ。だから、お前にも譲らないよ?
彼女は私が口説き落とすつもりだからね」

「なっ、何言っているんですか兄上!
俺、いや私がそんなことするわけありませんよ!」


兄上の意中の女性を俺が取る?
いやいやそんな事ある訳がない。俺の女の好みは、シリス兄上とは全く違うし、そもそも争うなんて事はありえない!

慌てる俺が面白いのか、兄上はずっと機嫌が良かった。何はともあれ、あの事件から塞ぎがちだった兄上が元の明るい兄上に戻ってくれた事を思うと、誰なのかわからないがその姫君に感謝しなくてはならないな。


夏季休暇になり、俺が王城へと戻り半月。
第二王子としての公務をしつつ、学生としても本分である勉学に励み、騎士団へ出向いて剣の腕を磨く。

騎士団へ剣の稽古へ行くと、友人であるオリヴァー・・・ナルも騎士団員として稽古をしている事が多く、学園とはまた違った場での友情を深めていた。

婚約者であるエリザベス嬢とも親交を深めるために、休暇中は何度か出かける事になっている。

新たな学園生活が始まるまでは、平穏な王城での生活を送ることになるのだろう。



********************


「また母上の所に宝飾屋が来ているのか」

「また、とは聞き捨てなりませんね王子殿下。
今年もそろそろ夏至祭が近付いておりますから、王族として支度を整えるのは当たり前の事ですよ」


朝食の時間。
窓から見える廊下を、商人と思われる者が数名歩いていた。ああいった王城出入りの商人を招くのは母上だ。父上もそういう所は母上に任せきりであるからな。


「王妃様もカーク殿下のお食事が終わり次第来るようにと」

「はぁ?俺もか・・・?」

「ローザリア公爵令嬢への贈り物をお選びになっていただきたいのでは?」


そういえば、毎年婚約者殿に贈り物をするのが恒例だったな。去年はドレスを作るのに布地を選ばされた。
夏至祭は王城でも夜会が開かれて、社交界にデビューした者なら誰でも参加できる。
王族である俺は毎年強制参加だ。去年までは王族からの挨拶に参加するだけでも良かったが、今年からはダンスや貴族達からの挨拶の間も会場にいなければならないだろう。


「今年はローザリア公爵令嬢とのダンスがありますし、アクセサリーを贈るのがよろしいかと」

「それなら行かない訳にはいかないな」

「はい」


この国では、社交界デビューを終えた女性が夏至祭の夜会に参加する際、婚約者からアクセサリー…主にネックレスを贈ってもらい、それを付けて参加するのが習わしだという。贈る宝石は女性の瞳の色と同じ色の宝石を選ぶのが習わしだ。
もちろん、デビューしたての女性に婚約者がいない事も多い。その時はネックレスをせず、胸元に生花のコサージュを飾る。

男性の場合も同様だ。男性は婚約者の女性に贈ったアクセサリーと同じ宝石、を使ったタイピンをする。お相手の女性がいない男性は胸元に生花のコサージュを。

つまり、正装の飾りに宝石を付けるか、生花を付けるかでお相手のいるいないを判別できる。


「カーク殿下がどんなタイピンを選ばれるか楽しみにさせていただきます」

「あんまり期待しないでくれよ、苦手なんだ」


この侍従は俺に付いて長い。
幼少の頃から面倒を見てくれている一人だ。
父上よりも年嵩で、時に厳しく優しく導いてくれていると思う。確か、タロットワーク家からの推薦だったはず。

シリス兄上にも付いてある侍従の一人も、タロットワーク家から推薦された者の筈だ。
タロットワーク家からの推薦は外れなく、教養・護衛と色々と頼りになる。父上の周りにもいるはずだ。

長く勤めてくれているだけに、俺も多少言動を崩す。
最初は窘められていたが、公式な場ではきちんと弁える事をすれば、多少の事は目こぼしをしてくれている。
それは王族である俺達にとって、何よりの心の拠り所となるのだから。



********************



母上の部屋まで来ると、すんなりと中に通された。
普段は子供といえど、国王や王妃の住まうエリアにすんなり通される事はない。
そこは子供とはいえ、国のトップと支える者の違いだ。

今日は先触れが出ているせいか、すんなりと通される。

サロンには、数名の商人達。
机の上には色とりどりの宝石や飾りがビロードの台に並べられている。
母上は俺と目が合うと、にこやかに招いた。


「いらっしゃい、カーク」
「お目にかかれて光栄でございます、カーク王子殿下」


母上に宝石を見せていた商人も、俺に対して挨拶。
俺は母上の隣へ歩を進めながら、その商人に対して挨拶を返した。


「さ、貴方の分を選ばなくてはね」

「母上はもう選ばれたのですか?」

「私の分はまだ迷ってますのよ。夜会に付けるネックレスは、陛下からいただいた物ですけれど、その他のイヤリングが決まらないの」

「たくさん持っているように思うんですが」


俺がそう言うと、母上はまあ、と扇で口元を隠しながら苦笑された。


「カークもまだまだですのねぇ。女というのはこういう所で戦いがあるんですのよ。他の方ならいざ知らず、王妃たる私が夏至祭の夜会に飾らなくてどうしますの?」

「・・・そういうものですか」

「例えお気に入りの物があったとしても、新しい物を身に付けて『さすがは王族』と思わせないといけませんのよ」


………俺にはわからん。
そう思っていると、兄上が入って来られた。珍しい。


「おや、カークの方が早かったね」

「遅くってよシリス?」

「申し訳ありません母上、何分急ぎの仕事が入ってきていましたのでね」

「まぁ、大丈夫でしたの?」

「ええ、後はこの国の優秀な文官達に任せます」


パチリとウインクをする兄上。
婚約破棄をしてから、兄上は精力的に公務をしている。
為政者としての資質もある兄上には、その方が気が紛れるようだ。俺には向いてないがな。


「ではシリス、貴方カークのアドバイザーになってあげてくださる?」

「おや、私でいいのかい?カーク」

「兄上が良ければお願いします」

「私はまだ決めてない物が多くって。
ごめんなさいねカーク、でも私にも何を選んだのか見せて頂戴ね?」


俺は兄上と少し離れた席に移動した。
母上は母上でまだまだ宝石を選ぶようだし、俺は俺で選ばなきゃならないからな。

母上は二人の商人から宝石を見せてもらいながらあれでもないこれでもない、と忙しそうだ。


「母上もよくあんなに・・・」

「ご婦人というのは着飾る事に意欲を燃やすものだよ、カーク。パーティーや季節毎に同じ物を身に付けるのは失礼にあたるからね」

「・・・それは贅沢と言いませんか?」

「おや、お前はそう思うかな?」

「兄上は違いますか?」


兄上は度々こうして俺に意見を聞いてくる。
国の政治の在り方であったり、考え方。
昔はそれが何の役に経つのかと苛立つ事もあったが、年々それが国を治める者、人の上に立つ王族としての在り方を教え聞かされているようだと思い直す。

俺には散財に見える行動も、これには訳があるのだろう。まだ俺にはそれを気付くことが出来ない。


「そうだね、私達男から見ると、貴族の女性の着飾り方は少々散財に見える事もあるだろうね」

「俺にはまだそうとしか見えません」

「そうか。でも母上は古くなったドレスや宝石をどうしているか知っているか?」

「それは、いえ・・・知りません」

「なら、それを調べてみるといい、それからまたこの事について話そうか。
今は君のタイピンと婚約者殿に贈るネックレスを選ばないとね。私は生花のコサージュでいいけれど、カークはそういう訳にもいかないだろう?」


ふふ、と苦笑する兄上。
…そうか、兄上は婚約破棄をしたから、今年からは生花のコサージュを付けて出るのか。
あのアクアマリンのタイピンは、兄上の元婚約者の姫君の瞳と同じ色をしていた。そこに兄上のロイヤルブルーの瞳と同じ色のサファイアの小さな石が飾っていた。あれをした兄上が見られなくなるのは少し残念だ。

となると、俺もアメジストと…エリザベス嬢の瞳の色に似た宝石で作られた物が良さそうだな。

エリザベス嬢の瞳の色は、赤に近いピンクか。
ピンクと紫なら並べても悪くはない色合いだろう。


「なるほど、エリザベス嬢の瞳の色だね。
きっとよく似合うと思うよ。カークの瞳の色のアメジストも使われているからこれでいいんじゃないかな」

「兄上の時の事を参考にしました」

「そうだね、婚約者の瞳の色を模した宝石を贈るのは、セオリー通りで好まれると思うよ。
初めての宝石の贈り物だろうし、きっとエリザベス嬢も気に入るさ」


そう言われると、間違いなさそうでホッとする。
同じように俺も自分用にタイピンのデザインを選んでいると、兄上は女性用のイヤリングを熱心に眺めている。
…どこかの姫君への贈り物にするのだろうか。


すると、母上がこちらへやってきた。
自分の買い物はもう終わられたのだろうか。


「カーク、もう選びましたの?」

「ええ、エリザベス嬢の分は。まだ自分のタイピンはデザインで迷ってますが」

「まあ素敵。きっと喜ぶわね。
…シリスはを熱心に見ているのかしら?」


からかうように兄上に言う母上。
それを聞いて、兄上は困ったように笑っている。


「相変わらず聡いですね母上」

「うふふ、女のカンは鋭いものなのよ」

「彼女なら何色が似合うかな、と思いまして」

「そうねぇ・・・でもシリス、彼女は高価なプレゼントは受け取ってくださらないと思うわよ?」

「・・・かもしれませんね」


ん?というからには母上はシリス兄上がプレゼントを選んでいるのか知っているのか?

婚約破棄をしてから、兄上に新たな婚約者の話は出ていないはずだが…どこかの令嬢と出会いがあったのだろうか。俺は学園にいたからあまり社交界での事は詳しくはないが…


「贈りたいのならば、もう少し華美でないものの方がいいかしらね」

「そうですね、また後日にします」


そう考え込んでいるうちに話が終わってしまった。
兄上に聞いたら教えてくれるだろうか?いやいやその前に母上の古いドレスや宝石をどうなさっているのかも調べなければならないな。

自分のタイピンを選びながら、俺は今後について頭を巡らせる。
さて、どこから手をつけるか…

自室に戻り、まずは侍従に聞いてみる。
資料などを見るにしても、国の執政に直接関わっていない俺では見る事の出来る資料にも限界がある。

まずは取っかかりを探らないとならない。
質問してみた所、侍従は一度許可を得て下がってから、いくつかのバインダーを持って現れた。


「・・・なんだ、これは」

「これは王妃様に限らず王族の方々の交際費に関わる費用に付きまして、まとめられてある資料にございます。」

「これはどこから持ってきた物なんだ?」

「これは財務からでございます。私が先程財務官長よりお借りして参りました。もしも質問があれば、財務官を説明に来させるとの仰せでございました」


それを見ると、確かにかなりの金額が服飾費として出ていっている事がわかる。
俺には贅沢、としか思えない。パーティーやお茶会の度にドレスだのアクセサリーだのと出費していたらどうなるんだ?

ただ、その影に『贅沢』だけではない一面もあった。
どうやら着なくなったドレスや宝石は、仕立て直して女官達に下げ渡したり、売り払って孤児などへの寄付金として循環しているらしい。


「仕立て直す、と言っても簡単ではないのですよ。
それこそ城の女官達がこぞって刺繍や裁縫の腕を競っております。そうしてできた服は『王家からの下賜品』ということで貴族達に取ってはまたとない品となりますので」

「そういうもの、なのか」

「王妃様は王族の顔でございます。政務でお忙しい国王陛下に代わり、数々のパーティーやお茶会に出席し、貴族達の動向を見たり、交流を繋いでおられます。
女性は女性の社交術というものがあるのですよ、殿下」

「男はまた剣術や馬術試合、狩りなどで交流を図るのと同じ、という事だな」

「はい、そうでございます。貴族の奥様方の持つ情報は男よりも正確で豊富な一面もありますからな。
新しい物を身に付けて出られる事で『この国は栄えている』という事を示す役割もありますから」


そうか『贅沢』と思っていたが、それだけではないのだな。確かに集まり毎に新しいドレスや宝石を身に付ける事で国が栄えている、富んでいると思わせるのは必要な事だ。限度はあるかもしれないが。

これをみる限り、支出は多いが財政を圧迫するような事は見られない。国の執政が上手くいっているという証拠でもある。


「参った、まだまだ俺には知識も経験も足りないな」

「殿下はまだ学園に入ったばかりでございますれば。これからもその様に精進なさいませ。
兄上のシリス殿下も同じ年の頃は剣術にばかり夢中でいらっしゃいましたよ」

「とはいえ、兄上に追い付こうとしても容易じゃないさ」


俺はまだまだ出来の悪い弟だ。
だがそれに甘んじている訳にもいかない。
そう遠くない未来、国王となった兄上を支えて、この国の礎となって行かなければならないのだから。



********************



夏至祭まで残り数日となった。
エリザベス嬢へ贈ったネックレスが届いたらしく、俺宛に御礼状が届いた。

『頼んだドレスと合っていて凄く気に入りました。当日はカーク様をあっと驚かせてみせますわ』

と書かれた返事。それを読んで口元が緩む。

贈った物を喜んで貰えるのは気分がいい。
嬉しそうに微笑む婚約者殿の顔を想像できる。

今日は夏至祭の巫女役をする『星姫』が国王陛下へ目通りをする日になっていた。
今年の『星姫』は三人。いずれも平民の女性が選ばれた。珍しい事かもしれない。いつもはどこぞの貴族の令嬢が入っていたと記憶していた。

夏至祭は平民の中では『星祭り』とも呼ばれていて、町中では色々な催し物があったりと、かなり賑やかになる。
無論、毎年兄上も俺も王都へ見に行っている。お忍びになるが、公認の外出となっていて護衛も陰ながら付いてくる。
父上も国王となる前はそうして民の祭りを間近で見てきたそうだ。

謁見の間。王族としての正装をして『星姫』の入場を待つ。
案内されて神官と3人の女性が入ってきた。一番後ろにいるのは………あれは、アリシア?



「国王陛下、並びに王妃様、王子殿下方にはご機嫌麗しく。今年も3名の『星姫』をお連れいたしました。夏至祭が滞りなく行われますよう、務めさせていただきます」

「大儀である。『星姫』達よ、民に祝福を授ける役目を果たされるよう」

「「「拝命いたします」」」



一番左にいる『星姫』、アリシアが挨拶を済ませこちらを向いた。
一瞬、驚きの表情をしたがすぐに真顔になる。
場を去る直前、俺を見て小さく笑顔を見せ、ぺこっと頭を下げた。

そうか、今年はアリシアが『星姫』の1人なのか。



「『星姫』の1人がこちらを向いて挨拶していたけれど・・・彼女は知り合いなのかな?カーク」

「兄上も気付きましたか。はい、同じ学園の生徒です」

「そうか。カークはちゃんと平民の生徒とも交流を持っているんだね。いい事だと思うよ、私にも学園時代何人も平民の友人がいた。
彼等とは色々な意見を交わし合い、とても充実した日々だったよ」

「兄上にも平民の学友がいたんですね。
そうですね、確かに私達にはない意見を聞ける場だと思っています。・・・それに」

「それに?」



これは言ってもいいのだろうかと悩んだ俺を、父上の声が遮った。



「カーク。彼女が『聖』属性の生徒だったな。アリシア・マールといったか」

「はい、そうです。父上」

「なるほど、彼女がそうなんでしたか。貴族ではなく、平民で『聖』属性の魔力持ちとは珍しい才能ですね。是非とも学園で彼女の才を伸ばして欲しい」
「あら、でしたら今年の『星姫』は選ばれるべくして選ばれたといった所かしら?彼女の祝福を受ける新婚の御夫婦は幸せですこと」



母上が兄上の言葉を繋ぐように言った。

そうか、夏至祭には『星姫』が平民の夫婦に祝福を授けるイベントもあったな。
それに、花車に乗って王都内を回るパレードもあったか。ナルを誘って見に行ってみるのもいいかもしれない。


夏至祭前日となったある日。
兄上に質問したい事があり部屋へ行くと、自室の中で熱心にコサージュを作る兄上の姿があった。

そうか、夜会に使う生花のコサージュだ。
魔法を使って瑞々しさを保つんだったな。兄上の力からすれば簡単だろう。



「兄上。制作は順調ですか」

「ああ、カークかい?
まぁね、なかなかの出来だと思うよ」



大抵は専門の職人に任せるものだが、兄上は自分で作りたいと言っていた。
兄上はわりとこういうものにこだわる性格だから、どうせなら自分の好きなように作りたいのかもしれない。

机の上には色とりどりの花々。
そして、コサージュが二つ。…二つ?

兄上は出来上がっているコサージュの小さい方に、ロイヤルブルーの色をした小振りのサファイアをアクセントに飾り付けている。ティアドロップ型をした、ペンダントトップにも見える。兄上オリジナルの飾りか。



「兄上、二つ・・・作ったのですか?」

「ああ、一つは私が使う用に。こちらの小さい方は贈り物にするつもりだよ」

「贈り物?」

「夏至祭だし、飾りに使ってもらいたいなと思ってね。
私の愛しい姫君に贈るんだ」



…愛しい姫君?
兄上、いつの間にそんな方を?
もしかして、この間庭園で散歩をしたという女性?



「なんだいカーク?そんな顔をして。
私に『愛しい姫』がいる事がそんなに意外かい?」

「い、いえ、兄上がそれほどこの間の女性に本気だとは思っていなかったので」

「本気かどうか・・・は私にもわからないな。
何しろまだ一度しか会ったことのない人だ。
でも、また会いたいと思う人だよ。だったら少しでもいい印象を持ってもらえるようにするのは当たり前だろう?」



『カークにもそのうちわかるよ』と兄上は笑った。
確かに、エリザベス嬢に贈り物をして、喜んで貰えたのは嬉しかった。それと同じような気持ちなのだろう。

楽しそうに宝石の飾りを付けている兄上を見て、俺はちょっと羨ましく思った。


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