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学園生活、2年目 ~前期~
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しおりを挟む出発前、皆で持ち物を揃えたりと少しザワつく。
用意は学園外に全て揃えてあって、パーティ毎に持ち物を揃えるのだ。私は病み上がり…と思われているので近くの木の下で待機を命じられました。
…病み上がってはいないんだけど。
いや違う意味で少し病んでますけども?
でも助かった。外に出ることであまり日記の内容を考え込まずに済む。やる事がある方が、思い出さないから。
通常の授業だったら、どうだったろう。きっと考えざるを得ない。
ああ、ダメだ。考えないようにすると逆に気になる。
両手で目元を覆う。
いつもよりも少し冷えた手。
緊張しているの?私。
目を閉じ、少しの間下を向く。
今はそれを考える時じゃない、切り替えろ。
「───お嬢、どうした」
「え・・・」
ふわ、と香る匂い。低い声は団長さんのもの。
ゆっくり顔を上げて、手を退けるとそこには正装した鎧姿の団長さんが心配そうに見ていた。
「どうした、具合が悪いのか?数日休んでいたらしいじゃないか」
「あー、大丈夫です。体調不良じゃないので」
「・・・『本』のせいか?」
「・・・聡いですね、そうか『本』の事知ってるんですね。アナスタシアさんに聞きましたか」
「今のは推測で言ったんだがな。アナスタシアが持っているのは知っている。俺にはさーっぱり読めなかったがな。お嬢は読めたんだろう?」
「ええ、昨日読み終わりました。続きは今日、セバスさんに頼んで取りに行ってもらいました」
「そんな風になってまで、どうしてあの『本』を読もうとするんだ?」
興味ではなく、詰問するような言葉。でも団長さんは私を気遣っているのか、口調がキツくならないようにしてくれている。
その態度を見て、私はなんとなく察してしまう。
「───そうですか、アナスタシアさんはフレンさんに何も話していないんですね」
「お嬢~~~だから言わない事を声にすんなって」
「ふふ、ごめんなさい」
頼りない声をする団長さん。でもその心配してくれる表情の中に、真剣な光を見た。
「お嬢、教えてくれ。君は誰だ?」
「フレンさん・・・」
「アナスタシアにはどんなに聞いても教えてはくれない。しつこく聞き出したら、お嬢に聞けと言われたよ。全ての本を読み終わったお嬢にな」
「アナスタシアさんたら。無責任な・・・私に押し付けましたね説明を」
でもアナスタシアさんのギリギリの譲歩だったんだろう。
ああ、この夫婦は本当に、互いを思いやっているのに、立ち位置が違う事ですれ違っている。
フレンさんが近衛騎士団団長でなければ。
アナスタシアさんが今も王族のままであったなら。
『たら』『れば』の話をした所で解決しやしないけれど、今はそう思わずにはいられないな。
「フレンさん、手を出してください」
「ん?手?」
ほらよ、と差し出される手。付けていた篭手を外してくれるその優しさに笑ってしまう。
私はその手をそっと両手で包み、胸に抱いた。
大きくて頼もしい、剛い人の手。たくさんの人の命を奪い、護り、導いて来ただろう戦士の手だ。私の知らない生き方をしてきた人の手。
「おいおい、男の手をそんな風に抱くもんじゃないぞお嬢~」
「大丈夫です、アナスタシアさんの爆乳に比べたらこんなのチンケなもんでしょう」
「そんな事ないぞ、デカくても小さくても偉大なもんだ」
「まあフレンさんの持論は横に置いといて。
───約束します、フリードリヒ・クレメンス。その時が来たら私は貴方にきちんと話をします。ですからそれまで、待っていてくれますか?」
想いを込めて、フレンさんを見つめ返す。
すると、ちょっと驚いたフレンさんは、瞬時に真剣な顔になって私を見返す。
「───しかと承った。『護国の剣』の二つ名にかけて誓おう。その時が来るまで俺も君を護る事を」
「くす、私の『護り』はアナスタシア・タロットワークだけで十分です。まだあと三冊あるので、すぐにはできませんが」
「おいおい、あんなのあと三冊もあんのか?頭おかしくなりそうだな」
そっと手を離しても、フレンさんは私の手を取ったまま。優しく握りしめてくれている。その仕草にこの人の誠実さを見た気がした。
ふと、誰かに呼ばれた気がしてそちらを向くと、カーク王子と一緒にいるアリシアさん。
私は軽く団長さんに会釈をし、その場を離れる。
「アリシアさん」
「コズエさん、大丈夫ですか?病み上がりなんですから無茶しないでくださいね!」
「アリシアさんこそ、大丈夫?」
「私は大丈夫ですよ!皆さんいますし」
「ま、アリシアに怪我はさせないさ。俺もいるし、ナルもエドもいる。アリシアだけに頼らずとも、俺達もそれなりに魔法を使えるからな」
前よりは軽い表情。この間話をした事で、カーク王子は私に対する態度もかなり軟化しているし、理解もしている。
その事に気づいたのか、エドが少し驚いた顔をした。
ドラン?ドランはわかりません…表情筋死んでないよね?
「コズエも無茶すんなよ?俺が一緒のパーティなら守ってやれんのにな」
「ありがとう、エド。エドも気を付けてね?」
「ああ、無理はしねえよ。魔物の討伐っていってもランクは高くねえだろうしな、といっても侮るつもりもないが」
ドランもエドも、近衛騎士団で訓練するくらいの腕の持ち主だ。カーク王子がどの程度なのかはわからないけど、本人も努力家だし、王族が剣の腕がないとは思えないし。多分そこらの騎士と同程度の腕はあるのだろう。
…それに、彼には隠れて近衛騎士団員が護衛につくはずだ。
少しカーク王子やアリシアさん達と話していると、ケリー達が呼びに来た。
さてさて、宝探しだと思って気晴らししよう。
危ない事はケリー達に任せようっと。
********************
「団長、用意が整ったようです」
「そうか、では手筈通りに散開。王子達は元より、学生に危険が及ばない様に索敵しろ。───行け」
「「「「「了解です、団長!」」」」」
近衛騎士団より10名を連れてきた。冒険者ギルドから依頼とはいえ、万が一が起こらないとも限らない。
低レベルの魔物が出る、と事前索敵は完了しているが、突然高レベルが湧いたとしても驚かない。
これまでそういったイレギュラーが起きたケースはあるからだ。
流石に王子殿下に怪我をさせる訳にはいかないから、同行者として『聖』属性の女子生徒を連れさせた。
どうやらお嬢とも知り合いのようだな。お嬢を第二王子に同行させても良かったかもしれないが。
「団長」
「おう、ご苦労さんシオン」
「・・・見ていましたよ」
「お嬢意外と胸あるぞ?シオン」
「お嬢さん相手にセクハラをしていたとアナスタシア様に報告しますね」
「待て待て待て。あれはお嬢からであって、俺に落ち度はねえだろう」
「全く貴方は・・・お嬢さん、具合が良くないんですか?昨日まで休んでいたようですし。もしもそうなら俺が護衛に付きますが」
「いや、そういう訳じゃないらしい。一応どの辺りにいるかくらいは見ておいた方がいいかもしれんな。いざとなったら俺が出る。───二つ名にかけて守ると言っちまったからな」
「っ!?」
驚くシオン。そりゃそうだろうな、俺が第一に守らなきゃならんのは、第二王子だ。それをお嬢を守るって言い出したんだからシオンにとっちゃ驚くわな。
俺は端的に『本』について教えてもらう代わりに、時が来るまで待つことを約束したと告げた。
シオンも真剣な顔になり、『了解』と端的に返す。
さすがは俺の副官。これ以上突っ込んで来ないあたりが俺をよく分かっているってもんだ。
アナスタシアさえ、俺には真実を話すことはなかった。愛する妻に信用されていない、と絶望する気持ちもあるが、どこか冷静に『そうだろうな』と理解する俺がいた。
もしも逆の立場であっても、俺も同じ態度を取るのだろう。
お嬢───コズエ・ヤマグチ。彼女が何を話してくれるのか。それまで俺は俺の『信念』に基づき、彼女を護ることにしよう。
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