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学園生活、2年目 ~前期~
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しおりを挟む完全治癒魔法を使うと、少ししてからゆっくりとディーナが目を覚ました。
さすがは『完全』治癒魔法。効き目はいい。
ちなみに、回復魔法と治癒魔法ってあるけれど、違いは一目瞭然。
回復魔法は誰にでも使えるけれど、治癒魔法は『聖』属性の魔力がないと使えない。使おうとすると、長い詠唱と、余計な魔力の消費量、あとは決まった魔法具の補助がいる。適性がある事でそういった事をスキップできるのだから。
他にも聖光魔法とか、浄化魔法とかも『聖』属性の魔力がないとかなり難しい。基本的に上位魔法になる。効果は推して知るべし。
「コズエ・・・?」
「よかった、ディーナ。痛いところない?」
「ああ、大丈夫だ。すまないな、心配させて」
ぎゅ、っと抱きつく。ディーナは私に手を回し、頭をポムポム撫でてくれる。
あったかい、よかった生きてて。治せてよかった。
キャズやケリー達も無事なようだ。
私がディーナに甘えていると、キャズもこちらに来てギュッとハグしてくれる。しかし私の頭を小突いてきた。
「まったくもう!さっきは驚いたわよ!どついてくるから!」
「その節はすみませんでした」
「なんだ?何かあったのか?」
「私に向かって突っ込んできたのよ、この子。止まれなかったんですって」
ああなるほど、と笑うディーナ。仕方ないじゃない!あれだけ加速してたら止まろうとしたけどバランス崩して転んじゃったのよ!
しかもキャズを目標にして走ってたからそのまま突撃しちゃったのよね。ディーナに向けて転ばなくてよかった。トドメの一撃加えてたかもしれない。
ようやくホッとして笑っていると、団長さん達が到着。
カイナス副官が側に行って報告を聞く間、周りを見て状況を確認しているようだった。
それを見たキャズが一言。
「あの団長さんさ、ドロシーの好みにストライクよね」
「へっ?」
「・・・確かに、年齢も好きな部類だろうな」
確かに。団長さんて40前後だっけ?そしたらドロシーの好みにストライクだわね。私もいい男だなぁと思っているもん。
とはいえアナスタシアさんの旦那様だし、オススメするのは気が引ける。ここは口を挟まないようにしとこ。
しかし団長さんはズンズン、と歩いて私には近寄り、頭をポンポンと撫でてずいっと顔を近付けてきた。
「よくやったな、お嬢。でもそれとこれとは別だ。わかってんな?」
「う、はい」
「お嬢はシオンとゆっくり戻って来い。そっちのお嬢の友達か?君達は他の騎士達と一緒に戻れ。いいな?」
「了解です」
「はい、了解です」
はい、帰りながらカイナス副官に怒られる、という事が確定致しました。こってり絞られるのかなぁ、トホホ。
知り合いだったのねご愁傷様、とキャズとディーナは先に出発。マンティコアを処理する騎士が数人残り、それ以外は団長さんを先頭に戻っていった。
座り込んだまま二人を見送ると、隣に誰かが立つ気配を感じ取った。見上げると、私を見るカイナス副官と目が合う。
「さて、お嬢さん?素直に話してもらいますよ」
「や、優しくしてください♡」
「それは君次第かな?」
にっこり笑うけど、目が笑っていません…
あああ、みんなステューの氷のような笑顔ってできるんですね…
「それにしても。結界魔法といい、身体強化魔法といい・・・ありがとうございましたお嬢さん。あなたがいなかったら、全滅していたかもしれない」
「間に合ってよかったです。無理して走った甲斐が・・・あれ?」
立ち上がろうとしても、足に力が入らない。
痺れた、とは違うけれど、力を入れようとしても抜けてしまう感じ。手や足先には少しだけ痺れを感じていた。
「どうしました?立てない?」
「あ、はい・・・」
「どれ。・・・手が痺れたり、足先が痺れたりはしていますか?」
「少しだけ・・・」
カイナス副官はしゃがみこみ、私の手を取った。
指先を温めるようにして私の手を包む。
「魔力切れですね。あれだけ大きな魔法を使えば無理もない」
「魔力切れ、ですか」
「気持ちが悪いとか、目が回るということはないですか?」
「それは大丈夫です」
「なら、一時的なものでしょう。数日に渡る時もあるから、無理はしないようにね。足に力が入らないのもそれだと思う」
腰が抜けた、ともなんか違うしね。感覚がない、って感じ。でも手の指先や足先はピリピリする。
これはどのくらいつづくんだろう?周りの騎士さん達もそれぞれカイナス副官に報告を済ませると帰っていくみたいだ。
「さて、じゃあ俺達も行きましょうか」
「行くってあの、きゃっ!」
「暴れないでくださいね?」
ひょい、と私をお姫様抱っこ。軽々と持ち上げて歩き出した。カイナス副官、もしかして私をこのまま抱いて連れ帰るの!?
「あ、あの、カイナスさん」
「落としませんから大丈夫。怖かったら首に手を回して抱きついていてくれてもいいですよ」
「っ、」
至近距離で『ん?』と余裕の微笑み。さ、さすがに恥ずかしい!私はこの至近距離でカイナスさんを見ている余裕なく、片手を首に、もう片方の手を肩に回して抱きつくように顔を背けた。
くすくすくす、と笑う声が耳元に届く。悔しいけど、大人の男性の余裕には耐えられない、心臓爆発しそう…
私を抱える腕は力強く、肩も、首も、細く見えてもがっしりとしていて『大人の男性』だった。仄かに香るコロンのような匂いもいい匂いでドキドキする。
「さて、お嬢さん?あの回復魔法はどうやって使いました?あれは『聖』属性の魔力がないと使えないはずですよね」
「・・・私にもあるんですよ、『聖』属性の魔力。ゼクスさんの所にお世話になる時に教えてもらいました。貴重なんですってね」
「なるほど。それはどこまでの人がご存知なんです」
「国王陛下と、タロットワークの息がかかっている人でしょうか。学園の教師達も知っているはずです。入学時に話はしましたから」
「神殿には?」
「恐らく、ゼクスさんが口止めしていると思います」
「そうですか、では俺も口を噤んだ方がいいですね。他の騎士は見ていなかったようですし、これは秘密にしましょう」
「ありがとうございます」
ゆっくり森の中を歩きながら、話をする。トクトクトク、と私の鼓動も少し早いけど、ゆっくりと音を立てている。
くっついているから暖かくて眠くなりそうだ。カイナス副官の声は、とても耳に心地いいし。
「『本』についてですが」
「それはフレンさんに聞いてください」
「───俺は信用できませんか?」
ゆっくり身を起こし、カイナスさんを見る。
彼も歩きながら、私と目を合わせる。
真剣な色をした、アイスブルーの瞳。少し冷たい色合いだけど、いつもそこにあるのは優しい色。けれど今は硬質な真剣味を帯びた瞳。
光の加減で金にも見える薄茶色の髪が、風になびいて視界を揺らす。
「信用していない訳じゃないですよ?現にこうして私の身の安全はカイナスさんにかかっている訳ですし。信用出来なければ腕に大人しく抱かれてたりしませんよ」
「信用はしてくれているんだね、嬉しいな」
「でも、それとこれとは別です。『本』の事は許可がなければ言っちゃいけないことだと思いますし。聞きたければ内容はアナスタシアさんに聞くといいですよ」
「タロットワークの始祖の日記、という事は聞き及んでいます。問題はそれをお嬢さんが読んでどうしようというのかという事です」
「どうしようというか・・・知りたい、ってだけですよ?」
うん、嘘は言ってない。私は知りたいのだ。ここへ来た異世界人の事を。マデインの伴侶となった異世界人がどうなったのかを。
できればその人の事が、この先の日記に書いてあるといいのだが。
カイナス副官は私の顔を覗き込むように、おでこをコツンとぶつけるようにして固定する。
き、キスしちゃいそうな距離…!吐息がかかる。
身動ぎしようと思っても、私の体にがっちり固定されている腕が離してくれない。
「カイナス、さん」
「嘘を言っているようには見えない、けれど本当の事を言っているようにも聞こえない。困った子だ、君は」
「あの、ちか」
「───参ったな、こんな年若い子供にここまで心を揺さぶられるなんてね」
「え?」
掠めるような口付け。触れたか触れないかわからない程度。ほんの少しだけの感触に、キスだったのかそうでないのかわからない。
ふっと顔を離して、その後はお互い口を開くことなく帰りついた。
抱き上げられたまま帰還した私を見て、キャズ達はからかうような顔をしたけれど、下ろしてもらった私がよろけるのを見て、それどころじゃないと察したようだ。
「コズエ、大丈夫?」
「まだ足が産まれたての小鹿みたいになってる」
「上手いこと言ってるんじゃないわよちょっと」
「すまないが、彼女を支えてあげてもらえないか?魔力切れで上手く歩けないようなんだ。座らせて少し休ませてあげてほしい」
「あっ、はい!」
キャズが走って簡易椅子を運び出す。
まだカイナス副官に支えられて立つ私は、彼を見上げる。
「ありがとうございました、えっと、あの」
「・・・どういたしまして。さっきの続きは君が話してもいいと思った時に、続きをしよう」
「続き、って」
「俺も、ちょっと覚悟しないとね」
耳元にそっと囁く言葉。その言葉にどくん、と心臓が飛び跳ねる。
「───君に惹かれるのを抑えきれなくなりそうだ」
「っ、」
サッと離れた顔は『カイナス副官』のもので。さっきまでの言葉を言うような人には全く見えない。
こ、これだから女性経験豊富な大人の男ってやつはよう!!!
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