異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

文字の大きさ
82 / 158
学園生活、2年目 ~前期~

105

しおりを挟む


完全治癒魔法リザレクションを使うと、少ししてからゆっくりとディーナが目を覚ました。

さすがは『完全』治癒魔法。効き目はいい。

ちなみに、回復魔法と治癒魔法ってあるけれど、違いは一目瞭然。
回復魔法は誰にでも使えるけれど、治癒魔法は『聖』属性の魔力がないと使えない。使おうとすると、長い詠唱と、余計な魔力の消費量、あとは決まった魔法具の補助がいる。適性がある事でそういった事をスキップできるのだから。

他にも聖光魔法ホーリーとか、浄化魔法ピュリファイケーションとかも『聖』属性の魔力がないとかなり難しい。基本的に上位魔法になる。効果は推して知るべし。


「コズエ・・・?」

「よかった、ディーナ。痛いところない?」

「ああ、大丈夫だ。すまないな、心配させて」


ぎゅ、っと抱きつく。ディーナは私に手を回し、頭をポムポム撫でてくれる。
あったかい、よかった生きてて。治せてよかった。

キャズやケリー達も無事なようだ。
私がディーナに甘えていると、キャズもこちらに来てギュッとハグしてくれる。しかし私の頭を小突いてきた。


「まったくもう!さっきは驚いたわよ!どついてくるから!」

「その節はすみませんでした」

「なんだ?何かあったのか?」
「私に向かって突っ込んできたのよ、この子。止まれなかったんですって」


ああなるほど、と笑うディーナ。仕方ないじゃない!あれだけ加速してたら止まろうとしたけどバランス崩して転んじゃったのよ!
しかもキャズを目標にして走ってたからそのまま突撃しちゃったのよね。ディーナに向けて転ばなくてよかった。トドメの一撃加えてたかもしれない。

ようやくホッとして笑っていると、団長さん達が到着。
カイナス副官が側に行って報告を聞く間、周りを見て状況を確認しているようだった。
それを見たキャズが一言。


「あの団長さんさ、ドロシーの好みにストライクよね」

「へっ?」
「・・・確かに、年齢も好きな部類だろうな」


確かに。団長さんて40前後だっけ?そしたらドロシーの好みにストライクだわね。私もいい男だなぁと思っているもん。

とはいえアナスタシアさんの旦那様だし、オススメするのは気が引ける。ここは口を挟まないようにしとこ。

しかし団長さんはズンズン、と歩いて私には近寄り、頭をポンポンと撫でてずいっと顔を近付けてきた。


「よくやったな、お嬢。でもそれとこれとは別だ。わかってんな?」

「う、はい」

「お嬢はシオンとゆっくり戻って来い。そっちのお嬢の友達か?君達は他の騎士達と一緒に戻れ。いいな?」

「了解です」
「はい、了解です」


はい、帰りながらカイナス副官に怒られる、という事が確定致しました。こってり絞られるのかなぁ、トホホ。

知り合いだったのねご愁傷様、とキャズとディーナは先に出発。マンティコアを処理する騎士が数人残り、それ以外は団長さんを先頭に戻っていった。

座り込んだまま二人を見送ると、隣に誰かが立つ気配を感じ取った。見上げると、私を見るカイナス副官と目が合う。


「さて、お嬢さん?素直に話してもらいますよ」

「や、優しくしてください♡」

「それは君次第かな?」


にっこり笑うけど、目が笑っていません…
あああ、みんなステューの氷のような笑顔ってできるんですね…


「それにしても。結界魔法バリアといい、身体強化魔法ブーストといい・・・ありがとうございましたお嬢さん。あなたがいなかったら、全滅していたかもしれない」

「間に合ってよかったです。無理して走った甲斐が・・・あれ?」


立ち上がろうとしても、足に力が入らない。
痺れた、とは違うけれど、力を入れようとしても抜けてしまう感じ。手や足先には少しだけ痺れを感じていた。


「どうしました?立てない?」

「あ、はい・・・」

「どれ。・・・手が痺れたり、足先が痺れたりはしていますか?」

「少しだけ・・・」


カイナス副官はしゃがみこみ、私の手を取った。
指先を温めるようにして私の手を包む。


「魔力切れですね。あれだけ大きな魔法を使えば無理もない」

「魔力切れ、ですか」

「気持ちが悪いとか、目が回るということはないですか?」

「それは大丈夫です」

「なら、一時的なものでしょう。数日に渡る時もあるから、無理はしないようにね。足に力が入らないのもそれだと思う」


腰が抜けた、ともなんか違うしね。感覚がない、って感じ。でも手の指先や足先はピリピリする。
これはどのくらいつづくんだろう?周りの騎士さん達もそれぞれカイナス副官に報告を済ませると帰っていくみたいだ。


「さて、じゃあ俺達も行きましょうか」

「行くってあの、きゃっ!」

「暴れないでくださいね?」


ひょい、と私をお姫様抱っこ。軽々と持ち上げて歩き出した。カイナス副官、もしかして私をこのまま抱いて連れ帰るの!?


「あ、あの、カイナスさん」

「落としませんから大丈夫。怖かったら首に手を回して抱きついていてくれてもいいですよ」

「っ、」


至近距離で『ん?』と余裕の微笑み。さ、さすがに恥ずかしい!私はこの至近距離でカイナスさんを見ている余裕なく、片手を首に、もう片方の手を肩に回して抱きつくように顔を背けた。

くすくすくす、と笑う声が耳元に届く。悔しいけど、大人の男性の余裕には耐えられない、心臓爆発しそう…

私を抱える腕は力強く、肩も、首も、細く見えてもがっしりとしていて『大人の男性』だった。仄かに香るコロンのような匂いもいい匂いでドキドキする。


「さて、お嬢さん?あの回復魔法はどうやって使いました?あれは『聖』属性の魔力がないと使えないはずですよね」

「・・・私にもあるんですよ、『聖』属性の魔力。ゼクスさんの所にお世話になる時に教えてもらいました。貴重なんですってね」

「なるほど。それはどこまでの人がご存知なんです」

「国王陛下と、タロットワークの息がかかっている人でしょうか。学園の教師達も知っているはずです。入学時に話はしましたから」

「神殿には?」

「恐らく、ゼクスさんが口止めしていると思います」

「そうですか、では俺も口を噤んだ方がいいですね。他の騎士は見ていなかったようですし、これは秘密にしましょう」

「ありがとうございます」


ゆっくり森の中を歩きながら、話をする。トクトクトク、と私の鼓動も少し早いけど、ゆっくりと音を立てている。
くっついているから暖かくて眠くなりそうだ。カイナス副官の声は、とても耳に心地いいし。


「『本』についてですが」

「それはフレンさんに聞いてください」

「───俺は信用できませんか?」


ゆっくり身を起こし、カイナスさんを見る。
彼も歩きながら、私と目を合わせる。

真剣な色をした、アイスブルーの瞳。少し冷たい色合いだけど、いつもそこにあるのは優しい色。けれど今は硬質な真剣味を帯びた瞳。
光の加減で金にも見える薄茶色の髪が、風になびいて視界を揺らす。


「信用していない訳じゃないですよ?現にこうして私の身の安全はカイナスさんにかかっている訳ですし。信用出来なければ腕に大人しく抱かれてたりしませんよ」

「信用はしてくれているんだね、嬉しいな」

「でも、それとこれとは別です。『本』の事は許可がなければ言っちゃいけないことだと思いますし。聞きたければ内容はアナスタシアさんに聞くといいですよ」

「タロットワークの始祖の日記、という事は聞き及んでいます。問題はそれをお嬢さんが読んでどうしようというのかという事です」

「どうしようというか・・・知りたい、ってだけですよ?」


うん、嘘は言ってない。私は知りたいのだ。ここへ来た異世界人の事を。マデインの伴侶となった異世界人がどうなったのかを。

できればその人の事が、この先の日記に書いてあるといいのだが。

カイナス副官は私の顔を覗き込むように、おでこをコツンとぶつけるようにして固定する。
き、キスしちゃいそうな距離…!吐息がかかる。
身動ぎしようと思っても、私の体にがっちり固定されている腕が離してくれない。


「カイナス、さん」

「嘘を言っているようには見えない、けれど本当の事を言っているようにも聞こえない。困った子だ、君は」

「あの、ちか」

「───参ったな、こんな年若い子供にここまで心を揺さぶられるなんてね」

「え?」


掠めるような口付け。触れたか触れないかわからない程度。ほんの少しだけの感触に、キスだったのかそうでないのかわからない。

ふっと顔を離して、その後はお互い口を開くことなく帰りついた。
抱き上げられたまま帰還した私を見て、キャズ達はからかうような顔をしたけれど、下ろしてもらった私がよろけるのを見て、それどころじゃないと察したようだ。


「コズエ、大丈夫?」

「まだ足が産まれたての小鹿みたいになってる」

「上手いこと言ってるんじゃないわよちょっと」

「すまないが、彼女を支えてあげてもらえないか?魔力切れで上手く歩けないようなんだ。座らせて少し休ませてあげてほしい」

「あっ、はい!」


キャズが走って簡易椅子を運び出す。
まだカイナス副官に支えられて立つ私は、彼を見上げる。


「ありがとうございました、えっと、あの」

「・・・どういたしまして。さっきの続きは君が話してもいいと思った時に、続きをしよう」

「続き、って」

「俺も、ちょっと覚悟しないとね」


耳元にそっと囁く言葉。その言葉にどくん、と心臓が飛び跳ねる。


「───君に惹かれるのを抑えきれなくなりそうだ」

「っ、」


サッと離れた顔は『カイナス副官』のもので。さっきまでの言葉を言うような人には全く見えない。
こ、これだから女性経験豊富な大人の男ってやつはよう!!!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。 「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」 周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。 アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。 ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。 その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。 そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...