異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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異変の始まり

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「うん、で、キノコが美味しいのはわかった。
でもなんでそれが『魔物大発生オーバーフロウ』の兆候とかって話になるの?
あれって、一定の魔物を狩り尽くしたら危ないよ、的な話でしょ?それとも迷宮主ダンジョンボスが倒せないのが問題?それって数ヶ月で困った事になるの?」

「さすがに数ヶ月単位で迷宮ダンジョン内の魔物レベルが上がりすぎる事はないわ。あの話は年単位の話なのよ。
でもね、魔物がの」

「階層を・・・越える?」



キャズの話では、多岐型迷路ルーレットメイズは、10階層毎に階層主フロアボスがいる。
それを越えると、階層内の環境が変わるそうだ。

入口から9階層までは、古い神殿内のような迷路。
10階層は、階層主フロアボスの部屋。
11階層から19階層までは、洞窟のような形状。
20階層はまたボス部屋。21階層から29階層は草原、30階層はボス部屋、31階層から39階層までが森。

その森のある、30台の階層で『トリュタケ』が取れる。



「入ったら変わる、っていうのは道順てこと?」

「そう、下の階層へ行くまでの道順がランダムで変化するみたい。環境は今言った通り変わらないし、階層主フロアボスの種類も変わらないわ。
ただし、その森の階層なんだけど・・・31から34、35から39って少し魔物の出る種類が違うのね。それはどの階層も一緒なの。下に行くにつれて、少しずつ強い魔物が出現するようになってる」

「棲み分けでもできてるのかしらね」

「そうかもしれないわ。・・・ただ、38と39階層でしか見られなかった『悪魔茸デビルマタンゴ』が36階層で出現したっていう報告が上がってきてる」



で、『悪魔茸デビルマタンゴ』…。
私の脳内には某国民的RPGのマタンゴさんが踊り狂っている。ラリホーとかメダパニ打ってくるのかしら、それは厄介だわ。

しかしそんな可愛いものではないらしい。
悪魔茸デビルマタンゴ』は他の生物に寄生する胞子を飛ばし、操るのだとか。………主に死体を。



「待ってよ、そんな死霊術師ネクロマンサーみたいなものがいていいわけ?」

「ネクロ・・・何?」

「だから、生ける屍リビングデッドみたいなものをぽこぽこ量産するような魔物、反則でしょうが!」

「ちょっとよく分からないけど、言いたいことはわかるわ。確かに死鬼グール化されると、こっちも手こずるのよ。火で焼き尽くすか、神聖魔法で浄化するしか方法がない。
冒険者だって、全てのパーティに神聖魔法使える僧侶職プリーストがいるわけじゃないからね。
最近、多岐型迷路ルーレットメイズに入るパーティは聖水が必需品よ。かなり神殿にも融通効かせてもらってる」

「理由、言ってるの?」

「言えるわけないわ、キノコ採る為に聖水の納品増やせ、だなんて。でも献金してなんとか出してもらってる。
ここだけの話、ギルマスは魔術研究所にも回復薬の増品言ってきてるでしょ?それもキノコ採りが理由なのよ」

「美味しいキノコ・・・皮肉ね」

「その『悪魔茸デビルマタンゴ』は希少魔物レアモンスターなの。そいつからドロップする『毒胞子』って状態異常の回復薬の材料になるのよ」

「・・・なんか神殿が食いつきそう」

「当たり。・・・それの為に聖水多めに出してるわ。それが分かった途端よ、3倍の量を出してきた。
『毒胞子』が手に入ったって、その状態異常回復薬を作れる人がいるのかどうか知らないけど。・・・あんた作れそうね」

「あ、今なら超級エクスポーションが5本あるんですけどキャズいる?」

「ばっ!!!バカ!何作ってんのよ!」

「できちゃったんだよねえ」

「もういや、ここにも頭痛の種がいる」

「もうなんだから一蓮托生よね、キャズちゃん」

「返すわ、この指輪。要らない」

「返品は不可だって言ったでしょ?」



首に掛けていたネックレスチェーンから指輪を外し、私の手にぐい、と押し付けてきた指輪。
が、私は無理やりキャズの親指にねじ込んだ。本人は一生懸命取ろうとしているが外れない。



「何で取れないのよこれ!」

「私じゃないと外れない仕組みなのよね」

「呪いのアイテムじゃない!取ってよ!目立つじゃない!」



はいはい、と思って外す。キャズは渋々首に下げていたチェーンに指輪を通して付ける。いつもそうして身につけてくれてるのよね、キャズ。ちょっと嬉しい。



「とはいえ。状態異常回復薬かあ。キャズその『毒胞子』持ってないの?」

「え?欲しいの?」

「いや、作れるかな?って。もし作れたらストックあったら安心かなと。キャズ要らない?」

「・・・わかった、手配するわ。他の人が作るものだと怖いけど、あんたのならお墨付きだもの。何かの時のためにあったら備えになるわ。
今度、仲良くしてるパーティが探索に行く時に頼んでみるわね。・・・あんまり期待しないでよ」

「うん、手に入ったらでいいわ。代わりに持ってく?超級エクスポーション。私が持ってても使い道ないし。
もし使っちゃっても責めないわよ?どこから手に入れたって言われたら私からと言えば、それ以上何も言わないわよ」

「さすがにタロットワークに対して『納品しろ』なんて言えないわよ。通常の回復薬じゃあるまいし。・・・ゴメンね」

「何言ってるの、キャズ、自分が危ない時にも遠慮なく使うのよ?薬なんてそのためのものなんだから」



私はマジックバッグから3本取り出して渡した。とりあえずそれだけあればいいだろう。
キャズも、腰につけたウエストバッグにしまい込む。なんでもお金を貯めて買った貴重品のマジックバッグなんだとか。



「・・・で、なんだったかしら。話を戻すと、基本的に迷宮ダンジョンって、階層毎に出現する魔物って決まってるのよ。
だから、に出現するなんてないなの」

「でも、『悪魔茸デビルマタンゴ』は移動してる」

「そうなのよ。それが偶然なのか、それとも元からその階層にもいて、これまで発見されなかっただけなのか・・・判断するにはまだ材料が足りなさ過ぎて。
調査チームが入っても、交戦するとは限らないし。とはいえ全てのパーティがきちんと全て出現した魔物を報告してくれるわけじゃないの」

「義務化すればいいんじゃないの?こんな時だし。キノコ目当てにたくさん入ってるのよね?迷宮ダンジョンに入るにも、ギルドの許可ないと無理なんでしょ?」

「・・・そうね、多少強引だけど報告義務を付けるべきだわ。早速戻ったら、ギルマスに奏上して始める。
なんだかんだ言っても、ギルマスも『悪魔茸デビルマタンゴ』の事には注意してるから」

「ありがとうキャズ、かなり情報くれたわね」

「いいのよ、ギルドだけじゃ対応できなくなるのなんて目に見えてるわ。エンジュ様、貴方がいるのなら魔術研究所へ全幅の信頼を置くことができる。少なくとも私はそう信じられる」

「キャズ・・・」



キャズの最後の言葉は、友人としてではなく『主』に対するもののようにも聞こえた。彼女の気持ちにも答えてあげたい。もう『王位継承者』ではないけれど、私は彼女への友情に答えたいから。

キャズを連れて再度、ゼクスさんの研究室へ。
まだゼクスさんはギルドマスターさんと話をしていたが、私がキャズを連れてくると2人揃って帰って行った。

私はゼクスさんへ、キャズから聞いたことを報告。
キノコのくだりは、ギルマスさんもゼクスさんへ言っていなかった事のようで、ちょっと頭を抱えていた。



「キノコ・・・のう・・・?」

「キノコ・・・だそうです」

「確かに美味いからのう、バター醤油」

「そこですかねえ」

「いやいや、エンジュが来てから儂も食生活がグンと変わったからようわかる。確かに手軽に美味いものが手に入るとしたら、それに引きずられるのは予想できるでの。
過去にこうして嗜好品の為にバランスを崩す事がなかったとは言わんが、その『悪魔茸デビルマタンゴ』じゃったか?それは放置しておくのは怖いのう」

「死体を操る、ですか?」

「魔物ならまだええ。じゃが何らかの事態に陥り、命を落としたが被害にあってみい。・・・かつての仲間に手を下せるか?」

「えっ・・・」

「そのもなくはない。迷宮ダンジョンとはいえ、死んだら終わりじゃ。これまでは魔物の餌になるくらいであろうが、生ける屍リビングデッドなんぞになっていたら浮かばれまいよ。
その場合は本格的に神殿の僧兵か神官を呼ぶしかあるまい。冒険者の中にも浄化魔法ピュリファイケーションを使える者はいるかもしれんが、数は多くはなかろうて」



うわ……さすがに人間がそうなるとは思ってなかったけど、よく考えたらバイオハザード状態になってもおかしくないってことか。

うわうわ、噛まれたら感染とかするの!?
もしかしてさっきの話に出た状態異常回復薬って、それに必要だったりする?聖水でも効果あるのかしら…?

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