異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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冒険者ギルド編~多岐型迷路~

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「ふぁっ!」

「・・・どうしたんですか、エンジュ様。カエルでも踏んだような声出して」

「背中が今ぞくっとした」

「風邪ですか?何か温かいもの入れましょうか」

「ううん、大丈夫。気の所為よ。帰ったらお風呂に長めにつかることにするわ」

「それがいいですね、僕もシャワー浴びよう今日は」



『今日は』という単語に怖いものがあるんですけど。毎日入りなさいよ、頼むから。清潔魔法クリーンがあるとはいえ、それとこれとは違うと思う。

『獅子王』とシオンが多岐型迷路ルーレットメイズへ入って数日。どれくらい探索は進んでいるんだろうか。
頭の中はすっかりRPGモード。どんな内部なんだろうな。ちょっと興味あるなー見てみたいなー。キャズ、ギルドの仕事とかで調査に入る時に私を外部協力調査員とかにしてくれないかしら?

脳内想像では、もはやタ〇タロスで再生されている。
仕方ないでしょ、好きなんだものペル〇ナシリーズ。全部制覇したわよ、特にPS3以降は何周も周回してしまうほど。

階層主フロアボス前に休憩部屋セーブポイント転移方陣ポータル、と思ったのだってあのゲーム想像したからだもの。
まさか長期滞在したら『刈り取るもの』とか出てこないわよね?あの鎖を引きずる音がしたら即階段に離脱!とか必死でコントローラ操作していたあの頃が懐かしい。
睡眠時間?そんなもの画面の前では不要ッ!とばかりに徹夜寸前までやっておりました、若いって素晴らしい。

悪魔茸デビルマタンゴ希少魔物レアモンスター。おいそれと出てこないのだろう。…『宝物の手』みたいのものかしら。あれも見つけたら速攻逃げていくから追いかける間にシャドウに邪魔されて逃げられるなんてよくあったなあ。



「・・・エンジュ様、またそれキャンディ化してますよ」

「あああああ嘘でしょ、また!?」



カラカラカラ、と手元のマドラーが音を立てる。

実は、ポーションを制作中にするとできてしまう。最初にこれができてしまった時も偶然だった。

その時は『『歩いてMP回復』というスキルがあるのであれば、探索とか楽になるよなあ、ポーションとかを飴にしたら歩きながら回復できない?飲み込めない、とかって時も使えそう。やだ私頭いい、天才?』

なんて考えついた事からだった。

それからポーションを攪拌している時に、飴ってどうやって作るんだっけ?固めるのよね?水飴入れるとか?いやそれ最初から飴だし。そもそも水飴作らないとだし。あれ、べっこうあめ、って小学生の頃に理科の実験でやらなかったっけ?あれトースターでチンしてたわよね?材料なんだっけ、お砂糖?

と、延々と考えつつ、脳内では金太郎飴を切る映像が流れていた。テレビでは飴を伸ばしたり切ったりするのは見たことあっても、そこまでどうやるのかまでは見たことないわ。

飴の製造工場見学なんてした事ないし、あー、これは詰んだな?と思った途端だ。
手元がカラカラカラ、と硬質な物を掻き混ぜる音に変わった。驚いて見てみれば、作っていたポーションがしていた。



「・・・うっそだあ、何よこれ」



作っていたはずの薄水色のポーションが、キャンディとなっていた。あのねこの世界の神様、私にそんな生産職のスキル授けてなくていいのよ?何ができちゃうか怖くて仕方ないわ、私。

ひとつ取って舐めてみれば、それは私の作るポーションの味。
こちらへ再召喚されてから、私の作るポーションの味にも変化があった。今はポカリスエットみたいな味がする。前はオロCだったのにね?

高級ハイポーションも同じポカリスエット味。
超級エクスポーションは色から想像した通り、ジンジャーエール。辛口です。

できてしまったポーションキャンディ。もちろん実験として研究室の4人にも試食してもらった。
しかし、それほど体力を消費している訳でもないので、本当に回復効果があるのかまではわからなかった。

それならば!と魔力回復薬マナポーションを作成。飴になれ~飴になれ~と念じていたら変化しました。



「あ~、こっちはなんかじわじわきますね」
「疲れ取れそう」
「酸っぱいけどうまいっす」
「これいいですね、新商品として売れそうです」

「・・・なぜアセロラドリンク味?」



赤いから何味だ?と思ってたら懐かしのアセロラドリンク。ポーションキャンディより少し小ぶり。なんか意味あるのかしらね。

今回ちょうどよかったから、『獅子王』とシオンに実験台…ゲフンゲフン、お試しとして預けてみた。
ちゃんと効果あるといいんだけどね。



********************



「あの~、エンジュ様~」

「ん?どうしたのキリ君」

「すんません、師匠にお客様なんすけど、師匠ちょっと他の塔に会議に行ってるんすよ。でもお客様が『待つ』って言ってんすけど、さすがに師匠の部屋に居させるのってどうかと思って」

「今はどうしてるの?」

「研究室にいるんですけど、ちょっと威圧感凄くて。エンジュ様、ちょっとその人預かってくれませんか」

「えっ・・・知らない人?」

「いや、アナスタシア様の旦那さんっす」

「フレンさん?」



キリ君について行けば、そこには疲れた顔のフレンさんがいた。確かにピリピリした空気が隠せていない。珍しいな、あんなフレンさん見たことないわ。

私が入ってきた事に気付き、少し目を細めた。
こちらへ近づいてきたので、私はキリ君に『戻っていいよ』と声を掛ける。



「お久しぶりです、エンジュ様」

「こんにちは、クレメンス様。申し訳ないのだけど、私の部屋に来てくださる?」

「・・・よろしいのですか」

「お茶くらいは出して差し上げるわ。皆、ゼクスレンが戻ったら私の部屋にと伝えて」

「はい」
「分かりました」



フレンさんを伴い、部屋へ戻る。
ソファを勧め、お茶を出した。今日はひんやりアイスティー。



「すみません、気を使わせましたね」

「そんなにピリピリしてどうかしたの?」

「・・・申し訳ない」



初めて見る、神妙な団長
さん。
うーん、ここはなんとかネタばらしして、ゲロってもらう方がいいのかな。どうしようかなあと思いながらじっと見ていると、ものすごく疲れているのがわかる。
…どこかに行ってきた、のかしら?アナスタシアも遠征に出ているし、という事は団長さんもなのかしら?

私は戸棚からひとつ瓶を取ってくる。
彼の目の前に、コトン、と置いた。
それはが入った小瓶。



「・・・何を、させるおつもりか」

「覚えていますか、フリードリヒ・クレメンス。
以前、近衛騎士団詰所で、タロットワークの始祖の日記について話をしましたね」

「何を・・・」

姿になった私は、どう見えますか?」

「おい・・・ちょっと待て・・・まさか」

「ねえフレンさん?アナスタシア、元気になったと思わない?」

「っ!!!嘘だろ!!!か!?」

「再び召還されちゃったわ、アナスタシアにね。戻るつもりはなかったから、何も残さなかったのに」



ぱくぱくぱく、と口を開いては閉じ、を繰り返す。
そうよね、何言っていいかって話よね。



「帰ってきたなら帰ってきたと!」

「言った所でどうなるの?『コーネリア』はもういないのよ。私が同一人物に?」

「うわ、俺はお嬢にカッコつけて口説いたのか」

「あんなに気取ったフレンさん初めて見たから驚いちゃった」

「・・・アナスタシアがいなきゃとっくに口説いてるぞ、お嬢?いや、もう『お嬢』とは呼べんな。エンジュ様、か」

「エンジュ、で構わないわよ?私も『フレン』と呼んでもいいかしら?それともアナスタシアのように『フリードリヒ』と呼ぶべきかしら」

「好きに呼んで構わない。・・・お帰り、エンジュ」

「ふふ、やっぱりフレンの声いいわね、好きなの」

「俺の声で良きゃ、好きなだけ聞かせてやるよ。
・・・あ~、緊張して損したな。シオンには伝えたのか」

「伝えないわ」

「何故」

「『コーネリア』がいなくなって2年経っているんですってね。なら、貴方達の時間もそれだけ経ったのでしょう?
新しい関係を作った人もいるはずだわ。それを壊すのは気が引ける」

「まだ、あいつは、シオンは忘れられてない」

「でもそれは『コーネリア』であって、『エンジュ』ではないでしょう?は違う。そう思わない?」

「・・・確かに、見た目は全く別人だが」



あ、やっぱり見る人が見れば違うんだな。

とはいえ、私自身も鏡を見て似てる部分を探しても、ほんの少ししかない。これを同一人物とわかるには決め手がいるだろう。

団長さんを見ると、先程よりは雰囲気が和らいだ。
さて、もう少し聞き出さないといけないかな。
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