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冒険者ギルド編 ~昇級試験~
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しおりを挟むセクハラ攻撃に屈した私。
仕方ないわよ!こんな所で躊躇なくお触りしてくる人には負ける!いい男だから悲鳴まではいかないけど!
私の髪の毛に指を絡め、くるくると引っ掛けながら『獅子王』は私に話しかける。時折腰に腕を回して、ぐっと引き上げるように座り直させるのを忘れない。
「えーと・・・武器の習熟度はね・・・」
「そんなもんが見えたのか?確かに槍はあんま使わねえな、主に剣だからな」
「見ようと思えば他にも見えるかもしれないけど・・・でもこれどうなってるのかしらね?誰が作ったのか知ってる?」
「さあな?かなり昔のギルド創設者って話だが」
「それじゃあ聞いてみる訳にもいかないわね」
さてさて、そろそろ膝の上から降りようかな、と思っても腰に腕が回っているので動けず。
仕方ないので『獅子王』を見上げて視線を合わせる。
「そろそろ降りたいのだけど」
「まだいいだろ?」
「まだ何か用がある?」
「こうしてイチャイチャしてんのがいいんだよ」
「あのねえ、貴方なら相手に困ってないでしょ?」
「誰でもいい訳じゃねえだろ?こういうのはよ。
自分で言うのもなんだが、俺はかなりあんたと相性がいいと思ってるんだがな?」
「相性、ねえ?」
「こっちの勘はよく当たるんだぜ」
避ける間もなく、顎をちょいと上げられて唇にチュ、とキスが振る。厚みのある唇が程よい強さで軽く吸い付く感触。
「ん」
「肌の相性も良さそうだ。・・・本当に今夜、どうだ?」
「私はあんまりいい女じゃないのよ?」
「あんたの言う『いい女』が何を基準にしてんのか知らねえが、俺は女に関しては自分の目利き以上の事には拘らねえよ」
「その目利き、って何が基準なの」
「そうだな、泣いて縋らねえとかか?『捨てないで』とかよ」
「モテる男の台詞ね」
「ちっと違えな。・・・どっちかってえと、俺は『最低の男』だと思うぜ?何せ抱いた女に責任を取ることはねえからな」
「ん?」
『獅子王』はニヤッと不敵に笑う。
そうして半ば自嘲的に話し始めた。
「俺はな、冒険者である事をやめらんねえ。剣を奮う事、危険に飛び込む事、冒険者である事を楽しみに生きてる。
だから『置いていかないで』って言われても困る。俺は女に縛られて剣を置くつもりはさらさらねえからだ。
でもよ?女はそれじゃ困るだろ?家庭を持って、愛する男の子が欲しいもんだろ?『貴方の子供を産みたい』って言ってくる女もいたな」
「どうしたの?」
「産みたきゃ産めって言ったさ。俺は責任を取る気はねえが、勝手に子供を産んで育てたいなら『種』の協力はしてやるぞってな」
「うわあ、凄いセリフね、ちょっと」
「仕方ねえだろ?女と剣、どっちを取るかと聞かれたら、俺は迷わず剣を取る。俺にとって女ってのはひと時の休憩場所に過ぎねえんだ。・・・若い頃はそうでも、そのうちそう思わなくなるって昔の仲間にゃ言われたが、俺は今でも変わらねえ。
だからよ、女にとっちゃ俺は『最低な男』だと思うぜ」
「的確な判断ね」
「でもよ、こんな稼業だ。いい女に会ったら未練がねえように抱いておかねえといつおっ死んでも困るだろ?『あん時あいつに手を出しときゃ良かった』なんて死ぬ間際にそれじゃ浮かばれねえ」
「いつか死ぬ前提なのね」
「そりゃそうだ、俺が今生きてんのも賭けに勝ったからみたいなもんさ。冒険者として生きるってのはそういう事だと俺は思ってる。でもな俺はこの稼業が性に合ってる。・・・だから辞めるつもりは今んとこねえし、この先もそうだろうと思ってる」
驚くほど潔い。 最初は何言ってんだこの人、と思っていたけど、よくよく聞いていればきちんと本人の中では道理の通った考えになっているみたい。
だから気になる女は見逃さない、って事になるのか?
「・・・『1度抱いた女には手を出さない』っていうのは」
「別にんな事はねえんだがな?でも2度、3度と肌を重ねると女はどうしたって相手に情が湧く生きもんだ。男は違うけどな。情は湧いても自分の生き方は変えらんねえ。特に俺はな」
「言いたいことは、まあ、わかったわ」
「あんたを誘ってんのは、そういうところ、俺に似てるような気がするからだ。後腐れない相手、ってのをよ」
「・・・どうして?」
「それはわかんねえな、なんとなくそう思っただけだ。
無理にとは言わねえさ、こういうのはお互い合意の元じゃねえと楽しくねえ」
言い当てられた、のは驚いた。
確かに、後腐れのない相手、の方が私にとっては都合がいい。
そういう事ならば、彼は最高の相手かもしれない。
こちらで生きていくつもりだが、いざとなればあの魔法陣を起動させて戻る奥の手もある。
今の私の希望としては、女として男が欲しい気持ちの時に、彼が相手してくれる…となると…。
彼のポリシーだと、何度も同じ女とは致さない、という事だから1回こっきりってことにも。
「・・・黙ったな?」
「アルマ?」
「なんだ」
「キス、して?」
「・・・お安い御用だ」
きょとん、とした顔が色っぽく獰猛な色をした目に変わる。
知ってる、男が雄に変わる色の目。
重なった唇が角度を変えて、ゆっくり深い口付けをする。
軽く舌を絡ませただけで、また唇を離す。
「・・・っふ」
「やっぱり、相性良さそうだな」
「今夜だけ、ね」
「毎晩くれ、と言われても構わんぜ?」
「それは・・・言ってる事違わない?」
「確かにな」
ククッ、と笑う『獅子王』。
夕方また迎えに来てやるよ、と言い残して先に出ていった。
うーん、早まった。かな?
でもいつまでもシオンの事を気にしていられないし。
…まあ、1度きりなら、いいわよね?
キャズからは数日前に、『獅子王』のことについて聞いてみたのだが…
『キャズさあ、どうなのよ。『獅子王』様についてさあ』
『ああ…あの人ね…』
『えっ…?何、その数日前と違う反応…?』
『冒険者としては尊敬するし、恩人ではあるけど。私、あの人を追い掛けるの辞めるわ』
『何があったのよ』
『…抱かれたの、あの人に』
『うええええ!?』
『その後なんて言ったと思う?他の男にも抱かれていい女になれよ、ですって!乙女の純潔奪っといてそれ!?他に言うことあるでしょうがよ!』
『お、落ち着いてくださいキャズさん』
『なんで私あの人いいと思ったのかしら?きっと頭が腐ってたのね、今はとっても晴れやかな気持ちよ。もっといい男探さないとね。でもその前に今はギルマスを追い落とさないと』
『キャズさん?キャラ変わってない?』
『そうかしら?あ、あの人あんたに興味あるみたいだから、口説いてくると思うわよ?そうしたら好きにしていいからね?もう興味無いから、ホントに』
『いや…勧められても…?』
『でも、今のあんたには副団長さんよりいいんじゃない?自分が『コーネリア』だって事は言わないんでしょ?『獅子王』ならまたそのうちどこかのギルドへ流れるだろうから、後腐れもないだろうし。無理にとは言わないけどね』
と、まあキャズの初恋は終わったようだ。
なぜ私にも勧めるほどやさぐれたのかと言うと、予想以上に『獅子王』が女に手が早く、ここのギルドへ来てから何人も食われているのを見ていたからなそうな…
しかし夕方に迎えに来る、って…部屋の準備でもしてくれるのかしら?って、何をするのやら…?
まあいいか、と私は仕事を再開した。
お茶を入れ、書類を読んでいるうちに没頭していたようで、気付けばオリアナがお茶を入れ直してくれていた。
「・・・ん?オリアナ?」
「もう日も暮れて参りました。・・・あの方とお約束をしていたのではないですか?」
「約束?・・・あ。」
「外門でお待ちですよ」
「オリアナ?会ったの?」
「はい。・・・邸にはお帰りにならないと連絡致しますのでこのままどうぞ。私は近くまでは潜んで参りますが、朝にお迎えに参ります」
ああそうか、『獅子王』の部屋に行くんだったな。
ついでに、この事も少し聞いてみようか。
ピロートークとして相応しいかどうかは疑問だけど。
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