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冒険者ギルド編 ~昇級試験~
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しおりを挟む何かお詫びを、という『獅子王』。
うーん、特に何もない…
「何か欲しい素材とかは?」
「ないわね」
「この間の『毒胞子』は?足りてんのか」
「ああ、あれね。意外と足りてるわ。研究室の子が培養してくれたりして」
「培養できるもんなのか」
「私もどうかな?と思ったんだけどね。効能は少し落ちるけれど、増やす事は可能みたいね。いざとなったら取りに行ってもらうわ」
「誰にだ?」
「私の護衛に。冒険者証あるみたいだから」
そう、オリアナだ。
彼女は単独で『悪魔茸』を狩りに行ける。どうやら数名『影』を連れて、現在修行と称して多岐型迷路へ入っている。
なので定期的に2~3袋持って帰ってきてくれている。
…やはりオリアナ曰く悪魔茸は38階層より上にもいるらしい。36階層で交戦したと言っていた。
「あんたの護衛は有能だな」
「A級冒険者ですって。オリアナ・ノールズと言うのだけど、聞いたことある?」
「・・・マジかよ、『碧の死蝶』か?」
「えっなにそのカッコイイ名前」
ギルドの高位ランクの冒険者には、2つ名が付く。
『獅子王』アルマ・レオニード、もそうだ。他にも数名いるようだが、その中でもオリアナは『碧の死蝶』と呼ばれているそうだ。
A級冒険者の中でも、単独で動くクエストを得意としている冒険者。その容姿から『碧』、戦い方から『死蝶』と。
オリアナの髪と瞳は同じ碧色をしている。
「かっこいいわねーそのうちキャズにも付かないかしら。『鬼の受付』とか?」
「そりゃ2つ名でもなんでもねえだろ。今はC級だったか?腕を見るとそのうちBに上がりそうだがな」
「見た事あるの?」
「ギルドの登録に来たやつの腕を見たり、昇級試験の試験官もしてるみたいだぜ?この間試験官をしていたのを見た」
「そうなのね、見てみたいわ」
「あんなもん見てもつまんねえぞ?タルいしな、あー面倒くせえ」
「え?もしかして昇級試験があるの?」
「確か、1週間くらい先か?今回はA~C級の奴があるぜ。
本来ならA級冒険者の昇級試験は、ギルド本部でやるんだがよ。今はこっちに俺がいるからな、グラストンに頼まれた」
あらあらあら?という事は、彼の戦いっぷりが見られるのでは?これは観戦せねばいかんのでは?
「ねえ、さっきのお詫びだけど。お願いしたい事が見つかったわ?聞いてもらえる?」
「・・・まあだいたい見当は付くがな」
「その昇級試験、見せてくれない?」
「・・・ん~、できねえ事も、ねえがよ」
ギルド以外の人は見学禁止なのかしら?
でもゴリ押したらOKしそう。うーん、ここは推すべし!と私の灰色の脳細胞が叫んでいる!
私は席を立って机を回り込む。
ソファにどっかりと寄りかかり、背もたれに両腕を乗せている『獅子王』の膝に横向きに乗っかってみた。
いつかのフレンさんを彷彿とさせる。うむ、いい座り心地です。
「ねえ、アルマ?お願い?」
「・・・こりゃ叶えねえ訳にはいかねえな?」
「この間から気になってたのよね、貴方が戦ってるところが見たいなって」
「ん?俺のか?」
片腕を背もたれから下ろし、私の腰に回る。
もう片方は膝を撫でる。…気分はすっかりパパの膝の上で高級バッグを強請るキャバクラ嬢です。『ねえパパ、ケ○ーバッグが欲しいのぉ』なんてね!
「副長さんの戦う所は前に見たことがあるけど、『獅子王』のはないもの」
「名前で呼んでくれねえのか?」
「割と『獅子王』って気に入ってるんだけど?」
「あんたの声で『アルマ』って呼ばれるのは気分がいい」
自然に頭にチュ、とキスが降りる。
こういうのが自然に出てくるところが怖くない?手馴れてる様子よね。あれかしら、酒場で踊り子さんとかこうやってお膝の上でニャンニャンさせちゃうのかしら。
撫でる手も武骨だが優しくて気持ちがいい。
シオンもこうだっけなあ?やっぱり場数踏んでる男は違うわよね。甘えさせてもらってるのは気持ちいい。
「なら、名前を呼ぶ代わりに冒険者証は返すわ?これで対等よ」
「・・・わかった、それでいいぜ」
私は腰に付けている小さなポーチから彼の冒険者証を取り出した。ウエストポーチほど大きくはなくて、ポケベルを閉まっとくような小さいもの。
こんな小さくてもマジックバッグなので、トートバッグくらいの量が入る。お金とかここに入れてます。
『獅子王』の手を冒険者証を返す。ジャラリ、と繋がった鎖が音を立てた。
「そう、これ聞きたかったんだけど」
「ん?何がだ」
「これが、冒険者証なの?」
「そうだぜ?冒険者になると、これが渡される。これには名前や職業、そいつの強さを表すレベル、これまでのクエスト完了実績とか全部が記載されてんだ。
ギルドの専用の読み取り機でのみ、上書きや閲覧ができる」
「・・・ふーん」
「あんたがこの間使ってた魔法なら出来るかもな?閲覧。やってみろよ」
「えっ!?壊れたりしない?」
「万一壊れたとしても、ここに複製があるから困んねえよ」
首からジャラ、と鎖を引っ張り出す。
あ、キャズが私の指輪を一緒に下げてたやつ。あれはキャズの冒険者証だったわけね。
本人のお許しがあるんならいいか。私は彼の冒険者証に精査開始を使ってみた。
興味深そうに『獅子王』もそれを見ている。
「あー・・・凄いわねこれ。こんな小さな冒険者証にこれだけの情報書き込めるものなのね」
「・・・つーか、本当に読み取れることに俺は驚いたがな」
個人情報から、戦闘実績まで。
確かにレベルやらクエスト実績やら色んなことがデータとして浮かび上がってくる。うわわわわ、この人、12歳で冒険者になったの?それから数年ブランクが開いて、25歳でS級冒険者…そうか、騎士団に入ってたんだっけ。そのブランクだな。
…ていうか、これ個人情報ダダ漏れじゃない?
毎回ギルドで読み取る度にこんな事見れちゃうの?
ちらり、と見上げると『獅子王』は私を見て不思議そうに眉をひそめた。
「何だ?どうした?変な事書いてあったか?」
「え、いや、こんな個人情報ダダ漏れでいいの?これ」
「あ?んな事ねえだろ、個人情報ったってレベルとクエスト実績くらいじゃねえか。俺も見たことあるが、そんなに驚く内容か?」
「え?だって何歳で昇級したとか出てくるし」
「は?」
「え?」
「・・・おいおい、まさかと思うが?他に何が読めてるんだ?」
「えっ?他に?・・・えーと、出身地とか?身長とか、好きな食べ物?武器レベルって何?あ、習熟度?そんなものまで管理されてるのこれ」
「待て待て待て、んなもん見た事ねえぞ」
「・・・Why?」
どうやら…?私は普通見えてない項目まで見えているのでは…?もしかしてこれ、本人と魔力波同調して、色んなデータを蓄積してるのでは?
読み取り機が追いついてないだけで、この精査開始で詳細部分まで読み取っちゃってる?
またそーっと見上げれば、何やら真剣な顔の『獅子王』。
これはやってしまったやつでは…
「何見えた?他に」
「も、もう見るのやめてるから!」
「何だよその武器の習熟度、ってやつはよ」
「しっ、知らないわよ!?」
「言ったじゃねえか、さっき。さて吐いてもらうぞ?」
「も、黙秘を宣言します!」
「あーん・・・なるほど?レディはここで俺に尋問されたい、ってんだな?ならやってやろうじゃねえか、女が男に尋問されるってえのは、どういう意味かわかってるよな?」
「ちょっ!待って!スカートの中に手を入れるのはダメでしょ!」
「んー?聞こえねえなあ」
「胸を触るのも禁止!こらっ!揉まないで!」
「・・・話す気になるまで続けんぞ?どうする?」
「ちょっ、待って、言うから!言います!」
さわさわさわ、とお触り開始。しかし必死に止めれば寸止め。あ、危ない…!この人シオンと違って躊躇いがない…!
ああ、そっか、見た目小娘じゃないから犯罪じゃないもんな。…と半ば納得してしまった私。
さて、どうしようかな…
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