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冒険者ギルド編 ~昇級試験~
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しおりを挟む総勢22名の冒険者達。
今回、A級に挑戦するのは7名。うち3名は後衛職だ。
3人の冒険者は、同じパーティなのだと言う。王都ギルドでも有名で目をかけられているそうだ。
パーティのリーダーは、さっきキャズを口説いていた剣士さんで、ジョシュア・カーバイド。青い髪に琥珀色の瞳をしたイケメン。
B級に挑戦するのは12名。1番多い。
王国ギルドだけでなく、近隣のギルドに所属する冒険者も来ているようだ。後衛職は5名。
C級に挑戦するのは4名。
カチコチに緊張している。そうよね、ここが踏ん張りどころだものね。後衛職は2名。
後衛職、と一言で言っても、魔術師だけではない。
薬師の職業もいれば、僧侶職もいる。私はてっきり僧侶職は、神殿に所属していてそっちの試験を受けるものだと思っていたが、そうではないらしい。
まあでも、魔力操作が出来なきゃ回復も覚束無いし、覚えるに越した事は無いわよねえ。
ギルドマスター、グラストンさんより、今回の試験について説明をする。
まず、前衛職の実技試験は、B級とC級に挑戦する人達はギルマスがする事。A級に挑戦する人達は『獅子王』が相手をすること。
なお、B級に挑戦する人でも、希望者には『獅子王』が相手をしてくれるとの事だ。
『ガキども、いっちょ揉んでやるよ』
とニヤニヤ笑いながら言う『獅子王』。
どこから見ても、立派なその筋の人にしか見えません。
これ見よがしに、傍らに出している大剣。オリハルコン製の特注品だそうですよ…先程見せてもらいましたが、見事に色々と属性付与されていて、『獅子王』の使うスキルや特性に合うように調整されている。お抱えの鍛冶師がいるそうです。
「───それと、今回より試験方法を一部変更させてもらう。最初なので後衛職だけとなるが、希望があれば、前衛職にも挑戦してもらう。
試験官としてお呼びした魔術研究所の『塔の主』、エンジュ・タロットワーク様だ」
「ご紹介に預かりました、エンジュ・タロットワークと申します。あまり気負わずに挑戦してくださいね」
「嘘だろ、魔術の頂点?」
「マジかよ、聞いてないぞ試験内容の変更なんて」
「なんだ、骨がありそうだな」
「それくらい突破してやるわ、フン、舐められたものね」
おお、反応は様々だ。
基本的にC級挑戦者は少し腰が引け、B級挑戦者は意欲を見せる。
…そして言わずもがな、A級挑戦者はハナっから馬鹿にした勢いです。自分に自信がなけりゃ、A級なんて目指さないわよね。
キリ君は『腕に覚えがある奴ほどいけすかない』みたいなことを言っていたけど、まさにこういう事かしら?
彼等が私を見る目は、『格下』を見る目付きだ。
うんうん、吠える子犬は可愛いよね!
みんなチワワやマルチーズみたいに見えてくるよ…
隣で仁王みたいにしている人や、君達の後ろで般若が出現しているのを見ているとね…
キャズには落ち着きなさい、とアイコンタクト。
隣の『獅子王』にはそっと耳打ちをする。
「落ち着きなさいよ、大人気ない」
「あんな目で俺の女を見やがって、再起不能にされたいんだな?アイツらは」
「誰が誰の女よ?いいのよ放っておいたら。自分に自信があるのはいい事よ、命取りになる場面でなければね」
「・・・いいのかよ」
「今日しか接点なんてないし、彼等だって明日になれば忘れる相手でしょう?いちいち相手しないの」
********************
先に、前衛職の皆さんの試験から。
ひとりひとり名前を呼ばれ、中央に。
キャズが審判を務め、ギルマスと向き合って5分間の試合。
勝っても負けても関係ない。これは本人にどれだけの実力が備わっているかどうかを見極める試合だからだ。
なので、膝を付こうが、武器を落とそうが終わらない。
『終了』と審判及び試験官が判定を終えるまで、5分間動きっぱなしだ。私は負けたら終了、かと思っていたので驚きだ。
「負けたら終わり、じゃないのかあ」
「そうですね、僕も最初はそう思っていたんですけど」
「・・・どちら様?」
「これは失礼致しました、レディ・タロットワーク。
『青の均衡』リーダーをしております、ジョシュア・カーバイドです」
「ごめんなさい、私あまり冒険者さんに詳しくなくて。その『青の均衡』というのは、貴方のパーティ名か何か?」
「はい、そうです。僕を筆頭に、あと4人で動いてます。
今日は僕と、斥候のウルズ、狩人のミレイユ、魔術師のキールの3人が昇級試験を受けに来ています」
「残り1人はお留守番?」
「ええ、まだA級には査定評価が足りなくて。見学に来てはいますよ。あちらが僧侶職のシェリアです」
ほうほう、男3に女2の安定型だなあ。
重火力が剣士の彼一人というのが引っかかるけど、それを斥候と狩人の2人で補うのかしらね。
ちらり、と『獅子王』がこちらを気にした。
大丈夫、と目線で返す。そのままジロリと剣士君を見て、試験に目を戻した。
「───随分、『獅子王』に気にされていますね」
「それは私が『ゲスト』だからではなくて?この場でもし何かあったとして、私が怪我をしようものなら、今回これをセッティングしたギルマスと『獅子王』両方に咎が及ぶでしょうし」
「大物ですね、あなたは」
「目の付け所がいいわね、と言って欲しいのかしら?なら失格ね。貴方、私が『なんて』紹介されたか覚えていない?」
「・・・『塔の主』でしたか?それが何か」
「冒険者ギルドと魔術研究所との間で今回の事は決定したの。個人の意志でセッティングされたことではないのよ?この意味がわからないのなら、残念ながら貴方にはA級になる資格はないみたいね」
「政治的な判断があった、という事ですか」
「そういう事よ。冒険者ギルドという団体と、魔術研究所という団体の相互の協力の元、今回の昇級試験の方法が変更された。
一冒険者の貴方が気に入らなかろうが、何だろうが、異議を唱える立場ではないし、『塔の主』に皮肉を言っている場合ではないという事ね。
・・・貴方自身の意思でここに話をしに来た訳じゃないのは分かるから、貴方の後ろの人にもそう伝えなさい?」
「お分かり、でしたか?」
「貴方は別に、今回の事について不満には思っていないでしょう?でも率先して『嫌われ役』をしに来ただけ。
でもね、私、自分で自分の意見を言えないような人の言葉を聞く耳持たないの。そう伝えてね?」
「失礼致しました、レディ・タロットワーク」
ぺこり、と頭を深く下げて離れていく。
まー、不満たらたらなのは、きっと彼のパーティメンバーなんでしょうねえ。リーダーらしく先頭に立ったって事かしら?
でも、それじゃあダメよね。あの子、魔術研究所に喧嘩売りに来たようなもんよ?
これが別の人だったらここで帰っちゃってたかもしれないわね。私はまあ…『よく吠えるなあ』と思うだけだったからアレだけど。
「ちょっと!何言われたのよ!」
「大した事ないわよ、気にしないのキャズ」
「するわよ!アイツ最近馴れ馴れしくて鬱陶しいのよ!
『僕となら行くよね?』とか言って!行かないわよ!刺すわよ!」
「刺すのはやめなさい、刺すのは」
「ったく、ホント冒険者ってロクな男いないわね!
副団長さんに口聞いてもらって、騎士様でも紹介してくれないかしら」
「頼みましょうか?」
「副団長さんに?」
「ううん?アナスタシアに。いい男見繕ってくれるわよ、多分」
「アナスタシア様なら安心だわ、お願い」
「まかせなさいキャズちゃん。とびきりのいい男連れてくるわ。だって私の大事な『騎士』だものね?」
「待っててよ、すぐに上に上がって、あんたを補佐できるようになるんだから」
「期待してるわ、キャズ」
ぎゅ、と手を繋ぐ。
あの頃と変わらず、私とキャズの間には友情がある。
ああ、いいな、こういう関係。
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