異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

文字の大きさ
68 / 197
近衛騎士団編 ~予兆~

67

しおりを挟む


「えーと?食べるものは好き嫌いがある?」

ぷるり。

「特にこれが好きとかは?うーん、草とか?」

ぷるん。

「・・・紙、とかは?」

ぷるん。

「クッキーも?」

ぷるん。

「なんでもいけるのか・・・あ、これとかは?」



机の上にスライムをちょこん、と乗せて意思確認。
さすがに何も与えない訳にも、と思って質問中。
しかしこのスライム、なんでも『ぷるん。』と〇を作る。
本当に雑食…なのかしら。紙とか食べてくれるとすれば、シュレッダー替わりになるのでは。

ふと、御守りタリスマンを作成する時のクズ魔石があったので与えてみた。色は赤なので、火属性。
口元に持っていくと、あんぐり、と開けるので落としてみる。



「え、うわうわうわ、すごい」



ぷるぷるぷる、と震えだした。
水色のスライムが、何故か内部が赤くキラキラする。
すると、色が赤く変化した。…え、スライムベス?



「えっ、な、なんともないの?」

ぷるん。

「・・・じゃあ、こっちも」

ぷるぷるぷる、ぷるん



緑色の風属性のクズ魔石を1粒。
すると先程と同様、内部でキラキラと緑色の光がきらめき、今度は緑色のスライムになった。
…これはまさか、属性変化しているの?

土属性を与えれば黄色に、水属性を与えれば青色に、闇属性を与えれば黒色に、そして聖属性を与えると銀色にきらめいた。



「これはまさかの、メタルスライム・・・!」

ぷるっぷるっ

「・・・機嫌がいいのかな?」

ぷるん。



よく分からないが、本人は聖属性が気に入っているようだ。
見た目はメタルスライムだが、つつくとぷにぷにしているので固くなった訳では無い。
…あれ、でも元は水色だったよな?あれってどうしたら戻るんだろ。

どうやったら戻るの?と聞いたところ、ぷるぷるぷる、と震えると色がぎゅっと内部に収縮し、戻に戻った。
…なにこれ、面白いんですけど。



********************



「・・・というわけで」

「また面白いものを拾ってきたもんだのう」

「スライムってこういうものですか?」

「さあのう。スライムを飼っている魔術師もおらんからな・・・ちなみに分裂はせんのか?」

「・・・どうなんでしょう?分裂しろと言ったらしそうな気も」



と言った途端、みょーん、と2つに分かれました。
私もゼクスさんも無言。スライムは呑気にぴょんこぴょんこ跳ねている。ちなみにサイズは2分の1。



「こうやって増えるの?」

ぷるん。ぷるん。

「元に戻れるの?」

ぷるん。ぷるん。
みょーん。

「自由自在かよ」
「面白いのう、片方儂のところに来んか?」

ぷに?

「えっ、やだ、クエスチョンまで会得してるの?」
「これはエンジュに許可を得たいのではないのか?」

ぷるん。

「・・・別に君達がいいならいいけど。ゼクスさんのとこにどっちが行くの?」
「どっち、という概念があるようには思えんが。どちらもエンジュの下僕なのではないのか?」

ぷるん。

「賢いのう」
「どうなっているのやら・・・でもまあ人間に危害を加えない、のなら分裂して片方ゼクスさんのところに行ってもいいわよ?」

みょーん。
ぷるぷるぷる、ぷるん

「えーと?じゃあ君が1号、君が2号ね」
「見分け付くのか、エンジュ」

「つきません」
「・・・気持ちの問題か?」

「そんなとこですね。見分けが付くといいんですけど、さすがにスライムにそれは無理な話かなって。ナンバリングする訳にもいきませんしね」
「焼き印か?」

「さすがにそれは可哀想ですよ。・・・ていうか、焼けるんですかね?」



こんなぷるんとした体に焼き印なんて付くのか?
ていうかそれはちょっと可哀想なのでは。とはいえ分裂したスライムを見分けるなんてできない。

なんとか見分ける方法…と思って2体を見ると、表面に『1』『2』と文字が浮かんでいる。



「・・・」
「・・・どこから学んだのかのう」

「これ、分裂していったら全部にナンバリングが入るんですかね」
「・・・しそうだのう」



契約者である私と同調リンクでもしているのだろうか。ここまでこちらの意図を汲んでくれるとは。
1号が私の方に、2号がゼクスさんのところに。
そのうち2号が分裂しまくって、研究室の4人にも1匹ずつくっついたりしないだろうか。

半分になったスライムは、数日後にまた元の大きさまで成長した。私が面白がって薬草やら花瓶の花やら要らなくなった書類を食べさせていたら元に戻った。
最初の手のひらサイズになると、大きさは安定。このサイズが基本なのかしら?ゼクスさんに聞くと、2号もその大きさまで成長して止まったそうだ。
分裂したのかな?と思って聞くと、分裂はしていないらしい。どうやら基本は私の言うこと以外は聞かないみたいだ。
物を食べたり、ジャンプしたりくらいはするそうだが。

どこまで分裂するか試した結果、8体までは分裂した。9体にならないのは、ゼクスさんの所に1匹いるからかな?
『2』を除いた1から9までの数字が入っていた。大きさはゴルフボールサイズ。それ以上は小さくならなかった。
しかし小さいのがぴょこぴょこしているのもなんだか可愛くて、ちょっと癒される。
…キングスライムって、8匹が固まってできたよな?それを踏襲してるのかしら。まさかね。



********************



「入るぞ、フリードリヒ」

「おう、久しぶりだなアナスタシア」



団長の執務室。数週間ぶりにアナスタシア様が遠征より帰還された。同刻に到着した騎士達は疲れ果てていたが、アナスタシア様は疲れも見せない。

応接セットのソファへ腰を下ろしたアナスタシア様に、紅茶を入れて出す。



「すまないな、カイナス」

「いえ、どういたしまして。お疲れ様です」



優雅にティーカップを持ち上げ、紅茶を飲む。
ふと、ポケットから何かを取り出してテーブルへ。

はぽよん、と跳ねた。



「グフッ!!!」
「えっ、なっ!?」

「窮屈だったな?すまんな」

ぴょーん。

「ふむ、なんともなさそうだな」



テーブルの上で跳ねる1匹のスライム。
それを見た途端、お茶を吹き出す団長。

・・・な、なんで小さいんだ?というかどこから?エンジュ様か?でもあれはもっと大きかったはずでは?



「グッ、ゲホ、アナ、アナスタシア、ゲホっ」

「どうした落ち着けフリードリヒ」

ぴょん。

「おちっ、落ち着けってお前、グッ、ゴホっ、なんだよそれっ」
「落ち着いてください団長」

「これか?可愛いだろう、エンジュから借りてきたのだ」

ぴょーん。

「借りてきた、だあ!?」
「あの、アナスタシア様?エンジュ様の所にいるのはもう少し大きくありませんでしたか?」

「はっ!?シオンお前知ってんのか!?」

「ああ、なんでも分裂するらしくてな」

「はあ!?分裂!?」
「・・・全くどこまでも規格外ですね、あの人は」

「こんな大きさのが8匹いてな。そこらをぴょんぴょん跳ね回っていて可愛かったぞ?見せてやろうと思って、エンジュに断って1匹連れてきた。この大きさならポケットで充分だからな」

ぷるーん。



テーブルの上でぷるぷる動く小さなスライム。
前見たものより4分の1ほどの大きさになっていた。
・・・まさか分裂するとは。無限に増えたりしないのか?

アナスタシア様は立ち上がり、団長の執務机にスライムを連れてくる。スライムは団長の前まで移動し、ぴょんぴょん跳ねて見せた。

団長は恐る恐る指でつついている。
特に嫌がらずにぷるーん、としているスライム。



「・・・いやはや、驚きだな」

「なんでも草原地帯で拾ったと言っていたが。
カイナス、お前は傍にいたのだろう?」

「はい、最初はエンジュ様が『触ってみたい』と言うのでオルガが連れてきました。エンジュ様が触っているうちに何やら気に入られたようで、そのまま付いてきています」

「・・・魔物を捕獲テイムまですんのかよ」
「さすがはエンジュだな」

「そのうち大型の魔物まで手懐けないことを祈ります」



団長は面白くなってきたのか、スライムをつついたり撫でたり摘んだりしている。スライムもなすがままに遊ばれている。…この場合、スライムが遊んでやっている…のか?

アナスタシア様曰く、スライムは分裂してゼクスレン様に1匹、その他はエンジュ様の部屋で分裂してぴょこぴょこしているらしい。
ひとつにまとまったり、分裂したりと気ままにしているとのエンジュ様の話だ。



「・・・なんかの役に立つのか?」

「エンジュは『なんでも食べるから、ゴミが無くなる』と言っていたな。書き損じた書類も跡形なく食べるそうで、そこは重宝していると」

「・・・確かにそれは役に立つかもな」

「大半は癒し、と言っていたが?」

「確かにこの感触に癒されるっちゃ癒されるが」

「そうだろう?」



アナスタシア様が撫でると、気持ちよさそうな顔になる。
…口元は相変わらず笑っているままだが。

アナスタシア様はスライムを自慢しに来ただけのようで、そのままスライムを連れて帰ってしまった。『エンジュの部屋に戻してやらないとな』と言って。



「・・・なあシオン」

「もらいに行かないでくださいね、団長」

「なんでわかった?」

「騎士団にスライム、なんて飼うのはダメです」



あの小さいスライムを見て、ちょっと俺も欲しいと思ったのは言わないでおこう。
団長も諦めてくれるといいのだが…

しおりを挟む
感想 537

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

処理中です...