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近衛騎士団編 ~予兆~
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しおりを挟む「えーと?食べるものは好き嫌いがある?」
ぷるり。
「特にこれが好きとかは?うーん、草とか?」
ぷるん。
「・・・紙、とかは?」
ぷるん。
「クッキーも?」
ぷるん。
「なんでもいけるのか・・・あ、これとかは?」
机の上にスライムをちょこん、と乗せて意思確認。
さすがに何も与えない訳にも、と思って質問中。
しかしこのスライム、なんでも『ぷるん。』と〇を作る。
本当に雑食…なのかしら。紙とか食べてくれるとすれば、シュレッダー替わりになるのでは。
ふと、御守りを作成する時のクズ魔石があったので与えてみた。色は赤なので、火属性。
口元に持っていくと、あんぐり、と開けるので落としてみる。
「え、うわうわうわ、すごい」
ぷるぷるぷる、と震えだした。
水色のスライムが、何故か内部が赤くキラキラする。
すると、色が赤く変化した。…え、スライムベス?
「えっ、な、なんともないの?」
ぷるん。
「・・・じゃあ、こっちも」
ぷるぷるぷる、ぷるん
緑色の風属性のクズ魔石を1粒。
すると先程と同様、内部でキラキラと緑色の光がきらめき、今度は緑色のスライムになった。
…これはまさか、属性変化しているの?
土属性を与えれば黄色に、水属性を与えれば青色に、闇属性を与えれば黒色に、そして聖属性を与えると銀色にきらめいた。
「これはまさかの、メタルスライム・・・!」
ぷるっぷるっ
「・・・機嫌がいいのかな?」
ぷるん。
よく分からないが、本人は聖属性が気に入っているようだ。
見た目はメタルスライムだが、つつくとぷにぷにしているので固くなった訳では無い。
…あれ、でも元は水色だったよな?あれってどうしたら戻るんだろ。
どうやったら戻るの?と聞いたところ、ぷるぷるぷる、と震えると色がぎゅっと内部に収縮し、戻に戻った。
…なにこれ、面白いんですけど。
********************
「・・・というわけで」
「また面白いものを拾ってきたもんだのう」
「スライムってこういうものですか?」
「さあのう。スライムを飼っている魔術師もおらんからな・・・ちなみに分裂はせんのか?」
「・・・どうなんでしょう?分裂しろと言ったらしそうな気も」
と言った途端、みょーん、と2つに分かれました。
私もゼクスさんも無言。スライム達は呑気にぴょんこぴょんこ跳ねている。ちなみにサイズは2分の1。
「こうやって増えるの?」
ぷるん。ぷるん。
「元に戻れるの?」
ぷるん。ぷるん。
みょーん。
「自由自在かよ」
「面白いのう、片方儂のところに来んか?」
ぷに?
「えっ、やだ、クエスチョンまで会得してるの?」
「これはエンジュに許可を得たいのではないのか?」
ぷるん。
「・・・別に君達がいいならいいけど。ゼクスさんのとこにどっちが行くの?」
「どっち、という概念があるようには思えんが。どちらもエンジュの下僕なのではないのか?」
ぷるん。
「賢いのう」
「どうなっているのやら・・・でもまあ人間に危害を加えない、のなら分裂して片方ゼクスさんのところに行ってもいいわよ?」
みょーん。
ぷるぷるぷる、ぷるん
「えーと?じゃあ君が1号、君が2号ね」
「見分け付くのか、エンジュ」
「つきません」
「・・・気持ちの問題か?」
「そんなとこですね。見分けが付くといいんですけど、さすがにスライムにそれは無理な話かなって。ナンバリングする訳にもいきませんしね」
「焼き印か?」
「さすがにそれは可哀想ですよ。・・・ていうか、焼けるんですかね?」
こんなぷるんとした体に焼き印なんて付くのか?
ていうかそれはちょっと可哀想なのでは。とはいえ分裂したスライムを見分けるなんてできない。
なんとか見分ける方法…と思って2体を見ると、表面に『1』『2』と文字が浮かんでいる。
「・・・」
「・・・どこから学んだのかのう」
「これ、分裂していったら全部にナンバリングが入るんですかね」
「・・・しそうだのう」
契約者である私と同調でもしているのだろうか。ここまでこちらの意図を汲んでくれるとは。
1号が私の方に、2号がゼクスさんのところに。
そのうち2号が分裂しまくって、研究室の4人にも1匹ずつくっついたりしないだろうか。
半分になったスライムは、数日後にまた元の大きさまで成長した。私が面白がって薬草やら花瓶の花やら要らなくなった書類を食べさせていたら元に戻った。
最初の手のひらサイズになると、大きさは安定。このサイズが基本なのかしら?ゼクスさんに聞くと、2号もその大きさまで成長して止まったそうだ。
分裂したのかな?と思って聞くと、分裂はしていないらしい。どうやら基本は私の言うこと以外は聞かないみたいだ。
物を食べたり、ジャンプしたりくらいはするそうだが。
どこまで分裂するか試した結果、8体までは分裂した。9体にならないのは、ゼクスさんの所に1匹いるからかな?
『2』を除いた1から9までの数字が入っていた。大きさはゴルフボールサイズ。それ以上は小さくならなかった。
しかし小さいのがぴょこぴょこしているのもなんだか可愛くて、ちょっと癒される。
…キングスライムって、8匹が固まってできたよな?それを踏襲してるのかしら。まさかね。
********************
「入るぞ、フリードリヒ」
「おう、久しぶりだなアナスタシア」
団長の執務室。数週間ぶりにアナスタシア様が遠征より帰還された。同刻に到着した騎士達は疲れ果てていたが、アナスタシア様は疲れも見せない。
応接セットのソファへ腰を下ろしたアナスタシア様に、紅茶を入れて出す。
「すまないな、カイナス」
「いえ、どういたしまして。お疲れ様です」
優雅にティーカップを持ち上げ、紅茶を飲む。
ふと、ポケットから何かを取り出してテーブルへ。
それはぽよん、と跳ねた。
「グフッ!!!」
「えっ、なっ!?」
「窮屈だったな?すまんな」
ぴょーん。
「ふむ、なんともなさそうだな」
テーブルの上で跳ねる1匹の小さなスライム。
それを見た途端、お茶を吹き出す団長。
・・・な、なんで小さいんだ?というかどこから?エンジュ様か?でもあれはもっと大きかったはずでは?
「グッ、ゲホ、アナ、アナスタシア、ゲホっ」
「どうした落ち着けフリードリヒ」
ぴょん。
「おちっ、落ち着けってお前、グッ、ゴホっ、なんだよそれっ」
「落ち着いてください団長」
「これか?可愛いだろう、エンジュから借りてきたのだ」
ぴょーん。
「借りてきた、だあ!?」
「あの、アナスタシア様?エンジュ様の所にいるのはもう少し大きくありませんでしたか?」
「はっ!?シオンお前知ってんのか!?」
「ああ、なんでも分裂するらしくてな」
「はあ!?分裂!?」
「・・・全くどこまでも規格外ですね、あの人は」
「こんな大きさのが8匹いてな。そこらをぴょんぴょん跳ね回っていて可愛かったぞ?見せてやろうと思って、エンジュに断って1匹連れてきた。この大きさならポケットで充分だからな」
ぷるーん。
テーブルの上でぷるぷる動く小さなスライム。
前見たものより4分の1ほどの大きさになっていた。
・・・まさか分裂するとは。無限に増えたりしないのか?
アナスタシア様は立ち上がり、団長の執務机にスライムを連れてくる。スライムは団長の前まで移動し、ぴょんぴょん跳ねて見せた。
団長は恐る恐る指でつついている。
特に嫌がらずにぷるーん、としているスライム。
「・・・いやはや、驚きだな」
「なんでも草原地帯で拾ったと言っていたが。
カイナス、お前は傍にいたのだろう?」
「はい、最初はエンジュ様が『触ってみたい』と言うのでオルガが連れてきました。エンジュ様が触っているうちに何やら気に入られたようで、そのまま付いてきています」
「・・・魔物を捕獲まですんのかよ」
「さすがはエンジュだな」
「そのうち大型の魔物まで手懐けないことを祈ります」
団長は面白くなってきたのか、スライムをつついたり撫でたり摘んだりしている。スライムもなすがままに遊ばれている。…この場合、スライムが遊んでやっている…のか?
アナスタシア様曰く、スライムは分裂してゼクスレン様に1匹、その他はエンジュ様の部屋で分裂してぴょこぴょこしているらしい。
ひとつにまとまったり、分裂したりと気ままにしているとのエンジュ様の話だ。
「・・・なんかの役に立つのか?」
「エンジュは『なんでも食べるから、ゴミが無くなる』と言っていたな。書き損じた書類も跡形なく食べるそうで、そこは重宝していると」
「・・・確かにそれは役に立つかもな」
「大半は癒し、と言っていたが?」
「確かにこの感触に癒されるっちゃ癒されるが」
「そうだろう?」
アナスタシア様が撫でると、気持ちよさそうな顔になる。
…口元は相変わらず笑っているままだが。
アナスタシア様はスライムを自慢しに来ただけのようで、そのままスライムを連れて帰ってしまった。『エンジュの部屋に戻してやらないとな』と言って。
「・・・なあシオン」
「もらいに行かないでくださいね、団長」
「なんでわかった?」
「騎士団にスライム、なんて飼うのはダメです」
あの小さいスライムを見て、ちょっと俺も欲しいと思ったのは言わないでおこう。
団長も諦めてくれるといいのだが…
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