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近衛騎士団編 ~小鬼の王~
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しおりを挟む小鬼達の群れが出るという各ポイントを騎士団とギルドの手練が虱潰しに捜索・退治を行っている。
地域毎に対策を立て、以前のような目的のないローラー作戦を止めて効率的に小鬼達を退治していく。
その中で群れの本拠地となりうる場所も探し、可能性を潰していく。
その中、私が何をしていたかというと小鬼の生態について書かれた物を読み進め、私の懸念も合わせてまとめ上げた報告書を書き上げる事をしていた。
もちろん、私の想像通り、過去にゴブリンシャーマンやメイジらしき個体もいたらしい。今のところ確認されてはいないが、発生する可能性と、その際の対処を考えて欲しいことを追記する。
後は、ゼクスさん達、国の上層部が考える事だ。
スライム1号にみょいーん、と食べさせる。
「だ、大丈夫?」
『まかせてー!』
「よく入るわねえ」
『えへへー!』
スライム1号の返事は短いがわかりやすい。
向こうで受け取ったらしく、『かんりょー!』という返事も来た。後は休んでいいよ、と言うとぽよんと跳ねて、ベッド代わりのカゴの中に収まる。
窓の外を見れば、綺麗な満月が。
報告書を書くのに時間がかかり、夜までかかってしまった。
…というか、読むのに3日くらいかかってますけどね?
「さて、やりますか」
そう、今宵は満月。
先延ばしにしてきた能力値回復薬の調合に挑戦だ。
********************
調合に必要な器具と材料は特に多くはない。
まずは薬草。聖属性の魔石。聖水。そして毒胞子だ。
薬草は瑞々しいものよりは、乾燥させて粉末化した物。
聖属性の魔石は、お守り作りに必要だったクズ魔石の欠片を使う。
…これについては量が重さだったので、クズ魔石だろうがなんだろうが関係ないのかもしれない。
後は聖水。これはいくらでも作れるし、買ってきてもいい。
私は今回用にザバザバ作っておいたけど。たまにスライム達が飲んでたりする。…やっぱり聖属性のものが好きなのかしら?
そして毒胞子だ。これは精査開始から、きのこの山ひとつで能力値回復薬が2から3個は作れると分かっている。
なので、私は3個分の量で作成を試みる事に。
「えー・・・と?とりあえず混ぜる、のよね?」
入れる順番が必要なだけで、ずっと混ぜるのが作成方法。
しかしこれが簡単に見えて問題のようで、魔力が一定に安定しない。それを補うのが満月の日らしく、揺らぎのある波長を抑える効果があるそうだ。
最初に粉末化した薬草と毒胞子。そこに聖水を注ぐ。
ガラス製のマドラーで掻き混ぜながら、毒胞子のきのこの山を潰し、かき混ぜる。
ある程度混ぜ終わったら、聖属性の魔石を入れる。
カラカラカラ、と涼やかな音を立てて混ぜていると、そこから揺らぎのある魔力の波長を感じる。
回復薬を作る時と同じ。
その揺らぎをゆっくりと自分の魔力と同調させるように落ち着かせる。
この作業、割と得意。なんていうのかな、犬猫を撫でている時のような、赤ちゃんをあやしつけている時のような。
…他の人は全然違う感覚なのかもしれないけどね。
聖属性の魔石から聖属性の魔力が溶け出すのか、キラキラと液体内に煌めきが散る。
何かの拍子にボフン、と爆発するんじゃないかと躊躇するけれど、そんな事はなかった。
揺らいでいた魔力がおさまり、それが収縮して安定すると、ビーカーの中に虹のような色が混ざりあった光が起きる。
それは眩しいとまではいかないけれど、チカチカチカ、と点滅し、ぽわん、とドーナツ型の煙を吐き出した。
「わ、わわわ・・・」
驚くが、混ぜる手は止めない。
なんだろ、これ見たことあるな?あれだ、ジブリ映画の魔女っ子さんのお母さんが作ってた薬みたいなエフェクト!
そのドーナツ型の光る煙を目で追っていた私だが、それが消えると手元から燐光が立ち上るのを感じた。
「・・・これが、能力値…回復薬?」
手元のビーカーには、大小の金粉を散らしたような薄い薄荷色の液体が出来上がっていた。
燐光が立ち上るように見えているのは、金粉のようなものが発している光のようだ。
この光の素は、聖属性の魔力なのだろうか?
それとも、この満月の光にも関係がある?
混ぜるのを止め、ビーカーを目線まで持ち上げて透かして見る。
…金粉入りの飲み物、にしか見えない。
そーっと匂いを嗅いでみても、特に変わった匂いはしない。
これで能力値回復薬が3つ分なので、用意しておいた小瓶に分ける。
「・・・さてと。ここからなのよね」
私は2つの小瓶へと能力値回復薬を分けた。
ビーカーには1つ分、残っている。量としては150ml程度か。
そう、味見(人体実験)である。
ほら、能力値回復薬ってくらいだし、体に害はないと思う訳よ。
とはいえ、私、別にどこか悪い訳じゃないんですけどね。デバフ付いてる訳じゃないからね?
でも、自分で作ったものを味見しない訳にもいくまい。
大丈夫大丈夫、ポーションだってポカリスエットだった訳だし。多分不味くはない、はず。
そーっとひと口。口の中に含んだ感じでは、炭酸水のようにシュワシュワはしていない。
こくり、と嚥下すれば、味としてはミントフレーバーに近い、かな?
「うーん・・・?ミントティーという程でも。
なんていうのかな、フレーバーウォーター的な・・・」
さらにひと口、ふた口。
少しずつ飲んでいるものの、150ml程度しかないからすぐに無くなる。
飲み切った私がうーむ、と考えた末に出た結論。
あれよ、オシャレなカフェにある、フルーツをミネラルウォーターにたくさん入れたやつ。あれってオレンジとかレモンとかグレープフルーツとかミントとか入ってるけど、そんなに味を主張しないやつ。あれに似てる、デトックスウォーター。
つか、普通に美味しい。もっと飲みたい。
「・・・ていうか普通に作ればいいわよね、デトックスウォーター。
デトックスってだけあって似てるのかしら?デトックスって『解毒作用』って意味だものね」
1度作れてしまえば簡単。私はあるだけ材料を使い、サクサクと能力値回復薬のストックを作る。
この先何かに使えるかもしれないし。もしも小鬼の大群に襲われたとして、デバフ効果あってもこれをグイッと行けば治る…かもしれないわよね。
用意した小瓶が10本しかなかったので詰めきれないが、満月の晩にしか作れないので、全て材料を使い切って作成する。
それを丸ごとマジックバッグに入れ、保管。小瓶はまた手に入れればいいのだし。
翌日、ゼクスさんに話し、小瓶を手に入れてもらう。
元々小瓶自体は倉庫にたくさんあったので、すぐに瓶詰めして倉庫へ。能力値回復薬自体は数本ゼクスさんに渡す。
「これが、能力値回復薬か。綺麗なもんだのう」
「味も悪くなかったですよ」
「飲んだのか、エンジュ」
「一応、製作者としては味見しておこうかと思いまして。格別どこか悪いわけではないんですけどね。なので効果の程はわかりませんよ」
「ほっほ、まぁ健康体に使った所で副作用はなかろうよ」
ゼクスさんは『儂も飲んでみるかのう・・・』と悩んでいたが飲むのはやめていた。もったいない、と思ったのかもしれない。
ふと、窓の外に信号弾が上がる。
何気なく見たその色は、赤。
「っ、ゼクスさん」
「赤、か。こりゃ拙いのう」
「救援求むでしたか」
「そうじゃな、あの方向は・・・王国騎士団が向かっている山岳地帯と見える。アナスタシアが潰した洞窟もあった方じゃの」
「でも潰した、んですよね?」
「他があったのかもしれんの。洞窟はひとつでは無いかもしれんし、アナスタシアが殲滅した時は本隊は外にいたのかもしれん。
・・・今議論しても仕方あるまい、救援は神殿が動くであろうが、儂も王宮へ向かう事にする。エンジュ、そなたはここに。何かあった時の為に備えてくれ」
「わかりました、気をつけて」
ゼクスさんはそう言うと、窓を開け、テラスへ。
そこから杖を出すと一目散に王宮方面へすっ飛んで行った。
…飛行魔法、作っといてよかったかも。
私は研究室へ戻り、イスト君始め皆に指示を出す。
他の塔にも救援信号弾が上がったことを通達し、緊急の備えをするように。
もしも、本当に魔物の群れが襲ってくるとしたら。
…嫌だな、怖い。誰かが死ぬような事になんてならなければいい。
戦争というものを知らない私にとって、本格的な戦いが始まるかもしれないという事実は夢のような感覚で、実感がない。
けれど、嫌な悪寒だけは消えなかった。
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