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近衛騎士団編 ~小鬼の王~
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しおりを挟む王国より、正式に王命が下った。
王国・近衛両騎士団、冒険者ギルドの3陣営の協力体制を作り、今起きている『異変』に対して尽力すること。
魔術研究所にも協力要請が来た。同じように神殿にも通達が出たらしい。
しかし、1番の肝はやはり両騎士団とギルドの協力体制だ。
トップはシリス王太子が出る。…まあその後ろにゼクスさんとかいるけども。
「どうしてこうなった」
「ここなら1番セキュリティが強いからじゃないですか?スライムのおかげでリアルタイムでやりとり出来ますし」
「くっ・・・ウチのスライム達が高性能・・・!」
私のスライム達。最近大人しいなと思っていたら、とんでもない事ができる事が判明した。
なんでもかんでも食べるなぁと思っていたが、どうやら胃袋…これも消化するものとしないものがあるらしい…に色んなものを収められ、どのスライムからでも出し入れ可能らしい。
四次元ポケットか!と突っ込んだが誰も共感してくれない。
そりゃそうか、この世界には青いネコ型ロボットはいないのだから。
よくよく考えれば、このスライム達は私が捕獲した1匹から分裂したんだから、胃袋が同じなのは当たり前ともいえる。でも出し入れ可能だとは思わなかったな…
それ故に、王宮にいるゼクスさんは連れているスライム2号に書類を食べさせると、私のいる魔術研究所にいるスライム1号がペッと吐き出せる。はい、リアルタイムで情報共有。
その為、王宮に集まっている王国騎士団、近衛騎士団、冒険者ギルドから提出される魔物出現に関連する資料が山のように送られてきている。…ゼクスさん的には私の意見が聞きたいらしい。
「意見って言ってもねぇ」
「ほら迷宮騒ぎの時もエンジュ様の考えで結構突破口開けた感ありますからね」
「うーん・・・やっぱりいっぱいいるのかしらね?イスト君はどう思う?」
「・・・いるんじゃないかと思います。『見かけない魔物』についてはなんとも言えませんが、この小鬼の数はさすがにおかしいですよ」
ここ一、二ヶ月の間に討伐された小鬼の数。
私は近衛騎士団の討伐話しか聞いてなかったけれど、討伐数については王国騎士団の報告が多い。
冒険者ギルドの報告については、小鬼だけでなく他の魔物の報告も多い。クエストついでに討伐した物もあるからだろう。
ギルドの報告書からは、魔物達の分布に誤差がある事を頻繁に上げてきていた。そこからゼクスさんや王都ギルド上層部が導き出した結論は『小鬼の増加・群れの出現により他の魔物達の分布が乱れている』との事。
「小鬼といえども、群れを成せばランク上の魔物すらも住処を移動するだけの脅威となるという事ね。
進化はまだ認められない・・・のかしら」
「いえ、進化は見られるようですね。近衛騎士団の報告書にもありましたし、王国騎士団の報告書にもあります」
「将軍級、ね。・・・見た目が違う、のよね?」
「そうですね、僕も1度だけ見たことがあります」
「えっ?イスト君も?」
「数年前ですが。エンジュ様が来る前ですよ、討伐隊の臨時増員に入った事があるんです。
その時に遭遇しました、1匹だけですが」
小鬼の王はまだ未確認、との事だ。
人化小鬼と小鬼将軍の確認はあり。
何故分かるかというと、この2種は通常の小鬼より大柄らしい。
どのくらいかというと、ゴリラサイズ。
普通の小鬼は小さい鬼、というだけあって子供サイズということだ。
…そう言われると、小さい中にゴリラサイズいたらギョッとするわよね。
でもどうやって見分けてるのかしら、この2種類。
もしかして将軍級ってだけあって、装備付けたりしてるとか?
「ふむふむ・・・」
「エンジュ様は何か気になる点でも?」
「ある・・・といえばあるんだけど、口にすると現実になりそうだからあまり口に出したくないというか」
「でも、言わないと僕らにはエンジュ様の懸念は伝わらないですよ?文章にします?」
「いや書いても・・・うーん、そっちの方がいいのかしら」
言霊ってあるじゃない?
言葉に出せばそれが現実になる確率が上がったり…しませんか?
私、向こうで読んだ二次創作物の小説で、ゴブリンシャーマンとか、ゴブリンメイジとか色々とあったんだけど。
…それって元々、普通の小鬼から進化したものという内容だったと思うけど、この世界ではどうなんだろう。というか、シャーマンやメイジ、ファイターやアーチャーっているのかな?
でもこれ言うと、うっかり進化とかしそうで嫌なのよね。魔物の進化って、種族の危機に対応して起きる気がするし。
「気になるの事はあるんだけど、先に調べ物をしてその疑惑を固めてからにするわ。イスト君、小鬼に対して図鑑・・・というか、生態について詳しく書かれているものはある?」
「それなら、冒険者ギルドから出されている資料の中にありましたよ」
はい、と紐綴じの分厚い…資料…
これは読むのにどのくらいかかるのか…
ふと見ると、何かメモが挟まっている。取り出して読んでみると、そこにはキャズの手書きメモが。
『今さらかもしれないけど、小鬼の生態についてギルドで集められている資料を送るわ。魔術研究所にもあると思うけど、オリアナさんから頼まれたから。こちらでも何かあればすぐに報告するわね』
さすがのキャズさんよ。しかもこの資料、オリアナが注文していたのね…確かに異世界から来た私には必要不可欠な資料よね。だって向こうに小鬼なんて生息してないし。似てる生物?そんなものいるか…?
イスト君は『とりあえず、資料分けて整理しますね』と仕分けを始めてくれている。
私はソファに移動し、小鬼に対する資料を読み込むことにした。
********************
「アリシア」
「あ、カーク様」
王宮で文官の仕事をするアリシア。
部屋の外から声を掛ければ、周りの同僚に断って出てくるアリシアを迎える。
数年後に王族の身分を返し、公爵位を賜る事になっている。
もちろんその時は、アリシアを妻に迎える。そのつもりでアリシアには既にプロポーズをし、返事を貰っている。
傍にいるアリシアの笑顔を守りたい。そして、それと同じようにこの国を護る。兄上の腕となり足となり、この国の礎となる。アリシアと共に。
「最近、会えなくて済まない」
「いえ!そんな事ありませんよ。今はすごく忙しい時ですし。私も色々バタバタしていますから」
「これが済んだら、少しゆっくりしたいな」
「いいですね、カーク様も最近疲れているし、私もゆっくりのんびりしたいです」
「2人きりでな」
「も、もう、カーク様ったら」
はにかみ、微笑むアリシア。
前ならば俯き、こちらを見ることはなかったが、今のアリシアは恥じらいながらも俺に笑顔を向けてくれる。
その瞳には、溢れるような俺への愛情。…少し言い過ぎか?
そっと唇を重ねる。
アリシアもそれを受け止め、優しい時間が包む。
ゆっくり離し見つめれば、潤んだような瞳が俺を誘う。
うっ、止めてくれ、これでもものすごく我慢しているんだから。
「アリシア、あまり誘わないでくれ」
「え?えっ!?誘っていな・・・、ええと」
「どうした?」
「誘って、ますね。・・・だって、私もカーク様に触れたかったんですもの」
ふふふ、と笑うアリシアへ、もう1度口付けた。
今度は少しだけ、恋人同士のキスを。
お互いの気持ちと感触を味わった後、切り出したのはアリシアだった。
「聞きました、騎士団が両方とも出ると」
「───ああ、そのようだ。かなり力を入れて来ているな、兄上も。ゼクスレン様・・・魔術研究所からの打診もあったようだ」
「でも、私もそれでよかったと思います。シリス王太子殿下のおかげで、両騎士団とギルドの連携が取れました。
今は何よりも『魔物大発生』の予兆を潰さなければなりませんし」
「・・・決めたのか」
「はい。要請があれば、私も神殿の一員として救護活動に出ます」
「・・・そうか」
「すみません、カーク様」
「何故謝る?俺はアリシアの好きにすればいいと言ったはずだ」
アリシアには『聖』属性の魔力がある。
それも、神殿の巫女姫に引けを取らないくらい。水面下でアリシアに一時的にでも神殿に所属して欲しい旨の要請が来ている事は相談されていた。
これまでの俺ならば、頑なに反対していただろう。けれど、アリシアと想いを通じ、互いの心と体を重ね合った今ならば、彼女の葛藤もよく理解できる。
───誰かを救う為に力を得たならば、それを使う時に躊躇ってはならない。そうアリシアが決めている事を。
彼女はずっと、『誰かの一助になりたい』という想いで様々な階段を駆け上がってきたのだから。
「アリシア、俺は俺にできることをする。お前もお前にしかできない事をしてくれ。大丈夫、俺達はいつも共に在る」
「はい、カーク様。私の心はいつもカーク様の傍に」
そう、互いを信じ、想い合う心。
それが困難を乗り越える力になる。
その想いを分かち合うように、一時、抱きしめた温もりを刻み込むようにアリシアを抱きしめる腕に力を込めた。
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