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心の、在り方
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しおりを挟む騎士団詰所、自室。
バサリ、と服を寝台へ投げ出す。
汗をかいたので、ざっとシャワーで流す。
他の騎士達はシャワー室を使うが、将校クラス…隊長格ともなると、シャワーが付いた部屋を割り当てられる。
シャワーを浴びながら少し反省する。
…踏み込みすぎた、だろうか?
自分が『男』である事を意識させたいという思いもあった。
さすがに貴族の令嬢とは違い、半裸姿を見せはしても、その瞳には好奇心のような色が見えるだけで、そこに羞恥は見えなかった。
奴の事を引き合いに出したのは、ちょっとした競争心からだ。
大人の関係がある事は知っていた。…レオニードが自信満々に話していたからな。
あの年齢の女性だ、結婚している既婚者ですら、夜の関係を持つことをさほど躊躇わないのだから、独身を貫くご婦人ならば誰を相手にしようが、それは自由意志だ。
それを追求するつもりもない。
自分を選んでもらえるように、主張をするだけの事。
古傷を伝う指に、あれだけ甘い刺激を覚えるとは思わなかった。屋外でなければ、押し倒してしまっていたかもしれない。
それほどまでに、彼女の指の感触は『甘美』だった。
しかし、欲情を掻き立てる自分とは裏腹に、彼女の瞳に宿るのは理知的な色。俺の肌に触れながらも、その頭には欠片ほどの情欲は見当たらない。…魅力がないのか、俺。
何を考えているのかと思えば、『古傷を消す魔法』というトンデモ魔法を組み立てる事を考えているとは。恐れ入った。
本人の考えを聞けば、劣情を抱いている身が恥ずかしい程だった。確かにその魔法が生み出せるのであれば─────
「・・・いや本当になんとかしそうだな」
『俺の手には余る女だ』と言うレオニードの声が蘇る。
確かにな、ただ口説いて落として、腕の中に留めて置ける女性では無いかもしれないな。
「だからこそ、か?」
最近、ふと頭に鮮やかに浮かぶのは、彼女だけだ。彼女を思い出す事が少なくなった俺を────君は責めるだろうか?
『私の事は忘れて。自由になって』
エンジュ様に言われた言葉。
刃のように、胸に刺さる。
俺は、どうするべきなんだ?コーネリア─────
********************
「うわっ、イヤッ、おっきいっ」
「別のシチュエーションで聞くと堪んねえ言葉なんだがな」
「それは後でキャロルに言ってもらえ」
「あのな、アナスタシア?そういう事を平然と返すなよ。
別に寝室で久しぶりにアナスタシアに言ってもらってもいいんだぜ?」
「何を言う。お前が私を抱くのではなく、私がお前を抱いてやっていたのだろうが」
「なんだろう、甘い夫婦の関係なのに、とても殺伐としたように聞こえるのは」
この夫婦、寝室でも団長さん主導ではなく、アナスタシア主導なんですか?でも団長さんてどこかMっ気あるからいいのかもね。S部分は愛人のキャロルさんに発散していたのかも。
そう考えると、このクレメンス夫妻&愛人って非常に上手くいっているのでは。昼も夜も。
「さて、晩餐に間に合いそうだな。
エンジュ、付いたら湯を使ってもらって、ドレスアップだよ」
「え、ええと、そこまでしないとダメ?」
「済まないな、これでも一応侯爵家なのでな。
料理長も腕を奮って来るということだから、恐らくクレメンス侯爵家ならではの料理のフルコースだろう」
「お、珍しいな。慶事でもなきゃ、フルコースなんぞ作ってくれねえんだが」
「当たり前だろう?私の愛する従妹姫を迎えるのだから。
特別なもてなしをせよ、と伝えてある」
「そりゃ、使用人揃って気合いの入ったもてなしをするだろうよ。ってこたぁ、俺も正装だな」
「そうだな、奮えよ」
「わーかってるって。今宵は『クレメンス侯爵』として最大限のもてなしをさせていただきます、レディ」
向かい合って馬車の席に座る私の手を取り、触れるか触れないかの口付けを落とす。
さすがは侯爵様、様になっていらっしゃる。
思わず『おっきいっ』だなんて口走ってしまった邸が目の前に。さっきは門を通り過ぎただけだったのよね。
貴族の屋敷にありがちな門から屋敷まで数分かかる、というやつね。タロットワーク本邸も大きかったけど、ここもさすがに立派だわ。
何人くらい使用人を使えば維持できるのかしら。
これに比べると、別邸って小さめよね。私にとっては充分だけれど。あの邸、全員で10人位で維持してるものね。…メイド全員が三人分くらいの働きをしているけども。
玄関口に馬車が着くと、ぞろぞろとどこかで見たような列が。
…昔タロットワーク本邸で見たっけな。あの時はゼクスさんが激おこだったけど、団長さんもアナスタシアもそれを当然として目もくれない。…上流階級っスね。
執事さんが出迎えてくれたが、団長さんもアナスタシアもサラッと流す。アナスタシアは私を連れて、勝手知ったる我が家とでも言うように…いや、知ってるんだけどもね。
3階の廊下の先、大きな扉を開けて入る。
「ここ、は?」
「私の部屋だな。片付けていいと言っておいたが、使用人達はどうも頑なに片付けなかった。それが今使えて役に立っているが」
クレメンス邸の人達は、アナスタシアを大切に思ってくれているのだろう。いつでもお帰りください、と。
アナスタシアは戻る気はなさそうだが、今後たまに帰って見るというのもありなのでは?
「ねえ、アナスタシア?」
「ふふ、分かっているよ、私の姫。これからはたまに戻る事にしよう。気にしているのだろう?」
「ごめんなさいね、私のワガママでこっちに来てもらったのに」
「それは私も望んだ事だ。たまに来るくらいならば、構わないよ。ずっとこの邸にいるのは、キャロルや子供達の未来には良くないが、適度に顔を出すくらいならば良かろう。
・・・とはいえ、今日のキャロルの振舞いにも寄るが」
「アナスタシアの試験は厳しそうだわ」
「何を言う?私だけでなく、今日はフリードリヒからの試験でもある。私もだが、奴の目線は厳しいぞ?」
いつも愛嬌のある団長さん。
しかし、『フリードリヒ・クレメンス』という侯爵ともなれば、また見せる顔は違うのだろう。今日はそれが見られるのかしら?それもまた楽しみね。
…このドレスアップさえなければなあ。
「さあさあさあ、こちらへいらして下さいませ、レディ」
「アナスタシア様?エンジュ様は私達にお任せ下さるのですね?」
「ああ、とびきり魅力的に頼む。ドレスは私が選んでおいたものを」
「もちろんですわ!」
「さあさあ、お風呂からですわよ!」
「アナスタシア様も、あちらへどうぞ。御用意をしております」
「ああ、わかった。エンジュ、この部屋は使ってくれ。
私はあちらの続き部屋にいるからね」
「え、あ?」
優しいのだが有無を言わせないメイドさん達に引かれ、私はあれよあれよとお風呂からエステ、ドレスアップにヘアメイクと『貴婦人の身だしなみフルコース』を受けました。
ターニャとライラで慣れたかと思いましたが、褒め殺しの雨とキャッキャウフフ、というコンボで疲れ果てました。
…お、お腹、空いた…!
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