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森の人編 ~魔渦乱舞~
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しおりを挟むどす、とばかりに突撃した小鹿ちゃん。
蛇のお腹にめり込んだが、バックステップも華麗に出てきた。
…と、次の瞬間、しゅるしゅると蛇が離れていく。
あれっ?さっきまでダメージ入った感じなかったのに…
「っ!?なんだい!?」
「皆、離れてください!」
解けていく蛇の巨体の隙間から、アーリィさん達が見えた。リーファラウラさんやクルエリーサさんも疲労しているのが見える。
パイソンスネークはよろよろ、と結界魔法から距離を取ろうとしているが、そこに小鹿ちゃんが第二撃目の体当たり。
当たった瞬間、上空斜めへ跳ね上げられ、郷の向こうへ飛んでいった。
「ええーーーーー!?嘘でしょ!?」
「なっ!?」
「し、鹿ですの!?」
「小鹿ちゃんですの・・・凄いですの」
あまりのことに、全員それ以上声が出ない。
小鹿ちゃんは私の元へ戻り、『えらい?えらい?』とばかりに周りをグルグル回ってアピール。しっぽを振りまくっている。
「あ、あはははは、えらいえらい・・・」
「レディ?・・・その小鹿、どこから?」
「しりません」
「え、知らないって・・・」
「しりません」
「ちょっとレディ、あ」
「しりません」
もう被せ気味に言ってみた。
だって知らないんだもの本当に。いつあの結界魔法の中に入ったのかとか、どうやって森から郷に入ってたのかとか、なんであんなどつき合いができたのかさえ。
アーリィさんも察してくれたのか、大きなため息。
すみませんほんとにすみません。
「──────まあいいさ!脅威は去ったんだ!郷の外の護りはどうなってるんだい?」
「だいたいは駆除しきったって。あとは数匹程度だそうよ」
「向こうもへとへと。食事にして休みましょう」
他の見守っていた非戦闘員のエルフ達が寄ってきて、労ってくれた。こんな時にでも他の広場で料理をし続けていてくれたらしい。それもまたすごいけど。
アーリィさんはそのままリーファラウラさんとクルエリーサさんを引っ張ってどこかへ。どうやら怒られるようだ。遠くからすごい怒声が響いてきている。
「大変でしたね、レディ」
「こちらへお座りになって。もう蛇は見たくないでしょうから、キノコと鶏のシチューをどうぞ」
「ありがとうございます」
「あらかわいい小鹿ちゃん。あなたはお肉がいいかしら?」
「お水を持ってきたわ、飲んでね」
さっきの小鹿ちゃんもエルフさん達にもてなされ、お水を飲んでいる。ある程度飲んだら気が済んだのか、私の足元へ。よっこいしょ、と体を倒して休憩。…私の足踏んでますけどね?まあいいけど軽いからさ。
ゆっくりシチューを食べていると、怒られてへこたれた2人が来た。…クルエリーサさんは普通に見えるが。
アーリィさんは私の前まで2人を連れてくると、ビシッと2人に謝罪を要求した。
「ほら2人とも、謝りな」
「ごめんなさいですの、森の狩人失格ですの」
「・・・・・」
サクッと謝ったクルエリーサさん。しかしリーファラウラさんは何かのプライドが邪魔をして言葉が出ない様子。頭は下げてますけどね。
仕方ないわよねー、私の事獅子王に対しての恋敵って思ってるしさ。
頭を下げるのすら屈辱、と思っているんじゃないかしら?
「リフ」
「──────大変、申し訳ありませんでした、レディ」
「えらいこえらいこですの、リフ」
「やめてくださいましっ!いつまで子供扱いするんですの、リーサ!」
「そう言われても、リフが小さい時から面倒を見たのは私ですの」
「くっ・・・っ!」
この2人、従姉妹同士と言っていたっけ。同じ歳くらいに見えるけどエルフだからなあ…こう見えて50歳くらい離れてるとかありえそう。
2人を見ながら、アーリィさんも頭を下げてきた。
「全くどうしようもない。本当に申し訳ありませんでしたレディ。郷を護る狩人として失格です。如何なる処罰も受け入れます」
「え?いいわよ、気にしないで。最終的にトドメ刺したのこの子だもの。私じゃなくて」
私は足元の小鹿ちゃんを指す。
さっきからお腹いっぱいになってご機嫌なのか、どっかり足元に体を横たえて休憩中。…何度も言うけど、私の足、下敷きにしてますけどね。軽いからいいけどね、暖かいし。
と、アーリィさんが小鹿ちゃんを覗き込むと、顔色を変えて額を地に付けた。
「森の主・・・!」
「っ!」
「お出ましに!?」
誰が?森の主?…ってなんですか?
1人私だけがついていけてない。その場にいるエルフは皆、私に向かって地に伏している。
『──────よい、顔を上げよ』
結界魔法の中でも聞いたイケおじボイス。
…まさか?と思って足元の小鹿ちゃんをおそるおそる見る。こちらをくるりと振り向いた小鹿ちゃんはやっばり可愛かったです。
『礼を言わねばならんな、人の娘。いや、愛し子よ』
その一言に凍りつく。何すかその『愛し子』って。
タロットワークの誰かさん、何をしましたか?
小鹿ちゃんはぴょいと立ち上がり、私の足にぐいぐいぐい、と頭を擦り付ける。その様子は単なる愛情表現にしか見えない。ほら、飼い犬が飼い主に甘えてるやつ。
『我が名は『世界樹の守護者』。遥か昔、捨て子だった人の子を育て、『創る者』と名を付けて外の世界へと旅立たせた』
「えっ!?マデインさん、ここで拾われた?の?」
『おそらくは取り換え子であったのだろう。森の奥に棄てられていた。そのまま死なせるのも偲びなく、私が拾い、人の世に送り返したのだ』
驚きの事実。まさかのマデインさん、取り換え子だったとは。ここで数日暮らし、ある程度育ってからまた人の世に送り返したと。…だから魔力が強かった?本人は森の人の事なんて書き残してはいないはず。覚えていなかったのかな?
『ずっと遠くから見守っていたが、与えたその名の通りに創る者となったのは誇らしかった』
「国、創っちゃいましたものね」
『寄り添った者は其方と同じだろう。図らずも奇跡が重なったと言えような』
「2人が幸せであったのならば、いいと思います」
『其方にも感謝せねば。我に力を取り戻させてくれたのだから』
「何の事です?」
『生きてる杖だ。あの花は美味かった』
あ、そうか!確かに葉っぱと花を食べさせたっけ。
あれで力を取り戻した?…取り戻したって何?
「力を取り戻した?って」
『此度の渦は時期が悪かった。ちょうど我の転生期と重なったが故、対処が遅れてしまった。世界樹へ戻ろうとしたのだが、その道上に渦が発生していてな、この姿では戻れなかった』
「あっ、それが一陣のいる所?」
「確かに、今回は物凄く厄介だって・・・」
「数はかなり多かったです。族長様達も攻めあぐねていましたもの」
小鹿ちゃん…もとい、世界樹の守護者の言葉に、アーリィさんとエルフ娘さんが話す。どうやらエルフ娘さんは、食糧を届けに行った子みたいだ。一陣の様子を話している。
『世界樹への道上に蛇の魔物の球状の蛇が造られてしまってな。アレは貪欲に力を求める。通常ならば我が通さぬが、此度は隙を付かれたな。しかし結界がある為それ以上は通れぬだろうが、漏れ出る世界樹の魔力を吸っているのだろう』
「・・・それ、危なくないですか?」
『人の身では危なかろうな』
「総攻撃かける、って言ってましたけど?」
『森の人の魔術ならば貫けようが、どこまで進化しているかわかったものではないな』
「じゃあ悠長にしている暇はないのでは?」
『そうとも言える』
いやいやいや、一陣全滅とか嫌ですよ!?
周りのエルフさん達も顔色を無くす。
しかし小鹿ちゃんはのんびり構えているまま。
何か奥の手が…あるのかしら?
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