異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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獣人族編 〜失われた獣の歴史〜

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【アースランドにおける奴隷】

奴隷契約は次のように分別される。

・期間奴隷
ある一定の期間を定め、奴隷契約を結ぶ。
解約内容は【主】と【奴隷】の間で決定し、一定期間の間のみとなる。
借金の担保に奴隷契約を結ぶ等様々。


・職業奴隷
ある一定期間だけでなく、生涯を奴隷となる事を契約するもの。
【奴隷】となる事で全ての所有権は【主】となるため、生殺与奪権も【主】の手の内となるため契約も強固となる。
【主】は【奴隷】の衣食住を確保する事が義務となり、故意に与えない事があると【主】の落ち度となり処罰もある。
恩赦を与え、奴隷身分より解放することも可能。
職業奴隷の子供も同様に職業奴隷となるが、成人を迎えるまでは【主】同様に親にも所有権がある。


・犯罪奴隷
【奴隷】身分でも最下層。この身分に落とされると余程の事がない限りは解放されることはない。
所有権は国であり、個人所有とはならない。
苦役を課され、行動や思考制限を掛けられる。番号登録ナンバリングをされ、全ての行動は監視下に置かれる。


********************



「・・・と、まあこんなところだ」

「なるほどね、奴隷と言っても色々あるのね」

「そうだな。貧しい平民は口減らしとして職業奴隷となる事も珍しくはない。役に立つスキルを持っていれば尚更だ。権力者の所有物となってしまえば、普通に暮らすよりも贅沢ができることもある」

「あまり拒否感はないのかしら?」

「ないだろうな。期間奴隷になれば尚更だ。借金を帳消しにする代わりに期間奴隷となる冒険者も多い」

「えっそうなのキャズ」
「・・・そこまで公にはしていませんが、多いです。ランクが上がらず装備や消耗品などの代金を払えずに武器屋などに一年契約で雇われる冒険者もいますね。
素材を取りに行ったり、護衛をしたりなと様々です」



なるほど、借金のカタに自分で肉体労働か。
飲み食いして皿洗いするようなもの?

船が出航し、暇だったのでフェンイルさんに『奴隷とはなんぞや?』と講義をしてもらった。エル・エレミアにいる間、私は【奴隷】というものを目の当たりにしたことは無い。
しかしこの説明を聞くと、パッと見分からないだけで冒険者ギルドにはちらほらいたのかもしれない。

もしかして大きめの商店にいた、丁稚奉公みたいな少年少女もその括りだったりしたのかしら。小さい頃から住み込みで働きに出るんだなあ、とか思っていた。



「まあそうね。全てではないけど半分くらいはそうよ。首輪チョーカーしていれば奴隷契約しているわ」

「えっ、そうなんだ」

「・・・大抵の貴族の邸には職業奴隷の1人や2人いそうなものだが。レディの邸にはいなかったのか」

「あり得ませんね、魔術の頂点タロットワークにそのような存在モノは必要ありません」

「・・・そう、か。そうだろうな」



まるでセバスが乗り移ったかのように、キャズより先にオリアナが告げた。フェンイルさんが気圧されています。ていうかどこから来たのオリアナ。いるとは思ってたけど。

オリアナの言う事も一理ある。
…あそこ、奴隷っていうか、使用人みんな『影』ですからね。
むしろ奴隷通り越しちゃってるよね、狂信的に。

【奴隷契約】は主に首輪チョーカーを通して行われる。魔法契約だ。主に首輪チョーカーに付いている魔石にお互いの血液を媒介にして魔法契約を行う。
期間奴隷、職業奴隷はそこまでだが、犯罪奴隷はさらに刺青タトゥーでも行う。身体に刻まれるだけあって、強制力は高い。



「はい、フェンイル先生」

「先生、というのも烏滸がましい気がするのだが。何だろうかレディ」

「そうなるとですね?フェンイルさんはどれになるんでしょうか」

「・・・非常に嬉しくないが。犯罪奴隷、だろうか」

「ええと?なんか犯罪を侵した覚えが?」

「犯罪、というか。俺にしてみれば正当防衛だと思うのだが、相手にとってはそうではなかったようだ」



フェンイルさんの中でもそれはうろ覚えの記憶らしい。

誰かと乱闘してボコボコにした、と。
勿論本人も少なからず怪我をした模様。意識が途絶え、次に目が覚めた時には既に獣の姿であり、首には隷属の首輪がしっかり嵌っていたと。



「獣人族の中でも素行が過ぎれば期間奴隷として懲罰を受けることも珍しくはない。何をしたかにもよるんだが、数日から1週間程ならオレも受けた事があった」

「・・・え。そんなに身近な感じでいいの」

わかるまい、という風潮も無くはない」



何そのヤンキー学園みたいな風潮。
獣人連合では『期間奴隷』って現代風に言うと留置所行き、みたいな軽ーい感じの刑罰だったりするのかしら。嫌だなそんなの。



「ああ、勘違いしないでくれ。なるには親であったり指導者であったりの同意がなければそうはならない。
もしレディに同じことがあったとしても、獣人族でない人族には適用されないから大丈夫だ」

「・・・いまいち安心できないんですが」

「大丈夫よ。獣人連合ではね、全国民が登録されてるの。つまり、どこの誰なのかわかるようにしているらしいわ。
だからこそお仕置きに『期間奴隷』みたいな罰を与えられるのよ。保護者も合意の上、ってこと。無理やり奴隷にされるってことはないわ」
「アル・ミラジェではその場合『期間奴隷』ではなく『剥奪者ブービー』と呼ばれています」

「は?」

「身分を剥奪中、という意味だそうです」



トポポポポ、とお茶を淹れてくれているオリアナ。
キャズの説明に補足するように答えてくれるのはいいが、『剥奪者ブービー』って…なんだこの世界、やっぱり異世界人がちょこちょこやらかしていませんか?森の人エルフのディードリット命名といい。

オリアナの話に懐かしそうに頷いているフェンイルさん。
…まさか剥奪者ブービーの常連者ではなかろうか。

となるとこの人かなりのヤンチャさんなのかしら?
見た感じは乙女ゲームで言うとクールなアラビア系男子なんですけど。キレると手に負えないとかなの?

私はちらりと隣のキャズを確認。
…うん、、持ってますね。



「なによ」

「いや、なんでも?キャズ、その鞭結構使い込んでる?」

「まあね、適正あるから・・・短剣も得意ではあるけど、こっちもなかなか使い勝手はいいのよ」

「獣種相手に戦った事とかある?」

「あるわよ。・・・なにその確認」

「いやいや、イザという時はなるかなって」

「警護はするわよ、当たり前じゃない」

「うんいや、そっちもそうなんだけど」



そこでワザと会話を切り、オリアナと話しているフェンイルさんを見る。そしてまたキャズの腰に付いている鞭を確認。キャズの顔を確認。

察しの良いキャズは気付いた様子。



「まさかとは思うけどあんた」

「いやなんか話聞いてると喧嘩っ早い気がするのよねえ」

「さすがに人型に放った事は・・・」

「あるのね」

「でもそれは暴れる冒険者達に・・・あ。」

「よろしくねキャズちゃん」

「・・・」



これは『女王様』なキャズが見られるフラグをビンビン感じます。
あれかしらね、アル・ミラジェに着く前にフェンイルさんを獣化させておいた方がいいのかしら?
そろそろモフモフ成分を堪能したいしね。



********************



アル・ミラジェへ到着する直前。フェンイルさんには獣の姿へ戻ってもらった。ギルド関係者曰く、やはりフェンイルさんの容姿はかなり目立つようだ。

獣人族は基本的に獣姿の人が多い。
それだけ人の姿を取る、というのは素質がいる術らしい。
半分獣姿…というか、耳がモフモフだったり、尻尾が出ていたりと本来の獣の特徴を消し切れないのだそうだ。

フェンイルさんのように人の姿を取れるというのはかなり上位の素質を持ち、尚且つ魔力の多さも必要と。
そういう人は獣人連合アル・ミラジェでもひと握りであり、要職に付いている可能性が高い。
…まあだからこそフェンイルさんはギルドの外交員になるはずだったのだけども。



「つまり、面が割れてるって事ね」

「そうなります。私でも見覚えがありますし。灰白色の髪色も珍しいですからね。肌色の褐色は比率として多いですが、瞳の色もアルミラ家特有の色です」

「人化させるのは控えた方が良さそうね。獣姿であればそこまで目立たない?」

「そうですね、天狼族も数は少ないですが地狼族もいますから。獣姿であればそこまで目立ちはしないでしょう。偽物ダミーではありますが隷属の首輪も付いていますし」

「そう、なら大丈夫かしら」



ぺたり、と足元に伏せるフェンイルさん。
この姿の時は『フェル』と呼ぶことにした。人語も話せるとの事だができるだけしないようにしてもらっている。

首には隷属の首輪もどき。そっくりに作ってはあるが契約はしていない。対外的にはこれで通せるだろう。

さて、誰が敵なのかはわからない。
フェンイルさんを囮にするのは最終手段だ。
まずはギルドの協力を経て、水面下でお父様である国家元首…【鉄血】のブランへ会いにいかなくてはね。

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