異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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獣人族編~時代の風~

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オリアナは私を見ながら、言葉を続ける。



「エンジュ様、リーベル様を覚えておいでですか?」

「リーベル・・・って、ゼクスレンの妹さん、よね?
確か、結婚してトルク・メニールに、って、あ」

「はい、です」



ああそうか、ゼクスさんとアナスタシアの妹さん。リーベル・タロットワーク。トルク・メニール国にいて、ガイナン・フレーベルという方と結婚している。

ガイナン・フレーベル。
アースランド屈指の商会の会頭だ。
フレーベル商会は全国津々浦々…どこにでも支店を持つ、大商会だ。確かに、フレーベル商会の伝手であれば可能だろう。

いやもうホント、タロットワーク一族って何でもやってるわ。
どこにでもいるし、どこにでも

ならば、全く問題がないように感じるが…何故オリアナはそれを言わなかったのか。



「フレーベル商会を使うのは・・・何か問題が?」

「いえ、そうではありませんが。
そこまで当家が価値があるのかと思っておりました」



オリアナの声は私達以外には聞こえないような声だった。
チラッと閣下達を確認すれば、そちらはそちらで伝手がないかと検討中のようで、こちらを気にする事はない。

オリアナの言葉にも一理ある。
そもそもこれは私の好意の一環で始まった事だが、後始末はアルミラ家が行うべきである。

フェンイルさんを貶めた黒幕は誰なのか。
奴隷契約を破棄する為の方法を突き止める事も。
私がする事は請われて契約を破棄する事、それ一点のみだ。

だからこそオリアナは『そこまで手を回す必要は無い』と判断した。

とはいえ…これ終わらないと私がエル・エレミアに帰れないのよね。
フェンイルさんを奴隷契約したまま、獣人連合アル・ミラジェに置いて帰る事って可能なのかしら。
…と、考え事をしていると、マナト卿が声を上げた。



「そうか、サルドニクス商会はどうだ?」
「・・・っ!それがありましたね!
問い合わせて見なければわかりませんが、かの商会ならばあそことも商売をしているかもしれません!お手柄ですよグェン!」

「いやまだわからんだろう。しかし我々がここ数年新たに付き合いを始めたのはあそこしかないからな」
「早速、問い合わせてみます!」

「どこか、思い当たる所がありまして?」

「ええ、グェンが思いついたようですな」

「はい、我々は昔から世話になっている商会ではあそこ・・・ジャーク・マバール商会との繋がりは期待できないのですが。
数年ほど前から、新しく付き合いを始めた商会がありまして。そこは他国の貴族が運営しているのですが、付き合いやすいのですよ」

「そこならば、もしや、ということでしょうか」

「その通りです。とはいえ、サルドニクス商会も獣人連合アル・ミラジェで名前を聞き始めたのはここ数年の事なので、どこまで手広くこの国の商会と渡りを付けているかはわかりません。
他国の人間には排他的な者もいますので」

「ここはしばらく待つしかないでしょう。
・・・茶の用意をさせましょうか」



と、オルドブラン閣下は席を立つ。
同様にマナト卿とフェンイルさんも連れ、一度部屋を出ていった。
私達に聞かせたくない、見せたくない事もあるだろうし。

と、キャズが私の肩をトントン叩く。



「何?立ち疲れた?」

「それもあるけど」

「座りなさいよ。オリアナも」

「私は結構です。キャズ様は少しお座りください」
「ごめんなさいね、少し座らせてもらうわ。
・・・で、サルドニクス商会。覚えてる?エドワード様」

「エド?そういえば、仕事で獣人連合アル・ミラジェに来ているわよね。って、・・・もしかして?」

「そうよ、サヴァン伯爵家が運営している商会。それがサルドニクス商会。エドワード様がメインでやっているわ」

「ここ数年で聞いた名前、ね。成程、エドが伸ばしたって事ね」

「最悪、閣下達からの要請がダメであったとしても、アンタからなら都合付けるはずよ、エドワード様。
タロットワークからの頼みは『王族からの頼み』と同等だもの。何よりの誉よね」

「・・・エド、次代のサヴァン伯爵が【鉄血のブラン】との繋ぎを望むのであれば吝かではないけれど。どうかしらね」

「必要ならばお命じください、エンジュ様」



友達のように、隣で話してくれるキャズ。
それでも最後の一言を告げる彼女の顔は、私に仕える『騎士』としての顔だった。
…相変わらず格好いい事してくれるじゃないキャズ。



「・・・いくら閣下の腹心とはいえ、次代のサヴァン伯爵本人に渡りを付けることは不可能でしょう」

「おそらくは」

「伝えて頂戴。『【鉄血】との繋がりが欲しいなら私の望みを聞いてくれないか』と」

「承知致しました、我が主。オリアナさん、後は頼みます」
「畏まりました。キャズ様もお気を付けて」



キャズはひらっと身を翻す。
私の『騎士』としての服装ではなく、身軽な冒険者姿だが、どことなく格好いい。



「キャズが、あんな風に提言してくるとはねえ」

「・・・セバスチャン様の薫陶の賜物であるかと。
私からでは出ない言葉でしたね」

「あら、キャズが言わなかったら貴方から聞けた言葉だと思うけれど?違うかしら」

「お褒めいただき光栄です、我が主」



オリアナも同じようにエドワードの情報を持っていただろう。
確かにオリアナは最後まで出さない情報だったかもしれないが、最終的には動くはずだ。それがタロットワークの影ですから、なんて言ってね。

さて、ここは待ちの一手。

サルドニクス商会がどのくらいの規模なのか、ここでオリアナが教えてくれる。規模としては中の上。

流石に上とはいかないか。それでも資本が他国の貴族の商会で、ここまで成長させるのもかなりの手腕だということはわかった。ホントに商才あるのねエド。…娼館経営もしているそうです、サルドニクス商会。

主な業態は、アパレル関係。…衣類や装飾品の流通が主体。
各国の布地や装飾品を流通させており、そこからさらに物資の搬送…運送業なんかも手を入れている。半人半馬ケンタウロス族とか雇ってないわよね?その他に娼館も幾つか経営しているとの事だ。

まあほら、性欲ってどの種族でもあるだろうしね。
人間の三大欲求の一つですから、需要がなくなることはない。
良心的な経営をお願いしたいところです。…エド、モテそうね。

掘り下げて聞いてみると、『女神の蜜壷』というなかなかなネーミングの娼館だそうです。…うん、エロそう。女性の横顔シルエットに壷…香水瓶みたいな絵が描いてある看板を見つけたらそこです。アルマ、常連じゃないのかしら?今度聞いてみようっと。

と、メイドさんがティーセットを運んできた。
オリアナが受け取り、私に入れてくれる。だからお仕事取るの止めなさいって。
閣下達の事を聞くと、所用を片付けるのでお待ちください、との伝言が。これは問い合わせが難航しているのでしょうか。

のんびり待つことにする。
こっちもキャズが出ているからね。まあどちらにせよ、私は待つしかない。



********************



半刻ほど経っただろうか。
お茶も2杯目をいただき、お茶請けのクッキーも数枚食べた。

部屋に戻ってきたのは、マナト卿とフェンイルさんのみ。



「あら、交渉は上手くいったかしら?」

「お待たせして申し訳ありません、レディ。
サルドニクス商会に問い合わせはできたのですが、会頭とは連絡が取れませんでした。さすがに他国の貴族となると、すぐには無理でしたね」

「それは仕方ありませんね。本来なら数日かけて相手の訪問約束を取り付けるものですから。会頭本人でなくとも、商会に話を通すことができたのであれば、話を通してくださるのではなくて?」

「それが、やはり相手が相手なだけに、一商人では難しいようです。単なる商品のやり取りであれば、もう少しスムーズなのでしょうが・・・今回の『商品』が『商品』ですので」

「裏時代の取引が『商品』ですものね。
相手もどう対応していこうか悩む事でしょう。
数日かかるでしょうし、本日もお開きとしましょうか」

「申し訳ございません」

「構わないわ、予想していなかったわけではないもの。
それに、これでが味わえなくなるのよね」

「ぷっ」
「も、モフモフ、ですか?」



残念だわ、と態とらしい演技で溜息を付けば、フェンイルさんは吹き出し、マナト卿は目をぱちくりさせた。

すると、フェンイルさんは気取った仕草で礼をした。



「では、次回の会合まで本来の姿に戻るといたしましょう、我が主」
「えっ!?坊ちゃん!?」



瞬きの間に、私の膝に駆け寄って顎をぽふっと乗せる
愛嬌のある獣の姿に、私も笑いを隠せない。

頭をくしゃくしゃと撫でれば、気持ち良さそうに目を細めた。



「・・・では、暫しお預かりしますわね、マナト卿。
オルドブラン閣下には、よしなにお伝えくださいな」

「えっ!?あっ!?坊ちゃん!?」

「・・・すまないがマナト卿。父には『主を慰めるのも奴隷の務めです』と」

「・・・坊ちゃん、それ、どこで覚えてきたんです」

「何だ?俺を捕まえた奴隷商がよく言っていたんだが、何かおかしいか?」

「お戻りになったら、勉強が必要みたいですね。
大変申し訳ありませんがレディ、今暫くそのの面倒をよろしくお願いいたします」



深深と頭を下げるマナト卿。
私は苦笑しながら『是』と答えるのだった。

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