異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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獣人族編~時代の風~

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「・・・すまない、何だって?つがい?俺に?」

「そういう事らしいけど。
貴方、学院に入る前、または後に女性関係でトラブルは?」

「学院時にはかなり貴族令嬢にを受けたが・・・そっちの国エル・エレミアの貴族だったはずだぞ?
獣人連合アル・ミラジェまで追いかけてくるというのは現実的ではないと思うんだが」

「そうかもしれないわね。じゃそれは置いといて。
学院卒業後、半年から1年はこの国で活動していたわけよね?」

「そうだな、ギルドに入って下積みをしていた。
他国との親交を深めるために、ギルドの連絡員となった。
数ヶ月は正式に働いていたんだが、その後は・・・だな」



と、なると、その間に何かがあったと考えるべきか。

ジャーク・マバール商会の現会頭は20代後半とのこと。
フェンイルさんと同年代だ。学院へ入学する前は、ガルデリアで職業学校のような所…10歳前後の貴族の子弟が集まって教養を深める場所があったそうだから、そこで知り合った?



「その学校?で知り合っていた、という線はあるわよね」

「貴族も平民も・・・とはいっても富裕層の平民だけだったが、一定の教養を付けるための場所はあった。
そこで優秀であれば、他国の学院へ進学できたからな。
俺の年代でも、他に数人いたはずだ」

「その中にいなかったのかしら?」

「・・・ジャーク・マバール商会の会頭の名前がわかるか?」

「私知らないけど。フェル知らないの?」

「・・・。」



お互い重要な所を知らなかった。
ここまで話題に出ませんでしたね、名前。

その後帰ってきたオリアナ、昼寝から起きたキャズを混じえ、作戦会議。
ジャーク・マバール商会の会頭の名前も聞いたが、フェルには覚えが無い様子。

他にもエドワードに言い寄っていた女性の事や、昨日のキャズに『薬』を盛ってくれた人の事。



「・・・陥れたかったのは、エドワード、ね」

「不覚でした。気付かずに・・・」

「相手はキャズが『騎士』だとは思っていないけど『ギルドから派遣された護衛』だと思っている訳ね。
エドワードとはギルドで会う事も多かったんでしょう?」

「大体はそうです。エル・エレミアではギルドでしか。
こちらアル・ミラジェでは、エドワード様の店と半々ですか」



キャズは私にくっ付いているだけでなく、ちょこちょこギルドに出入りしていて情報を集めたり、ギルド関係の仕事もしていた。
四六時中付いてもらっているわけでもないため、相手にとっても目に付いたのだろう。



「そう考えると、に仲間がいる、のか?」

「まあそうでしょ。キャズが昨日飲み物もらったのだって、あそこの職員さんからでしょ?」

「制服を着ていたから職員、と思っただけであって、本当に職員かどうかまではわからないわよ?
オリアナさんに調べてもらったけど、顔が完全一致した訳でもないし。それは明日直接会うしかないわ」
「調べた上では、本当に職員に名があります。
顔立ちも同じだとは思いますが、昨日キャズ様に接触した者がであったかどうかまでは探れませんでした」

「・・・別人の可能性もある、という事?」

「可能性の話ですが。例えば我々のような人間が関与しているのであれば、変装も可能です。魔法の痕跡は見受けられませんでしたので、魔法で姿を変えていたとは考えにくいです。
・・・とはいえ、中央庁舎の中は魔法の痕跡が複数ありますので、紛れた可能性もあります」



灯りだとか、警備に魔法を使っている所は多い。
その中で変装のための魔法の痕跡だけ見つけ出せ、というのは難しいだろう。大掛かりに調べるならば可能性もあるがオリアナにこっそり調べて来いとも言い難い。
私達はこの国では『お客様』なのだから。

中2日空けて、再度中央庁舎へ。
もうこれで最後になりませんかね?
1階のロビーはいつも通り、庁舎を利用する一般市民で盛況。
…市役所ってこういうもんよね。

2階への階段を登りながら、階下の職員さんを眺める。
ふと、こちらを見上げる女性と目が合った。会釈をするでもなく、じっとこちらを見上げている。…あの人ですか?



「キャズ?」

「何よ。・・・彼女、ね」

「偉そうに呼び出してあげましょうか?」

「いいわよ、別に。むしろ彼女の前でエドワード様にしなだれかかってやろうかと思ってるんだけど」

「煽り体質ぅ」



それなりにお怒りのキャズさん。
面白そうだから煽って見て欲しい。発狂したら現行犯逮捕よ?

そんなことを話していれば、エドワードが来た。本日はこちらに馴染むような衣装。…アラブ系の成金チックな服装。石油王ですか?



「来たわね」

「任せるけど、他の人に迷惑かけない程度にね」

「わかってるわ」



うふん、と微笑んで階段半ばでエドワードを待つキャズ。
いつもより女らしく、色気を伴って佇んだ。…演技派だなキャズ。
私は苦笑しながらも、オリアナやフェルを連れて先に2階へ。

後ろからエドとキャズが恋人同士の待ち合わせ、のような会話をしながら上がってくる。
エドは腰に手を回し、キャズも身を預けるようにしなだれかかり、まるで口付けを強請るかのようだ。
…煽るなあ2人とも。まあ刺されそうになっても何とかするでしょう。

先に応接室で待っていると、2人が飛び込んできた。
バタン、と扉を閉めると、廊下から金切り声が聞こえる。



「やっば」
「女がキレると怖えな!」

「煽りすぎじゃないの?」

「あそこまでしてくれとは言ってませんよエドワード様!」
「何言ってんだよ獣人連合アル・ミラジェだとあれくらいしねえと周りの奴ら騙すなんてできねえぞ?キャズ嬢だったら奴ら見たことあんだろ!」

「ぐっ・・・た、確かに・・・」



どこまで熱烈に演技してきたのかは知らないが、廊下で発狂していらっしゃるお相手がそうなるほど、まあ素敵な煽り方をしたらしい。

キャズとエドが2人がかりで必死に抑える扉が、ドンドン叩かれ、ドアを開けるレバーがガチャガチャと激しく上下に動く。
内鍵かけているが、それが破壊されそうだ。…あの彼女、ネコ耳みたいの生えてたわよね?

と、『バキッ』という音が。
…からん、という音と共にレバーが転がった。



「「「あ。」」」



私、キャズ、エドの声が綺麗にハモった。
一瞬沈黙が降り、次の瞬間更に激しく扉が軋む。



「怖い怖い怖い!」
「扉開いちゃう!開いちゃうぅぅ!」
「ちょちょちょ、どうなってんだよ警備!」

「開けろぉぉぉぉぉぉ!!!」



怒り狂っているらしき女性の声。
背後では『早く取り抑えろ!』『急げ!』と声が聞こえる。
警備員も来てはいるようだが、相手の女性も暴れている様子。

大した時間ではなかったのだろうが、廊下では取り押さえたようでマナト卿の声がした。



「おーい、大丈夫ですかー」

「マナト卿、ね」
「お、終わったのね」



へたり込むキャズに退いてもらい、エドワードが扉を開けた…ら廊下側に壊れました。
よく見ると、丈夫なはずの扉はベッコベコに凹み、廊下も大型の魔獣でもいました?というくらい荒れていた。



「いやー、ご無事で何よりですよ」

「・・・魔獣でもいました?」

「獣化してましたからねー」



先程の彼女、どうやら猫型でもの獣人だったそうだ。
…何ですかサーベルキャットって。サーベルタイガーなら知ってますが、キャットもいるんですか。

めっちゃ興奮していて、獣化して大暴れした様子。
さすがに獣化している状態の獣人を抑えるのは手間がかかった様子。鎮静しようにも魔法も受け付けなかったとか。



********************



その後、部屋を変えて、オルドブラン閣下とガロン卿も揃い、顛末を伝えてくれた。

彼女はなんと、ガロン卿の奥様の妹、にあたるそうだ。
ガロン卿はこの国での爵位は伯爵。奥様は侯爵家の出になる。
妹さんは侯爵家の3女との事だ。



「大変、申し訳ございませんでした。
サヴァン伯爵令息様には誠にご迷惑をお掛けいたしました」

「謝罪は受けます。ですが先にこちらのシールケ殿にも謝罪を。
彼女は先日、言われなき冤罪を受け、こちらの庁舎内で盛られていますからね」

「っ!?
ま、まさか!?それは、事実ですか!?」

「お疑いになりますか?」

「それは、更にまたご迷惑を・・・!
シールケ様、ネリムがご迷惑をお掛けして申し訳ない!」



ガロン卿にとっては寝耳に水の話だったろう。

あの日、キャズが庁舎からエドワードへ繋ぎを取る為に出た折に、件の彼女、ネリム・グリーズ侯爵令嬢に飲み物を勧められたそうだ。『お急ぎの様子ですが、こちらをいかがですか?随分お疲れのようですし』と。

キャズも迂闊だったかもしれないが、毒物に対する訓練は受けており、自白剤についても耐性のある装飾品アクセサリーも付けている。
…しかし興奮剤ならまだしも、媚薬となると装飾品アクセサリーでは対応しきれなかった様子。

…グリーズ令嬢は何を思って媚薬を盛ったのか?
どうやらあれは獣人の中でもなもののようで、あれを服用すると乱れっぷりは半端ないらしい。
キャズの場合、装飾品アクセサリーが頑張ったようで、効果が出るのもかなり遅く、で済んだそうだ。

相手、フェンイルさんで良かったねえキャズ…。ホントにエドに襲いかかってたら延々と自己嫌悪だったろうに。
ちなみにフェンイルさんには聞いていないが、しれっとしている所を見ると驚く程の痴態を晒した訳でも無さそう。

グリーズ令嬢によれば、エドワードは『運命の相手』とな。
彼女はエドワードに『つがい』としての運命を感じたそうだ。
エド本人は『しらね』と言ってますが。



「あの。つがいの感覚って、獣人しか感じない、とか?」

「どうやら、そのよう、です」

「え?えええ?
それって、獣人側が感じ取っても、相手は感じないならうまくいかない場合ってそれなりにあるのでは?」

「・・・非常に言い難いのですが、今回のネリ
ムがそうなのかと。サヴァン伯爵令息からは『何も感じない』との事なので」

「申し訳ないんだが、俺には彼女へ特別な感情はありませんね。
それどころか言いがかりを付けられて困っていた所ですから」



つがい同士結ばれるのであれば素晴らしい事だけど、他種族間で発生した場合、こういう事にもなり得るという訳ね。
…とはいえ、これを理由として国交を無くすという事は出来ないだろうし、対策を強化するよりない、のだろう。

ひとつ、頭痛の種が増えましたね閣下。
ガロン卿も憔悴してしまって顔色が悪い。
グリーズ令嬢は仕事の覚えも良く、婚約者候補も選り取りみどりでいたそうだ。それが半年前から誰かを想うようになったそうで、その相手を侯爵家で吟味していた…との事。
お相手が他国の貴族、とは知らず、獣人連合アル・ミラジェで探していたようなのだが。

エドもこの1年はかなりの頻度で渡航していたそうで、彼女を頻繁に見かけていた…という話。
『夜会で女を食っている』との話は、どうやらグリーズ令嬢の雇った人間が、エドの評判を下げるためにしていたと。エドに他の令嬢との縁談が進まないようにする為だったとか。

こちらの話は一件落着…しそうだが。
さて、フェンイルさんの方はどうかしらね?

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