184 / 196
獣人族編~時代の風~
183
しおりを挟む
さて、本題へ入る。
とはいえ、フェルは獣のままなので別室へと退場。
…この後エドに根回しをした後、帰ってもらう。
フェルがフェンイルさん、とならないと相手の所へ行けないし。
状況によっては、ジャーク・マバール商会の会頭をこちらへ呼び出すのかもしれないが。
改めて、オルドブラン閣下へ私からエドを紹介。
最初は彼がサルドニクス商会会頭だと思われておらず、私の護衛だと思っていたらしい。
オルドブラン閣下側からは、『サルドニクス商会から繋ぎを取っても構わない。商会員を寄越す』との回答を受け取ったのみだったそうだ。まさかその寄越した商会員が、会頭本人が来るとは思っていなかった様子。
「驚きましたな。随分とお若い会頭さんだ。
獣人連合、元首を拝命しております、オルドブラン・ミラジェです。どうぞ宜しく」
「ご丁寧にどうも。サルドニクス商会会頭、エドワード・サヴァンと申します」
「エドワード様は次期伯爵でいらっしゃるわ。今後の国同士のお付き合いによき出会いとなるといいわね」
「ほう、それは期待したいところですな」
和やかに始まったが、直ぐに本題へ。
エドが仲立ちとなり、ジャーク・マバール商会会頭へ顔繋ぎをしてくれるとの事。急ぎ事に当たるということで、直ぐに退席した。
こちらへ来てくれるようであれば、通信魔法で伝えてくれるとの事。
…こういう場合、伝令人を立てるのが筋ではあるが、今回はことが事だけに急ぎたい。その為通信魔法を使用することにした。身分の高い人達の間だと、商談で通信魔法でのやり取りってあまり好ましくないそうだ。便利なのにね。
その間に、フェンイルさんの事について。
昨日話が上がった事を共有する。フェンイルさんを奴隷落ちさせた元凶が誰なのか…それはまだガロン卿側でも絞りきれていないとの事。
ダメ元で『ジャーク・マバール商会会頭がフェンイルさんに恋人を奪われた、と恨んでいるらしい』との話をした。
「また、『番』、ですか」
「ウチもそれで結ばれたんで、否定・・・したくはないですけどね」
「あら・・・マナト卿の奥様は番でいらっしゃるの?」
「お恥ずかしながら。街中で出会い、そのまま意気投合して次の日には求婚をしていました。
自分では番という感覚に懐疑的だったのですが、自分にこんな事が起きるなんて想定外もいい所です」
「あの時は驚きましたね。仕事を優先させるグェンが、『今行かねば後悔する』と言い置いて彼女の元へ行くのですから」
「まあ・・・」
「あの時は本当にそれしか見えないという感覚でした。落ち着いたのは彼女と1つになり、心が通ったと感じた時です。
その後も彼女しか女と感じられないのですよ」
「・・・劇的、ね。今でも他の女性を見てもそう思うの?」
「はい、不思議なものです。綺麗だ、可愛い、という気持ちは湧くものの、異性としての感情は芽生えませんね。花を愛でるのと差程変わりありません」
「・・・とまあ、そういう事のようです。獣人であれば必ず発症する訳でもなく、今では2割から3割でしょうか」
…そりゃあエドを求めてああなるわけだ。
キャズをそれこそ文字通り八つ裂きにしても足りなかったろう。
1度番の相手を見つけると、もうどうにもならないらしく…魔法や投薬療法を重ね、長い時間をかけて感覚を鈍くするしかないらしい。そのための医療施設もあるそうだ。
人化して席に着いたフェンイルさんをちらりと見上げ、閣下が呆れたように問いかける。
「念の為、聞くが。フェンイル、お前相手に思い当たらんのか」
「今も昔も、そんな相手に心当たりなんてありませんよ」
「ほう、昔も、か?」
「・・・今ここで怪しまれる程遊び歩いていた事は否定しませんが、番となる様な相手がいれば、それこそ気軽に遊び歩いていたりしませんよ」
「それもそうか」
「・・・坊ちゃん昔はろくでなしでしたもんね」
「悪かったな」
若い頃はとてつもなく、ヤンチャだったらしい。
そうよね『剥奪者』常連だったんだものね。
イケメン、頭脳明晰とくれば女は選り取りみどりだろう。
その頃の遊び相手の1人、だったのだろうか。
またはそれを利用して彼氏から逃げた、とかね。
たわいもない談笑をしていると、窓から魔法の鳥が入ってきた。
魔法の鳥はエドの声で『ジャーク・マバール商会の会頭と繋ぎを取りました。そちらがよければこれから中央庁舎へ出向くとの事ですが』と話す。
目線でオルドブラン閣下へ返答を求めると、側に立つマナト卿が通信魔法を起動。
そのままオルドブラン閣下は魔法の鳥へ向けて語りかけ、『是非もない。こちらへ来ていただいてもらえないだろうか』と返した。魔法の鳥はキラリと光ると、窓の外へ。
「・・・さて。先方はこちらへ来てくれるらしいですな」
「随分と腰の軽い御方のようですね。こちらとしては手早く片付きそうでありがたいのですが」
「穏便に済むといいのだが。なあ?」
「閣下・・・?それは私に対してのイヤミですか?」
既に一戦終えてゲンナリした顔のガロン卿。
未だにショックが大きかったのか、ため息が零れる。…まあ、ジャーク・マバール商会の会頭が来たら切り替えてくださるとは思うけど。
でもいいのかしら、フェンイルさんそのままで。
恨み買ってるんじゃないの?
「何か?レディ」
「いえ?お相手は貴方に喧嘩売るつもりで来ると思うけど。
貴方、買うつもりがあるの?」
「というより、身に覚えがないからなんとも言えないんだが」
「無意識に喧嘩買ってるのかしら?それとも冤罪なのかしら?
人化してもらっているけれど、もしかして獣姿の方がいいんじゃないかしら」
「・・・」
「一理あるな」
「確かに」
せっかく人化してきてもらったが、そのままでお相手と対峙するとややこしい事にならないかしら?相手がどんな人か知らないけれど、獣姿でいた方が自尊心傷付けないかなと思ったのだけど。
閣下とマナト卿も同意し、結局獣姿に。
フェイクではあるが、一応隷属の印として首輪も。
フェンイルさんには『隷属の首輪』と『奴隷印』の二重の縛りがある。首輪は私が解呪魔法使って解いてしまったけれど、印についてはどうにもならなかった。
きちんと契約に則って印されたもの、なので、当時使用した契約書を使って破棄しなければならない。
エドが話を付けた時に、フェンイルさんの奴隷契約書はジャーク・マバール商会で確認ができたとの事。…裏時代の証拠って全部取ってあるのかしら。こういう時の為に。
しかし、奴隷印見当たらなかったのよね…
モフモフの時も散々探したし(目を覚まさない間に)
人化してからはフェンイルさんだけでなくイスト君にも手伝ってもらって体中確認した…が、なかった。
イスト君、『頭皮にあるんじゃないか?』って毛刈りするくらい真剣だったのよね。じっくり探したから毛刈りしなかったけど。
深層意識下に刻まれている、のだとするとやはり契約書がないと危険かもしれないということで、私達側からできる確認はしなかった。
********************
半刻ほど待ったろうか。
一度ガロン卿が階下へと降り、そのまま客人を連れてきた。
入ってきたのは、柔和そうな顔立ちの青年。
この人も獣人族?と思うくらいほっそりした方。
一重の細い目鼻立ち。醤油顔…っていうの?ほら、近年人気のある韓流スターみたいな感じ。
「お初にお目にかかります。ジャーク・マバール商会会頭、ネキ・バエルと申します」
人好きのするような笑顔で挨拶。チロリ、と見えた舌先は二股。…へび、さん、ですかね?
閣下が挨拶をし、そのまま私の方へ。
一応挨拶をしたが、私はバエルさんをなんとなく直視しずらい。
それに気づいたのか、苦笑された。
「高貴なる御方には私のような人種は苦手と見えますね」
「これは失礼を。すみません、ちょっと以前爬虫類の魔物にエラい目に合わされたので」
「おやおや。それは災難でございましょう。構いませんよ、外の国の方には少々我々の種族は受け入れ難い事もありましょう」
…くそう、あそこでアナコンダに会ってなければここまで『ヒエッ』ってならないのに!
なんていうのかしら、バエルさんの瞳、瞳孔がアレなのよ、縦なのよ…。気付かなければいいものを気付いちゃったのよね。失礼な事したわ。
しかし背後に控えたオリアナが、私がアナコンダに巻き付かれて大変な目に合った話をした事で、とても同情された空気に。バエルさんまで『それは…さすがに…パイソンスネークですか…繁殖期…ハハ…』って乾いた笑いが出た。
もう思い出したくないな…あれ…
とはいえ、フェルは獣のままなので別室へと退場。
…この後エドに根回しをした後、帰ってもらう。
フェルがフェンイルさん、とならないと相手の所へ行けないし。
状況によっては、ジャーク・マバール商会の会頭をこちらへ呼び出すのかもしれないが。
改めて、オルドブラン閣下へ私からエドを紹介。
最初は彼がサルドニクス商会会頭だと思われておらず、私の護衛だと思っていたらしい。
オルドブラン閣下側からは、『サルドニクス商会から繋ぎを取っても構わない。商会員を寄越す』との回答を受け取ったのみだったそうだ。まさかその寄越した商会員が、会頭本人が来るとは思っていなかった様子。
「驚きましたな。随分とお若い会頭さんだ。
獣人連合、元首を拝命しております、オルドブラン・ミラジェです。どうぞ宜しく」
「ご丁寧にどうも。サルドニクス商会会頭、エドワード・サヴァンと申します」
「エドワード様は次期伯爵でいらっしゃるわ。今後の国同士のお付き合いによき出会いとなるといいわね」
「ほう、それは期待したいところですな」
和やかに始まったが、直ぐに本題へ。
エドが仲立ちとなり、ジャーク・マバール商会会頭へ顔繋ぎをしてくれるとの事。急ぎ事に当たるということで、直ぐに退席した。
こちらへ来てくれるようであれば、通信魔法で伝えてくれるとの事。
…こういう場合、伝令人を立てるのが筋ではあるが、今回はことが事だけに急ぎたい。その為通信魔法を使用することにした。身分の高い人達の間だと、商談で通信魔法でのやり取りってあまり好ましくないそうだ。便利なのにね。
その間に、フェンイルさんの事について。
昨日話が上がった事を共有する。フェンイルさんを奴隷落ちさせた元凶が誰なのか…それはまだガロン卿側でも絞りきれていないとの事。
ダメ元で『ジャーク・マバール商会会頭がフェンイルさんに恋人を奪われた、と恨んでいるらしい』との話をした。
「また、『番』、ですか」
「ウチもそれで結ばれたんで、否定・・・したくはないですけどね」
「あら・・・マナト卿の奥様は番でいらっしゃるの?」
「お恥ずかしながら。街中で出会い、そのまま意気投合して次の日には求婚をしていました。
自分では番という感覚に懐疑的だったのですが、自分にこんな事が起きるなんて想定外もいい所です」
「あの時は驚きましたね。仕事を優先させるグェンが、『今行かねば後悔する』と言い置いて彼女の元へ行くのですから」
「まあ・・・」
「あの時は本当にそれしか見えないという感覚でした。落ち着いたのは彼女と1つになり、心が通ったと感じた時です。
その後も彼女しか女と感じられないのですよ」
「・・・劇的、ね。今でも他の女性を見てもそう思うの?」
「はい、不思議なものです。綺麗だ、可愛い、という気持ちは湧くものの、異性としての感情は芽生えませんね。花を愛でるのと差程変わりありません」
「・・・とまあ、そういう事のようです。獣人であれば必ず発症する訳でもなく、今では2割から3割でしょうか」
…そりゃあエドを求めてああなるわけだ。
キャズをそれこそ文字通り八つ裂きにしても足りなかったろう。
1度番の相手を見つけると、もうどうにもならないらしく…魔法や投薬療法を重ね、長い時間をかけて感覚を鈍くするしかないらしい。そのための医療施設もあるそうだ。
人化して席に着いたフェンイルさんをちらりと見上げ、閣下が呆れたように問いかける。
「念の為、聞くが。フェンイル、お前相手に思い当たらんのか」
「今も昔も、そんな相手に心当たりなんてありませんよ」
「ほう、昔も、か?」
「・・・今ここで怪しまれる程遊び歩いていた事は否定しませんが、番となる様な相手がいれば、それこそ気軽に遊び歩いていたりしませんよ」
「それもそうか」
「・・・坊ちゃん昔はろくでなしでしたもんね」
「悪かったな」
若い頃はとてつもなく、ヤンチャだったらしい。
そうよね『剥奪者』常連だったんだものね。
イケメン、頭脳明晰とくれば女は選り取りみどりだろう。
その頃の遊び相手の1人、だったのだろうか。
またはそれを利用して彼氏から逃げた、とかね。
たわいもない談笑をしていると、窓から魔法の鳥が入ってきた。
魔法の鳥はエドの声で『ジャーク・マバール商会の会頭と繋ぎを取りました。そちらがよければこれから中央庁舎へ出向くとの事ですが』と話す。
目線でオルドブラン閣下へ返答を求めると、側に立つマナト卿が通信魔法を起動。
そのままオルドブラン閣下は魔法の鳥へ向けて語りかけ、『是非もない。こちらへ来ていただいてもらえないだろうか』と返した。魔法の鳥はキラリと光ると、窓の外へ。
「・・・さて。先方はこちらへ来てくれるらしいですな」
「随分と腰の軽い御方のようですね。こちらとしては手早く片付きそうでありがたいのですが」
「穏便に済むといいのだが。なあ?」
「閣下・・・?それは私に対してのイヤミですか?」
既に一戦終えてゲンナリした顔のガロン卿。
未だにショックが大きかったのか、ため息が零れる。…まあ、ジャーク・マバール商会の会頭が来たら切り替えてくださるとは思うけど。
でもいいのかしら、フェンイルさんそのままで。
恨み買ってるんじゃないの?
「何か?レディ」
「いえ?お相手は貴方に喧嘩売るつもりで来ると思うけど。
貴方、買うつもりがあるの?」
「というより、身に覚えがないからなんとも言えないんだが」
「無意識に喧嘩買ってるのかしら?それとも冤罪なのかしら?
人化してもらっているけれど、もしかして獣姿の方がいいんじゃないかしら」
「・・・」
「一理あるな」
「確かに」
せっかく人化してきてもらったが、そのままでお相手と対峙するとややこしい事にならないかしら?相手がどんな人か知らないけれど、獣姿でいた方が自尊心傷付けないかなと思ったのだけど。
閣下とマナト卿も同意し、結局獣姿に。
フェイクではあるが、一応隷属の印として首輪も。
フェンイルさんには『隷属の首輪』と『奴隷印』の二重の縛りがある。首輪は私が解呪魔法使って解いてしまったけれど、印についてはどうにもならなかった。
きちんと契約に則って印されたもの、なので、当時使用した契約書を使って破棄しなければならない。
エドが話を付けた時に、フェンイルさんの奴隷契約書はジャーク・マバール商会で確認ができたとの事。…裏時代の証拠って全部取ってあるのかしら。こういう時の為に。
しかし、奴隷印見当たらなかったのよね…
モフモフの時も散々探したし(目を覚まさない間に)
人化してからはフェンイルさんだけでなくイスト君にも手伝ってもらって体中確認した…が、なかった。
イスト君、『頭皮にあるんじゃないか?』って毛刈りするくらい真剣だったのよね。じっくり探したから毛刈りしなかったけど。
深層意識下に刻まれている、のだとするとやはり契約書がないと危険かもしれないということで、私達側からできる確認はしなかった。
********************
半刻ほど待ったろうか。
一度ガロン卿が階下へと降り、そのまま客人を連れてきた。
入ってきたのは、柔和そうな顔立ちの青年。
この人も獣人族?と思うくらいほっそりした方。
一重の細い目鼻立ち。醤油顔…っていうの?ほら、近年人気のある韓流スターみたいな感じ。
「お初にお目にかかります。ジャーク・マバール商会会頭、ネキ・バエルと申します」
人好きのするような笑顔で挨拶。チロリ、と見えた舌先は二股。…へび、さん、ですかね?
閣下が挨拶をし、そのまま私の方へ。
一応挨拶をしたが、私はバエルさんをなんとなく直視しずらい。
それに気づいたのか、苦笑された。
「高貴なる御方には私のような人種は苦手と見えますね」
「これは失礼を。すみません、ちょっと以前爬虫類の魔物にエラい目に合わされたので」
「おやおや。それは災難でございましょう。構いませんよ、外の国の方には少々我々の種族は受け入れ難い事もありましょう」
…くそう、あそこでアナコンダに会ってなければここまで『ヒエッ』ってならないのに!
なんていうのかしら、バエルさんの瞳、瞳孔がアレなのよ、縦なのよ…。気付かなければいいものを気付いちゃったのよね。失礼な事したわ。
しかし背後に控えたオリアナが、私がアナコンダに巻き付かれて大変な目に合った話をした事で、とても同情された空気に。バエルさんまで『それは…さすがに…パイソンスネークですか…繁殖期…ハハ…』って乾いた笑いが出た。
もう思い出したくないな…あれ…
応援ありがとうございます!
250
お気に入りに追加
8,519
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる